- 著者
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古川 誠志
- 出版者
- 杏林医学会
- 雑誌
- 杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
- 巻号頁・発行日
- vol.47, no.1, pp.77-79, 2016
米国では40年前と比べて35歳以上の初産婦の数は9倍増加した。一方本邦では35―39歳階級の出生率増加が他の年齢階級と比べて著しい。このような高齢出産の増加は女性の高学歴化とそれに伴う社会進出に加え,近年の生殖補助医療の発達が高齢女性の妊娠率を上昇させたことも影響している。さて,高齢出産には種々の問題がつきまとう。 妊娠中に起こる産科合併症のほとんどが年齢依存性に上昇する。高齢妊娠だと妊娠初期の流産率が上昇する。これには加齢による卵巣機能や子宮機能の低下とダウン症候群を始めとした染色体異常の頻度が増すことが関与する。実際,40歳で単胎妊娠の場合,児がダウン症候群となるリスクはおよそ1/100であり,これは20歳でのダウン症の発症リスク(1/1700)に比べて著しく高い。また妊娠糖尿病,妊娠高血圧症候群,前期破水,切迫早産,前置胎盤,常置胎盤早期剥離や胎内死亡といった産科合併症も年齢依存性に発症頻度が上昇する。更に高齢では慢性高血圧症や2型糖尿病,肥満などの内科合併症を持つ女性の頻度も増加し,妊娠中の内科合併症の悪化や妊娠高血圧症候群などの産科合併症が高率に出現する。これらは医原的な早産出生を余儀なくされる。このように高齢妊娠では母体の罹病率の上昇のみならず胎児の罹病率も上昇させ,双方の健康障害が危惧される。当面晩産化傾向は続くために,妊娠に伴う母児双方の諸問題を広く認知させ,個人レベルでも対策を講じる必要がある。