著者
松本 昇
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.39-57, 2022-02-28 (Released:2022-03-25)
参考文献数
129

自伝的記憶に関する研究は数多く行われてきており,自伝的エピソード記憶と自伝的意味記憶といったさまざまな区分とそれらの測定課題が提唱されている.その背景には,神経心理学,認知神経科学,認知心理学,臨床心理学の各領域において必要とされた課題が開発され,研究が進められてきた過去がある.しかしながら,これらの研究領域は,相互参照されることの少ないままに進められているのが現状である.本論文は,これまでに提唱された自伝的記憶に関する概念課題の対応を測定課題に基づいて整理することを目的とした.自伝的記憶をどのように分類するのか,そのためにどのような測定課題があるのか,自伝的記憶はどのように検索されるのかといったテーマについて,これまでの知見をまとめた.さらに,知見の統合と新たな研究領域の開拓へ向けた,将来の方向性を提言した.
著者
喜入 暁 松本 昇
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.112-121, 2022-10-06 (Released:2022-10-06)
参考文献数
50
被引用文献数
2

短縮版多次元衝動的行動尺度日本語版(the Japanese version of Short UPPS-P Impulsive Behavior Scale: SUPPS-P-J)は,多次元的な衝動性,特に情動喚起下における衝動性をも含めて測定する包括的な尺度である。しかし,その妥当性は大学生でしか検証されていない。そこで本研究では,SUPPS-P-Jの対象を一般成人に拡張するため,一般成人サンプルを対象に調査を実施した。428名(女性221名,男性207名,Mage=43.3, SD=8.91)がSUPPS-P-Jに加え,Dark Triad,リスク行動,抑うつ症状,躁症状,全般性不安症状,Grit,セルフコントロール,ビッグ・ファイブ・パーソナリティを測定する尺度に回答した。その結果,仮説と異なる相関も認められたものの,一般サンプルにおけるSUPPS-P-Jの因子的妥当性および基準連関妥当性は総じて示された。最後に,本研究の限界と今後の研究の方向性について議論した。
著者
松本 昇 望月 聡
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.77-87, 2015-07-31 (Released:2015-08-07)
参考文献数
26
被引用文献数
2 4

反すうは抑うつ状態の発症や維持を予測する要因であるといわれている。本研究では,反すうの原因分析,理解,制御不能の3つの側面を測定するLeuven Adaptation of the Rumination on Sadness Scale (LARSS)の日本語版を作成した。信頼性と妥当性を検証するために,大学生319名を対象として日本語版LARSS,抑うつ,マインドフルネス,反すうの各尺度を実施した。さらに,59名の大学生を対象としてLARSSを2度実施し,再検査信頼性の検討を行った。日本語版LARSSは原版と同様に,原因分析,理解,制御不能性の3因子構造を示した。これらの3因子はいずれも高い内的一貫性および再検査信頼性を示した。また,先行研究と一致して,LARSSの他の2因子を統制すると,制御不能性反すうのみが抑うつと関連し,マインドフルネススキルと負の関連を示した。これらの結果は日本語版LARSSの信頼性および妥当性を示すものである。
著者
伊藤 友一 松本 昇 小林 正法 西山 慧 三好 清文 村山 航 川口 潤
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.43-56, 2022-08-31 (Released:2022-09-23)
参考文献数
76

エピソード記憶の想起は,過去の出来事を記述的に思い出すのではなく,過去の出来事を心的に再体験する感覚を伴う.すなわち,その記憶システムは,過去のエピソードに対するメンタルタイムトラベルを担っている.メンタルタイムトラベルは未来や反実仮想のエピソードへも可能であり,記憶システムはさまざまな時間軸でエピソードを(再)構成するものとして捉え直すことができる.この視点から,記憶システムがかかわる近年の研究を概観する.伊藤はエピソード的未来思考について,松本は自伝的エピソード記憶の詳細さについて,小林は外部記憶の利用によるcognitive offloadingについて,西山は記憶の意図的な制御と忘却について,三好は主観的メタ記憶の計算論とその反実仮想との関連性について紹介する.これら話題提供の後,村山と川口による指定討論を受け,記憶研究の新たな視点と今後の展開について議論する.
著者
松本 昇 望月 聡
出版者
日本感情心理学会
雑誌
感情心理学研究 (ISSN:18828817)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.11-18, 2013-10-25 (Released:2014-02-21)
参考文献数
28
被引用文献数
1 3

This study assessed the instructions for the Autobiographical Memory Test (AMT) for an analog study. AMT is a representative task that measures autobiographical memory specificity. Many studies have suggested reduced autobiographical memory specificity in clinical depression patients with traditional instructions for AMT (Williams & Broadbent, 1986), which request that a patient precisely recall a particular event and place, but by this instruction, fewer studies have reported the reduced specificity for non-clinical dysphoria. Therefore, this study specified that a “specific episode is better, but in case of difficulty in recall, an ambiguous memory is permissible” (optional instructions) to assess overgeneral memory retrieval in a non-clinical sample. The results indicated that the dysphoric group displayed more reduced autobiographical memory specificity than the control group. Furthermore, rumination significantly negatively correlated with specific memory, but when depression partial out, the correlation was not significant. These findings suggest the effectiveness of optional instructions for AMT in detecting an overgeneral retrieval style, which is due to depressive mood rather than trait rumination, in a non-clinical sample.
著者
松本 昇 越智 啓太
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第13回大会
巻号頁・発行日
pp.104, 2015 (Released:2015-10-21)

本研究では,高思考抑制傾向者における自伝的記憶の具体性の減少を,検索誘導性忘却効果によって説明できるか否かについて検討した。参加者は思考抑制頻度をたずねる質問紙へ回答した後,ポジティブ,ネガティブそれぞれ2つずつのエピソードを視聴した。その後,その中の1つのエピソードについて1週間にわたって反すうをするように教示を受けた。1週間後,自由再生課題と手がかり再生課題を行った。その結果,思考抑制得点が高い者ほど,ネガティブエピソードを反すうした際に,ポジティブエピソードがより抑制されることが示された。この結果は,思考抑制とその逆説的効果として生じるネガティブ記憶の侵入,そして反すうを繰り返すことによって,具体的なポジティブ記憶へのアクセシビリティが低下する可能性を示している。
著者
松本 昇
出版者
心理学評論刊行会
雑誌
心理学評論 (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.121-126, 2020 (Released:2021-08-05)
参考文献数
32

Network analysis for psychopathology, introduced by Kashihara (2019), has the potential to greatly transform the research and treatment of psychiatric disorders. This paper discusses how we integrate the literature on cognitive and clinical psychology into the network analysis. Most network analysis in psychiatric disorders has used the data obtained from questionnaires, although incorporating the experimental tasks used in cognitive and clinical psychology into the assessment is worthy for clarifying the mechanisms that underlie psychiatric disorders. However, some issues arise when the data obtained from the experimental tasks are used in network analysis. These barriers indicate new issues that cognitive and clinical psychologists need to solve in the future.
著者
松本 昇
出版者
信州大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

本プロジェクトは,自伝的記憶の概括化(OGM)が生じるメカニズムおよび記憶の特定性トレーニング(MeST)がOGMおよび抑うつに効果を発揮するメカニズムを明らかにすることを目的とした。いくつかの実験研究を通じて,ネガティブな手がかりに対するOGMの直接検索が抑うつに特に関連するメカニズムとして特定された。このことから,OGMに対するアクセシビリティを変容させる介入が重要であることが示唆された。MeSTによる治療データの二次分析では,OGMの直接検索が抑うつを予測する効果をMeSTが緩和させることが示された。OGMのアクセシビリティに焦点を当てた介入では,抑うつに対する大きな治療効果が示された。
著者
清水 義之 橘 一也 津田 雅世 籏智 武志 稲田 雄 文 一恵 松永 英幸 重川 周 井坂 華奈子 京極 都 奥田 菜緒 松本 昇 赤松 貴彬 竹内 宗之
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.287-292, 2017 (Released:2018-05-14)
参考文献数
17

近年,小児における末梢挿入式中心静脈カテーテル(peripherally inserted central catheter:以下PICC)は,新生児領域では頻用されており,幼児や学童においても,重要な静脈アクセス用デバイスである.PICC 留置は視診または触診により静脈を穿刺する以外に超音波ガイド下に留置する方法があるが,わが国において,小児患者に超音波ガイド下にPICC を留置する報告はない.われわれは,41 名の小児において,リアルタイム超音波ガイド下にPICC 留置を試みた.56 回中50 回(89%)PICC 留置に成功し,重篤な合併症は認めなかった.屈曲による滴下不良はなく,62%の症例で合併症なく使用された.留置にはある程度の慣れと,鎮静が必要であるものの,静脈のみえにくい年少児でも留置可能であり,小児における有用なルート確保手段であることが示された.
著者
松本 昇 望月 聡
出版者
日本感情心理学会
雑誌
感情心理学研究 (ISSN:18828817)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.27-35, 2018-03-31 (Released:2018-04-13)
参考文献数
40
被引用文献数
3 3

Previous studies demonstrated that Mindfulness based Cognitive Therapy (MBCT) is effective for reducing rumination. However, little is known about the effectiveness of mindfulness on the process of getting worse of rumination. The present study conducted cross-sectional and 6 months longitudinal studies to replicate a previous finding that mindfulness traits buffer the influence of causal analytic rumination on uncontrollability of rumination. However, there was no evidence that mindfulness traits prevent the development of rumination. Additional analysis showed Nonreact aspects of mindfulness predicted low uncontrollability of rumination 6 months later. These results suggest that mindfulness contributes to inhibit cognitive reactivity before occurring of rumination rather than prevents worsening of rumination which already occur. We discussed the importance of subdivided examination of mindfulness and directed future studies.
著者
長谷川 泰久 松浦 秀博 中山 敏 藤本 保志 松塚 崇 寺田 聡広 奥村 耕司 竹内 秀行 松本 昇
出版者
Japan Society for Head and Neck Cancer
雑誌
頭頸部腫瘍 (ISSN:09114335)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.530-534, 1997-11-30 (Released:2010-04-30)
参考文献数
12
被引用文献数
1

甲状腺乳頭がんの予後は一般に良好である。頸部郭清ではいかに機能障害の少ない手術を行うかが大切である。われわれは癌の進行度に応じて頸部郭清術を使い分けている。Lateral component に対しては Jugular Neck Dissection (JND, 深頸郭清術) と Modified ND (MND) を用いる。 JNDは甲状腺癌取扱い規約のV, VIに当たる内深頚リンパ節と鎖骨上窩リンパ節の郭清を行う。MNDはこれに副神経リンパ節 (規約のVII) の郭清を追加する術式である。この中でJNDについてその手術手技を中心に述べる。切開切離はメスによる鋭的切離を基本として行う。メスによる切離は術者と助手の間でカウンタートラクションを十分に行うことが大切である。郭清は6つの面 (上面: 顎二腹筋後腹, 外面: 胸鎖乳突筋内面, 内面: 深頸筋膜面, 後面: 胸鎖乳突筋後縁, 下面: 鎖骨上縁, 前面 (甲状腺): 前頸筋外側面) を順次切離するように行う。N044例にJNDを行い, 組織学的リンパ節転移を内深頚リンパ節に75%認めた。これまでの経過観察ではJNDを受けた症例に非郭清部および郭清部の再発はない。