著者
伊藤 海斗 加嶋 健司
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第36回 (2022) (ISSN:27587347)
巻号頁・発行日
pp.4K1GS101, 2022 (Released:2022-07-11)

確率分布を所望の分布に効率よく輸送する問題(最適輸送問題)は,機械学習を含め様々な応用が期待されている.本研究では,動的システム上で離散分布を所望の離散分布に輸送する問題を考える.これはエージェントの集団を所望の分布形状に最適制御する問題とも見なせる.通常の最適輸送と比較して,動的システム上の最適輸送特有の問題は,各輸送コストを知るために最適制御問題を解く必要があり,そして制御に要する実時間性を保って最適輸送問題を解かなければならないことである.そこで本研究では,モデル予測制御(MPC)とSinkhornアルゴリズムを組み合わせた動的な輸送アルゴリズムを提案する.MPCは各時刻で有限時間の最適制御を解くことで実時間最適制御を実現する手法である.またSinkhornアルゴリズムは,エントロピー正則化最適輸送を効率的に解く反復計算手法である.これらを活用し,具体的には最適制御計算とSinkhornアルゴリズムの反復を並行して行うことで,実時間性をもつ効率のよい輸送法を提案する.特に,対象システムが線形の場合に,提案手法で制御されるダイナミクスの有界性や漸近安定性といった重要な性質を示す.
著者
越後 友利果 伊藤 海彦 磯田 豊
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4-5, pp.71-98, 2022-09-15 (Released:2022-09-15)
参考文献数
22

近慣性周期の内部波は,密度成層が弱くなるほど,地球回転ベクトルの水平成分Ω cos φ(φは緯度,Ωは自転角速度)の影響が無視できなくなる。特に,日本海深層の底層水(Bottom Water)のように,浮力振動数(N)がほぼ零となる均一流体内に存在できる波はGyro-scopic Wave(GsW)とも呼ばれる慣性波(inertio wave)に限られる。しかし,これまでGsW の存在を支持する観測的証拠は得られていない。そこで,本研究ではGsW を含む内部慣性重力波の線形理論解析を行った。その分散関係からは,南方へエネルギー伝播する近慣性周期のGsW が海底で反射する際,入射波の鉛直低波数から反射波の鉛直高波数へと非対称な伝播経路(Ray path)を示すことがわかった。Polarization relation からは,北半球の場合,反射波の水平流速楕円(真の流速楕円の水平面射影)がほぼ真円の時計回りであるのに対し,入射波の水平流速楕円は時計回りから反時計回りへ遷移する,という興味深い特性も明らかになった。これらの理論的知見と数値モデルを用いたGsW の再現実験を根拠として,我々は海底近傍に設置された係留系の流速記録が示す特徴の中に,GsW の海底反射を示唆する証拠をみつけることができた。
著者
伊藤 海斗 加嶋 健司
出版者
電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.269-278, 2021-04-01

動的な現象をモデル化する際に,それが内包する確率的不確かさを適切にモデルに組み込むことは重要である.特に近年では,突風による風力発電量の急激な変動など,システムに大きな影響を与えるレアイベントを考慮した不確かさのモデリング・解析手法がますます求められている.動的システムにおける確率的不確かさを表現するのに最も用いられるのは,ガウス型の雑音であり,解析的な扱いやすさという大きな利点をもつ一方で,裾が急速に減衰するガウス分布では外れ値を表現することができない.そこで本稿ではレアイベントモデリングが可能,かつ,動的システムでの解析的扱いやすさを併せもつ,安定分布を利用したモデリング手法を解説する.また本枠組みの応用例として,等価線形化による非線形システム解析,動的システムにおけるプライバシー保護を紹介する.
著者
大塚 美智子 森 由紀 持丸 正明 渡邊 敬子 小山 京子 石垣 理子 雙田 珠己 田中 早苗 中村 邦子 土肥 麻佐子 原田 妙子 小柴 朋子 滝澤 愛 布施谷 節子 鳴海 多恵子 高部 啓子 河内 真紀子 増田 智恵 川端 博子 薩本 弥生 猪又 美栄子 川上 梅 渡部 旬子 倉 みゆき 丸田 直美 十一 玲子 伊藤 海織 角田 千枝 森下 あおい 上西 朋子 武本 歩未
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

2014~2016年に関東、関西、中部、中国、九州地区で3200名、約50項目の日本人成人男女の人体計測を行い、マルチン計測による3200名と三次元計測による2000名のデータベースを構築した。これにより、アパレル市場の活性化と国際化が期待でき、JIS改訂の根拠データが得られた。人体計測データの分析の結果、現代日本人は20年前に比べ身長が高く、四肢が長いことが明らかになった。また、若年男子のヒップの減少と中高年成人女子におけるBMIの減少が顕著であった。
著者
伊藤 海斗 林 輝 加嶋 健司 加藤 政一
出版者
公益社団法人 計測自動制御学会
雑誌
計測自動制御学会論文集 (ISSN:04534654)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.878-885, 2018 (Released:2018-12-18)
参考文献数
18
被引用文献数
2 1

The statistical property of wind power fluctuation, which does not fit to the normal distribution because of its high probability of the extremal outlier, is regarded as a source of severe damage to power systems. In view of this, the authors have proposed an evaluation method for the impact of wind power fluctuation on power system quality, assuming that this heavy-tailed uncertainty obeys a power-law. In this paper, we first examine the validity of this assumption based on real data of frequency deviation under wind power interconnection. Then, the evaluation method is improved by extending theoretical results, and is applied to analysis of load frequency control model to verify its advantage over Monte Carlo methods.
著者
田口 敦子 村山 洋史 竹田 香織 伊藤 海 藤内 修二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.712-722, 2019-11-15 (Released:2019-11-26)
参考文献数
25

目的 地域保健に関わる住民組織には食生活改善推進員,健康づくり推進員,母子保健推進員,愛育班等がある。これらの住民組織は,行政によって育成・支援され,住民の身近な存在として,住民への健康情報の提供や意識啓発を行っている。その活動効果が報告されている一方で,成り手の減少等の課題がある。そこで,本研究では,全国調査により地域保健に関わる4つの住民組織の特徴と課題を明らかにすることを目的とした。これにより,住民組織の養成・支援の方策を立てるのに有益な資料となり得ることを目指す。方法 対象は,全国の市町村1,873か所であった。全国の市町村のうち政令指定都市は行政区ごとを対象とし,特別区は除外した。市町村自治体の健康増進担当者を対象に,メールまたは郵送にて調査を実施した。調査期間は2017年2月~3月末であった。食生活改善推進員,健康づくり推進員等,母子保健推進員等,愛育班について,それぞれ住民組織の設置の有無,組織の設立年,会員数,最も多くを占める年代,メンバーの主な選出方法,等について尋ねた。組織の現在の課題は12項目を6件法(1=全くそう思わない~6=非常にそう思う)で尋ねた。活発に活動しているメンバーの割合を0~10割の範囲で尋ねた。結果 全国の市町村808件の回答を得た(有効回答数805件,有効回答率43.0%)。設置の有無は,食生活改善推進員が最も多く全対象市町村の84.7%であり,続いて健康づくり推進員等(64.3%),母子保健推進員等(26.4%),愛育班(10.1%)であった。組織の課題について「非常にそう思う」,「そう思う」,「まあそう思う」の回答を合計した割合は,「新しいメンバーがなかなかみつからない」,「活動の対象者が固定化している」等で4組織共に50%以上であった。また,4つの組織に共通して「活動を楽しめていないメンバーが多い」,「仕事や介護等の理由により活動への関わり方に制約があるメンバーが多い」,「活動の目的がメンバー全体で共有されていない」の課題は,組織の中で活発に活動しているメンバーの割合と,中程度または弱い負の相関がみられた。結論 4つの住民組織の特徴には違いもみられたが,組織の課題は全国的に共通するものが多いことが明らかになった。
著者
伊藤 海 村山 洋史 田口 敦子 大森 純子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.12, pp.860-870, 2020-12-15 (Released:2020-12-31)
参考文献数
33

目的 高齢化の進展に伴い,心身機能の低下により日常生活に支援を必要とする高齢者が増加していることから,近年,生活支援の担い手となる地域住民の拡充が求められている。中でも,生活支援の担い手となり得る地域住民として,高齢者が携わることに期待が寄せられている。本研究では,生活支援の担い手への意向を持つ高齢者の特性を,細分類した生活支援内容ごとに明らかにすることを目的とした。方法 対象者は吉島地区に在住し,要介護1~5の要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者全数である801人とした。自治会長および隣組長による全戸訪問にて,調査票を配布・回収した。データの収集期間は2018年6~7月であった。調査項目は,基本属性,健康状態,近隣との社会関係,8種類の生活支援内容であった。分析は,実施意向の有無を従属変数,基本属性,健康状態,近隣付き合いの程度の各変数を独立変数とするロジスティック回帰分析を支援内容ごとに行った。結果 分析対象者は586人であった(有効回答率73.2%)。実施意向に関連していた特性は,性別では,女性であるほど「話し相手・困った時の相談相手」,「食事の準備や掃除・洗濯の手伝い」,「気軽に参加できる集まりやイベントに誘う」への意向が強く,「庭仕事や畑作業などの外回り作業」,「雪かき・雪下ろし」への意向が弱かった。暮らし向きでは,よいと回答した人ほど「通院の送迎や付き添い」への意向が弱く,最終学歴が高いほど「話し相手・困った時の相談相手」,「見守り・安否確認」への意向が強かった。手段的自立評価が高いほど「話し相手・困った時の相談相手」,「見守り・安否確認」,「気軽に参加できる集まりやイベントに誘う」,「買い物の同行・代行」への意向が強かった。また,「食事の準備や掃除・洗濯の手伝い」「庭仕事や畑作業などの外回り作業」以外の6種類の支援内容では,近隣との付き合いの程度が密である者ほど実施意向が有意に強かった。結論 支援内容によって意向する高齢者の特性が異なることが明らかになった。これらを考慮した上で,担い手の募集や仲介を行うことにより,生活支援への担い手の拡充が期待できる。
著者
伊藤 海 田口 敦子 松永 篤志 竹田 香織 村山 洋史 大森 純子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.334-343, 2020-05-15 (Released:2020-06-02)
参考文献数
32

目的 介護保険制度が2000年に導入され,高齢社会の到来を見越した動きが高まり,互助の重要性が国として認識され始めた。本研究は,近年の互助の定義と構成概念を明らかにし,互助の取り組みを拡充する方策を検討することを目的とした。それにより,地域包括ケアシステムの構築に向けた互助拡充に資することを目指す。方法 Rodgersの概念分析法を用いた。データベースは医学中央雑誌web版に加え,CiNii Articlesを用いた。タイトルまたは抄録に「互助」を含む文献を検索した。検索式は「互助/TA」と設定した。検索期間は2000年以降とした(検索日2016年8月30日)。30件の文献をランダムサンプリングにより選定し,そこにランドマークとなる文献を加えた全32件を分析対象とした。分析は,属性(互助の特性),先行要件(互助に影響する要因),帰結(互助に期待される成果)の3つの枠組みで質的に行った。結果 互助の特性として,【住民間の生活課題に関する共感体験】,【互いに補おうとする住民の自発的な意識】,【地域の生活課題を解決し合う住民の相互行為】の3つのカテゴリが抽出された。互助に影響する要因として,【自助や共助・公助のみでは解決できない生活課題の存在】,【住民間の交流の存在】,【住民間の生活課題の共有】,【住民主体の支え合いを推進する公的仕組み】の4つのカテゴリが挙がった。互助に期待される成果として,【住民の生活課題の解決】,【住民の自助意識の向上】,【住民の役割や生きがいの創出】,【住民間の交流やつながりの促進】の4つのカテゴリが抽出された。結論 互助は,「地域の生活課題を解決し合う住民の相互行為。また,生活課題に対する共感体験,および互いに地域の生活課題を補おうとする自発的な意識を住民が持つこと」と定義された。また,互助の拡充に向けて必要な対策として,住民が他者への共感を持つこと,互助で取り組むことで得られる住民の利益を住民自身が理解すること,住民主体の支え合いでありつつも公的な仕組みがあることの必要性が示唆された。
著者
田口 敦子 備前 真結 松永 篤志 森下 絵梨 岩間 純子 小川 尚子 伊藤 海 村山 洋史
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.9, pp.582-592, 2019-09-15 (Released:2019-10-04)
参考文献数
16

目的 地域で介護予防活動を行う住民を養成する,介護予防サポーター養成プログラムの多くは,市町村の経験値で組み立てられている現状がある。そのため,必ずしも効果的・効率的に養成を行えている市町村ばかりではない。本稿では,まず,文献検討を行い,養成プログラムのプログラム内容や評価指標等を定める視点を明らかにした。その上で文献検討を基に養成プログラムを作成し,効果を検討した。方法 養成プログラムの文献検討を行い,その結果を基に養成プログラムを作成した。岩手県大槌町を対象地域とし,2017年6~9月に地域包括支援センターの保健師3人と研究者4人とで,養成プログラムを作成した。その後,2017年10~11月に養成プログラムを実施した。評価では自記式質問紙を用い,毎回の終了後に満足度等を尋ねたプロセス評価と,全プログラム前後に,地域課題の理解度等を尋ねたアウトカム評価を行った。活動内容 文献検討から,養成プログラムは,企画者によって予め介護予防サポーターに求める活動が定まっているタイプ(タイプA)と,活動内容を参加者と一緒に具体的に考えていくタイプ(タイプB)の二つに分けられた。プログラム内容の特徴として,タイプAでは,プログラム終了後に介護予防活動に移るための具体的な知識や技術の習得を目的とした内容が多かった。タイプBでは,地域課題の認識を高める講義や演習,先駆的な活動の見学等,プログラム終了後の介護予防活動の内容を住民が考えて具体化できるような内容が多かった。 文献検討を踏まえ,大槌町では,地区の状況に応じた介護予防サポーターの活動方法を参加者が検討し取り組むことが重要であると考え,タイプBを参考に養成プログラムを検討した。アウトカム評価では,解析対象は12人であった。男性2人,女性10人,年齢は71.4±10.0歳[範囲:53-88]であった。プログラム前後のアウトカム指標の平均値の変化は,地域課題の理解度では3.1→4.1(P=0.046),自分自身の介護予防に取り組む自信では3.4→4.0(P=0.035)と有意に上昇していたが,地域の介護予防に取り組む自信では3.1→3.5(P=0.227)であり有意差は認められなかった。結論 文献検討で養成プログラムの目的や内容,評価指標等の視点を明確にし,その結果を基に実施したプログラムで一定の効果を得ることができた。