著者
奥村 潔 石田 克 樽野 博幸 河村 善也
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.70, pp.1-82, 2016-03-31

熊石洞は日本の代表的な後期更新世の哺乳類化石産地の一つである.この洞窟の化石堆積物の発掘調査は主に1965年から1981年まで行われ,保存のよい大型シカ化石を含む多数の哺乳類化石を産出した.本報告では,大型シカ化石の詳細な記載を行うが,これによりほぼ同じ大きさのヤベオオツノジカ(Sinomegaceros yabei)とヘラジカ(Alces alces)という2種の大型シカの区別を明確にする.日本においてこの大型シカ2種はしばしば混同されてきたが,骨および歯の特徴からこの2種の識別を行う.また,主に角の形態的特徴に基づき,ヤベオオツノジカが中国産Sinomegacerosの種とは別個の日本固有の種であることを確認する.さらに,歯の萌出と咬耗の程度に基づいて2種の大型シカの年齢構成も明らかにする.
著者
河村 善也
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.1-12, 1992-02-29 (Released:2009-08-21)
参考文献数
34
被引用文献数
2 5

帝釈峡遺跡群に属する観音堂, 堂面, 穴神, 馬渡の4遺跡から産出した哺乳動物化石の層序学的な分布を, 現在までに得られた資料をもとにまとめた. これらの遺跡から産出した哺乳類の約69%は現在もこの地域に生息する種類で, その大部分は後期更新世の後半から連続してこの地域に生息していたものと考えられる. 一方, 全体の約19%は現在この地域には分布しないが, 他の地域には生息している種類で, これらは後期更新世から完新世にかけてのいろいろな時期に, この地域から絶滅したと考えられる. 残りの12%は絶滅種で, それらはすべて後期更新世末までに絶滅したと考えられる. 現在この地域に分布しない種類や絶滅種のこの遺跡群における消滅層準の年代は, 32,000から21,000年BPの間 (ヒョウ), 21,000から16,000年BPの間 (ニホンモグラジネズミ, ヒグマ属, ゾウ科の動物), 16,000から12,000年BPの間 (ニホンムカシハタネズミ, ブランティオイデスハタネズミ), 10,000年BP頃 (ヤベオオツノシカ), 6,000から5,000年BP頃 (オオヤマネコ) で, これらの年代は各種類の本州におけるおおよその絶滅時期と対応する可能性が高い.
著者
奥村 潔 石田 克 樽野 博幸 河村 善也 Kiyoshi Okumura Shinogu Ishida Hiroyuki Taruno Yoshinari Kawamura 岐阜県博物館 大阪市立自然史博物館 愛知教育大学 Gifu Prefecture Museum Osaka Museum of Natural History Aichi University of Education
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.70, 2016-03-31

熊石洞は日本の代表的な後期更新世の哺乳類化石産地の一つである.この洞窟の化石堆積物の発掘調査は主に1965年から1981年まで行われ,保存のよい大型シカ化石を含む多数の哺乳類化石を産出した.本報告では,大型シカ化石の詳細な記載を行うが,これによりほぼ同じ大きさのヤベオオツノジカ(Sinomegaceros yabei)とヘラジカ(Alces alces)という2種の大型シカの区別を明確にする.日本においてこの大型シカ2種はしばしば混同されてきたが,骨および歯の特徴からこの2種の識別を行う.また,主に角の形態的特徴に基づき,ヤベオオツノジカが中国産Sinomegacerosの種とは別個の日本固有の種であることを確認する.さらに,歯の萌出と咬耗の程度に基づいて2種の大型シカの年齢構成も明らかにする.
著者
河村 善也 吉川 周作 阿部 祥人 古瀬 清秀 樽野 博幸 金 昌柱 高 星 張 穎奇 張 鈞翔 松浦 秀治 中川 良平 河村 愛
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

東アジアのうち,北海道を除く日本本土では後期更新世~完新世に多くの種類の哺乳類が絶滅しているが,その絶滅期はMIS 3 からMIS 2 にかけてで,大型種だけでなく小型種も絶滅している.絶滅は短期間に急激に起こったのではなく,比較的長い期間に徐々に進行したようである.この地域ではずっと森林が維持され,環境変化が穏やかで,人類の影響もさほど強くなかったことが,そのようなパターンをもたらしたと考えられる.琉球列島では島ごとに絶滅のパターンが異なり,ここでは人類が絶滅に深くかかわっていると推定される.中国東北部では,ヨーロッパでのパターンに似た絶滅が起こったが,中国中・南部では絶滅はそれより限定されたものであったようである.台湾や韓国では,まだ研究が十分ではない.
著者
樽野 博幸 河村 善也 石田 克 奧村 潔
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
no.71, pp.17-142, 2017-03-31

中部日本に位置する熊石洞は,数多くの後期更新世の哺乳類化石を産出している.その中には,ヤベオオツノジカ(Sinomegaceros yabei)とヘラジカ(Alces alces)の2種の大型シカ化石が多量に含まれている.本稿では,体骨の詳細な記載と計測を行い,ヤベオオツノジカとヘラジカの体骨の識別点を初めて明確に示した.またヤベオオツノジカの肢骨を中国産のSinomegaceros 属の種,ならびにアイルランド産のMegaloceros giganteusの骨と比較した.その結果,ヤベオオツノジカは中国産のSinomegacerosよりもはるかに大きく,M. giganteus と同程度の大きさであることを明らかにした.
著者
河村 善也
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.1-12, 1992
被引用文献数
3 5

帝釈峡遺跡群に属する観音堂, 堂面, 穴神, 馬渡の4遺跡から産出した哺乳動物化石の層序学的な分布を, 現在までに得られた資料をもとにまとめた. これらの遺跡から産出した哺乳類の約69%は現在もこの地域に生息する種類で, その大部分は後期更新世の後半から連続してこの地域に生息していたものと考えられる. 一方, 全体の約19%は現在この地域には分布しないが, 他の地域には生息している種類で, これらは後期更新世から完新世にかけてのいろいろな時期に, この地域から絶滅したと考えられる. 残りの12%は絶滅種で, それらはすべて後期更新世末までに絶滅したと考えられる. 現在この地域に分布しない種類や絶滅種のこの遺跡群における消滅層準の年代は, 32,000から21,000年BPの間 (ヒョウ), 21,000から16,000年BPの間 (ニホンモグラジネズミ, ヒグマ属, ゾウ科の動物), 16,000から12,000年BPの間 (ニホンムカシハタネズミ, ブランティオイデスハタネズミ), 10,000年BP頃 (ヤベオオツノシカ), 6,000から5,000年BP頃 (オオヤマネコ) で, これらの年代は各種類の本州におけるおおよその絶滅時期と対応する可能性が高い.
著者
河村 愛 河村 善也
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.121-132, 2023-08-01 (Released:2023-08-17)
参考文献数
109

タケネズミ類は穴居性の大型の齧歯目のグループで,東アジアでは現生のものと第四紀の化石として知られるものは,このグループのタケネズミ属にほぼ限定される.本論文では,東アジアでの更新世のタケネズミ属化石の分布を,データソースを示したうえで,分布図にまとめた.分布図から,前期更新世の産地のほとんどは中国南部にあり,前期更新世にはこの属が中国南部に広く分布していたこと,中・後期更新世の化石産地はそれよりはるかに多く,やはりほとんどが中国南部に分布し,この属がその時期にトウヨウゾウとともに中国南部の動物群の主要要素であったことがわかる.一方,中国北部には化石産地はほとんどなく,中国東北部や朝鮮半島,本州・四国・九州,琉球列島,台湾には化石産地はない.中期更新世の日本には,トウヨウゾウが中国南部から移入した時期があったが,それに伴って移入した種類は少ない.移入しなかったものの代表がタケネズミ属である.
著者
樽野 博幸 河村 善也 石田 克 奧村 潔
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.71, pp.17-142, 2017-03-31

中部日本に位置する熊石洞は,数多くの後期更新世の哺乳類化石を産出している.その中には,ヤベオオツノジカ(Sinomegaceros yabei)とヘラジカ(Alces alces)の2種の大型シカ化石が多量に含まれている.本稿では,体骨の詳細な記載と計測を行い,ヤベオオツノジカとヘラジカの体骨の識別点を初めて明確に示した.またヤベオオツノジカの肢骨を中国産のSinomegaceros 属の種,ならびにアイルランド産のMegaloceros giganteusの骨と比較した.その結果,ヤベオオツノジカは中国産のSinomegacerosよりもはるかに大きく,M. giganteus と同程度の大きさであることを明らかにした.
著者
河村 善也
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.251-257, 1998-07-31
被引用文献数
8 39

第四紀における日本列島への哺乳類の移動を本州・四国・九州と北海道,琉球列島という3つの生物地理区に分けて考察した.本州・四国・九州地域では,長鼻類化石の生層序学的研究によって,次の3種のゾウが最初に出現した時期が明らかにされている.すなわち,シガゾウの出現は1.2~1.0Ma頃,トウヨウゾウの出現は0.5Ma頃,ナウマンゾウの出現は0.3Ma頃である.これらのゾウの出現は,それらが近隣の大陸地域から移入してきたことを示し,またそのような移入を可能にする陸橋の形成を示唆する.ナウマンゾウの移入期以後,本州・四国・九州地域は大陸や北海道からずっと隔離されてきたと考えられる.北海道では,化石の記録が本州・四国・九州よりはるかに少ない.北海道の後期更新世の哺乳類は,ナウマンゾウ,プリミゲニウスゾウ,ヤベオオツノジカといった3種の大型草食獣で代表される.そのうち,ナウマンゾウとヤベオオツノジカは,本州・四国・九州地域から0.3Ma頃に移入した可能性があり,プリミゲニウスゾウは後期更新世後半にシベリアからサハリン経由で移入したと考えられる.琉球列島では,更新世の化石記録は大部分が後期更新世のものである.琉球列島北部の後期更新世の動物相では固有の要素が卓越しているが,それらはおそらく更新世以前にこの地域に移入したものであろう.琉球列島南部の後期更新世の動物群は,中期あるいは後期更新世に移入した種類と,より早い時期に移入した種類から成り立っている.
著者
河村 愛 河村 善也
出版者
愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学研究報告. 自然科学編 (ISSN:18845169)
巻号頁・発行日
pp.23-30, 2018-03-01

The Quaternary is the latest period of the Earth’s history ranging from about 2.6 million years ago to the present day. Based on the results of recent researches on the Quaternary, this paper briefly outlines environmental changes during the period, which are important for understanding the present-day environment in historical context, for anticipating the environment in near future, and for seeking to learn about the significance of environmental protection. In Japan, however, the importance of the Quaternary environmental changes seems not to be adequately understood in the field of environmental education. This paper, therefore, emphasizes the importance, and presents a course for learning the environmental changes and for considering their significance to human life. We believe that the course adds new topics to classes of environmental education mainly in Japanese schools.
著者
河村 善也 樽野 博幸 稲田 孝司
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.399-411, 2007-10-01 (Released:2009-03-26)
参考文献数
28
被引用文献数
1 4

姫島から産出した1個のゾウ臼歯化石を系統分類学的に詳しく記載した.この化石は姫島の海岸のすぐそばの浅い海底から採取されたもので,おそらくそこに露出していた前期~中期更新世の堆積物から産出したものと思われる.この化石は,その形態の特徴から,マンモスゾウの祖先種の一つであるトロゴンテリゾウ(Mammuthus trogontherii)の右下顎第3大臼歯に同定できる.この化石の産出の意義を述べるとともに,日本や周辺の大陸から知られる古型マンモス類の化石と比較して,東アジアにおけるトロゴンテリゾウの時間的分布や移動についても議論した.
著者
河村 善也 亀井 節夫 樽野 博幸
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.317-326, 1989 (Released:2009-08-21)
参考文献数
48
被引用文献数
24 41

The Middle and Late Pleistocene mammalian faunas of Japan are described with new opinions on their succession and relation to the continental faunas. Although fossil materials assignable to early Middle Pleistocene are seemingly scarce in Japan, the fauna of that time is considered to have been transitional between the Early and Middle Pleistocene ones. On the other hand, fossil records which are younger than early Middle Pleistocene are abundant from the mainlands of Japan; viz. the Honshu-Shikoku-Kyushu area.In the middle Middle Pleistocene, the fauna of this area contained a considerable number of taxa which are extant today in the area (about 50%). It was also characterized by a high proportion of endemic species and the predominance of temperate forest elements. From this time to the late Middle Pleistocene, several species disappeared from the fauna; at the same time, immigrants from the continent were scarce. The faunal characters of the late Middle Pleistocene were basically identical with those of the preceding time.In the early Late Pleistocene, no mammal seems to have immigrated from the neighboring continent, and faunal composition was almost consistent with that of the late Middle Pleistocene. The elements of that fauna still persisted in the late Late Pleistocene, apart from the extinction of a few forms. In addition to the fact mentioned above, immigration from the northern part of the continent was recognized in the late Late Pleistocene, although it was restricted to a few large herbivore forms and to a short time duration.The introduction of the continental faunas to the mainlands of Japan during Middle and Late Pleistocene times was not so remarkable as previously inferred. Therefore it becomes doubtful that the faunas of the area were drastically replaced by the immigration of the Choukoutien, Wanhsien and Loess faunas of China during those times.
著者
河村 善也
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.251-257, 1998-07-31 (Released:2009-08-21)
参考文献数
29
被引用文献数
20 39

第四紀における日本列島への哺乳類の移動を本州・四国・九州と北海道,琉球列島という3つの生物地理区に分けて考察した.本州・四国・九州地域では,長鼻類化石の生層序学的研究によって,次の3種のゾウが最初に出現した時期が明らかにされている.すなわち,シガゾウの出現は1.2~1.0Ma頃,トウヨウゾウの出現は0.5Ma頃,ナウマンゾウの出現は0.3Ma頃である.これらのゾウの出現は,それらが近隣の大陸地域から移入してきたことを示し,またそのような移入を可能にする陸橋の形成を示唆する.ナウマンゾウの移入期以後,本州・四国・九州地域は大陸や北海道からずっと隔離されてきたと考えられる.北海道では,化石の記録が本州・四国・九州よりはるかに少ない.北海道の後期更新世の哺乳類は,ナウマンゾウ,プリミゲニウスゾウ,ヤベオオツノジカといった3種の大型草食獣で代表される.そのうち,ナウマンゾウとヤベオオツノジカは,本州・四国・九州地域から0.3Ma頃に移入した可能性があり,プリミゲニウスゾウは後期更新世後半にシベリアからサハリン経由で移入したと考えられる.琉球列島では,更新世の化石記録は大部分が後期更新世のものである.琉球列島北部の後期更新世の動物相では固有の要素が卓越しているが,それらはおそらく更新世以前にこの地域に移入したものであろう.琉球列島南部の後期更新世の動物群は,中期あるいは後期更新世に移入した種類と,より早い時期に移入した種類から成り立っている.
著者
張 穎奇 河村 善也 蔡 保全
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.81-92, 2008-04-01 (Released:2009-04-25)
参考文献数
25
被引用文献数
2 3

小長梁遺跡は前期更新世の人工遺物を出土する遺跡として重要であるが,その遺物包含層と同一層準から採取した大量の堆積物を細かい目の篩で水洗して,多くの小型哺乳類化石を得た.遺物包含層の年代は古地磁気測定により1.36 Maとされている.小型哺乳類は生層序の研究や古環境復元に重要であるが,この遺跡ではこれまで小型哺乳類化石はほとんど採集されてこなかった.今回は得られた化石をもとに,この遺跡の小型哺乳類の動物群の特徴を明らかにし,それを近隣の地域にあって古地磁気層序や放射年代が明確な4つの化石産地の動物群と比較した.それらにもとづいて,後期鮮新世とそれ以降の時期の地層における小型哺乳類の生層序と,それらの時期の小型哺乳類の動物相の変遷について論議した.変遷については,絶滅種が卓越する後期鮮新世から前期更新世にかけての中国北部の動物相が1.66 Maと1.36 Maの間に現生種(カヤネズミ)の出現により若干変化したあと,1.36 Maと0.6 Maの間には多くの絶滅種が見られなくなる一方で,現生種が数多く出現するという大きな変化があったと考えられる.さらに,この遺跡周辺の前期更新世の古環境については,温帯の気候で,湖の近くにまばらに灌木の生えた草原という環境が推定された.
著者
Mike Dobson 河村 善也
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.385-395, 1998-12-31 (Released:2009-08-21)
参考文献数
37
被引用文献数
44 81

日本列島の哺乳動物相の歴史的発展過程を明らかにするために,Dobson(1994)はそれぞれの種の歴史と現在の地理的な分布の考察に基づいて,日本産陸棲哺乳類の種を7つのカテゴリーに分類することを提案している.これらのカテゴリーは明確に定義されているが,それぞれの種をどのカテゴリーに含めるかは,種の明確な系統分類学的位置と良好な化石記録を必要とする.本論文ではDobson(1994)の提唱したカテゴリーをOld Hondo Endemics, Expanding Hondo Endemics, Early Colonists, New Hondo Endemics, Late Colonists, Expanding Northern Endemicsの6つに整理し,多くの化石のデータを考慮に入れて,翼手目以外の日本産陸棲哺乳類の現生種をこれらのカテゴリーに区分することを試みた.いくつかの種の扱いはまだ試案の段階であるが,多くの主要な種についてはこれらの6つのカテゴリーに区分することができた.カテゴリーへの区分が不確実な種や,まだ区分ができない種については,その理由を示した.このように歴史的な内容によって性格づけられたカテゴリーへの区分によって,日本列島主要部の陸棲哺乳動物相の起源はより明確となり,生物地理に関する研究はよりダイナミックで歴史性の認識を明確にしたものになる.
著者
河村 善也 松橋 義隆 松浦 秀治
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.307-317, 1990-10-20 (Released:2009-08-21)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

This paper offers detailed descriptions of the late Quaternary fossil-bearing sediments of Suse Quarry and their mammalian faunas, with a discussion on the faunal succession between the latest Pleistocene and early Holocene in the Pacific coastal region of central Japan.The sediments of the quarry were found in two fissures (East and West Fissures) exposed on the limestone quarry faces in 1975. Those of East Fissure are composed of brown to yellowish brown mud, and the 14C age of fossil bones from them is determined to be 14, 710±670y. B. P. The sediments of West Fissureconsist of brown mud with breccia, and the fluorine analysis of fossil bones suggests that the sediments are younger than those of East Fissure, and are possibly assigned to the last part of the Late Pleistocene to the early Holocene in age.With the exception of an extinct deer species, Cervus praenipponicus, the assemblage of East Fissure (Table 2) is composed of extant forms which are found in present-day Honshu. It is also characterized by the absence of wild boar, in contrast to the abundant occurrence of deer remains. The assemblage of West Fissure (Table 3), on the other hand, includes neither extinct forms nor extant forms which are now absent from Honshu. Additionally, remains of wild boar ate commonly found in association with deer remains.On the basis of the data from these two assemblages and those from Site 5 of Yage Quarry (14C age: 18, 040±990y. B. P.) and other Late Pleistocene and Holocene fossil localities in the region, we can postulate the following faunal succession:About 18, 000 years ago, the fauna were generally similar to those of lowlands and low mountains of present-day Honshu, but also contained extinct forms (Anourosorex japonicus, Microtus cf. brandtioides and Cervus praenipponicus) and a form exotic to present-day Honshu (Ursus cf. arctos). In spite of the abundant occurrence of deer, wild boar was almost absent in the fauna. The above-mentioned extinct and exotic forms (except for C. praenipponicus) vanished between 18, 000y. B. P. and 15, 000y. B. P. The fauna of 15, 000y. B. P. became more similar to the present one, but wild boar were almost absent as in 18, 000y. B. P. From 15, 000y. B. P. to the early Holocene, the number of wild boar increased drastically, and then the fauna became almost identical with that of present-day Honshu.