著者
矢崎 義雄 永井 良三 平岡 昌和 中尾 一和 多田 道彦 篠山 重威 木村 彰方 松原 弘明 川口 秀明
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1993

(A)心機能に重要な遺伝子の心筋特異的な発現調節機構の解明心肥大のメカニズムについては、培養心筋細胞のin vitroストレッチ・モデルを用いた解析により心筋内アンジオテンシンIIの動態とMAPキナーゼ等の細胞内リン酸化カスケードを介する機序および、心筋内レニン・アンジオテンシン系が心筋細胞の肥大と間質の繊維化を惹起することが明らかとなった。また、心筋で発現するサイトカイン(IL-6)、ホルモン(ANP,BNP,レニン・アンジオテンシン)、Kチャンネル、カルシウムポンプなどの遺伝子の虚血・圧負荷・Ca・甲状腺ホルモンなどの外的負荷や病態時における発現調節機構・転写調節機構を明らかにした。さらに、心筋細胞分化を規定する遺伝子を解明するため、すでにマウスで単離した心筋特異的ホメオボックス遺伝子C_<SX>をプローブとしてヒトC_<SX>を単離したところ、マウスC_<SX>遺伝子とアミノ酸配列が非常に類似しており、種をこえて保存されていることが明らかとなった。(B)心筋病変形成の素因となる遺伝子の解明日本人の肥大型心筋症患者で心筋βミオシン重鎖遺伝子に計14種のミスセンス変異を同定し、このうち13種は欧米人と異なる変異であった。47多発家系中11家系については心筋βミオシン重鎖遺伝子との連鎖が否定され、日本人における本症の遺伝子的不均一性を示すと考えられた。心肥大を有するミトコンドリア心筋症患者ではロイシンtRNA遺伝子の点変異、多種類の遺伝子欠失を検出した。さらに、日本人の拡張型心筋症においてHLA-DR遺伝子と、QT延長症候群で11p15.5のHRASとD11S922と、それぞれ相関が認められた。
著者
戸嶋 裕徳 小柳 仁 藤田 毅 橋本 隆一 矢崎 義雄 河合 忠一 安田 寿一 高尾 篤良 杉本 恒明 河村 慧四郎 関口 守衛 川島 康生
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.27, no.12, pp.1033-1043, 1995

1994年9月までに提出された日本循環器学会心臓移植適応検討会の適応判定申請例は50症例に達した.うち2例は取り下げとなったが,判定を行った48症例につき調査し以下の結果を得た.<BR>1)5例は公式の検討会開催を待たずに死亡した.<BR>2)資料の不備や現時点での適応なしなどの理由により6例は保留と判定された.また1例は肺血管抵抗増大のため適応なしと判定された.<BR>3)適応ありと判定された36例中14例が2年以内に心不全または突然死により死亡した.7例は米国において移植手術を受けた.<BR>4)内科的治療によって3例は改善して当面は移植の必要性がなくなった.1994年末現在の待機中患者は13例である.<BR>5)心臓移植適応ありと判定後最長余命1年を予測しうる指標を求めるために,判定後1年以内に死亡した12例に対し2年以上生存した7例および臨床像の改善を認めた3例の計10例を対照群として,多変量解析数量化理論第II類を応用して生死の判別を試み,両群をよく判別しうる予後指数を求めることができた.<BR>6)今回の解析結果から得られた1年以内の予後不良因子は,心機能NYHA IV度,3回以上のIV度心不全の既往の他,従来用いられてきた血行動態的指標よりは低電位差(肢誘導<5mm),異常Q波>2誘導,QRS間隔の延長といった心電図に関する情報が心筋自体の高度の病変を反映する所見として予後不良を示唆し,心臓移植の適応を考える上で重要な意義をもつと思われた.ただし統計処理に用いた症例数が少ないので,今後も引き続き症例を増すと共に今回は検討できなかった血中ノルアドレナリン,ANPおよびBNPなどの神経体液性因子その他の予後予測因子をも含め再検討することが望まれる.
著者
菅野 純夫 羽田 明 三木 哲郎 徳永 勝士 新川 詔夫 前田 忠計 成富 研二 三輪 史朗 福嶋 義光 林 健志 濱口 秀夫 五條堀 孝 笹月 健彦 矢崎 義雄
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

日本学術振興会未来開拓研究事業(平成16年度終了)、文部科学省特定領域研究「応用ゲノム」(平成16度-平成21年度)と合同で、国際シンポジウム「ゲノム科学による疾患の解明-ゲノム科学の明日の医学へのインパクト」及び市民講座「ゲノム科学と社会」を平成18年1月17日-1月21日に行なった。国際シンポジウムの発表者は未来開拓5人、本特定領域6人、応用ゲノム3人、海外招待講演者9人であった。市民講座は、科学者側6名に対し、国際基督教大学の村上陽一郎氏に一般講演をお願いし、最後にパネルディスカッションを行なった。参加者は延べ550人であった。また、文部科学省特定領域「ゲノム」4領域(統合、医科学、生物学、情報科学、平成16年度終了)合同の一般向け研究成果公開シンポジウム「ゲノムは何をどのように決めているのか?-生命システムの理解へ向けて-」を平成18年1月28,29日に行なった。本シンポジウムの構成は、セッション1:ゲノムから細胞システム(司会:高木利久)講演4題、セッション2:ゲノムから高次機能(司会:菅野純夫)講演6題、セッション3:ゲノムから人間、ヒトへの道(司会:小笠原直毅)講演7題を行い、さらに、小原雄治統合ゲノム代表の司会の下、門脇孝、小笠原直毅、漆原秀子、藤山秋佐夫、高木利久、加藤和人の各班員、各代表をパネリストとしてパネルディスカッションを行なった。参加者は延べ700人であった。また、本領域の最終的な報告書を作製した。
著者
矢崎 義雄 山崎 力 小室 一成 永井 良三 方 榮哲 世古 義規 栗原 裕基
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

循環器系において、血行動態という負荷による心・血管系の変化を、器官のレベルばかりでなく、細胞・分子レベルでとらえることは、心肥大、心不全および血管攣縮、動脈硬化症などの循環器疾患の発症機構を解明する上できわめて重要な課題である。特に物理的な刺激が細胞内の応答機構に生化学的なシグナルとなって伝達され、代謝を調節する機序は、生体が外界からの刺激を受けて反応する現象を生化学的に解明するモデルになるものとして、医学ばかりでなく生物学の広い領域から注目されている。われわれは細胞に物理的な負荷を加える装置を独自に開発するとともに、分子生物学の最先端技術を導入することにより、従来では、生化学的なアプローチが因難であった、物理的な負荷に対する心筋および血管内皮と平滑筋細胞における応答機構の解析を行った。その結果、本研究は循環器疾患の基礎的な病態である心肥大や心不全、あるいは血管攣縮や動脈硬化病変の形成などの病因を遺伝子や分子レベルで捉える研究の発端となって、この分野での知見の著しい進展をもたらすところとなった。具体的には1)心筋の負荷に対する応答機構の解明として、独自に開発したシリコンディシュを用いて心筋細胞に直接機械的なストレスを与え、胎児性蛋白と核内癌遺伝子の発現機序をフォスファチジルイノシトール代謝を中心に解析し、肥大を形成する心筋細胞内応答機構のしくみを明らかにした。さらに形質変化をきたす心筋蛋白のアイソフォーム変換機序をgelshift法などを用いて検討し、心筋の負荷に対する適応現象を遺伝子レベルから究明した。2)血管内皮および平滑筋細胞における血流ストレスに対する応答機構を、固有に存在する遺伝子の発現調節機序を解明することによって、血流に対応した臓器循環が調節されるメカニズムを明らかにした。
著者
矢崎 義雄 栗原 裕基 小室 一成 湯尾 明 山崎 力 塩島 一朗 本田 浩章
出版者
国立国際医療センター(研究所)
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
1997

心臓の発生に必須な転写因子Csxは、成人においても心臓に発現しており、その成人心における役割が注目されている。我々は、Csxの成人心における役割を知るために、Csxを過剰発現するトランスジェニックマウス(Csx Tg)とホメオドメインのロイシンをプロリンに変えドミナントネガティブとして働くCsx(LP)を過剰発現するトランスジェニックマウス(Csx LP Tg)を作成した。成熟Csx Tgの心臓においては心臓特異的な遺伝子であるANP、ミオシン軽鎖、CARPなどの発現が亢進しており、Csxが出生後の心臓においても心臓特異的遺伝子の発現に関与していることが示唆された。一方Csx LP Tg心は組織学的に心筋の変性を示していた。以上のことより、Csxは成人心において心臓に発現している遺伝子の発現を調節していると同時に、心筋細胞の保護に働いており、Csxの機能が低下することにより、心筋障害が生じることが示唆された。本研究によって、エンドセリン-1(et-1)によるG蛋白を介したシグナルが、神経堤細胞から血管平滑筋への分化機構に、bHLH型核転写因子であるdHAND,eHAND、ホメオボックス遺伝子Goosecoidの発現誘導を介して関与していることが明らかになった。その発現部位から、ET-1は上皮-間葉相互作用を介して働いていると考えられる。さらに、CATCH22の原因遺伝子の候補遺伝子として同定されている細胞内ユビキチン化関連蛋白UFD1Lとの間に、「ET-1→ET-A受容体→dHAND→UFD1」というシグナル伝達経路の存在が示唆された。一方、我々は、アドレノメデュリン(AM)のノックアウトマウスにより、AMもET-1同様、胎生期の血管発生および胎生期循環に関与していることを見出し、ET-1とAMと二つの血管内皮由来ペプチドが血管形成に重要な役割を果たすことを明らかにした。
著者
石川 隆 山沖 和秀 矢崎 義雄 加藤 裕久 鈴木 亨 塩島 一朗 小室 一成 山沖 和秀
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

1. CSXとGATA-4によるANP遺伝子の転写調節 ヒトCSXcDNAおよびマウスGATA-4cDNAを発現ベクターに組み込みANP遺伝子のプロモーター領域を含むレポーター遺伝子とともにCOS-7細胞に導入しtrans-activation活性を解析した。CSXによるANP遺伝子の転写亢進には、転写開始点上流-100bpおよび-250bpに存在するCSX結合配列が重要であり、CSXとGATA-4を同時に発現させると、ANP遺伝子の転写は相乗的に亢進し、その協調作用には-250bpに存在するCSX結合配列が必要であった。さらに、CSXとGATA-4はin vivoおよびin vitroにおいて蛋白同士が直接会合した。以上より、心筋に発生早期より発現し異なるDNA binding motifを持つ転写因子であるCSXとGATA-4が、直接的な蛋白-蛋白相互作用を介してANP遺伝子の転写を協調的に制御することが明らかにされた。2. CSX1過剰発現マウスの解析 CSX1過剰発現マウス(Tg)を作製し解析した。Tgは生存及び生殖可能であり、外奇形や成長障害、心不全症状を認めず、心重量の増加も認めなかった。Tgにおいて心臓と骨格筋にCSX1 mRNAの過剰発現が認められた。内因性Csxの発現はCSX1 の過剰発現により有意に増加を認めた。以上より、TgにおけるANPの誘導はCSX1の直接の作用である可能性が考えられた。また、内因性Csxの発現が増加していたことからCsxの発現調節に正の自己調節機構があることが示唆された。3. Csx/Nkx2.5と会合する新たな転写因子Zf11の発見と解析 ヒトCSX遺伝子cDNA全長を用いtwo-hybrid systemにてマウス胎生17日のcDNA libraryをスクリーニングした。20個のうち1個はC2H2型のzinc fingerを11個と核移行シグナルを持つ転写因子と考えられ、Zf11と名づけた。two-hybrid systemではCsxのN-末端とhomeo domainが会合に必要と考えられ、pull down assayではZf11のzinc finger domainが会合に重要であった。マウスのES細胞において、分化前および分化誘導後3日では発現がなく、6日目以降より発現が認められた。8日目よりミオシン等の収縮蛋白の発現が認められ、自発収縮が始まることより、Zf11はこれらの心筋特異的な収縮蛋白などの発現に関与していると考えられた。Whole mount in situ hybridizationにおいて、Zf11は心臓の形成されるマウス胎仔8日目頃より心臓の原基において発現していた。