- 著者
-
宇田川 妙子
- 出版者
- 日本文化人類学会
- 雑誌
- 民族學研究 (ISSN:24240508)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.4, pp.411-436, 1993-03-30 (Released:2018-03-27)
フェミニスト人類学は,現在,多様な専門分化を遂げてきた反面,ある行き詰まりの状態にあるとも言われている。筆者は,その原因の一つとして,これまでそこで論じられてきた女性が,結局,社会的な意味での女性,即ち,ジェンダーとしての女性でしかなかったということに注目してみたい。性とは,ただ社会的な問題としてあるだけではない。男女の対面的な場,即ちセクシャリティの場で認識される男性および女性という問題もあり,それは社会的な場面での性差にも密接に係わっている。特にイタリアの文化社会における性の問題を考えるためには,この視点が必要となる。彼等は,性の本質を常に対面的な男女の関係が作り出す二元性として捉えている。つまり,彼等にとって性とは,基本的にセクシャリティなのである。それゆえ本稿では,イタリアにおけるこのような性のあり方を具体的に明らかにしてきながら,同時に,それを,フェミニスト人類学一般に対する新たな方向性を模索する試みとしても提示していく。