著者
日下部 茂 高橋 英一 谷口 倫一郎 雨宮 真人
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.47, pp.57-58, 1993-09-27

V言語はデータフロー向き関数型言語validを拡張したもので,依存関係のないものは全て並行動作することを前提とした言語である.計算の進行する頂序を規定するのは依存関係だけである.依存関係を持つものの間で頻繁な同期が必要となるが,データフロー同期方式により同期は暗黙のうちに行なわれ,プログラマが明示的に同期を指定する必要はない.ある計算に必要な値がまだ求まっていない場合は,その値が決まるまで実行が中断し,値が求まった時点で自動的に同期がとられ計算が再開する.V言語では,自律して並列に動作するプロセスとしてagentインスタンスを生成し,並列オブジェクト指向風の計算を行なうことができる.agentインスタンスはカプセル化された内部状態を持ち,お互いの間でストリームを通じてデータをやり取りしながら計算を進める.インスタンス間の同期もデータフロー同期方式によって行なわれる.送信側では通信路に次々にデータを流し,受信側では通信路の出口からデータを読みとって計算を進める.データが到着していなければ読みとり側のプロセスは待たされ,データが到着すると待ちが解かれ処理が進む(メッセージ駆動orデータ駆動).ストリームの要素をメッセージとみなせば並列オブジェクト指向と考えることが出来るが,処理内容がメッセージだけで決定するなら,Validの枠組での関数呼び出しで済む.ここでagentを導入したのは,並行に動作し内部状態を持ったプロセスと,それらの間の自由度の高い通信を容易に記述することが目的である.出来る限り関数性を保持するため,agentの内部で状態を保持するためには,再帰で明示的に状態をフィードバックする.本稿ではagentを中心にV言語の特徴とその処理系,並列実行モデルの概略について述べる.V言語プログラムは命令レベルの細並列処理も可能だが,ここでは種々の並列計算機上での実現を意識したマルチスレッド並列実行モデルについて述べる.
著者
山田 賢 日下部 茂
出版者
情報処理学会
雑誌
研究報告システムソフトウェアと オペレーティング・システム(OS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2010, no.24, pp.1-6, 2010-07-27

我々は、メモリアドレス空間を共有するスレッド間の参照の局所性に着目し、そのようなスレッドのマルチコアプロセッサ上での時分割及び空間分割実行を集約的に制御できる、コア間時間集約スケジューラを提案している。提案スケジューラはマルチコアプロセッサの各プロセッサコア間で共有するキャッシュといったメモリの階層を活用し、プログラムの実行性能を向上させることを目的としている。本稿では、MapRdeuce 型プログラミングモデルのオープンソース実装である Hadoop のアプリケーションを、マルチコアプロセッサシステムで実行する際のノード内マルチスレッド処理における提案スケジューラの効果について評価する。TaskTracker が起動する map/reduce タスクの集約実行を制御することで実行性能の向上が観測できた。We have proposed Inter-Core Time Aggregation Scheduler which tries to utilize the locality of references between sibling threads, which share the same memory address space, on commodity multi-core processors. Our thread scheduler controls both time and space multiplexing of the sibling threads to utilize the cache shared by multiple processing Cores on a multi-core processor in enhancing the performance of multithread programs. In this paper, we evaluate the effect of our scheduler in executing Hadoop application on a commodity multi-core processor. We observed performance improvement by controlling the execution of map/reduce tasks under a TaskTracker.
著者
川野 哲生 日下部 茂 谷口 倫一郎 雨宮 真人
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.1700-1708, 1995-07-15
参考文献数
11
被引用文献数
1

超並列計算機の設計において、もっとも大きな問題の1つにプロセッサ間通信やメモリアクセスに伴うレイテンシ問題がある。マルチスレッド処理によるレイテンシ隠蔽は本問題に対する有効な解決手段である。効果的なマルチスレッド処理を行うためにはプロセッサに高速なコンテクストスイッチ能力が必要とされる。しかしながら従来のRISC型のプロセッサでは、スレッドの切り替えに伴うレジスタの退避と回復のためのメモリアクセスがオーバヘッドとなり、細粒度マルチスレッド処理を効率的に実行することは困難である。本論文では細粒度マルチスレッド処理向きプロセッサDatarol?IIを提案する。本プロセッサはデータ駆動方式を最適化したDataro1にスレッド実行を導入し一般的なRISCプロセッサと同様のパイプライン処理および高速レジスタの利用を可能とした。また、自動レジスタロードストア機構によりコンテクストスイッチに伴うメモリアクセスを明示的なロードストア命令を用いずかつ通常の処理と並行して行うことにより細粒度処理におけるオーバヘッドを隠蔽する。さらに階層的なメモリシステムと負荷制御機構を導入し価格性能比に優れたメモリシステムを実現する。シミュレーションによる評価により、自動レジスタロードストア機構によるメモリアクセスオーバヘッドの隠蔽効果、優れた耐レイテンシ性能、負荷制御による効果的な階層メモリシステムの実現、が確認され、本プロセッサは超並列計算機用要素プロセッサとして有望であることが分かった。
著者
成冨 隆斗 荒川 豊 川口 賢太 本田 光秀 溝上 琢也 美馬 浩志 原田 薫明 日下部 茂
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NS, ネットワークシステム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.344, pp.121-126, 2011-12-08

ネットワークの高速化に伴いその解析対象となるデータ量は膨大となり,高速な分析が難しくなってきている.著者らはこの課題に対してHadoopを利用した分散処理による大容量パケットデータの解析システムを提案し,設計及び実装を行ってきた.本報告では,同解析システムの評価を通じて明らかとなった性能ボトルネックと,それに対する改善の適用について述べる.さらに,IAサーバ13台からなるHadoopクラスタでの評価の結果,この改善によりデータ解析に要する時間が最大で50%短縮されたことを示す.
著者
坂本 憲昭 深瀬 光聡 峯 恒憲 日下部 茂 中西 恒夫 大森洋一 北須賀 輝明 ウッディンモハマッドメスバ 荒木 啓二郎 福田 晃 安浦 寛人
出版者
社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.2830-2842, 2008-08-15
被引用文献数
6

高度情報化社会の基礎である情報技術の発達は我々の生活を一変させるほどのインパクトを持っており,その進歩の速度は目覚ましいものがある.一方で産業界からは次世代を担う能力を備えた高度ICT(Information and Communication Technology)人材の不足が指摘されている.このような技術の進歩と社会的要請に応えるため,九州大学大学院システム情報科学府では平成19年4月から新しい修士課程教育コースである社会情報システム工学コースを設置した.本コースでは,文部科学省の支援を受け,日本経団連傘下企業との大規模な連携体制の下で,高度な技術力を持ち,基礎知識と社会的倫理観を兼ね備えた世界に通用するリーダの育成を目的とした実践的教育を開始した.この教育プログラムの計画実施過程の中で,1) PBL(Project Based Learning),2) オムニバス形式講義,3) 長期インターンシップ,4) カリキュラム内容検討,のあり方や実施方法に関していくつかの知見が得られた.本論文では,当コースの教育内容と方法,修士課程1年前期終了時点における実績と評価,および今後の課題について述べる.The progress of Information Technology, which is the infrastructure of an advanced information society, is remarkable and has the enormous impact on our daily life. On the other hand, it has been pointed out by the industry that there is a lack of highly skilled ICT (Information and Communication Technology) personnel who can lead the next generation. In order to address this issue, the Graduate School of Information Science and Electrical Engineering in Kyushu University has established Social Information System Engineering Course. Since April 2007, we have started practical education program with an objective to foster world class leader who has extraordinary technical skill, basic knowledge and sense of ethics. This effort is gradually progressing by the collaboration with various companies through Nippon Keidanren with support of Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology. There have been several findings in 1) PBL (Project Based Learning), 2) omnibus classes, 3) long term internship, and 4) curriculum improvements during the planning and execution of this program. This paper describes the content, method, result and evaluation at the end of the first semester of this course. We also discuss the issues and concerns that need to be resolved.
著者
和田 祐介 日下部 茂
雑誌
ソフトウェアエンジニアリングシンポジウム2011論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.1-8, 2011-09-06

モデル開発においては VDM-SL や VDM++ といった形式的仕様記述言語を用いることで実行可能な仕様としてテストすることが可能となる.ここでのテストは,実装段階で行うテストと同じようにモデルへの信頼性を高めることが目的である.数学的な証明を用いない軽量な方法でテストを行う場合,テストに使用する入力データを増やし,大量のテストを行うことによって信頼性の向上につながることが期待できる.仕様に対する大量のテストを支援するために我々は MapReduce プログラミングモデルを採用した Hadoop と QuickCheck を用いたフレームワークを導入する.このフレームワークを用いたテストを行い,実行可能な仕様のカバレッジやテストの実行時間を観察する.
著者
谷口 倫一郎 谷口 秀夫 日下部 茂 有田 大作 鶴田 直之 堤 富士雄
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

ユーザが「任意の視点」でリアルタイムに情報を獲得できるようにするためには,対象世界に関する詳細な観測が不可欠であり,実世界に分散された多種多数のセンサーによって実世界をできるだけ精密に観測し,獲得された情報をユーザの視点に基づいてリアルタイムに加工,提供することが必要不可欠である.本研究は,多数の計算機が高速なネットワークで接続された環境での,実時間多メディア処理システムの構成法について研究を行い,以下のような成果を得た.1.多数カメラからの情報統合方式多くのカメラから獲得した情報を並列分散計算機システム(PCクラスタ)で実時間統合するための方式を明らかにした.また,処理時間が時々刻々変化するために起こる,システムでの遅延をほぼ一定に保ち,出力品質の低下を押さえるための,可変解像度3次元形状処理方式を開発した.2.実時間実行制御方式データ解析の信頼度と必要な資源の間にはトレードオフが存在し,実際のアプリケーションでは,用途や状況に応じてそのトレードオフを動的に解決する必要がある.本研究では,要求されるデータ解析の信頼性に基づき,予測や複数の異なる精度のアルゴリズムを動的に使い分けることにより,このトレードオフを動的に制御する方式を開発した.3.応用システムの開発による評価分散・並列計算機上の多視点カメラによる実時間3次元身体姿勢計測システム,自由視点映像生成システムを開発し,上記の情報統合方式,実行制御方式の有効性を示した.