- 著者
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雙田 珠己
鳴海 多恵子
- 出版者
- 社団法人日本家政学会
- 雑誌
- 日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, no.9, pp.739-747, 2003-09-15
- 被引用文献数
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4
本稿は,運動機能に障害がある人の衣生活を明らかにすることを目的として,運動機能に障害がある人自身を対象に調査を行い,以下のような結論を得た.(1)今回の調査対象者は,86.4%が車イスを利用しており,脳性マヒの人が全体の51.5%を占めた.(2)衣服の着脱が一人でできる人は,全体の62.1%であったが,「難しいところだけ手伝ってもらう人もそのうちの半数みられた.(3)衣服の購入については,スーパーやデパートの利用が多く,介護用品の専門店やコーナーを利用している人はいなかった.約90%の人が一般の既製服を中心に衣生活を賄っており,既製服を「そのまま着ることが多い」人は63.6%であった.衣服を購入するときに,自分で店舗に行く人は60.6%みられ,衣服への関心の高さが伺われた.(4)調査対象者の衣生活に対する意識を測定し,因子分析した結果,5つの因子が抽出され「おしゃれ心」「自意識」「所有欲」「社会性」「自尊心」と命名した.年齢層と着脱の自立の状態別に,因子得点の平均値の差を分散分析により検定した結果,危険率5%で「所有欲」の因子に差がみられ,若年層は中高年層よりも「所有欲」が強いことが明らかとなった.一方,着脱の自立については,着脱の自立別に衣生活に対する意識の構造を比較したが,一人で着脱ができる人と介助を必要とする人に差は認められなかった.(5)「デザイン性重視」の人は,「着脱性重視」の人に比べ有意な差をもって「所有欲」と「自意識」および「おしゃれ心」の因子得点が高かった.以上より,障害がある人の衣生活に対する意識には,一人で着脱できるか要介助かといった着脱の自立の違いは,影響をおよぼさないことが明らかになった.障害がある人の衣服を考える際に自立の状態を重視し,着脱性だけを考慮することは,装いに対する好みや意欲を否定することになると懸念された.