著者
太田 有美 長谷川 太郎 川島 貴之 宇野 敦彦 今井 貴夫 諏訪 圭子 西村 洋 大崎 康宏 増村 千佐子 北村 貴裕 土井 勝美 猪原 秀典
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.244-250, 2012 (Released:2013-07-12)
参考文献数
19
被引用文献数
7

人工内耳手術においては手術手技に関係した合併症もあるが、電極のスリップアウトや機器の故障など特有の問題で再手術を要することがある。再手術は患者にとって負担となるものであり、避けうるものは避けなければならない。また術前に起こりうる合併症について患者に情報提供する必要もある。そこで、これまで当科で行った人工内耳手術症例について術後の合併症、特に再手術に至った症例の手術内容、原因を検討することとした。対象は1991年1月から2011年3月までの20年間に大阪大学医学部附属病院耳鼻咽喉科で人工内耳手術を施行された症例494例(成人319例、小児175例)である。何らかの理由で再手術を行ったのは、成人27例(8.5%)、小児20例(11.4%)であった。再手術の原因は、機器の故障8例、音反応不良11例、電極スリップアウト・露出6例、皮弁壊死5例、真珠腫4例などが挙げられる。小児では外傷(2例)や内耳奇形に起因するgusher(1例)や顔面痙攣(1例)がみられた。手術内容としては電極入れ替えが最多であったが、本体移動や真珠腫摘出、人工内耳抜去もあった。複数回手術を要している例もあり、特に小児において成人に比べると有意に多い。小児では皮弁の感染・壊死や真珠腫形成などで手術を要する状態になると複数回手術を要していることが多かった。このことから小児では皮弁の感染、壊死に特に注意が必要であると考える。電極スリップアウト・露出した例13例中8例(61.3%)という高い割合で中耳疾患の既往がみられており、中耳疾患の既往がある場合は、電極が露出しないような工夫を行う必要がある。人工内耳手術は重篤な合併症の割合は低く、安全な手術といえるが、皮弁壊死や真珠腫形成で複数回の再手術を要することがあり、患者指導や専門医による定期的な経過観察、長期の経過観察が必要と考える。
著者
宇野 敦彦 堀井 新 今井 貴夫 大崎 康宏 鎌倉 武史 北原 糺 滝本 泰光 太田 有美 森鼻 哲生 西池 季隆 猪原 秀典
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.8, pp.960-968, 2013-08-20 (Released:2013-10-09)
参考文献数
24
被引用文献数
5 7

内リンパ水腫の診断にMRIによる画像診断が導入されてきた. 当施設での内耳造影MRIによる内リンパ水腫検出について, 造影剤投与法による違い, また従来からの水腫推定検査である蝸電図, グリセロールテストとの比較を行った.めまい発作の頻度が高い, 一側性メニエール病あるいは遅発性内リンパ水腫例に対し, 造影剤を鼓室内投与 (17例) あるいは経静脈的に投与 (10例) し, 3テスラMRIによる2D-FLAIR像を得た. 内耳の外リンパ液は高信号に描出され, 内リンパ腔は低信号域となる. 蝸牛管に相当する部分に明らかな低信号領域を認めた場合を蝸牛水腫と判断し, 前庭の写るスライスの過半数で大部分に低信号領域がみられた場合を前庭水腫とした. 鼓室内投与法では88% (15/17例) に, 静注法では90% (9/10例) に内リンパ水腫を検出した. 静注法の対側耳では20% (2/10例) に水腫を検出した. 蝸電図やグリセロールテストは, 難聴が進行している例では評価が困難で, それぞれ陽性例は患側耳で15例と6例のみにとどまった. ただ蝸電図は波形の分析が可能であれば陽性率は高く, 患側耳の88% (15/17耳) に相当した. MRIと蝸電図の両者の結果が得られた例では, 静注法で得られた対側耳の結果も含めて78% (21/27耳) が一致した. 定性的な水腫の有無について, 鼓室内投与法と静注法による検出率は同等であった. 内耳造影MRIは内リンパ水腫診断において従来の検査以上に有効と考えられる
著者
宇野 敦彦 中川 あや 堀井 新 武田 憲昭 久保 武
出版者
Japan Society for Equilibrium Research
雑誌
Equilibrium Research (ISSN:03855716)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.213-222, 2006 (Released:2009-06-05)
参考文献数
52
被引用文献数
2

Motion sickness is induced by unusual patterns of spatial information input, but not by a simple strong acceleration. Thus, in the process of the development of motion sickness, the disturbance of spatial orientation is noticed somewhere in the brain, leading to the expression of autonomic signs and symptoms. What part of the brain plays this key role?Peripheral vestibular input has repeatedly been proven to be necessary for motion sickness, even for visually-evoked motion sickness. The vestibular nucleus in the brain stem where spatial information including visual and somatosensory as well as vestibular inputs converge, is the primary candidate for this key structure. In the higher brain, the limbic system, particularly the amygdala, is another candidate. In our rat animal model, bilateral amygdala lesions significantly suppressed motion sickness signs, whereas hippocampus lesions did not. Using cFos protein expression as a marker for neuronal activation, we also showed that the central nucleus of the amygdala was activated by vestibular information during the hypergravity stimulation that induced motion sickness in rats.Involvement of the amygdala may explain some characteristic features of motion sickness, such as its diversity of signs ranging from sympathetic to parasympathetic, and its conditioned occurrence where by some susceptible persons become sick even in motionless vehicles.
著者
宇野 敦彦 森脇 計博 加藤 崇 長井 美樹 坂田 義治
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.104, no.1, pp.9-16, 2001-01-20
被引用文献数
9 20

良性発作性頭位めまい症 (BPPV) の病態についての考え方は最近, 急速に整理されてきた. 従来からの回旋の強い眼振の誘発されるタイプは後半規管が主たる病巣と考えられ (P-BPPV), 側臥位で水平成分の強い眼振の誘発されるタイプは水平半規管が主たる病巣と考えられている (H-BPPV). このような考えに従って, 1999年度の1年間に当科で経験したBPPV症例についての現状を報告した.<BR>めまいを主訴とした新患患者619例のうち, 誘発される眼振所見からBPPVと診断されたものが23%, 眼振所見はなかったが問診から疑い診断したものを含めると43%を占めた. 疾患別に最も頻度が高く, めまい患者にしめるBPPVの割合はこれまでの報告と比べても非常に高い. 診断の問題と当院の特性が考えられる. H-BPPVもまれでなく, 眼振所見からBPPVと診断された143例の内, P-BPPVが65%, H-BPPVが31%であった. 検討期間中にP-BPPVとH-BPPVの両方を見た例も4%あった. H-BPPVの中では方向交代性向地性眼振の見られた例が73%, 方向交代性背地性眼振が27%であった. P-BPPVとH-BPPVの差を見ると, H-BPPVの方が早く寛解する率が高く, 頭部外傷後に起きる例ではP-BPPVの方が多い. 性差や年齢分布には大差なく, それぞれが移行する例や, 同じ患者に日をおいて異なったタイプが再発する例があり, 病因の本質的な差はないように思われる. 本検討では誘発される眼振を重視して, 診断と経過について検討した. 回転性めまいの後に続く動揺感については今後の課題である.