著者
村田 臣徳 片岡 正教 安田 孝志 島 雅人 上田 絵美 片岡 愛美 赤井 友美 奥田 邦晴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BdPF2021, 2011

【目的】<BR> 脳性麻痺サッカー(以下、CPサッカー)は、比較的軽度な脳性麻痺者を対象として誕生したスポーツであり、パラリンピックの正式種目にもなっている。2009年10月から日本脳性麻痺7人制サッカー協会に所属するチームにおいてメディカルサポートとして活動を行なってきた。応急処置やコンディショニングに関わる中で、実際のプレー場面での身体の使い方や技術に関しても障害の影響があり、理学療法士として関わる必要性を感じた。本研究の目的は、CPサッカー選手の身体面の特徴とプレーの特徴との関係を選手ごとに考察するとともに、障害像や身体特性を理解する理学療法士がCPサッカー選手の技術力向上に関わる意義を明らかにすることである。<BR>【方法】<BR> CPサッカーチームの一員として、月1~2回の練習参加と地域大会や全日本選手権大会などの試合に帯同して、現段階で行われている練習メニューやウォーミングアップ、クーリングダウンの方法やそれらの内容について調査した。また各々の選手の試合時のプレーと身体面の特性との関係についてチームの代表者や選手個人と意見交換を行なった。選手のプレー上の特徴については試合を撮影したビデオを見ながらキックやドリブル動作を分析、評価した。身体面の特徴は脳性麻痺のタイプ分類や筋緊張、可動域検査で評価し、プレー上の自覚的な問題点の聞き取りも行なった。対象選手はチーム所属の8名でありCP-ISRAのクラス分けによる「両下肢に麻痺があるが走行可能」なC5選手2名(混合型と痙直型)、「四肢に不随的な動きがあるが走行可能」なC6選手2名(アテトーゼと混合型)、「走行可能な片麻痺」であるC7選手2名(左麻痺と右麻痺)、「極めて軽度な麻痺」であるC8選手2名(後天性左麻痺と後天性混合型)である。<BR>【説明と同意】<BR> 本調査内容の研究目的による使用は対象チーム代表者の承認と、選手本人や家族の同意を得た。<BR>【結果】<BR> 練習や試合前後のウォーミングアップ、クーリングダウンでは、障害のタイプやクラスが異なる選手がメンバー全員で同じメニューを行なっていた。また試合でのキックにおいて、C5、C6選手ではパスの成功は少なく、キック動作時の軸足の踏み込みは弱く体幹も前傾位で浮いた弾道のボールを蹴ることは困難であった。C7、C8選手は非麻痺側でのキックでは弾道の調整は可能であり飛距離も長い。しかし、麻痺側でのキックはなかった。ドリブルについて、C5選手ではボールを蹴って走ってしまうことで体から離れてしまう傾向があった。アテトーゼタイプのC6選手は体幹前傾位での直線的な速いドリブルが特徴的であるが、方向変換が困難なだけでなく常にトップスピードになり緩急の変化が非常に困難であった。片麻痺選手のドリブルは非麻痺側でのボールタッチで非麻痺側方向へ進むことが多く、麻痺側へ進むときはスピードを上げにくい特徴があった。試合を通してアテトーゼタイプの選手は終盤での体力消耗があり、ペース調整が困難であった。片麻痺選手は麻痺側の支持力低下から運動量が低下していた。<BR>【考察】<BR> CPサッカー選手の障害のタイプやクラスは多岐に渡っており、障害のタイプに合わせた下肢のストレッチや、リラクゼーションを含んだウォーミングアップ、クーリングダウン等のコンディショニングが必要である。また、試合でのキック、ドリブルの必要性や特徴は各タイプ、クラスにより異なる。障害によりキック動作は軸足の不安定さや体幹コントロール不良による姿勢安定の困難さがあり、ドリブル動作では姿勢を安定させにくいことや重心のスムーズな移動が困難であると考えられる。障害の特性を知る理学療法士の介入で軸足の安定性向上や体幹のバランス能力向上によりプレー技術の向上が図れると考えられる。また速度調整の困難さやドリブル方向などの身体特性からくる個々のプレー特徴を理解できることで、ドリブルを行なうゾーンや場面の指導、体の向きや最初の進行方向のアドバイスを行いプレーの幅が広げられると考えられる。今回は、実際のプレー場面での視覚的調査、考察であるため、今後は三次元解析などを用いたキック動作やドリブル動作の姿勢や重心位置など各タイプの選手による詳細な特徴の分析や、介入し経時的変化を追う必要があると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 走行可能な脳性麻痺者のスポーツへの介入や技術面に関する研究はまだまだ少ない状況である。理学療法研究として今後、職域の拡大も含め障がい者スポーツにおける技術面に関しての介入の可能性を唱える意義のある内容と考える。
著者
木村 大輔 岩田 晃 川﨑 純 島 雅人 奥田 邦晴
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.631-635, 2011 (Released:2011-11-25)
参考文献数
17
被引用文献数
1

〔目的〕2009年度の大阪国際車いすテニストーナメントのメディカルサポート(以下MS)における障害調査から,車いすテニス選手のスポーツ障害の特性を明らかにする.〔対象〕MSを利用した車いすテニス選手53名とした.〔方法〕記録表を用い,車いすテニス選手の原疾患,障害部位,疼痛動作と疼痛部位についてMSの結果から集計を行った.〔結果〕一般テニス選手は肘関節障害が多いと報告されているが,車いすテニス選手では,障害部位の総件数のうち55%に肩関節障害を認めた.疼痛動作に関して,サーブ動作が最も多く,特にフォワードスイング相に多く認められた.〔結語〕車いすテニス選手にとって,サーブ動作は肩関節に負担の大きい動作であることが示唆された.
著者
木村 大輔 岩田 晃 川﨑 純 島 雅人 奥田 邦晴
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.59-66, 2012-04-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
16
被引用文献数
1

【目的】本研究では,運動学的視点から,車いすテニス選手のサーブ動作の特徴をあきらかにすることを目的とした。【方法】三次元動作解析装置と表面筋電図を用いて,車いすテニス選手8名による通常のサーブ動作を計測し,一般テニス選手のサーブ動作と比較した。【結果】車いすテニス選手と一般テニス選手のサーブ動作を比較すると,車いすテニス選手では,最大外旋位で肩関節外旋角度が有意に低値を示し,インパクト時では,水平内転角度が有意に高値を示し,外転角度が有意に低値を示した。最大外旋位からインパクトまでのフォワードスイング相における水平内転・内転運動が特徴的であった。【結論】車いすテニスのサーブでは,もっとも肩関節への負荷が大きいとされるフォワードスイング相において,肩関節が固定されず,水平内転・内転運動しており,肩甲骨と上腕骨を安定させた状態での上腕骨の回旋を困難にしている。これより車いすテニスのサーブ動作は肩関節障害の発生リスクを高めることが示唆された。
著者
岡原 聡 奥田 邦晴 谷村 広大 島 雅人 片岡 正教 岡崎 由 宮垣 慶子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】我々が提唱する福祉型植物工場は,軽負荷かつ坐位での農作業が可能になるため,高齢者の就労年齢の延伸化に貢献するとともに障がい者,特に低賃金かつ就職難にある重度障がい者にも雇用促進,職域拡大,就労賃金の向上を図れる可能性がある。さらに植物工場の特徴として,室内環境で設置場所を自由にできることから都市部の高齢者や障がい者が暮らすコミュニティで事業展開できるため,アクセシビリティーの面からも注目を集めている。第48回全国理学療法学術大会では,リフトロボットを活用した完全人工光型植物工場における作業環境のユニバーサルデザイン化により,高齢者や障がい者の坐位作業での就労の可能性を示した。その後,奥行きが少ない縦50cm×横50cmに縮小した特製の定植板トレーや特製作業棚の開発,農業資材の導入など,作業環境の整備を進めている。一方,上肢を空間位で保持した肢位での作業が強いられることにより肩関節や頸部周囲筋群の活動が高まり,上肢負担が課題となっている。そこで本研究では,植物工場における頚髄損傷者の就労を目的とし,アシストシステムの一部に「グレイパー」という既存のブドウ収穫時の上肢アシスト機器を使用することで,坐位作業の上肢筋活動の軽減が可能であるかを検討した。【方法】対象は,男性頚髄損傷者3名(Zancolliの分類:C6A,BI,BIIの各レベル1名),平均年齢34±10歳であった。作業課題は,縦50cm×横50cmに9つの穴を空けた特製の定植板トレーを用い,9つの苗を植える「定植」を行わせた。植物は本学の植物工場研究センターで実際に育成している定植用の苗(約10g)を用いた。作業は事前に十分な説明を行い,植物を丁寧に扱うよう指示を与え,作業速度は任意で実施させた。測定条件は,上肢アシスト機器の有無による2条件とし,ランダムに実施した。なお,作業環境は対象者が日常生活で使用している車椅子を用い,作業台の高さを70cm,作業台と体幹の間隔を15cmに設定した。筋活動は,表面筋電計(Noraxon社製)を用い,作業中の筋電図電位をサンプリング周波数1.5kHzで記録し,作業開始から作業終了までを解析区間とした。対象筋は,農作業に伴う筋骨格系障害が上肢に出現することから,対象者の残存筋のうち,利き手側の僧帽筋,大胸筋,三角筋前部,三角筋中部,上腕二頭筋の5筋とした。測定波形は整流化し,各筋の最大随意収縮(Maximum Voluntary Contraction:MVC)を基準に正規化(%MVC)し,2条件における作業全体の平均%MVCを求め比較した。また,上肢アシスト機器有りでの平均%MVCを上肢アシスト機器無しでの平均%MVCで除し,最も軽減される筋の抽出を行った。【倫理的配慮,説明と同意】研究倫理審査委員会の承認を得た後,対象者に本研究の目的および内容について十分に説明し同意を得た。【結果】作業全体における平均%MVCは,僧帽筋,大胸筋,三角筋前部,三角筋中部,上腕二頭筋の順に,上肢アシスト機器無し条件では12.5±2.2%,14.9±10.7%,8.8±4.8%,6.4±3.3%,1.2±0.5%であり,上肢アシスト機器有り条件では10.4±2.3%,14.2±9.1%,7.7±3.6%,5.3±2.1%,1.2±0.7%であった。また,上肢アシスト機器有りは無しに比べ,作業中の平均%MVCが僧帽筋において最も軽減した。【考察】本研究により,上腕三頭筋の麻痺を有する第6頚髄損傷者でも植物工場の作業遂行が実用レベルで可能であることが分かった。また,定植作業時には僧帽筋と大胸筋の平均%MVCが10%を超えており,上肢アシスト機器を使用することで僧帽筋の活動量が軽減することが明らかとなった。福祉型植物工場におけるアシストシステムは,完全な自動化やロボットのようなものではなく,あくまでも働き手が坐位でも主体的に,そして可能な限り手動操作を基本として作業できる上肢の負担軽減機能を搭載することにより,個々人が有する能力や潜在能力を引き出し,筋骨格系障害を予防しつつ作業効率を維持できること目指している。今回使用した「グレイパー」は,形状記憶合金を用いているため上下・前後への作業時に下方からの柔軟な支えが可能でありつつ,支柱固定部が回旋を妨げないため,作業範囲が横70cm×奥行き50cm必要である定植作業においても下方からの上肢支持が可能であった。一方,形状記憶合金の元の形に戻ろうとする力が,上肢挙上位からの肩関節伸展・内転時の抵抗になり,大胸筋の筋活動が高まる場面もみられ,就労に活用するには習熟が必要であることが分かった。【理学療法学研究としての意義】頚髄損傷者の身体特性を捉えた理学療法学研究により,重度身体障がい者の農業分野への就労支援に寄与するとともに,労働者の筋骨格系障害の予防や作業効率を維持できる就労環境を整え,豊かな暮らしを支える一助になり得る。
著者
島 雅人 奥田 邦晴 岩田 秀治 菊池 昌代 木村 淳一 長谷川 珠華 太田 啓介 森 優花 西野 伸一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ed1467, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 我々は、2010年より大阪府下に在住する重度知的障がい者及び知的と身体機能の重複障がい者(以下重複障がい者)を対象として、理学療法士及び作業療法士が心身機能や活動の評価を行い、対象者個々のニーズに応じてスポーツ活動に結び付く心身機能の向上を目的としたトレーニングを計画し実践している。今回は、これまでの取り組みを報告するとともに、理学療法士が知的障がい者の社会参加支援に関与する意義について述べる。【方法】 本活動は、大阪府下在住の重度知的障がい者及び重複障がい者(児)を対象に実施している。参加者の募集は大阪府下の特別支援学校教員やスペシャルオリンピックス日本(以下SON)大阪の協力を得て行っている。チームの構成は理学療法士4名、作業療法士3名、支援学校教員1名、理学療法士および作業療法士を目指す学生ボランティアで構成し、シフトを組んで実施している。また、医療的ケアの必要な参加者が来られた時など、必要に応じて看護師の協力を得ている。対象者の評価に関しては、Special Olympics Motor Activities Training Program(以下MATP) Coaches Guide2005を参考とし、社会適応能力、原始反射、バランス反応、姿勢保持能力、環境適応能力、日常生活活動能力、認識能力、コミュニケーション能力、行動の問題に関連する内容を評価している。また、スポーツに関連する運動能力の評価として、移動能力、投げる、打つ、蹴る の4項目を実施している。これらの評価結果にもとづき、一人ひとりのニーズに応じたトレーニング内容を計画し実施している。トレーニングは、参加者1名に対して1名の学生を配置するとともに、理学療法士および作業療法士がトレーニングの内容を指示し監督のもと行っている。トレーニング内容は、評価結果をもとに参加者の能力に応じて、野球、バスケットボール、サッカー、ボウリング等のスポーツに関連した内容を、環境や使用する道具によって難易度を調整し実施している。トレーニングの実施期間と頻度は、2010年度は8月から11月に隔週で合計8回実施し、2011年度は9月から12月に合計10回を計画し実施している。1回の実施時間は90分とし、参加者の状態に合わせて適宜休憩を取っている。実施場所は、SON大阪の協力を得て大阪府下の特別支援学校にて実施している。【倫理的配慮、説明と同意】 本活動の目的や方法に関して、対象者及び保護者へ説明を行い同意を得ている。また、本活動で収集した情報に関しては、個人情報保護法に基づき厳密に管理し、本活動及び学術活動以外には使用しないことに同意を得ている。評価及びトレーニングに際してはヘルシンキ宣言を遵守し、参加者及びボランティアの安全面へも配慮を行った。【結果】 本活動への参加者は、2010年度12名(男性10名女性2名)、平均年齢19±5歳(13-32歳)、重度知的障がい者3名、重複障がい者9名であった。2011年度は10名(男性9名、女性1名)、平均年齢17.5±4.2歳(11-27歳)重度知的障がい者3名、重複障がい者7名で実施している。本活動は2010年度にSON夏季ナショナルゲームの一部として、大阪市長居障害者スポーツセンターにおいて日本で初めてのデモンストレーションを行った。【考察】 知的障がい者に対するスポーツ活動支援は各種スポーツ団体によって行われているが、対象のほとんどが軽度知的障がい者で運動能力の高い方である。スペシャルオリンピックスでは、知的障がいの程度に関わらず参加する機会を設けており、通常のスポーツ活動プログラムに参加できない重度知的障がい者や重複障がい者に対する取り組みとしてMATPを設定しているが、日本ではほとんど行われていない。本活動の実施には、対象者個々の心身機能や活動能力の評価を行い、能力に応じた運動プログラムを実施する必要があるため、その分野の知識や技術を持った理学療法士の関与が必要不可欠であると考える。このような機会を設定することは、重度知的障がい者および重複障がい者が在宅から地域へ出向く機会が増えるとともに、家族にとっても、他者との交流や家族同士の情報交換を促すことができると考える。これらのことより、本活動は理学療法士がリーダーシップを取って実施できる社会参加支援の1つであると考える。【理学療法学研究としての意義】 先行研究より知的障がい者は知的機能のみでなく、身体機能の低下が示されている。ひとり一人の心身機能や活動に応じた運動プラグラムを提供する事に関して、理学療法士は専門的知識と技術を有しているため、本活動のような取り組みに積極的に関与することで、知的障害者に対する安全で質の高い社会参加支援につながると考える。今後は、本活動の参加者及び家族に対する効果を検証して行くことで、理学療法士の関与の必要性がより具体化されると考えている。
著者
奥田 邦晴 樋口 由美 増田 基嘉 林 義孝 南野 博紀 山西 新 川邊 貴子 灰方 淑恵 喜多 あゆみ 田中 美紀 高橋 明 小西 努
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.E0786-E0786, 2005

<B>【目的】</B><BR> 近年、競技やレクリエーションとして積極的にスポーツ活動に参加する重度の障害者が増加してきている。理学療法の目標の一つに障害者の生活支援がある。この生活支援に焦点を当て、重度の障害者の生活遂行過程においてスポーツが果たす機能ならびに理学療法学との接点を明らかにすべくインタビューによる調査を行った。<BR><B>【対象と方法】</B><BR> 本調査の主旨に同意を得ることができたスポーツを行っている重度障害者76名(A群)およびスポーツを行っていない重度障害者24名(B群)の計100名とした。スポーツ群の障害内訳はC5・6頸髄損傷39名、脳性麻痺(CP)30名、筋ジス他7名、スポーツ選手群はC5・6頸髄損傷11名、CP12名、他1名であった。上記対象者に面接による聞き取り調査を実施した。面接時間は平均約1時間、ボイスレコーダーでの録音および口述筆記を行った。<BR><B>【結果】</B><BR> 医療機関の受診状況はA群76%、B群95.8%であった。特にリハ科の受診率はA群の11.8%に比べB群では39.1%と高率であり、内容も理学療法目的がほとんどで日常的なリハ医療への依存性が高い傾向が見られた。スポーツを始めたきっかけは友人・知人の紹介が多く(43.4%)、医療従事者からの情報提供は極めて少なかった(3.9%)。リハセンター等のスポーツ施設を併設する医療機関に入院できるかどうか或いは障害者のスポーツに精通している指導者に出会えるかどうかが後のスポーツ活動に大きな影響を与えていた。スポーツを行う目的について71.1%が競技であり、レクリエーション、リハは各々11.8%であった。楽しみである、生き甲斐であると答えた者が約半数あった。スポーツ開始時期について、CP者では養護学校での体育の授業が45.2%、残りの41.9%の人は早い人で19歳、遅い人では54歳(平均29.8歳)であった。有職率はA群46.1%、B群16.7%であった。A群は給与、年金等すべての収入を合わせた年収について回答を得た70名は54.3%が200万円未満であったが、14.3%は年収400万円以上を得ていた。B群の20名は約8割が年収200万円に満たない状態であり、低所得層であることが伺えた。<BR><B>【考察】</B><BR> スポーツをするかしないかは本人の選択であるが、せめてスポーツに関する情報提供は早期から行われるべきであり、理学療法士は社会参加の一手段としてのスポーツの機能について認識を深めることが重要である。スポーツ場面において、選手同士は新たな自己を再発見・再認識することができるだけでなく、自己および他者の存在や役割を客観的に理解し合うことができ得る。また、スポーツはセルフヘルプグループに類似する機能、エンパワーメント機能等、重度障害者が充実した自立生活を送ることや自己実現を可能にする一手段として、また社会に踏み出す一歩としての重要な役割を有していることが明らかになった。
著者
増田 基嘉 奥田 邦晴 林 義孝 西島 吉典 生田 泰志
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.G0956-G0956, 2006

【目的】<BR>多くの種類の障害者が参加するスポーツの一つに水泳競技がある。それ故にその指導や競技力向上のためには、競技特性と選手の持つ障害特性を考慮して運動特性の共通性と独自性を明らかにする必要性がある。我々は第40回学術大会において、定常状態となったストローク動作中の下肢麻痺者の泳速度増加に伴う三角筋前部や大胸筋などの特徴的筋活動量の変化について報告した。今回、脊髄損傷などの下肢麻痺者がスタート時に飛び込みやプール壁を蹴り出すことができないことに注目し、下肢による推進力がなく上肢のみで加速しなければならない下肢麻痺者を想定して、スタート直後のストローク動作中の肩周囲筋活動の検討を行った。<BR>【対象と方法】<BR>大学体育会水泳部に所属する選手10名を対象とした。被験者には、口頭および文書にて実験の主旨を説明し、同意を得た。運動課題は自由形泳法にてATレベルと全力の運動強度にて泳ぎ、スタートから3ストローク間の三角筋前部、大胸筋、上腕二頭筋、三角筋後部、上腕三頭筋、広背筋、僧帽筋上部の筋活動を表面筋電図法にて測定した。さらに下肢麻痺者の想定として、壁蹴り動作を行わないことと下肢が屈曲位となる特徴的姿勢を再現するためにベルトを用いて下肢屈曲位に保持させた。スタートはいずれも水中スタートとし、通常の泳ぎではスタート時の壁蹴りとキックによる推進を行い、下肢麻痺者の想定においては、下肢による推進を行わないようにした。各条件において3回測定し、記録した筋電図よりストロークごとの各筋の平均RMS値を求め比較した。<BR>【結果】<BR>大胸筋において、泳速度に関係なく1ストローク目の筋活動量が、下肢による推進がある場合より下肢屈曲位保持で有意に大きかった。また上腕三頭筋のATレベルの1ストローク目において、下肢屈曲位保持が下肢による推進がある場合よりも筋活動量が有意に大きかった。<BR>【考察】<BR>今回、スタート直後の下肢による推進の有無が上肢の筋活動に与える影響を検討した。Pinkらは、プル動作中の肩伸展筋として大胸筋と広背筋があるとし、その前半に大胸筋、後半には広背筋が働くとしている。今回の測定結果から下肢による推進がない場合、スタート直後の推進には大胸筋の貢献度が高いことが明らかとなった。スタート直後においてプル動作の前半で主に機能する大胸筋の筋活動量が増大することから、実際の下肢麻痺者のスタートまたはターン動作は上肢への負荷が大きいことが考えられる。またそのため短水路での練習ではより肩関節への負担が増大することが予測される。このように理学療法士の立場から、健常者と共通性の多いスポーツ動作においても障害特性による運動の違いを評価することで、スポーツ指導における固有の指導理論の確立や競技能力の向上、さらにリスク管理につながる情報提供ができると考えた。<BR><BR>
著者
片岡 正教 安田 孝志 藤本 愛美 川崎 純 木村 大輔 島 雅人 赤井 友美 上田 絵美 山本 真士 日下 由紀夫 石原 みさ子 奥田 邦晴
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P3215-E4P3215, 2010

【目的】<BR> 2009年9月8日~15日、東京にてアジアユースパラゲームズが開催され、14歳~19歳の身体障害者、知的障害者のユース選手を対象に陸上競技、ボッチャ、ゴールボール、水泳、卓球、車いすテニスの6競技が行われた。その中で、日本障害者スポーツ協会の次世代育成強化事業として、理学療法士10名が科学委員として関わり、大会参加選手の競技動作のデータ収集を行った。本研究の目的は、次世代を担うユース選手に対しての競技力向上における理学療法士の関わりについて、実際の競技場面での動作解析の有用性を通して、今大会で行ったデータ収集と共に報告することである。<BR>【方法】<BR> 対象は、2009アジアユースパラゲームズ陸上競技に参加した27ヶ国229名の選手であり、日本代表選手約65名を中心としたアジア各国代表選手であった。そして、対象種目は短距離走、長距離走、リレー競技、砲丸投げ、円盤投げ、走り高跳び、走り幅跳びであり、9月11日~13日に行われた実際の競技場面における動作をハイスピードカメラ(CASIO EXILIM EXF-1)及びデジタルビデオカメラを用いて撮影した。ハイスピードカメラの取り込み周波数は300Hzとした。また、デジタルビデオカメラで撮影した動画は二次元動作解析ソフトDARTFISH(DARTFISH社)で解析・処理を行った。そしてそれらの動画をDVDデータとして各国のパラリンピック委員会、撮影対象選手ならびに主催者であるアジアパラリンピック委員会に配布した。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究は日本障害者スポーツ協会の科学支援事業として行い、大会主催者であるアジアパラリンピック委員会からも承認を得た上で行った。<BR>【結果】<BR> トラック競技においては、スタートダッシュや走動作、長距離走における周回ごとのフォームの違い、リレーのバトンパス等、フィールド競技では投てき種目でのスローイングフォーム、跳躍種目での踏み切りや跳躍動作等、実際の競技場面における選手の素早い動作を、ハイスピードカメラで撮影した動画によりスローモーションでより詳細に確認することができた。二次元動作解析では、実際の競技場での撮影であり、キャリブレーションを行うことができなかったため、各関節の角変位や角速度などの動作解析指標は算出することができなかった。しかし、ストロモーションという処理で、走動作や跳躍動作の連続的な動作を確認したい相に分けて観察することができた。その後、これらのデータは各国選手団の代表者が集う会議で公表され、各国から大きな賞賛を得ることができた。<BR>【考察】<BR> 我々は過去にも、日本障害者スポーツ協会の科学支援事業として、いくつかの競技団体に対して、競技力向上のために動作解析を行い、その中で、選手に対して解析したデータを用いたフィードバックを行ってきた。障がい者のスポーツは決して特殊なスポーツではなく、身体に何らかの障害があるためにできないことをルールや道具を適応させて行うものである。障がい者の障害特性や個人の身体機能を理解した理学療法士が、専門的な知識をもって行う「動作解析」を通して選手に関わり、フィードバックや動作の指導を行うことは、障がい者のスポーツ選手における競技力向上、選手育成に対して、非常に有用であると言える。また今回は、ハイスピードカメラで撮影した動画による動作解析という、より身近で安価な機器を用いることによってもデータ収集を行うことができた。今までも競技場面に近い状況下でのデータ収集を行ってきたが、今回はハイスピードカメラ及びデジタルビデオカメラで撮影した動画からの二次元動作解析によって、実際の競技場面でリアルタイムにデータ収集、動作解析を行うことができた。そしてこれらのデータは各選手、各国にDVDデータとして配布され、特別なソフトなどを使用することなく視聴することができ、自分自身の動作をより詳細に、客観的にチェックできるものであった。今回の動作解析手法を用いたデータ解析は簡便で一般的に行いやすいものであり、臨床場面において、障がい者と関わる理学療法士がこのような事業に関わっていくことが、障がい者の競技スポーツへの参加を促すきっかけにもなることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究のように、障がい者のスポーツにおける理学療法士の関わりや動作解析の有用性を報告することで、障がい者の障害特性や身体機能を理解した理学療法士の知識や技術が選手の競技力向上のためには欠かせないものであり、理学療法士が臨床場面だけにとどまらず、幅広い分野で活躍が再確認された。また、これらの情報を当事者に提供していくことで、障がい者の社会参加を支援する一手段となりうることが考えられた。
著者
奥田 邦晴 林 義孝 高畑 進一 淵岡 聡 樋口 由美
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

障害者の陸上競技、中でもフィールド競技に関する先行研究は散見する程度であり、特に、重度障害者を対象とした投てき競技に関する研究は皆無である。本研究は主として脳性麻痺や頚髄損傷者の重度障害者の投てき運動を可能にするための補装具である調節式スローイングチェアを作成し、スローイングチェアの適合度合いの差異がどのように投てき運動に影響を及ぼすかについて調査することを目的とした。具体的には、各々の選手の投てき運動を6台のデジタルビデオカメラを用いたビデオ式3次元解析装置(ToMoCo Vm4)により運動学的に解析し、障害度やその特徴の違いやスローイングチェアの適合性が投てき運動に及ぼす影響について明らかにした。これらの結果は、重度障害者にとって、投てき競技の魅力が拡大し、その普及に寄与できるとともに、障害者の投てき競技におけるスポーツ指導方法の基礎データとしたり、競技能力向上に寄与することができる。1.調節式スローイングチェア(通称、座投一)を作製した。2.脳性麻痺選手を対象に、調節式スローイングチェアを約2ヶ月間貸与し、調整後、障害者陸上ジャパンパラリンピック大会に本機を使用して出場した。3.アテネパラリンピックに出場した頚髄損傷選手(銀メダリスト)を対象に、調節式スローイングチェアを使用し、より競技能力向上に目的に、検討した。(現在も継続中)4.脳性麻痺、頚髄損傷選手の投てき動作について、三次元解析装置にて運動学的に分析、検討した。5.3および4の結果から、改良型調節式スローイングチェアを作製した。6.脳卒中の投てき選手に座投一を試行し、より障害像に適したシッティングポジションを確立できた。7.調節式スローイングチェアについて特許申請を行い、受領された。(特願2005-265193)8.第26回医療体育研究会/第9回アジア障害者体育スポーツ学会目本部会第7回合同大会にて、「陸上投てき競技用調節式スローイングチェアの開発について」を報告した。9.第18回大阪府理学療法学術大会にて、「頚髄損傷投てき選手に対する競技用調節式補装具(モジュラー型スローイングチェア)を用いた競技能力向上への取り組み」について報告予定。10.第22回日本義肢装具学会学術大会にて、「重度障害者の陸上投てき競技用スローイングチェアの開発と適応について」報告予定。
著者
奥田 邦晴
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.227-232, 2005-06-20
被引用文献数
1

近年, 障害者のスポーツが盛んになるにつれて, 従来の身体機能の維持, 改善を目的としたリハビリテーションの一環としてのスポーツの意義というよりは, むしろ競技能力を競い合うという本来のスポーツが有している意味合いが強くなってきている。一方, 重度の障害者のためのスポーツは楽しみとして, レクリエーション的な要素を多分に含んだものとしての位置づけが確立されてきており, 重度の障害者でも積極的にスポーツ活動に参加できる可能性が広がってきている。理学療法の大きな目的として障害者の生活支援がある。この生活支援の具体的方法の一つであるスポーツに焦点を当て, 本稿では特に重度の障害者の生活遂行過程におけるスポーツの機能ならびに理学療法学との接点について報告する。障害者のスポーツとは 障害者のスポーツとは, 障害者が余暇を楽しみながら, 健康でより活動的な人生を充実させていこうとする一つの手段であり, 種目数も個人競技, 団体競技ともに非常に多くなってきており, その内容も競技からレクリエーショナル的要素を含んだスポーツまで多岐にわたっている。