- 著者
-
太田 有美
- 出版者
- 一般社団法人 日本老年医学会
- 雑誌
- 日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.4, pp.397-404, 2020-10-25 (Released:2020-12-01)
- 参考文献数
- 43
難聴は高齢者の多くが直面する問題である.高齢者において難聴はコミュニケーション障害の原因となり,社会的孤立やうつを引き起こす要因となり得る.認知症発症のリスク要因としても注目されている.加齢性難聴は感音難聴であり,末梢の感覚器の機能低下,聴覚中枢の機能低下,認知機能全般の低下が関与している.一般的に高音部から聴力低下が進行してくるが,小さな音が聞こえにくくなるというだけでなく,語音明瞭度が下がるため,大きな声であっても内容が聞き取れない,声が大き過ぎると逆に聞き取れない,という症状も生じる.加齢性難聴を進行させる要因としては,遺伝的要因の他,後天的な要因として,糖尿病,循環器疾患,腎障害といった疾患,騒音暴露が挙げられる.難聴の予防という観点からは,動脈硬化を予防するための生活習慣,若年のうちからの強大音への暴露の回避といった指導が必要である.難聴が進行して生活上の支障が生じるようになれば,補聴器装用を行うこととなる.高度難聴では人工内耳の適応となる.人工内耳の機器の改良,手術方法の確立により,人工内耳の適応は広がっている.これら補聴デバイスは聴覚機能全てを補完するものではないが,高齢者の難聴に対しても有益である.高齢者自身が難聴を自覚すること,補聴デバイスも積極的に装用できるようにすることが大切であり,広く社会に啓蒙していく必要がある.