著者
近藤 久雄 谷口 薫 杉戸 信彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

糸魚川-静岡構造線活断層系(以下,糸静線活断層系)は,1980年代以降に精力的に実施された詳細な古地震学的調査によって,近い将来に内陸大地震を生じる断層系の1つと考えられている(例えば,奥村ほか,1994;地震調査研究推進本部地震調査委員会,2003).糸静線活断層系におけるトレンチ調査等の地点数は約44地点にわたり,日本の内陸活断層帯の中で最も高密度に古地震学的調査が実施されてきた(例えば,糸静線活断層系発掘調査研究グループ,1988など).これらの成果では,断層系最北端を構成する神城断層から下蔦木断層に至る区間(北部-中部区間:奥村ほか,1998)の最新活動時期が約1200年前と推定され,西暦841年もしくは西暦762年地震のいずれかに対比されるものと考えられてきた.甲府盆地の西縁付近を延びる南部区間では約1200年前とは異なり,より古い活動時期が推定されている(遠田ほか,1995;2000).一方,上述の神城断層から下蔦木断層に至る区間が連動型の1つの大地震であったのか,という点については課題が残されている.横ずれ成分を主体とする中部区間の中で,断層系のほぼ中央部に位置する諏訪湖周辺では盆地縁辺部を限る正断層群が発達し(例えば,今泉ほか,1997),同断層系で最も大規模な構造境界をなす.この盆地の成因については議論があるものの,最近検出された横ずれ地形(近藤・谷口,2013)等から判断して,藤森(1991)が指摘したように左横ずれ断層のステップ・オーバーに伴い形成されたプルアパート盆地である可能性が高い.すなわち,諏訪湖堆積盆地が断層セグメント境界をなすと考えられる.その一方では,糸静線活断層系の最新活動ではいずれかの歴史地震において諏訪湖セグメント境界を乗り越えて破壊が進展したとみなされてきた.しかし,例えば,諏訪湖堆積盆地の南東を延びる茅野断層におけるジオスライサー調査では最新活動時期は約2300年前であり,約1200年前のいずれの歴史地震でも活動していない(近藤ほか,2007).そこで,この諏訪湖セグメント境界周辺の最新活動時期をさらに高密度に復元することにより,諏訪湖セグメント境界の連動性を古地震学的に再検討した.諏訪湖セグメント境界の北西側付近に位置する岡谷断層・郷田地点では,トレンチ調査の結果,過去4-5回の活動時期が明らかとなり,最新活動時期が1660+-30 y.B.P.以降と推定された(近藤ほか,2013).さらに,諏訪湖セグメント境界の北東側に位置する諏訪湖北岸断層群・四賀桑原地点においてピット掘削調査を実施し,正断層運動に伴うとみられる傾斜不整合イベントをみいだした.この傾斜不整合の年代は2490±30から7710±40y.B.Pに限定され,少なくとも約1200年前の大地震に伴うものとは考えられない.さらに,下諏訪町下山田地点において実施したトレンチ・ボーリング調査では,沖積扇状地面を切る比高約2mの低断層崖が1790+-30から6750+-30y.B.P.に形成された可能性があり,現在さらに詳細を検討している.これらの諏訪湖セグメント境界とその周辺の最新活動時期からみて,諏訪湖北岸断層群および諏訪湖南岸断層群では最新活動時期が約1200年前よりも古く,西暦841年と西暦762年地震のいずれにおいても活動していない.したがって,約1200年前の歴史地震に伴い神城断層から下蔦木断層に至る区間が連動して1つの大地震を生じたとは考えられない.すなわち,神城断層から牛伏寺断層ないし岡谷断層までを含む区間と,釜無山断層群から下蔦木断層までを含む区間が約1200年前にそれぞれ別々の大地震を生じた可能性が高い.歴史史料の制約から現状では断定できないが,前者の区間が西暦841年地震,後者の区間が西暦762年地震を生じたという対比,あるいはその逆の組み合わせの可能性もある.今後,緻密な年代測定等を実施することで,両地震の対比をより厳密におこなうことも重要である.さらに,最新活動では諏訪湖セグメント境界を破壊が乗り越えなかったと考えられるものの,そのような連動型大地震が過去に生じなかったとは言えない.例えば,約2000-2300年前の古地震イベントでは,牛伏寺断層や岡谷断層,茅野断層においても共通して見いだされており,活動時期のみからは連動した可能性は考えられる.ただし,地層の欠落や年代測定の推定幅によって完全な同時性があるとは言えないため,このイベントに伴う地震時変位量を復元して検討することが必要である.さらに,数値シミュレーション等により物理的な背景をもった再現性を検討する必要があろう.謝辞:諏訪湖周辺の現地調査は(株)ダイヤコンサルタントのご協力を得ました.記して御礼申し上げます.
著者
松多 信尚 杉戸 信彦 後藤 秀昭 石黒 聡士 中田 高 渡辺 満久 宇根 寛 田村 賢哉 熊原 康博 堀 和明 廣内 大助 海津 正倫 碓井 照子 鈴木 康弘
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.214-224, 2012-12-31 (Released:2013-01-31)
参考文献数
26
被引用文献数
2 4

広域災害のマッピングは災害直後の日本地理学会の貢献のあり方のひとつとして重要である.日本地理学会災害対応本部は2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震直後に空中写真の詳細な実体視判読を行い,救援活動や復興計画の策定に資する津波被災マップを迅速に作成・公開した.このマップは実体視判読による津波の空間的挙動を考慮した精査,浸水範囲だけでなく激甚被災地域を特記,シームレスなweb公開を早期に実現した点に特徴があり,産学官民のさまざまな分野で利用された.作成を通じ得られた教訓は,(1)津波被災確認においては,地面が乾く前の被災直後の空中写真撮影の重要性と (2)クロスチェック可能な写真判読体制のほか,データ管理者・GIS数値情報化担当者・web掲載作業者間の役割分担の体制構築,地図情報の法的利用等,保証できる精度の範囲を超えた誤った情報利用が行われないようにするための対応体制の重要性である.
著者
堤 浩之 平原 和朗 中田 高 杉戸 信彦 DELA CRUZ Laarni. S. RAMOS Noelynna T. PEREZ Jeffrey S.
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

フィリピン断層の地形・歴史地震・古地震調査に基づき,この断層から発生する地震の規模や頻度が走向方向に大きく変化することを明らかにした.フィリピン断層のほぼ全域の縮尺5万分の1の活断層分布図を作成し,フィリピン火山地震研究所のホームページで公開した.完新世隆起サンゴ礁段丘の調査により,海岸部を数m隆起させるような巨大地震がフィリピン海溝やマニラ海溝で繰り返し発生してきたことをはじめて実証的に明らか
著者
杉戸 信彦 松多 信尚 石黒 聡士 内田 主税 千田 良道 鈴木 康弘
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.124, no.2, pp.157-176, 2015-04-25 (Released:2015-05-14)
参考文献数
15
被引用文献数
5 8

Spatial variations of hazards such as strong ground motion and tsunami inundation are a key element for obtaining a geographical understanding of natural disasters. However, detailed distribution of tsunami run-up heights for the devastating tsunami associated with the 2011 off the Pacific coast of Tohoku earthquake is not available. A GIS analysis of tsunami inundation areas is conducted from data collected by the Tsunami Damage Mapping Team and from post-tsunami 2-m mesh and 5-m mesh digital elevation models (DEM) after the Geospatial Information Authority of Japan, in order to produce the Tsunami Run-up Height Map, which includes polygon data of inundation areas with elevation data at each point. Horizontal shifts of orthophotos taken just after the tsunami are corrected using a Helmert transformation. The map covers Iwate Prefecture, Miyagi Prefecture, and the northern part of Fukushima Prefecture continuously at high resolutions, and reveals spatial variations of tsunami run-up heights in detail. These variations are caused by: 1) landforms at each site, such as coastal plains, valleys, bays, and beach ridges, as well as their directions and magnitudes, and 2) source locations, interference, and wavelengths of the tsunami, as implied by a previous study. The map supports examination carried out on source fault models and simulation results of tsunamis from a geographical viewpoint. At the same time, the methodology to produce the map would be useful for systematically revealing run-up height distribution, in addition to inundation areas immediately after future tsunamis.
著者
杉戸 信彦 廣内 大助 塩野 敏昭
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.121, no.7, pp.217-232, 2015-07-15 (Released:2015-08-04)
参考文献数
49

長野盆地西縁断層帯は,羽越褶曲断層帯の南端付近に位置する西側隆起の逆断層である.本断層帯は,盆地西縁部に断層変位地形や先行谷を発達させ,豊野層や南郷層とその分布・構造に深く関与してきた.1847年に発生した弘化善光寺地震は,この断層帯が引き起こしたM7.4の大地震である.明瞭な地表地震断層が出現し,多数の斜面崩壊が発生した点で,同じく羽越褶曲断層帯で発生した2004年新潟県中越地震などと共通点が多い.本巡検では,変動地形の分布と大地震に伴う地表変位,また関連する地質および地質構造の発達史について,災害という側面を意識しながら,地形・地質学的観点から議論する.
著者
鈴木 康弘 杉戸 信彦 坂上 寛之 内田 主税 渡辺 満久 澤 祥 松多 信尚 田力 正好 廣内 大助 谷口 薫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.37-46, 2009 (Released:2010-02-24)
参考文献数
16

活断層の詳細位置・変位地形の形状・平均変位速度といった地理情報は,地震発生予測のみならず,土地利用上の配慮により被害軽減を計るためにも有効な情報である.筆者らは糸魚川-静岡構造線活断層帯に関する基礎データと,活断層と変位地形の関係をビジュアルに表現したグラフィクスとをwebGIS上に取りまとめ,「糸魚川-静岡構造線活断層情報ステーション」としてインターネット公開した.本論文は,被害軽減に資する活断層情報提供システムの構築方法を提示する.これまでに糸魚川-静岡構造線北部および中部について,平均変位速度の詳細な分布を明らかにした.この情報は,断層の地震時挙動の推定や強震動予測を可能にする可能性がある.さらに縮尺1.5万分の1の航空写真を用いた写真測量により,高密度・高解像度DEMを作成した.人工改変により消失している変位地形については,1940年代や1960年代に撮影された航空写真の写真測量により再現し,その形状を計測した.写真測量システムを用いた地形解析によって,断層変位地形に関する高密度な解析が可能となり,数値情報として整備された.
著者
後藤 秀昭 杉戸 信彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.197-213, 2012-12-31 (Released:2013-01-31)
参考文献数
32
被引用文献数
1 8

国土地理院の基盤地図情報として公開されている数値標高モデル(5 mメッシュおよび10 mメッシュ)すべてを用いて実体視可能な地形ステレオ画像を作成した.地理情報システムにステレオ画像と既存の活断層分布図を読み込み,変動地形学的な地形判読を行ったところ,これまで認められていない新期変動地形を新たに多数見いだした.これらの地形の一部を速報し,数値標高モデルのステレオ画像を系統的に判読する重要性を例証すると同時に,空中写真とは異なる特性をもつ数値標高モデルのステレオ画像の長所についてまとめて紹介する.
著者
廣内 大助 竹下 欣宏 松多 信尚 杉戸 信彦 藤田 奈津子 石山 達也 安江 健一
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では糸魚川ー静岡構造線活断層帯における過去の活動履歴や活動性について,精密な古地震調査や変動地形調査に基づいて明らかにした.とくに従来の予測よりも一回り小さな地震であった2014年地震の発生を受け,同断層帯がどのような活動を示すのかを調査し,活断層の活動特性を明らかにすることを目指した.その結果2014年と同様の一回り小さな地震が1714年にもあった一方,約1000年前にはこれよりも大きな断層活動を示す巨大地震もあり,同断層はタイプの異なる地震を相補的に発生しながら,繰り返してきたことが明らかとなった.
著者
岡田 篤正 杉戸 信彦
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.112, no.Supplement, pp.S117-S136, 2006 (Released:2007-06-06)
参考文献数
85
被引用文献数
2 2

中央構造線活断層帯は日本列島で最長の活断層であり,変位地形の規模も大きく明瞭である.断層露頭も見事である.1995年兵庫県南部地震(M7.3)の発生以降も,多くの調査機関や大学(研究者)が各種の活断層調査を実施してきた.とくに,ボーリング・反射法地震探査・トレンチ掘削調査などが各所で行われ,中央構造線活断層帯の性質・活動履歴・地下構造などもかなり詳しく判明してきた.こうした成果に基づいて,地震調査委員会(2003)から長期評価も公表された.四国中央部における中央構造線活断層帯の代表的な活断層地形や断層露頭などを見学するとともに,地下構造調査の成果も紹介し,活断層に関する総合的な考察を行い,残された課題や問題点などについて検討する.