著者
中山 祐一郎 郷原 匡史 浅井 元朗
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.31-43, 2022 (Released:2022-04-28)
参考文献数
100

日本各地の河川堤防や河川敷において,アブラナ属(Brassica)の植物が定着して優占し,春季に一斉に開花する群落が見られている。また近年,穀物輸入港の周辺の路傍で“外来ナタネ”の定着・自生が確認されている。日本では以前からアブラナ属の自生種に対する誤同定が多い状況が続いており,分布や生態に関する実態の正確な理解を妨げている。日本におけるアブラナ属,とくにアブラナとセイヨウアブラナ,カラシナの3種について概説し,その形態的・生態的な特徴を示した。さらに,2000年以降に出版された主要な帰化植物等の図鑑と,図や解説のある主要な地方植物誌におけるアブラナ属の掲載状況を検討した。主要な専門書(図鑑等)において,栽培種と認識されているアブラナが掲載されていない,あるいは誤りを含む記述がされており,それがアブラナをセイヨウアブラナとして誤同定され続けている主因と思われる。今後,アブラナ類の調査について,正確な種同定に基づいて再検討した上で,影響の再評価がなされるべきである。
著者
中山 祐一郎 梅本 信也 伊藤 操子 草薙 得一
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.332-338, 1997-01-31 (Released:2009-12-17)
参考文献数
19

オオバコの種内変異を調査するため, 京都市北東部の8集団かち得た系統を供試し, 同一条件下での栽培実験を行なった。さらに, 生育地の環境を調査して, 種内変異と生態分布との関連を検討した。1) オオバコの形態には著しい遺伝的変異が認められ, 普通型と minima 型の2型が識別された。普通型では, 葉は大きく斜立し, 葉脈数は5で, 花序は長く, 斜立~直立し, 1蓋果は3~7個の大きな種子を結ぶ。minima 型では, 葉は小さく傾伏し, 葉脈数は3で, 花序は短く, 傾上し, 1蓋果は4~10個の小さな種子を結ぶ。2) 普通型は, 畦畔や農道, 路傍, 未舗装の駐車場, 社寺林の林床などに生育していた。minima 型は神社や仏閣の境内に限って生育していた。3) minima 型の生育地である神社の境内は, 薄暗く, 土壌中の窒素とリンの含量が普通型の生育地より低く, 維管束植物の多様度指数が低く, また毎日掃き掃除が行われるなど, 普通型の生育地とは環境条件や管理様式が顕著に異なっていた。そのため, minima 型はストレスや撹乱の質と程度に関して普通型とは異なった環境に生育していると考えられた。オオバコの種内2型はこのような生育地の環境条件の違いに適応し, 住み分けているものと推定された。
著者
保田 謙太郎 中山 祐一郎
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.9-16, 2016 (Released:2016-05-07)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

タイヌビエ(Echinochloa oryzicola)の日本国内での地理的変異を明らかにするため,沖縄県を除く636地点で穂を収集し,小穂C型とF型の分布を調べた(調査1)。また,日本国内4ヶ所の標本庫に収蔵されている87点の標本を対象に両型の分布を調べた(調査2)。調査1ではC型は396地点で,F型は377地点で収集された。種間重なり合い指数(ω)からは両型の分布は独立であり,Moran’s I統計量からは両型とも有意な正の空間的自己相関を持ち特定の地域に偏って分布していると判断された。調査2では北海道と近畿地方で採集された標本が多く,それら地域での傾向は調査1の結果に類似した。両調査によってC型は東京都,神奈川県,山梨県,静岡県,愛知県,近畿地方,岡山県,鳥取県,広島県,山口県,四国地方,福岡県,大分県までの連続した地域で非常に高い頻度で分布しており,F型は北海道,東北地方,北陸地方,長野県までの連続した地域と千葉県と鳥取県で非常に高い頻度で分布していることが明らかになった。C型は太平洋側の水田中に多く,F型が日本海側の水田中に多い傾向にあるとする従来までの見解を一部修正した。
著者
紙谷 年昭 中山 祐一郎 山口 裕文
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究. 別号, 講演会講演要旨 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
no.42, pp.112-113, 2003-04-19

希少種を多く含む水生雑草であるミクリ属(Sparganium L.)植物は水辺の植物群落の復元などにおいて自然修復措置の素材として注目されている。しかし,ミクリ属では種の同定の難しさもあって研究が進んでおらず,環境修復を効率よく進めるために必要な生活史や生育環境についての基礎的な情報が不足している。ミクリ属は根茎断片による分布拡大や根茎によるクローン成長によって群落を形成する。この性質は修復地における移植初期の群落形成に重要な役割を果すと考えられる。そこで本研究では,ミクリ属のミクリとオオミクリ,ヒメミクリを環境修復素材として用いる際の基礎的な知見を得るため,3種を同一環境下で栽培し,根茎の伸長様式をはじめとするクローン成長に関する形質を調査した。
著者
中山 祐一郎 梅本 信也 伊藤 操子 草薙 得一
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.332-338, 1997-01-31
被引用文献数
1

オオバコの種内変異を調査するため, 京都市北東部の8集団から得た系統を供試し, 同一条件下での栽培実験を行なった。さらに, 生育地の環境を調査して, 種内変異と生態分布との関連を検討した。1) オオバコの形態には著しい遺伝的変異が認められ, 普通型とminima型の2型が識別された。普通型では, 葉は大きく斜立し, 葉脈数は5で, 花序は長く, 斜立〜直立し, 1蓋果は3〜7個の大きな種子を結ぶ。minima型では, 葉は小さく傾伏し, 葉脈数は3で, 花序は短く, 傾上し, 1蓋果は4〜10個の小さな種子を結ぶ。2) 普通型は, 畦畔や農道, 路傍, 未舗装の駐車場, 社寺林の林床などに生育していた。minima 型は神社や仏閣の境内に限って生育していた。3) minima型の生育地である神社の境内は, 薄暗く, 土壌中の窒素とリンの含量が普通型の生育地より低く, 維管束植物の多様度指数が低く, また毎日掃き掃除が行われるなど, 普通型の生育地とは環境条件や管理様式が顕著に異なっていた。そのため, minima型はストレスや撹乱の質と程度に関して普通型とは異なった環境に生育していると考えられた。オオバコの種内2型はこのような生育地の環境条件の違いに適応し, 住み分けているものと推定された。
著者
夏原 由博 村上 真樹 青木 大輔 中山 祐一郎 前中 久行
出版者
公益社団法人 日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.565-568, 2008-03-31 (Released:2009-05-08)
参考文献数
31

Identifying conservation units in a species and prioritizing their conservation were attempted in order to efficient conservation practice. We defined a conservation unit as a distinct populations between which individuals cannot be exchanged because of unique genetic and ecological characteristics. Conservation priority was given to conservation units that were restricted in distribution or those where habitats were not protected, because habitat loss is one of the most important factors leading to species extinction. We identified a gap between species distribution and conservation status using the land use master plan. We considered nature conservation areas, natural park areas, and protected forest areas as protected land, urbanization promotion areas as not protected, and agricultural promotion areas and private forest areas as at intermediate risk. The Japanese clouded salamander Hynobius nebulosus was used as a model species. An assessment was carried out after defining the conservation units of this species based on reported geographic variation in allozyme, mt-DNA, or morphology. The presence/absence of the species and land use regulation were recorded on a 1-km grid. The greatest numbers of records of species occurrence were in agriculture promotion areas (17.4%) and private forest areas (39.5%) with 791 records. Of the ten conservation units, the Tottori population was given at highest priority for conservation.
著者
中山 祐一郎 梅本 信也 山口 裕文
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.205-217, 1999-10-29 (Released:2009-12-17)
参考文献数
33
被引用文献数
16 20

温帯東アジアのヒエ属 (Echinochloa) 植物の形態的特徴の変異は非常に大きく, ときに分類群の同定が困難である。そこで, 中国雲貴高原を中心とした外国産および日本産のヒエ属植物の16の分類群または型-E. obtusiflora (2倍体), E. crus-pavonis (2倍体), E. stagnina (4倍体と6倍体), タイヌビエの群 (4倍体: タイヌビエのC型とF型, 非脱粒性タイヌビエ, 栽培型タイヌビエおよび E. phyllopogon), イヌビエの群 (6倍体: イヌビエ, ヒメタイヌビエ, ヒメイヌビエ, ヒエ, リコウビエおよび E. oryzoides) およびコヒメビエの群 (6倍体: コヒメビエおよびインドビエ)-のアイソザイムの変異を分析した。酵素6PGD, AATおよびADHにおいて, 4倍体および6倍体の種は, それぞれの倍数性に応じたバンドの重複を示した。イヌビエの群 (6倍体) とコヒメビエの群 (6倍体) では, アイソザイムパターンは異なっていた。タイヌビエの群 (4倍体) とイヌビエの群 (6倍体) は, 小穂の形態では識別が困難であるが, 群内のアイソザイムの多型はわずかしかみられず, アイソザイムパターンによって倍数性の異なる2群が識別できた。数種の酵素を用いてアイソザイム分析すれば, ヒエ属植物の倍数性群が判別できるので, 分類群の同定が容易となる。
著者
中山 祐一郎 保田 謙太郎 下村 泰彦
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

西日本の一級河川に生育するアブラナ属植物はカラシナかアブラナであり、セイヨウアブラナはほとんどないことを明らかにした。また、ツユクサ科の外来植物が河川によって分布を広げる可能性が示唆された。アブラナ属の優占度は土壌の可給態リン酸が多いほど高まり、都市緑地でも土壌環境の違いが植生の違いに大きく影響していることが示された。一方で、都市河川では、外来植物が河川景観を構成する大きな要素となっており、外来植物の花が咲いた景が好まれることが示されたので、河川の植生管理においては外来種を駆除するだけでなく、在来植物の花咲く景を回復の指標にすることが望ましいと考えられた。
著者
中山 祐一 新家 一輝 髙島 遊子 久保田 牧子 中島 るり子 山崎 あけみ
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.393-401, 2016-12-01 (Released:2019-04-01)
参考文献数
18

本研究は特別支援学校卒業前後の重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))と養育者の体験を明らかにすることを目的として、特別支援学校卒業後から5年程度の重症児(者)の養育者15例に半構造化面接を行い、質的帰納的分析を行った。調査期間2015年2月~2015年11月。重症児(者)は19~24歳(男10名、女5名)、養育者は45~61歳(男1名、女13名、両親参加1組の計16名)、面接時間は平均103分であった。卒業前後の体験を表すカテゴリーを7つ抽出した。養育者は重症児(者)に【充実した人生を過ごして欲しいという思い】を抱き【養育者友達との支え合い】の中で養育し続けてきた。重症児(者)は支援学級や特別支援学校に就学し【充実した学校生活】を過ごしていた。卒業後は重症児(者)の体調・卒業後の行先・携わる人によって【重症児(者)の生活の相違】が生じ、社会資源の活用の程度によって【養育者の生活の相違】も見られた。現在、養育者は【子どもの将来を懸念】しながら【子離れに逡巡】し、将来について悩んでいた。
著者
中山 祐一郎 梅本 信也 草薙 得一
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.97-106, 1997-08-30
被引用文献数
2

オオバコ種内2型の生活史特性とその成立過程を検討するために, 京都市北東部の8集団を供試して栽培実験と発芽試験を行い, さらに, 自生地での季節消長を調査した。1) minima 型は普通型よりも全乾物重が小さく, 早く出穂し, 繁殖分配率が大きかった(Fig. 1, 2およびTable 2)。また, 年間の種子生産数は, 栽培1年目では2型間に差異はなかったが, 栽培2年目では普通型がminima型を大きく上回った(Table 2)。2) 普通型では, 明条件下で20℃から30℃までのいずれの温度区でも高い種子発芽率が得られた。一方, minima型では25℃で種子発芽率が最大となり, 20℃では発芽速度が顕著に遅かった(Fig. 3)。3) 普通型が生育する畦畔や農道では, 植生が密で, 成熟個体の死亡することが少なく, 競争が激しかった。一方, minima型が生育する神社の境内では, ストレスが大きく, 乾燥した夏の掃き掃除や不定期な除草, 改修工事などの攪乱が予測不能な死亡要因として作用していた(Fig. 4)。また, 出芽の時期は2型間で異なった(Fig. 4)。以上のことから, オオバコ種内2型の生活史特性は, ストレスや攪乱, 競争の質や程度が異なるそれぞれの自生地の環境に適応して成立したものと推定された。
著者
中山 祐一郎 保田 謙太郎
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

アブラナ属植物の河川における分布を、西日本の45の一級水系について調査したところ、ほとんどの河川において生育が認められたが、分布の密度や種構成は河川によって異なっていた。大阪府の大和川では、アブラナ属のカラシナが堤防法面と中水敷に生育していた。外来植物を除去する実験の結果から、カラシナは、堤防法面では秋の草刈後に出来た裸地にすばやく侵入して優占しているが、中水敷では在来種を競争によって排除して優占していると考えられた。また、野生系統と栽培系統との比較栽培実験の結果から、アブラナ属植物は、競争環境と攪乱環境で有利に働く性質をあわせもつことによって、河川の様々な環境で生育が可能であると考えられた。
著者
中山 祐一郎 西野 貴子 渡邉 修 渡邉 修
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

白山(石川県)の高山帯・亜高山帯には,12種(群)の雑草性植物が侵入していた。そのうち,オオバコでは,自生種ハクサンオオバコと雑種を形成していた。スズメノカタビラでは,高山の環境に適応した生活史特性をもつ個体が定着していると考えられた。外来タンポポでは,低地~山地に生育する様々な種や雑種の型のうち,一部の種や型が亜高山帯や高山帯に侵入していた。これらの知見に基づき,侵入雑草への対策について「白山国立公園生態系維持回復事業検討会(環境省中部地方環境事務所)」等で提案した。