- 著者
-
伊藤 理史
永吉 希久子
- 出版者
- 福祉社会学会
- 雑誌
- 福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
- 巻号頁・発行日
- vol.17, pp.203-222, 2020-05-31 (Released:2021-06-23)
- 参考文献数
- 38
本稿の目的は,なぜ生活保護厳格化が支持されるのかを,不正受給認識に着目した上で明らかにすることである.日本では,生活保護制度が「セイフティネット」として十分に機能していないにもかかわらず,生活保護厳格化への支持が高い.その理由として先行研究では,制度利用者との社会的・地理的近接性やメディア利用の効果が指摘されているが,どのようなメカニズムにより生活保護厳格化が支持されているのか明らかではない.そこで本稿では,制度利用者との社会的・地理的近接性およびメディア利用が不正受給認識に影響を与え,その認識が生活保護厳格化への支持につながるというメカニズムを想定し,2014 年に実施された全国対象・無作為抽出の社会調査である「国際化と政治に関する市民意識調査」を用いて,その分析枠組み(理論モデル)の有効性を明らかにする.ベイズ推定法によるマルチレベル構造方程式モデリングの結果,次の3 点が明らかになった.⑴近接性について,社会的近接性(本人・親族・友人の生活保護制度利用)は不正受給認識を低めるのに対して,地理的近接性(市区町村別の生活保護受給率)は不正受給認識を高める.⑵メディア利用について,新聞利用は不正受給認識を低めるのに対して,テレビ利用やインターネット利用は不正受給認識に影響しない.⑶不正受給認識は,自己利益を統制した上で生活保護厳格化への支持を高める.以上より,本稿で提示した理論モデルの有効性が示された.