著者
浦野 雅世 石榑 なつみ 谷 永穂子 中尾 真理 三村 將
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.188-197, 2017-09-25 (Released:2017-10-11)
参考文献数
29

右半球病変で錯文法を呈した矯正右手利きの症例を報告した.呼称障害はごく軽微でありながら,自由発話/説明発話の別を問わず助詞の誤用が著明であり,脱落は皆無であった.逸脱語順や統語構造の単純化は明らかでなかった.理解面では語義理解は良好に保持されながらも,平易な会話の理解からしばしば困難を呈した.側性化の異なる失文法症例では統語的側面と形態論的側面の障害が共起しているのに対し,本例は形態論的側面のみに障害を呈しており,側性化の異なる失文法とは発現機序が異なると考えられた.本例の錯文法の発現は異常側性化に起因するものとであると推察された.
著者
河村 聡人 中尾 真弓 道越 秀吾
出版者
兵庫県立大学自然・環境科学研究所天文科学センター
雑誌
Stars and Galaxies (ISSN:2434270X)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.5, 2021 (Released:2021-02-12)
参考文献数
16

京都女子大学附属小学校の反射望遠鏡 (以下、京女望遠鏡) の調査を発端とし、大正から昭和にかけての日本の天文学の発展を考察する。天文学史研究において重要なのは、論文だけでなく、研究を支えた人々の調査である。本研究において、西村末雄という重要な鏡製作者が発見された。この発見は日本の天文学の歴史を考察する上で重要である。当論文では、京女望遠鏡の調査結果とともに、京都女子大学視点での日本の天文学史を読み解き、天文学史研究の多角的な将来性について議論する。
著者
岡村 かおり 梶原 啓資 中尾 真 飯田 則利
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.1278-1283, 2017-12-20 (Released:2017-12-20)
参考文献数
22

症例は胎児期に重複膀胱が疑われ,出生後に鎖肛を伴わない直腸膣前庭瘻の診断で人工肛門を造設した女児.術中に管状型回腸・全結腸重複症が判明し,また重複尿道,重複膣,重複子宮を合併していた.6生月に会陰部横切開で直腸膣瘻閉鎖術および重複直腸側々吻合術を施行したが,直腸膣瘻が再発し,8生月に後方矢状切開で直腸膣瘻再閉鎖術,10生月に重複回腸・上行結腸切除,隔壁部分切離および人工肛門閉鎖術を行った.術後2年の現在,腸管の通過障害はなく経過は良好である.今後,妊娠・出産を含めた長期的フォローアップが重要である.
著者
中尾 真一
出版者
日本海水学会
雑誌
日本海水学会誌 (ISSN:03694550)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.406-412, 1996 (Released:2013-02-19)
参考文献数
6
被引用文献数
1

Two types of reverse osmosis (RO) process were proposed to obtain high recovery of fresh water in sea water desalination. The membrane parameters, the reflection coefficient o, the solute permeability P, the pure water permeability Lp, which are necessary in the process simulation were determined by experiments for three kinds of membranes commercially available, NTR-70SWC sea water desalination RO membrane, NTR729HF high flux and low rejection nanofittration (NF) membrane, NTR759HR high rejection NF membrane. Maximum pressure applied for the RO membrane in the experiments was20 MPa, and 10 MPa for the NF membranes. The NaCl concentration in feed ranged from 0.15 to 12 wt%. The process simulated were single-stage one-pass process with NTR-70SWC or NTR759HR and multistage (two or three stages) recycle process with NTR729HF and NTR759HR, and energy consumption and membrane area required were calculated. On the multi stage processes with NF membranes, both the energy and membrane area were almost the same, but the single-stage processes with NF or RO membrane required less energy and more membrane area, especially the membrane area for the process with 70SWC was much more than that for other processes because of the small Lp value.
著者
中尾 真理
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.22, pp.p33-48, 1994-03

アン・エリオットは「洗練された知性」と「優しい性格」の持ち主として描かれている。「洗練された知性」とは何を意味するのだろうか。オースティンは従来から「理性」と「感性」のバランスのとれた精神を理想としてきたが、それとどこが違うのだろうか。以上の観点から、オースティン最後の作品『説得』について考察する。ヒロインは家族からも、コミュニティからも切り離され、孤独の内に移動を続ける。斜陽の准男爵家から、大家族の暖かい雰囲気を残す郷士(スクワイア)のマスグローヴ家、ライム海岸、そして、最後にエレガントな温泉保養都市バースへの孤独な旅の過程で、アンの洗練された知性はそれぞれのグループにどのように反応し、また、どのようにして心からの共感者であるウェントワース大佐の心を掴むことができたのだろうか。鍵はやはり、感性とモラルに求めるべきだろう。
著者
中尾 真理
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.38, pp.302-280, 2010-03

バラは栽培の歴史も古く、特に西洋では「花の中の花」として古くから特別に愛されてきた。本稿の目的はバラの栽培、その利用、鑑賞など、バラをめぐる文化を歴史的にたどることにある。バラはギリシア・ローマ時代には主に薬用、香料として利用され、キリスト教のもとでは神秘的な表象として使われた。イギリスでは「ばら戦争」に見られるように、バラが国家の紋章としても使われ、シェイクスピアやR・バーンズなどの詩にも歌われ、広く親しまれている。野生種を含め、バラの品種は多いが、古代から十九世紀の始めにかけて、ヨーロッパで栽培されていたバラは、わずか五系統にすぎなかった。十八世紀に四季咲きの中国バラが伝来したことにより、バラの栽培は飛躍的に発展し、バラの品種も爆発的に増えた。本稿ではバラの文化史(その一)として、ヨーロッパ、特にイギリスを中心に、バラ革命までを扱う。中国とヨーロッパのバラの交流、日本のバラについては次回にとりあげる予定である。
著者
中尾 真理
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.40, pp.284-249, 2012-03

ヨーロッパで古くから栽培され、愛されてきたバラは中近東でも利用され、詩に歌われてきた歴史を持つ。本稿では「薔薇の文化史(その三)」として、地中海沿岸を中心に発達してきたバラ文化の源流ともいえる、中近東地域のバラ文化を「ルバーイヤート」やハーフィズの詩とともに概観する。次に十八世紀末に中国バラがヨーロッパに伝わった経緯を考える。バラは中国茶と共に伝わった。アジアの豊富な有用植物を求めて進出した、各国の東インド会社の主要取引商品のひとつが中国の茶だった。現代バラの代表はハイブリッド・ティー系のバラだが、ティー系の「ティー」は「茶」である。四季咲き性のある中国の庚申バラや、茶の香りのティー・ローズと掛け合わせることで、西洋のオールド・ローズはモダン・ローズへと華麗な変身をとげた。ハイブリッド・ティー系のバラは人工交配により生み出された、完全なる人工種である。「理想のバラ」を求めて、ヨーロッパのバラはさまざまに改良された。オールド・ローズからモダン・ローズへの改良の過程で、ナポレオンの妻ジョセフィーヌのようなバラ愛好家、コレクター、植物学者、プラント・ハンター、植物園の果たした役割についても考える。本稿をもって「薔薇の文化史」は完結する。
著者
浦野 雅世 石榑 なつみ 谷 永穂子 中尾 真理 三村 將
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
pp.17006, (Released:2017-08-25)
参考文献数
29

右半球病変で錯文法を呈した矯正右手利きの症例を報告した.呼称障害はごく軽微でありながら,自由発話/説明発話の別を問わず助詞の誤用が著明であり,脱落は皆無であった.逸脱語順や統語構造の単純化は明らかでなかった.理解面では語義理解は良好に保持されながらも,平易な会話の理解からしばしば困難を呈した.側性化の異なる失文法症例では統語的側面と形態論的側面の障害が共起しているのに対し,本例は形態論的側面のみに障害を呈しており,側性化の異なる失文法とは発現機序が異なると考えられた.本例の錯文法の発現は異常側性化に起因するものとであると推察された.
著者
中尾 真理
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.43, pp.23-39, 2015-03

ジョイスが二十二歳から二十六歳の時に書いた短編小説集『ダブリンの人びと』はその後の作品のテーマに発展する要素を多く含んでいるが、「ラヴ・ストーリー」と呼べる物語はその中にはない。反対に「愛の欠如」をテーマとした短編は幾つかある。「痛ましい事件」もその一つである。これは審美家で、俗世間からできるだけ距離を保って暮らしている、独身の中年銀行家が恋愛を取り逃がす物語である。ダッフィ氏は音楽会の会場でたまたま隣り合わせた女性(シニコウ夫人)と、親交を深める。だが、感受性の強いシニコウ夫人が肉体的接触を求めるそぶりをしたことに驚き、「魂の救いがたい孤独」を主張して一方的に交際を打ち切ってしまう。四年後、ダッフィ氏はシニコウ夫人が、飲酒癖により鉄道事故で命を失くしたことを知って驚愕する。語り手はその直前まで、ダッフィ氏の内面を語ることをしないが、後半、ダッフィ氏が女性の死を知った後は一転して、ダッフィ氏の内面に視点を合わせ、彼が愛の喪失を認め、自己覚醒する過程を綿密に描き出す。ダッフィ氏は自説を主張するのに忙しく、シニコウ夫人の孤独に思い至らなかったのだ。本稿では、中年の銀行家が若い人妻と親密になるという、よく似た設定の同時代の作品、チェーホフの「犬を連れた奥さん」(1899)と比較することによって、「痛ましい事件」の作品理解を深めることにする。ラヴ・ストーリーである「犬を連れた奥さん」の内面描写と比較することによって、ジョイスの短編小説の特質を明らかにし、その戦略と技巧を解き明かすのが目的である。
著者
中尾 真理
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.34, pp.33-44, 2006-03

T.S.エリオットの子供向けの詩集『ポッサムおじさんの現実味のある猫の本』と、その中の「謎の猫マカヴィティ」をとりあげる。エリオットはこの詩集でも、『不思議の国のアリス』や『マザー・グース』から親しみのある言葉やリズムを効果的に利用している。ここに登場する猫たちは擬人化されているが、いかにもロンドンの猫らしく、泥棒猫、手品師猫、鉄道猫など、その生態もさまざまである。その中で、「謎の猫マカヴィティ」には、コナン・ドイルの有名な探偵小説を下敷きにし、猫の正体を問う謎々が仕掛けられている。手がかりはこの猫が「犯罪のナポレオン」と呼ばれていること。本稿は「謎の猫マカヴィティ」を読み、エリオットらしい諧謔に満ちたノンセンス詩に仕掛けられた謎を解く。「ポッサムおじさん」の仮面に隠された大詩人の知られざる一面に近づくための覚え書きである。
著者
中尾 真理
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.31, pp.1-17, 2003-03

『ダロウェイ夫人』は主人公ダロウェイ夫人が午後のパーティのために、一人で花を買いに行くところから始まる。この小説ではダロウェイ夫人を始め、もう一人の主人公セプティマス、ダロウェイ夫人の幼なじみピーター・ウォルシュ、ダロウェイ夫人の娘のエリザベスなど複数の人物の視点から描かれるが、これらの人物はいずれもロンドンを歩き、移動しているのが特徴である。この小説はジョイスの『ユリシーズ』同様、「歩く小説」であり、「ロンドンを歩く小説」だということができる。女性はつい最近まで、安全の上から、また、体面への配慮から、一人歩きができなかったことを考えると、ダロウェイ夫人が颯爽とロンドンの町を歩いている意義は大きい。作者のヴァージニア・ウルフもダロウェイ夫人同様、歩くのが好きだった。ウルフのそうした一面は『ロンドン風景』という短いエッセイにも示されている。これはロンドンっ子の書いたロンドンの名所案内という趣の小品だが、フェミニストでもあったウルフの特質がよく現れている。本稿では『ロンドン風景』中の第三章「偉人の家」の中からカーライルの部分に焦点をあて、同じ題材をとりあげた夏目漱石の『カーライル博物館』と比較することでウルフの繊細な、女性らしい視点に着目した。漱石が「四角四面の家」と評したカーライルの家を、ウルフはカーライルその人ではなく、カーライル夫人に焦点をあてて見たのが注目される。
著者
中尾 真理
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.32, pp.33-49, 2004-03

ウォーカー・ハミルトンは1934年に生れ、2冊の短い小説を残して、1969年に若くして亡くなった。本稿は彼の2作目の小説A Dragon's Life(『ドラゴンとともに』)をとりあげ、作家ウォーカー・ハミルトンの紹介としたい。『ドラゴンとともに』(1970年)は64歳になる売れない役者、サムソン・スワンロードを主人公にした、現代のピカレスク小説である。主人公は化粧品会社の宣伝のドラゴン役に応募するが、痩せ過ぎていると言う理由で、落ちてしまった。ナイロン製のドラゴンに惚れ込んだ彼は、その衣装を盗んで逃走する。ドラゴン姿の主人公は逃走の旅の途中で、人生の裏街道を行くさまざまな人物に出会う。小説はそれらの人々との出会いを通して、自分の人生は失敗であったとの思いから抜けきれないサムソン・スワンロードの内面を探求していく。物語は彼が駐車場の番人になるために、元の町へ戻る決心をつけるところで終わる。主人公が役者であることから、小説は最初と最後の章が戯曲形式で書かれており、さらに2章から10章までは主人公の独白体(モノローグ)で書かれている。青年の繊細さと老人の諦めの入り交じった独白に、お伽話の軽妙さが加わった作品である。
著者
山口 猛央 高羽 洋允 酒井 康行 中尾 真一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

生体膜ではイオンゲートが存在し、イオンシグナルが来たときにだけ細孔を開閉する。情報伝達シグナルにより細胞内外の特定イオンや物質の濃度を調節することが可能である。人工膜中にセンサー(包接ホスト)やアクチュエーター(環境応答ゲル)を組み合わせ、シグナルを認識したときにだけ細孔を高速に開閉する分子認識イオンゲート膜の開発に成功している。この膜はカリウムなど特定イオンが来たときにだけポリマー鎖が細孔内で膨潤し細孔を閉じる機能を有する。本研究では、この情報シグナル認識機能を人工代謝機能へと応用した新規なハイブリッド型人工臓器を提案する。情報認識膜の表面に細胞を成長させる。細胞の一部が死滅すると全体の細胞へ悪影響を与え(生体では炎症など)、機能を維持できない。多くの細胞はカリウムポンプにより細胞内でカリウム濃度が高い状態を維持している。通常、細胞内部でのカリウムイオン濃度は4000ppmであり、血漿中の濃度は200ppmである。細胞が死滅すると細胞膜が破壊されカリウムイオンが外部へ流れ出す。膜がこの情報物質を認識し死滅細胞近辺だけポリマー鎖が膨潤し親水化すると、死滅細胞近辺の細胞が表面から剥がれる。さらに膜細孔も閉じ細胞質は透過側へは流れでない。拡散によりカリウムイオン濃度が低下するとポリマー鎖は収縮し、初めの状態と同じように細胞が増殖し細胞組織を再構成する。これを繰り返すことにより、常に組織は新しい細胞と代謝され、長期間機能を維持する。生体においては、食細胞などにより細胞が消化され代謝が促進されているが、ここでは人工膜界面が細胞死の情報を認識し代謝する役割を担う。死細胞から放出されたカリウムイオンを膜が認識し、死細胞を選択的に系から除去できることを確認した。さらに、炎症性物資をも除去することにより、このシステムでは素早く細胞が復元されることも確認した。
著者
吉見 雄三 藤村 政樹 安井 正英 笠原 寿郎 中尾 真二
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.502-507, 2004
被引用文献数
1

呼吸器疾患における吸入薬は,近年ドライバウダー吸入(DPI)が普及し,圧作動式定量噴霧吸入(pMDl)に取って変わりつつある.しかし両薬剤には吸入流速による肺沈着率に違いがみられる.今回,安定期喘息患者8名を対象として,サルブタモールをTurbuhalerとpMDIの2つのデバイスを用いて吸入させ,その効果を薬剤吸入後の呼吸機能の改善度を指標として比較検討した.pMDIとDPIの比較では,吸入後の1秒量の経時的変化は両群間に有意差を認めなかった.両デバイスの吸入効果の差を表す指標としてΔAUCとΔmaxFEV_iを定義し,試験前の呼吸機能の指標との相関を検討したところ,1秒量・1秒率の低下している症例はど,pMDIの方がDPIよりも吸入後の呼吸機能の改善度が強い傾向がみられた.この成績は,吸入流速と薬剤沈着率との関係を反映したものと推察された.低呼吸機能患者に対する有用性があるため,今後もpMDI製剤は-部の患者には必要で,また吸気流速測定によるデバイスを使い分け等も考慮すべきであると考えられた.