著者
佐々木 周作 黒川 博文 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.12, no.Special_issue, pp.S18-S21, 2019 (Released:2020-03-17)
参考文献数
8

本研究では,「寄付金控除」による還付施策と「マッチング寄付」による上乗せ施策が寄付行動に与える影響を,経済実験を使って比較した.インターネット調査会社の回答モニターから,性別と年代(20歳から69歳まで)の割合が均等になるように抽出して,金銭的報酬で動機づける経済実験を行った(N=2,300).分析の結果,たとえ優遇率が同じであっても,寄付するときの自己負担額を還付によって下げる寄付金控除に比べて,第三者の上乗せによって下げるマッチング寄付の方が高額の寄付を誘発する効果が大きいことが分かった.具体的に,50%の寄付金控除の群に割り当てられると,実際の寄付支出額が統制群に比べて約126円下落したのに対して,100%のマッチング寄付の群(優遇率は50%控除と実質的に同じ)に割り当てられると,逆に実際の寄付支出額が約56円上昇した.この結果は,海外の一連の先行研究で観察された結果と一致している.日本でも,マッチング寄付が寄付行動を促進する効果が相対的に大きい可能性が示唆された.
著者
大竹 文雄 加藤 大貴 重岡 伶奈 吉内 一浩 樋田 紫子 黒澤 彩子 福田 隆浩
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.32-52, 2020-08-25 (Released:2020-08-25)
参考文献数
6

本論文では,骨髄バンク登録者のうち移植患者との適合通知を受け取った人へのアンケート調査と大阪大学の一般の人へのアンケート調査を用いて,骨髄バンク登録者,幹細胞提供者と一般の人との特性の違いの有無を検証した.主な結果は,つぎの通りである.第一に,骨髄バンクに登録する人や幹細胞を提供する人は一般の人と比べると,利他的で,時間割引率が低く,リスク許容度が高い.第二に,定期的献血者や臓器提供の意思表示者は幹細胞提供確率が高い.第三に,有給ドナー休暇や有給休暇が取りやすい環境で,幹細胞提供確率が高い.第四に,同調性が高い人は骨髄バンクに登録する可能性が高いが,幹細胞提供の依頼があった際に提供をしない傾向にある.第五に,登録者と提供者の時間割引率と現在バイアスは阪大サンプルと比較して低いが,現在バイアスを含む時間割引率が高い人が幹細胞を提供する確率が高い.
著者
久米 功一 花岡 智恵 水谷 徳子 大竹 文雄 奥山 尚子
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.50-54, 2014 (Released:2015-06-02)
参考文献数
14

本稿では,子どもの頃の家庭での過ごし方,学校生活,職種・業務のタイプとパーソナリティ特性5大因子との関係について実証的に分析した.その結果,現在のパーソナリティ特性に対して,就学前の読み聞かせや家事手伝いの経験,中学の頃の学業・課外活動が有意に影響する一方,職種や業務のタイプからの影響は比較的弱いことがわかった.
著者
佐々木 周作 明坂 弥香 黒川 博文 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.100-105, 2015

社会的地位の上昇は長寿や健康を促進するだろうか.両者の相関関係はよく知られているが,前者から後者への因果効果を検証することは難しい.本研究では,日本で最も権威ある文学賞として知られる芥川賞と直木賞のデータを使用して,因果効果の有無・方向性・程度を分析した.具体的には,受賞者と非受賞候補者の同質性が高いと考え,受賞による社会的地位の上昇が余命にどのような影響を及ぼすかを検証した.純文学の新人賞である芥川賞では,初回候補時点から30年を経過するまでの受賞者の死亡確率は,候補者よりも67.5%程低い.予測値から算出した受賞者の平均余命は,候補者よりも3.3年程長い.一方,大衆小説作品の賞で中堅作家を主な対象とする直木賞では受賞者の死亡確率は35.4%程高く,平均余命も3.3年程短い.これらの結果は,受賞には平均余命の延命効果と短縮効果の両方が存在すること,社会経済的基盤の不安定な時には延命効果が相対的に大きいが,安定後には短縮効果の方が大きくなるという可能性を示唆している.

6 0 0 0 OA 住宅弱者対策

著者
大竹 文雄
出版者
公益社団法人 都市住宅学会
雑誌
都市住宅学 (ISSN:13418157)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.50, pp.51-56, 2005-07-31 (Released:2012-08-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1
著者
大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.49-52, 2008 (Released:2011-12-03)
参考文献数
2

本稿では,日本の所得格差の実態を様々な観点から議論する.所得格差の推移を複数の所得データから明らかにし,所得格差の変化の原因を明らかにする.その結果,1980年頃から日本の所得格差が拡大してきたのは事実であるが,長期的な拡大は人口の高齢化が主要原因であったこと,2000年代に入ってからの拡大は年齢グループ内での格差が若年層を中心に観察されることが示される.また,日本の格差拡大は,低所得層の所得低下が原因であることも示される.次に,所得格差に関する意識調査をもとに,格差拡大感が日本で非常に強い理由について分析する.その結果,日本人が所得の決定要因として望ましいと考えてきたものと,実態との間にかい離が生じてきたことが格差感の原因であることが示される.
著者
川脇 沙織(田中沙織) 大竹 文雄 成本 迅 山田 克宣
出版者
株式会社国際電気通信基礎技術研究所
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

満足度・幸福度が生物学的指標で記述できるかを検証した。経済的な満足度を測定する実験課題の作成および脳活動データ、経済学・社会・生物学的属性データを収集し、経済学・社会・生物学的属性と満足度に関連する脳活動との関係を明らかにした。頭頂皮質と線条体が主観的効用の表現にかかわり、また島皮質と背外側前頭前野が社会的効用にかかわりかつ性別という個人属性によってその活動が異なることを明らかにした。これらの幸福度に関わる脳部位の具体的な機能の検証を行うためにfMRIによるニューロフィードバック実験を検討し、主観的効用に関わる線条体の活動の変化とそれに伴う意思決定行動の変化を示唆する予備的な結果を得た。
著者
黒川 博文 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.176-179, 2012 (Released:2013-05-29)
参考文献数
10

本稿では『国民生活選好度調査』を用いて,幸福度,満足度,ストレス度の年齢効果について分析した.横断データでは年齢効果と世代効果を識別できないため,年齢効果の形状が世代効果の影響を受けている可能性がある.実際,世代効果と年効果を無視すると,幸福度と満足度の年齢効果はU字型を示し,ストレス度の年齢効果は右下がりを示した.しかし,世代効果と年効果を考慮すると,幸福度の年齢効果は右下がりとなるが,満足度の年齢効果はU字型のままであった.ただし,古い世代の方が幸福度と満足度は高い.世代効果を考慮しても年齢効果がU字型であることを示した欧米の研究と同じ結果であるのは満足度であり,幸福度については異なる結果である.また,ストレス度の年齢効果は右上がりとなり,古い世代ほどストレス度が低いことがわかった.
著者
大竹 文雄 木成 勇介
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

男女間で昇進格差が生じていることは、多くの先進国で観察される事実である。その理由として、雇用主の差別や男女間における離職率の差、ワークライフバランスに欠ける職場環境の存在など、様々な原因が考えられてきた。近年注目されている仮説は、男女間で競争に対する選好が異なることが、昇進競争への参加の男女差を生み、結果として男女間の昇進格差が発生している、というものである。米国での経済実験を用いた先行研究では、男性のほうが女性よりも、競争的報酬体系を好むことが明らかにされ、その理由は自信過剰な上に競争自体を好むという特性があるためだという結果が得られている。しかし、競争選好に関する男女差が、文化によって形成されるものなのか、それとも文化に依存せず共通のものなのかを明らかにするためには、様々な国、様々な被験者を用いた分析が必要である。本研究では、先行研究と同様のタスクを用いて、競争的報酬体系と歩合制の報酬体系との選択を日本人の被験者に行わせた。その結果、先行研究と同様、男性のほうが女性よりも競争的報酬体系を好むことを見いだした。その理由は男性のほうが女性よりも自信過剰であることによる、ということを明らかにした。本研究では、競争をするグループ内の男女比と競争選好の関係についても明らかにした。女性は女性ばかりのグループでは自信過剰になり、男性はグループ内に女性がいると自信過剰になる傾向があることを見いだした。これは、女性はもともと競争を好まないというよりも、男性との競争を好まないという文化特性である司能性が高い。それを明らかにするため被験者集団を文化系の学生に絞った場合と実験タスクを計算問題から迷路に変更した実験を追加的に行った。これらの実験結果の解析は、現在まだ行っている途中である。
著者
大竹文雄
出版者
日本評論社
雑誌
日本の所得格差と社会階層
巻号頁・発行日
pp.3-20, 2003
被引用文献数
1
著者
北野 翔大 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.44-66, 2022 (Released:2023-03-14)
参考文献数
35

本論文では,豪雨災害時の早期避難促進ナッジの検証のために広島県で行われたランダム化比較試験の結果を用いて,先行研究の主要な結果の再現と異質性の分析を行った.主な結果は次の通りである.第一に,先行研究はメッセージの効果を約2%~4%ポイント過少に推定していた.しかし,結論は変わらず,避難行動の外部性の情報を伝え,損失表現を用いて利他性に訴えかけるメッセージが最も効果的であった.第二に,機械学習の手法を用いた分析の結果からは,ナッジの効果に異質性が存在するとは言えないことが明らかとなった.第三に,避難場所にネガティブな印象を持つ人には,避難場所への避難の便益を利得表現で伝えるメッセージがより効果的であったが,同じ内容を損失表現で伝えるメッセージでは異質性は見られなかった.第四に,地域コミュニティとの関わり方によって効果に異質性が存在したが,職場コミュニティではその異質性は見られなかった.
著者
伊藤 高弘 窪田 康平 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.102-105, 2017 (Released:2017-06-01)
参考文献数
23

本研究は,一般的信頼,互恵性,利他性などのソーシャル・キャピタルが,所得・従業上の地位・管理職という労働市場でのアウトカムと幸福度に与える影響を個人に関する独自のアンケート調査をもとに検証した.ソーシャル・キャピタルの内生性に対処するために,小学生の頃に通学路および自宅の近隣に寺院・地蔵・神社があったか否かという変数を用いた.分析結果は操作変数法の有効性を示しており,推計結果からはソーシャル・キャピタルが高くても労働市場でのアウトカムには影響しないが,幸福度および健康水準を高めることが示唆された.また,労働市場でのアウトカムを高めない理由として,ソーシャル・キャピタルが高いと地域間移動が減少するという事実を示した.

2 0 0 0 OA 失業と幸福度

著者
大竹文雄
出版者
労働政策研究・研修機構
雑誌
日本労働研究雑誌
巻号頁・発行日
vol.2004年(7月), no.528, 2004-07
著者
水谷 徳子 奥平 寛子 木成 勇介 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.2, pp.60-73, 2009

本稿では,なぜ男性は女性と比べて,自身の成果のみに依存した報酬体系よりも他人の成果にも依存する報酬体系を好むのかについて,日本人学生を対象に実験を行うことで原因の解明を試みる.分析の結果は次の通りである.(1)男女でパフォーマンスの差はないが,女性より男性のほうが競争的報酬体系(トーナメント制報酬体系)を選択する確率が高い.(2)そのトーナメント参入の男女差の大部分は,男性が女性よりも相対的順位について自信過剰であることに起因する.(3)男女構成比は相対的順位に関する自信過剰に影響を与える.男性は女性がグループにいると自信過剰になり,女性は男性がグループにいないと自信過剰になる.(4)相対的自信過剰の程度をコントロールすると,トーナメント参入の男女差に対する競争への嗜好の男女差による説明力は弱い.
著者
大竹 文雄 黒川 博文 森 知晴
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.8, pp.81-85, 2015

本研究では所得税と消費税の等価性を検証する実験を行った.ある所得分布と所得に応じた消費パターンを前提として,所得税(20%)と消費税(25%, 24%, 22%, 20%)のそれぞれどちらが好みかを被験者に選択させた.消費税(25%)は所得税(20%)と税負担が同等である.消費税(24%, 22%)は所得税(20%)よりも見た目の税率は高いが税負担は低い.消費税(20%)は所得税(20%)と見た目税率は同じだが,税負担は低い.被験者は見た目の税率が消費税の方が高いときは所得税を好み,見た目の税率が同じときは消費税を好んだ.消費税の方が税負担は低いにもかかわらず,被験者が所得税を好んだという結果は,消費税誤計算バイアスの存在を示唆する.消費税誤計算バイアスとは,外税表記の消費税を所得税と同様に内税かのように考えて消費税額を計算してしまうバイアスである.等価な消費税と所得税では所得税の方が被験者に好まれることから,消費税誤計算バイアスにより,等価性が成り立たないことが明らかとなった.