- 著者
-
佐々木 正人
渡辺 章
- 出版者
- 一般社団法人 日本教育心理学会
- 雑誌
- 教育心理学研究 (ISSN:00215015)
- 巻号頁・発行日
- vol.32, no.3, pp.182-190, 1984-09-30 (Released:2013-02-19)
- 参考文献数
- 24
- 被引用文献数
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5
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ほぼすべての日本人成人に観察される空書行動 (単語等の想起時の手指による書字類似行動・動作) が漢字文化に起源を持つとする仮説を検討するために, 日本と同一の漢字圏, そして非漢字圏からの留学生を対象として 5つの実験が行われた。結果は以下のようであった。1) 日本と同様に母国語の文字体系に漢字を有する中国語話者では, すべての者 (21名) に漢字課題解決時の空書の自発が観察された。2) 中国語を母国語とする者においては, 日本人成人に見られたと同様な空書行動の漢字問題解決促進効果が確認された (FIG. 1)。3) 3種の英単語課題 (単語綴り順唱, 逆唱, 欠落英単語完成課題) 事態で日本人 (83名) と非漢字圏からの留学生 (23名) を対象に空書行動の出現の有無が観察された, 結果, 英単語事態での空書の自発は, ほぼ日本人に限定しうることが明らかとなった (FIG. 4)。4) 英単語完成課題を用い空書行動の機能を日本人と非漢字圏で比較した。結果は空書の英単語想起効果は同事態で空書の出現した日本人のみに見られることを示した。非漢字圏では空書行動を求める手続は, むしろ妨害的ですらあった (FIG. 2)。5) 中国語を母国語とする者を対象とし, 3) と同様な英単語課題事態で空書の出現が観察された。彼等にも日本人同様にすべての課題で空書の自発が見られたが, その出現率には日本人と微妙な差異が見られた (FIG. 4)。以上の結果が空書行動の「漢字文化起源説」及び比較文化認知心理学との関連で議論された。また, 日本人の漢字圏における特殊性が指摘された。