著者
藤原 翔
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.65-77, 2019 (Released:2020-06-25)
参考文献数
61

本論文は,教育社会学的研究における因果推論の動向を示す.具体的には,教育社会学と社会階層研究に関連した(1)教育機会の不平等,(2)学校効果・トラッキング,(3)近隣効果,(4)学歴の因果効果とその異質性(5)社会移動と学歴,(6)ひとり親世帯,(7)多世代の移動に関する海外での因果分析の研究成果を紹介する.これらの研究動向をふまえれば,社会学者が因果の識別について長年にわたって取り組み,統計学や他の社会科学領域で発展した方法を社会学的研究に適用してきたこと,そして単に因果関係の識別だけではなく,関連を生じる交絡やセレクションといった様々な要因の解明に対しても関心を持ってきたことが分かる.これら因果推論に関する研究成果をふまえた上で,今後の日本の社会学における因果推論研究の課題を示す.そして,因果推論が社会現象を理解するための重要な分析枠組みであることについて議論する.
著者
藤原 翔
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.29-49, 2012-11-30 (Released:2014-02-11)
参考文献数
28
被引用文献数
7 3

現代日本の高校階層構造は,社会経済的背景と高校選択との関係を明確にしてきたといえる。このような実態を背景として,本稿ではなぜ高校選択の社会経済的格差が生成・維持されるのかについて,Richard Breen and John H. Goldthorpe(1997)の合理的行為理論に基づく相対的リスク回避仮説と吉川徹(2006)の学歴下降回避仮説に注目した。そして,2002年に行われた高校生とその母親に対する社会調査データ(N=545)を用いて,その妥当性を検証した。分析の結果,経済的資源や中学3年時の成績をコントロールしても,親の職業や学歴は高校ランクに対して直接影響を与えていること,また,中学3年時の成績が高校ランクに対して与える影響は,親の職業や学歴によって異なることが明らかになった。加えて,高校タイプ別の職業達成・教育達成の見込みから予測されるパターンにしたがって,親の職業や学歴が高校タイプの選択に影響を与えていることが示された。以上の分析結果から,高校選択の社会経済的格差を説明する上での,相対的リスク回避仮説と学歴下降回避仮説の妥当性が示された。
著者
伊藤 伸介 石田 賢示 藤原 翔 三輪 哲
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.321-336, 2017 (Released:2018-03-27)
参考文献数
37
被引用文献数
1

本稿では,公的統計の個票データ(調査票情報)の申請と活用の方法について解説した.統計法改正により,現在では,公益性のある学術研究ならば,公的統計の個票データにもアクセスできるようになっている.利用申請が承認されたのちには,テキスト形式の個票データ,データのレイアウト表と符号表が収録されたCDRが届くことになる.個票データを自由に扱うことで,様々な変数の加工・作成やそれら変数間関連の分析をおこなうことができる.公的統計の個票データの分析で基礎的な変数の関連パターンを精確に明らかにできるため,そこから導かれた発展的な問題に対しては個別具体的な社会調査でアプローチする研究プロセスが考えられる.そのように,公的統計の個票データと社会調査データを組み合わせることで,優れた計量社会学的研究が蓄積していく可能性が拓かれる.
著者
藤原 翔
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.283-299, 2009-09-30 (Released:2010-03-30)
参考文献数
33
被引用文献数
4 2

本稿の目的は,高校生の教育期待だけではなく,その母親が子どもに抱く教育期待がどのような要因によって形成されているのかを明らかにすることである.そこで高校生と母親の教育期待の相互の関連をコントロールしたうえで,それぞれの期待に独自に影響を与える要因を示すことが可能な相互依存モデル(Interdependence Model)を用いて,2002年に実施された「高校生とその母親の教育意識に関する全国調査」のデータ分析を行った.互いの期待の関連をコントロールした上で,(1)高等教育進学についてみた場合,高校生の期待には成績や高校の学科や偏差値といった高校生自身や高校に関する要因が独自に影響を与えており,母親の期待には親の学歴,収入といった家族・家庭に関する要因と高校の偏差値が独自に影響を与えていること,(2)四大進学についてみた場合,高校生の期待には成績や高校の学科や偏差値が影響を与えており,母親の期待には親の学歴,収入,高校の偏差値に加えて,子どもの数と子どもの性別が独自に影響を与えていることが示された.以上の結果から,家庭・家族に関する要因は,母子の期待の関連を考慮すれば,母親の期待に対してのみ独自の影響を与えているといえる.
著者
藤原 翔
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.18-35, 2011-06-30 (Released:2013-03-01)
参考文献数
24
被引用文献数
2 6

本稿の目的は,Breen and Goldthorpe(1997)の教育達成の階級・階層間格差に関する理論を取り上げ,その中心となる相対的リスク回避仮説の日本社会における妥当性を検証することである.相対的リスク回避仮説によれば,子どもとその親は,子どもが少なくとも親と同程度の階級・階層に到達することを期待し,そのために必要とされる学歴を取得しようとする.その結果,出身階級・階層によって目標とする教育達成の水準が異なり,教育達成の階級・階層間格差が生じるのである.この仮説を検証するため,パネルデータを用いて計量分析を行った結果,(1)父親の職業は父親が子どもに期待する職業に影響を与えていること,(2)父親が子どもに期待する職業は父親が子どもに期待する教育に影響を与えていること,(3)父親が子どもに期待する教育は子どもの教育達成に影響を与えていることが示された.しかし,子どもへの教育期待の形成に対する父親の職業の影響を,子どもへの職業期待は大きく媒介しておらず,また,教育達成に対する父親の職業の影響を子どもに対する教育期待は大きく媒介してはおらず,これらの期待の効果は付加的なものであった.これらの結果から相対的リスク回避が教育達成の階級・階層間格差を説明するうえで中心的な役割を果たすという彼らの主張は支持されず,相対的リスク回避仮説は支持されなかった.
著者
磯 直樹 香川 めい 北村 紗衣 笹島 秀晃 藤本 一男 藤原 翔 平石 貴士 森 薫 渡部 宏樹 知念 渉
出版者
東京藝術大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究では、現代日本における文化と不平等の関係を、「文化がもたらす不平等」と「文化へのアクセスの不平等」という観点から、理論的かつ経験的に社会学の観点から分析する。すなわち、①文化が原因となる不平等とは何か、②文化資源の不平等な配分とは何か、という2種類の問題を扱う。これらの問題を研究するために、理論的には社会分化論として文化資本概念を展開させる。社会調査としては、関東地方で郵送調査とインタビュー調査を実施し、調査で収集されるデータを、多重対応分析の特性を活かした混合研究法によって分析する。
著者
中村 高康 吉川 徹 三輪 哲 渡邊 勉 数土 直紀 小林 大祐 白波瀬 佐和子 有田 伸 平沢 和司 荒牧 草平 中澤 渉 吉田 崇 古田 和久 藤原 翔 多喜 弘文 日下田 岳史 須藤 康介 小川 和孝 野田 鈴子 元濱 奈穂子 胡中 孟徳
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、社会階層の調査研究の視点と学校調査の研究の視点を融合し、従来の社会階層調査では検討できなかった教育・学校変数をふんだんに取り込んだ「教育・社会階層・社会移動全国調査(ESSM2013)を実施した。60.3%という高い回収率が得られたことにより良質の教育・社会階層データを得ることができた。これにより、これまで学校調査で部分的にしか確認されなかった教育体験の社会階層に対する効果や、社会階層が教育体験に及ぼす影響について、全国レベルのデータで検証を行なうことができた。
著者
藤原 翔
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本年度は2015年に中学3年生とその母親を対象として行った調査の追跡調査を行った.ベースサンプルの分析結果から明らかになった課題,高校に進学していたら2年であること,2012年の高校生調査との比較が可能なことなどを踏まえて調査票を作成した(2017年4月開始,11月確定).そして,東京大学社会科学研究所研究倫理審査委員会の承認を受けた上で,2017年11月から2018年1月にかけて,郵送調査を行った.郵送調査の結果,2015年の調査で有効回答が得られた1,854世帯のうち,1,591世帯(85.8%)の回答を得た.ただし,母親のみ回収の世帯が92世帯,子のみ回収の世帯が3世帯あり,ペアで回収できた世帯は1,496世帯であった(80.7%).調査票には,子どもの情報については進学した高校の情報や高校卒業後にどのような学校に進学したいか(学校名・学部学科名)などの項目が追加された.データの納品後はこれらの情報のクリーニングとコーディング(職業,高校偏差値,高校学科,大学偏差値など)を行った.基礎的な分析として,中学時の進学を希望していた高校の偏差値・学科と教育期待・教育アスピレーションと実際に進学した高校の偏差値・学科と教育期待・教育アスピレーションの情報を用いた固定効果モデルによる分析を行った.その結果,普通科希望から専門学科への変化は,教育期待・教育アスピレーションを下げることが示唆された.この結果については,高校階層構造の影響をみるための因果分析として論文をまとめている.