- 著者
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箕輪 篤志
下岡 ゆき子
高槻 成紀
- 出版者
- 日本哺乳類学会
- 雑誌
- 哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.1, pp.1-8, 2017 (Released:2017-07-11)
- 参考文献数
- 21
- 被引用文献数
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4
山梨県東部の上野原市郊外に生息するホンドテンMartes melampus melampus(以下,テン)の食性は明瞭な季節変化を示した.平均占有率は,春には哺乳類33.0%,昆虫類29.1%で,動物質が全体の60%以上を占めた.夏には昆虫類が占める割合に大きな変化はなかったが,哺乳類は4.7%に減少した.一方,植物質は増加し,ヤマグワMorus australis,コウゾBroussonetia kazinoki,サクラ類(Cerdus属とPadus属を含む)などの果実・種子が全体の58.8%を占めた.秋にはこの傾向がさらに強まり,ミズキCornus controversa,クマノミズキCornus macrophylla,ムクノキAphananthe aspera,エノキCeltis sinensis,アケビ属Akebiaなどの果実(46.4%),種子(34.1%)が全体の80.5%を占めた.冬も果実・種子は重要であった(合計67.6%).これらのことから,上野原市のテンの食性は,果実を中心とし,春には哺乳類,夏には昆虫類も食べるという一般的なテンの食性の季節変化を示すことが確認された.ただし,以下のような点は本調査地に特徴的であった;1)春に葉と昆虫類も利用すること,2)秋に甲殻類も利用すること,3)秋に利用する果実の中に,他の多くの調査地でよくテンが利用するサルナシActinidia argutaがほとんど検出されないこと.占有率-順位曲線は,ある食物品目の糞ごとの占有率を上位から下位に配する.これにより,同じ平均値であっても一部の占有率が大きくて他が小さいか,全体に平均値に近い値をとったかなどの内容を表現することができる.今回の結果をこれで表現すると,1)夏,秋,冬の果実・種子のように多くの試料が高い値をとって低順位になると急に減少する,多くのテン個体にとって重要度の高い食物品目,2)春の哺乳類や春,夏の昆虫類のように直線的に減少する,占有率に偏りのない食物品目,3)春の支持組織や果実・種子,秋の甲殻類や昆虫類,冬の昆虫類や葉のように,一部の試料だけが高い値をとり,多くの試料は低い値になる食物品目の3パターンがあることが示された.これには食物の供給状態やテンの選択性などが関連することを議論した.