著者
大崎 康宏 土井 勝美
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.126, no.1, pp.7-11, 2023-01-20 (Released:2023-02-01)
参考文献数
11

半埋め込み式人工中耳である Vibrant Soundbridge® (VSB) は電磁式の振動子を持ち, 高音域の増幅を得意とする. 補聴器と比較して歪みの少ない音の伝達が可能となり, 外耳道を閉塞して生じる諸問題がなく, 審美面でも優れている. またほかの人工聴覚器と比較して明瞭度がよいこと, ハウリングが少ないことも利点と考えられる. 本邦では Colletti らが2006年に発表した術式を元に伝音・混合性難聴を適応疾患として導入された. 人工内耳と同様に全身麻酔下で手術が行われるが, 振動子を中耳のどこに設置すると効果的かを判断する必要があり, 振動子を正円窓窩に設置する round window vibroplasty, 卵円窓に設置する oval window vibroplasty, また残存耳小骨に設置する vibrating ossicular prosthesis を適切に使い分ける. 音入れは通常術後8週目以降に行い, 近年は vibrogram の結果を活用して調整が行われる. 海外では感音難聴も適応疾患となっており, 高音域では 85dB と高度難聴の領域もカバーされている.
著者
土井 勝美
出版者
一般社団法人 日本めまい平衡医学会
雑誌
Equilibrium Research (ISSN:03855716)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.8-15, 2014-02-28 (Released:2014-04-01)
参考文献数
23

Meniere's disease is characterized by intermittent episodes of vertigo lasting from minutes to hours, with fluctuating sensorineural hearing loss, tinnitus, and aural pressure. The primary histopathological correlate is endolymphatic hydrops. Several medical and surgical treatments have been offered to patients with Meniere's disease. It has been confirmed that no one effective treatment is available for these patients. According to the severity of the patients' symptoms, appropriate therapeutic strategies should be selected. If medical therapies including lifestyle change, diuretics, and local/systemic steroids have failed, then surgical approaches such as intratympanic gentamicin perfusion (GM), pressure pulse treatment with Meniett®, endolymphatic sac surgery (ESS) and vestibular neurectomy (VN) should be considered. Most reviews have reported relative good (80-100%) vertigo control rates with either GM, Meniett®, ESS, or VN, however, recurrence of vertigo has been noticed in certain cases. A combination of medical and surgical strategies should be recommended and the treatment algorithm for Meniere's disease indicated in “2011 Clinical practice guidelines for Meniere's disease” must be adopted.
著者
阪上 雅史 荻野 敏 土井 勝美 松永 亨 入船 盛弘 尾崎 正義
出版者
耳鼻咽喉科臨床学会
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 (ISSN:00326313)
巻号頁・発行日
vol.86, no.11, pp.1537-1543, 1993-11-01 (Released:2011-11-04)
参考文献数
12

A 63-year-old woman with multiple disturbances of the cranial nerves is reported. She initially complained of bilateral hearing loss and otorrhea, followed by right facial palsy and vertigo and was hospitalized on August 25, 1983. Despite steroid therapy, her condition deteriorated and finally complete bilateral deafness and complete bilateral facial palsy developed.Histologial examination of the mastoid mucosa, obtained by exploratory tympanotomies in both ears, showed non-specific inflammation. Noteworthy findings or laboratory examinations were extremely high levels of ESR and CRP, positive RA test, and negative tuberculin test.Tracheotomy was performed because of recurrent bilateral nerve palsy. Scleritis occurred in March, 1984, and the disturbances of eye movement, ptosis and atrophy of tongue developed in September, 1984. Long-term steroid therapy did not improve cranial palsy. There were no neurological signs such as pathological reflex in the limbs, involuntary movement or meningeal irritation symptom. There were no remarkable findings on CT or MRI.Although treatment by a local hospital continued, the III, IV, VI, VII, VIII, X and XII cranial nerves remained paralyzed. She finally died of systemic weakness in March, 1989.This was a rare case that began with bilateral otitis media and proceeding to paralysis of initially occurred and cranial nerves in order of VII, VIII, X, XII, III, IV and VI nerves. The background of this case included systemic vascular disease, especially Cogan's syndrome, because of otologic and ocular symptoms and multiple disturbances of the cranial nerves.
著者
太田 有美 長谷川 太郎 川島 貴之 宇野 敦彦 今井 貴夫 諏訪 圭子 西村 洋 大崎 康宏 増村 千佐子 北村 貴裕 土井 勝美 猪原 秀典
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.244-250, 2012 (Released:2013-07-12)
参考文献数
19
被引用文献数
7

人工内耳手術においては手術手技に関係した合併症もあるが、電極のスリップアウトや機器の故障など特有の問題で再手術を要することがある。再手術は患者にとって負担となるものであり、避けうるものは避けなければならない。また術前に起こりうる合併症について患者に情報提供する必要もある。そこで、これまで当科で行った人工内耳手術症例について術後の合併症、特に再手術に至った症例の手術内容、原因を検討することとした。対象は1991年1月から2011年3月までの20年間に大阪大学医学部附属病院耳鼻咽喉科で人工内耳手術を施行された症例494例(成人319例、小児175例)である。何らかの理由で再手術を行ったのは、成人27例(8.5%)、小児20例(11.4%)であった。再手術の原因は、機器の故障8例、音反応不良11例、電極スリップアウト・露出6例、皮弁壊死5例、真珠腫4例などが挙げられる。小児では外傷(2例)や内耳奇形に起因するgusher(1例)や顔面痙攣(1例)がみられた。手術内容としては電極入れ替えが最多であったが、本体移動や真珠腫摘出、人工内耳抜去もあった。複数回手術を要している例もあり、特に小児において成人に比べると有意に多い。小児では皮弁の感染・壊死や真珠腫形成などで手術を要する状態になると複数回手術を要していることが多かった。このことから小児では皮弁の感染、壊死に特に注意が必要であると考える。電極スリップアウト・露出した例13例中8例(61.3%)という高い割合で中耳疾患の既往がみられており、中耳疾患の既往がある場合は、電極が露出しないような工夫を行う必要がある。人工内耳手術は重篤な合併症の割合は低く、安全な手術といえるが、皮弁壊死や真珠腫形成で複数回の再手術を要することがあり、患者指導や専門医による定期的な経過観察、長期の経過観察が必要と考える。
著者
土井 勝美
出版者
一般社団法人 日本めまい平衡医学会
雑誌
Equilibrium Research (ISSN:03855716)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.222-227, 2008 (Released:2008-08-01)
参考文献数
8

The genetics of Meniere's disease (MD), including the KCNE genes, COCH gene, and HLA genes, was reviewed and discussed. Single nucleotide polymorphisms (SNPs) in the KCNE genes might determine the susceptibility to MD. Variations in the HLA genes may also be related to the development of MD. To identify more genes that might possibly be closely related to the development of MD, gene profiling of human endolymphatic sac (ES) harvested from MD patients and vestibular schwannoma (VN) patients was performed using a DNA micro-array technique. Many up- and downregulated genes in the ES harvested from the MD patients were identified. The genes were classified into several subgroups according to their physiological functions. Some potassium channel genes, including Kir4.1, and several stress-related genes were significantly downregulated in the ES harvested from the MD patients. In future, genetic studies of MD will make it possible to determine more genes whose mutations/variations could lead to the development of MD, which would make possible the invention of a DNA-Chip for the diagnosis of MD. Such a DNA-Chip might be applied clinically to prevent MD, predict individual patients' prognosis and apply the most suitable treatment for individual patients.
著者
岩崎 聡 宇佐美 真一 髙橋 晴雄 東野 哲也 土井 勝美 佐藤 宏昭 熊川 孝三 内藤 泰 羽藤 直人 南 修司郎
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.149-155, 2017 (Released:2019-02-13)
参考文献数
8
被引用文献数
1

平成28年2月下旬に日本耳鼻咽喉科学会に登録している人工内耳実施施設109施設を対象に日本耳科学会人工聴覚器ワーキングループによるアンケート調査を実施した結果を報告する。85%の施設で平均聴力90dB未満の患者が人工内耳手術を希望されていた。48%の施設で一側の平均聴力90dB未満の患者に人工内耳手術を行っていた。82%の施設が1998年の適応基準の改訂が必要と考えていた。人工内耳手術を行った最も軽い術側の平均聴力レベルは91dB以上が20. 7%、81〜90dBが51. 7%、71〜 80dBが14. 9%であった。93%の施設で適応決定に語音明瞭度も重要と考えていた。67%の施設が両側人工内耳を実施したことがあった。本アンケート調査結果を踏まえて、成人人工内耳適応基準改訂が必要と考えられた。
著者
玉井 那奈 松永 和秀 榎本 明史 村本 大輔 森川 大樹 向井 隆雄 内橋 隆行 土井 勝美 濱田 傑
出版者
近畿大学医学会
雑誌
近畿大学医学雑誌 = Medical Journal of Kindai University (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.91-95, 2016-12-20

[抄録] 上顎正中過剰埋伏歯と同時に鼻腔内過剰歯を認めた小児の1例を経験した.【症例】患者:9歳,男児.主訴:歯列不正(無症状).既往歴:特記事項なし.【現病歴】近在歯科にて上顎正中過剰埋伏歯を指摘され,当科紹介となった.【現症】歯牙欠損および萌出に異常所見は認めなかった.CT画像にて,上顎右側中切歯歯根の口蓋側に逆生過剰埋伏歯ならびに,左側鼻腔底粘膜内に過剰歯を認めた.【処置および経過】歯科口腔外科および耳鼻咽喉科と共同で,全身麻酔下にて鼻腔内過剰歯は鼻腔から,上顎正中過剰歯は口腔からのアプローチで抜歯を施行した.鼻腔内過剰歯は犬歯様形態を呈していた.【考察】今回,1990年以降に報告された鼻腔内過剰歯の33文献46例と自験例を併せた47例について検討した.鼻腔内過剰歯の初発症状は鼻症状が多いため,耳鼻咽喉科領域からの報告が多く,歯科領域からの報告は比較的少ないとされているが,歯科・口腔外科からも耳鼻咽喉科とほぼ同数の報告がなされていた.10歳以下が最も多く,そのほとんどが鼻症状よるものであった.抜歯した鼻腔内過剰歯の過半数が犬歯様形態を呈していた.47例のうち上顎正中過剰埋伏歯と同時に鼻腔内過剰歯を認めた症例は自験例も合わせて4例であった.4例はいずれも口腔外科からの報告で,鼻腔内過剰歯は経鼻から,上顎正中過剰歯は経口からのアプローチで抜歯が施行されていた.
著者
村田 潤子 土井 勝美 小畠 秀浩 北原 糺 近藤 千雅 奥村 新一 久保 武
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.102, no.5, pp.605-612, 1999-05-20
被引用文献数
3 1

真珠腫性中耳炎の手術時に内耳に瘻孔が形成されていた症例についてその臨像を検討し, 特に瘻孔の位置や進展度と術前・術後の骨導聴力との相関について調べることを目的とした. 対象としては大阪労災病院耳鼻咽喉科, 大阪大学医学部耳鼻咽喉科, および関連各施設耳鼻咽喉科で平成4年から平成8年の間に初回手術を施行した症例のうち, 骨迷路にびらんまたは骨欠損がみられた症例を選び, 瘻孔の進展度にはDornhofferとMilewski<SUP>1) </SUP>の分類に準じてI, IIa, IIb, IIIの4段階に分類した. 内耳瘻孔症例としては, 進展度IIa以上の24症例24耳を対象とした. このうち半規管, 前庭にのみ瘻孔を有したのは21症例であった. 蝸牛に瘻孔を有したのは残りの3例で, すべて蝸牛に単独に瘻孔があり, 進展度はIIIであった. 軸位断での術前CT診断を施行していたのは14症例で, 内耳瘻孔についての陽性率は71.5% (10症例) であった. 術前骨導聴力は蝸牛に瘻孔を有した症例が, 半規管, 前庭に瘻孔を有した症例よりも悪かったが, 半規管, 前庭に瘻孔を有した症例の中で, 進展度による大きな差異はみられなかった. 全例に鼓室形成術を施行した. 半規管, 前庭に瘻孔を有した症例の中で, 進展度IIaの症例13例中で術後骨導聴力低下と判定されたのは2例 (15%) で, 進展度IIb以上の症例8例では, 3例 (38%) であった. このように, 進展度IIaの症例に比べてIIb以上の症例で術後に骨導聴力の悪化が起こりやすい傾向がみられた.