著者
上嶋 誠 小河 勉 中井 俊一 吉田 真吾
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究では,三宅島2000年噴火活動時に観測された自然電位変動から,水の流動に関する定量的な見積もりを行うため,三宅島の岩石を用いて,流動電位を決定するゼータ電位の性質を実験的に明らかにした.初年度に実験装置の整備改良を行い,三宅島にて各噴出年代の火山岩試料の採取を行った.試料を採取する際に立ち寄った神津島において自然電位マッピングを実施した結果,神津島での地形効果が約10mV/m(高度1m上昇につき10mV電位が下降する)と三宅島に比べて約10倍であることが判明したため,この違いが,両島で採取した岩石のゼータ電位の違いによって説明可能であるかを実験的に検証することも目標の一つに加えた.まず,HCl-KCl-KOH系における,ゼータ電位のpH依存性に関する実験を行った.その結果,各年代の三宅島玄武岩,神津島流紋岩共に,pH3-10の範囲ではゼータ電位が-10〜-20mVに決定され,さらに塩基性が強くなると共にゼータ電位は大きくなった.また,三宅島玄武岩がpH2付近でゼータ電位がゼロから(さらに酸性の強いところで)正に転ずるのに対し,神津島流紋岩ではゼータ電位はマイナスに留まった.従って,三宅島と神津島の地形効果の相違は,地下水のpHの相違か,比抵抗など他のパラメタの相違によるものと考えられる.Ishido&Mizutani(1981)の実験では,花崗岩,安山岩,斑レイ岩ともに,ゼータ電位がpH6以上で-80〜-100mVに決定され,今回の結果は約1桁小さい値を得た.岩右試料の表面状態の差異が,このような実験結果の相違を生む要因として考えられたため,岩石の破砕粒度を変えた実験を行った.その結果,新鮮な表面の割合が多いと考えられる,より粒径の小さな試料ほど絶対値として高いゼータ電位になっているという実験結果を得,ゼータ電位を考える上で新たな要因を考える必要性が明らかとなった.
著者
中井 俊一 佐藤 正教 武藤 龍一 宮腰 哲雄 本多 貴之 吉田 邦夫
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2013年度日本地球化学会第60回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.228, 2013 (Released:2013-08-31)

漆はウルシ属樹木であるウルシが分泌する樹液を脱塵,脱水などの処理をした後,空気にさらし,酸化酵素ラッカラーゼの働きにより硬化させ,塗料や接着剤として用いられてきた.ウルシ属の樹木は日本の他,中国,ベトナム,タイなどに自生している.現在,日本の漆工芸で使われている漆は大部分が中国,ベトナム産である.日本では縄文時代早期の遺跡から,漆塗の髪飾り,腕輪などが出土し,古い時期からの利用を示している.漆塗料の産地を決めることができれば,漆文化の起源や,時代による交易圏の変遷を考える手がかりになりうると予想できる.漆の主成分である有機化合物の分析により,日本産の漆をタイ,ベトナム産のものと区別することはできるが,日本産の漆を中国,韓国産のものと区別することはできない.そこで土壌の源岩の年代により変動する87Sr/86Sr同位体比を用いて漆の産地推定を行うことを検討してきた.
著者
宮腰 哲雄 本多 貴之 吉田 邦夫 中井 俊一
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

歴史的な琉球漆器を科学分析したところ、日本や中国に生育するウルシの木の樹液やベトナムに生育するハゼノキ の樹液が利用され、これらはぞれぞれ単独に、あるいは混合して使われていた。琉球漆器からウルシオールが検出されたものは漆膜中のSr同位体比を分析したところ中国産の漆であることが分かった。また漆器の木質材料を分析したところ多くは中国産の杉「コウヨウザン」であることが分かった。このことから琉球の漆器作りは中国や東南アジアとの交流や交易の中で行なわれていたと考える。さらに琉球漆器の制作年代や加飾法の違いなどと漆の原材料の入手の関連を研究することが重要になってきた。
著者
賞雅 朝子 サフー サラタ クマール 中井 俊一 新江 秀樹
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2015年度日本地球化学会第62回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.173, 2015 (Released:2015-09-03)

福島第一原発事故由来の放射性物質のうち、ウランやプルトニウムなどのα線核種についての挙動を理解するため、マルチコレクター型ICP-MSを用いて、高精度なウラン同位体比測定を行った。MC-ICP-MSでの高精度分析には、ウランの分離が必須であるため、U-TEVA樹脂による2回の分離方法を採用し、鉄などの妨害元素の除去を行いながらウランを分離した。 土壌中のグローバルフォールアウトによるウランと比較するため、福島第一原発事故以前の沖縄、神戸の土壌試料を測定した。福島第一原発付近(30km以内)の試料は、空間線量率が大きい試料を12試料測定し、235U/238U比および234U/238U比から土壌中の原発由来のウランの寄与を観察した。
著者
中井 俊一 中田 節也 ペレス ネメシオ
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.49, pp.13, 2002

噴気ガスの化学組成が火山活動の激しさの指標になる可能性が指摘されてきた。本研究では, 噴気ガスとともに放出される揮発性金属元素の量の変化と, 同位体組成の変動に相関が見られるか, 相関があれば脱ガスによるレイリーモデルにより同位体組成の変動が説明できるか検討する。三宅島の2000年噴火の火山灰試料とラバウルTavurvur火山の火山灰試料について検討する。
著者
中村 仁美 岩森 光 千葉 紀奈 中井 俊一 木村 純一 常 青 風早 康平
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2014年度日本地球化学会第61回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.238, 2014 (Released:2014-09-12)

近年,我々は,初めて有馬温泉水中の希土類元素(REEs)の定量とともに,Sr-Nd-Pb同位体比組成を得ることに成功した(Nakamura et al., accepted).これは,低温(~500度)で脱水したスラブ起源流体の組成と河川水の混合で説明することができ,スラブ起源流体は非火山域であっても,構造線などの大断層沿いに上昇している可能性があることを示唆する.本研究では,溶存イオン種と濃度,軽元素同位体情報を基に,中央構造線沿いの有馬型温泉水を調査・採水し,標準添加法によりREEs組成を定量分析する.これらの結果に基づき,スラブ起源流体を含む有馬型温泉水の特徴が,非火山域である西南日本から,火山域も含む中部日本にかけて,どのように変化するかについて制約を与える.
著者
新正 裕尚 和田 穣隆 折橋 裕二 角井 朝昭 中井 俊一
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.109, no.12, pp.689-696, 2003-12-15
被引用文献数
6 10

奈良県吉野町樫尾の吉野川に沿って分布する玄武岩・流紋岩複合岩脈から約1m径の花こう岩質包有物を見出した.この包有物の起源を探るため全岩化学分析とレーザーアブレーションICP質量分析法によるジルコンのU-Pb年代測定を行った.その結果全岩化学組成は外帯花こう岩類の一員である大峯花こう岩質岩と類似すること,最も若い年代を示すジルコン群がら求めた花こう岩質岩の固結年代は13.2±1.0Maであることが判った.これらから中央構造線南方に中新世の花こう岩質岩の潜頭岩体が存在すると推定される.