著者
矢野 久
出版者
慶應義塾経済学会
雑誌
三田学会雑誌 (ISSN:00266760)
巻号頁・発行日
vol.95, no.4, pp.669(35)-696(62), 2003-01

論説はじめに第一章 戦後ドイツの戦後補償 : 1950年代の到達点第二章 苛酷緩和措置と統一ドイツ : 1980年代以後の変化第三章 強制労働被害者の提訴と政権交代・経済界の対応 : 1990年代後半の状況第四章 補償基金法への道 : 交渉の論点第五章 「記憶・責任・未来」基金創設の合意とその後の交渉過程第六章 「記憶・責任・未来」基金法の成立と基金をめぐる争点おわりに : 戦後補償と補償基金の歴史的意義50年にわたるドイツ戦後補償の歴史を政治・社会史的に考察している。前半では、企業・国家間・国内法の3つの局面から戦後補償の多様性と特質を明らかにしてその問題点を析出し、後半では、戦後補償の欠陥をドイツがいかに克服したのかを検討している。その結果成立した「記憶・責任・未来」基金の成立過程に注目し、戦後補償の史的発展の原動力がどこに存在したのかを解明している。This study examines the history of post-war compensation in Germany over a 50 year period, from the perspectives of politics and social history. The first half of the study clarifies the variety and characteristics of post-war compensation in three phases, enterprises, nation-to-nation, and domestic laws to extract its tacit issues. The second half of the study discusses how Germany overcame the flaw of post-war compensation.Moreover, this study particularly focuses on the process of establishing the "Memory, Responsibility and Future" Fund, which was established in the process of such overcoming as a result, and elucidates where the driving force of the historical development of the post-war compensation existed.
著者
矢野 久 難波 ちづる
出版者
慶應義塾経済学会
雑誌
三田学会雑誌 (ISSN:00266760)
巻号頁・発行日
vol.108, no.2, pp.455-472, 2015-07

歴史学と一口にいってもさまざまなアプローチの仕方がある。どのように過去の事実に接近するのか, その事実性も含めてこれまでさまざまな議論がなされてきた。多様な議論を突き詰めると, 人文科学としての歴史学と社会科学としての歴史学の対立という問題に遭遇する。とりわけフランスでは社会科学としての歴史学への転換が早い時期にみられ, また, 数量化へのアプローチが鮮明であり, その意味でこの対立は先鋭化していたように思われる。本稿では, 人文科学から社会科学への歴史学への転換に際して, フランスではどのような議論が闘わされてきたのかを, 社会学者で経済学者であるフランソワ・シミアンの研究を通して考察する。Various theoretical approaches fall under the umbrella term : the study of history. There has been much discussion on the way to approach the facts of history, including the nature of facts themselves. The essence of this discussion can be boiled down to the conflict between the approach that treats history as part of humanities and the approach that treats history as a social science. In France, the shift towards treating history as a social science was seen relatively earlier than elsewhere, and especially the preference of the shift for a quantitative approach had become apparent. Therefore, it is thought that the theoretical division has further intensified in this country. In this paper, the debate that took place in France at the time history was going through a shift from humanities to social sciences is considered in the light of the research of sociologist and economist François Simiand.論説
著者
小椋 正道 矢野 久子 利根川 賢 中村 敦 伊藤 誠 岡本 典子 高阪 好充 溝上 雅史 新井 亜希子 倉田 浩
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.99-104, 2005-06-15 (Released:2010-07-21)
参考文献数
13

発熱と呼吸困難を繰り返し過敏性肺臓炎が疑われた77歳女性に対し, 原因微生物を検索する目的で患者宅環境調査を行った. 調査方法として (1) 浴室, 超音波式加湿器 (以下加湿器), 患者寝室の滅菌綿棒による拭き取り,(2) 加湿器内の水 (加湿器水) の培養,(3) 患者寝室押入れと加湿器の置いてある居間のエアサンプリングを行った. その結果, アレルゲンと成り得るグラム陰性桿菌と真菌が合計11菌種検出された.これらの菌から作製した抗原液と患者血清による沈降反応 (Ouchterlony 法) を行い, 加湿器の内壁, 加湿器水, 加湿器稼動中の居間の空気の3箇所より検出されたCandida guilliermondiiが陽性であった. 3箇所から検出されたこの菌はPFGE解析により核型が一致しており, 加湿器内で増殖していた本菌が加湿器を稼動させたことで空気中に飛散したことが示唆された. 本事例は加湿器を廃棄したところ症状の再発がみられなくなった. 以上からC. guil-liermondiiを原因微生物とした加湿器肺が強く疑われた.
著者
矢野 久
出版者
慶應義塾経済学会
雑誌
三田学会雑誌 (ISSN:00266760)
巻号頁・発行日
vol.102, no.4, pp.693(59)-717(83), 2010-01

20世紀には世界戦争や民族虐殺のような破局的な暴力が噴出した。この暴力の噴出において広義の警察機構がこの暴力の最先端で機能していた。しかし現代社会においても監視と規律化が最重要な課題の一つとされ, テロル・暴力に対して国家の暴力独占は正当化されているようである。現代における国家の暴力は, 歴史的にみると, ナチスの暴力実践とどのような位置関係にあるといえるのか。比較史の観点から, ナチス・ドイツの警察による住民支配のあり様を20世紀ドイツ史の中に位置づけて考察する。In the 20th century, catastrophic violence such as global wars and ethnic massacres erupted. In the eruption of this violence, police mechanisms, in a broad sense of the meaning, functioned at the cutting-edge of this violence.However, even in modern society, monitoring and discipline are considered among the most important themes as terrorism and violence seem to justify the state monopoly on violence. This study examines how the practice of violence under the Nazis is positioned vis-a-vis contemporary state violence when viewed historically from the viewpoint of comparative history, through the depiction of residents controlled by Nazi Germany police, an event that marked 20th century German history.論説
著者
矢野 久
出版者
慶應義塾経済学会
雑誌
三田学会雑誌 (ISSN:00266760)
巻号頁・発行日
vol.105, no.4, pp.649(127)-691(169), 2013-01

論説20世紀に入ると, 世界の歴史的な変化に対応して, 伝統的な「歴史主義的」歴史学に対抗して「社会史」的な歴史学が登場し, その際, フランスの「アナール学派」が先駆的な位置を占めた。戦後ドイツ歴史学も遅ればせながら社会史的研究の重要性が指摘され, 1960年代後半以降になって学問的潮流として定着することとなったが, 歴史学方法論上の議論が展開されてのことであった。本稿ではこの議論の経過を詳細に追跡し, アナール学派の研究方法がドイツ歴史学界ではどのように議論され, ドイツの社会史的な歴史学の成立にどのように関連したのかを明らかにする。Entering the 20th century, in response to the historical changes in the world, against the traditional "historicist" historical science, a "social history" historical science emerged, where the French Annales School occupied a pioneering position. In postwar German historical science as well, although delayed, the importance of social history research was identified, and although it has established itself as an academic trendsince the late 1960s, it was a development resulting from a historical science methodology debate. This study comprehensively tracks the sequence of events in this debate, clarifying how the research methodology of the Annales School was debated in German's world of historical sciences and how it related to the establishment of Germany's social history historical science.
著者
矢野 久美子 金 惠信
出版者
フェリス女学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、1960年代後半から70年代に韓国からドイツに派遣された看護師女性たちの経験を、調査・考察することを目的とし、ベルリンおよびハンブルク在住の元看護師の女性を対象に、労働運動、韓国人女性グループの結成と表現活動の持続、それぞれのライフストーリーについて、聞き取りを行い記録した。韓国人看護師派遣事業に関する資料を整理した。また、女性移住労働者の体験と表現活動の尊厳性と意味を確認した。さらに彼女たちの看護師としての身体経験、異文化体験、政治への応答、その後の活動を追跡し、①ドイツにおけるディアスポラ・アジア女性労働者の体験を探り、②ドイツの政治文化史にジェンダーに関わる新たな領域を開いた。
著者
矢野 久
出版者
慶應義塾経済学会
雑誌
三田学会雑誌 (ISSN:00266760)
巻号頁・発行日
vol.99, no.3, pp.507(155)-510(158), 2006-10

小特集 : 社会史の実証と方法
著者
古林 千恵 矢野 久子 尾上 恵子 脇本 寛子 脇山 直樹 畑 七奈子 山本 洋行 脇本 幸夫
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.412-418, 2012 (Released:2013-02-05)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

高齢社会の到来と医療費の削減を背景に,入院期間の短縮,在宅医療の普及が推進されている.退院後,引き続き自宅での医療が必要な場合には,短い入院期間中にこれらの医療に関する新たな技術を習得することが求められている.今回,清潔間欠自己導尿(CIC)の継続指導チェックリスト作成のために患者10名を対象に,導入時および継続指導の実態を調査した.CIC導入時の問題点として,口頭指導のみでCICを開始させた場合があった.また,手順指導を行なった場合であっても患者の個別性や身体的機能,異常時の対応,自宅の状況などを考慮した指導にいたっていないことや膀胱過拡張予防の理解,排尿記録の目的を理解した記載が行われていないことが明らかになった.外来では,残尿が無いように排尿をさせる体位や手順確認を含めた継続指導を行っていなかった.これらのことから,膀胱過拡張予防の理解,上部尿路保護を意識した排尿量の保持と排尿間隔でCICを実施する排尿記録の記載を中心とした継続指導が重要であることが明らかになった.以上を踏まえ,問題点の抽出を行い継続指導チェックリストを作成した.
著者
矢野 久
出版者
慶應義塾経済学会
雑誌
三田学会雑誌 (ISSN:00266760)
巻号頁・発行日
vol.109, no.1, pp.1-48, 2016-04

会長講演本稿では, 1970年代後半から80年代半ばに(西)ドイツの歴史学において議論された問題, 「歴史的社会科学」か「社会史の文化論的転回」かという議論に焦点を当てる。歴史的社会科学とそのパラダイムに対抗した「日常史」・「歴史人類学的社会史」における歴史研究の方法と観点, 問題設定や研究対象に関する議論を追い, この「社会史の文化論的転回」への歴史研究の展開過程を解明する。欧米の歴史学との比較において(西)ドイツ歴史学の特徴を浮き彫りにする。This study focuses on a problem discussed from the mid-1970s to the 1980s in West Germany : the controversy over ,,historical social science" or ,,cultural turn in social history." This study follows discussions regarding approaches, aspects, question setting, and subjects of historical studies in ,,everyday history" (Alltagsgeschichte) and ,,anthropological social history" (Anthropologische Sozialgeschichte) as opposed to historical social science and its paradigm. Further, it investigates the process of how the ,,cultural turn in social history" evolved. In addition, this study compares (West) German historiography with traditional and social science historiography, in the process clarifying its characteristics.
著者
矢野 久
出版者
慶應義塾経済学会
雑誌
三田学会雑誌 (ISSN:00266760)
巻号頁・発行日
vol.102, no.3, pp.621(187)-633(199), 2009-10

書評論文I はじめにII 国際軍事裁判とドイツの犯罪追及III ドイツの戦後補償IV 植民地責任V 日本の植民地責任の進歩性VI 結論にかえて
著者
矢野 久子 小林 寛伊
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.40-43, 1995-10-20
被引用文献数
8

病院感染防止対策のうえで, 手洗いの重要性が強調されているにもかかわらず十分な衛生学的手洗いが行われていないという指摘がある. 今回, 気管内吸引前後の看護婦の手洗い行動の観察と手指の細菌学的状態を調べた.<BR>126回の気管内吸引前後における手洗い行動の観察結果では, 吸引前後に手洗いを行ったのは1回 (0.8%) であった. 吸引前後に手洗いをしないで素手で吸引, または吸引に際して手袋の着脱をしなかったのは25回 (19.8%) であった. 観察した全手洗い時間の平均は5.6秒 (標準偏差3.1) であり, 手洗い行動の不十分な現状が明らかになった.<BR>吸引前, 直後の看護婦の手指からはmethicillin resistant <I>Staphylococcus aureus</I> (MRSA), <I>Serratia marcescens, Klebsiella pgumoniae</I>が検出された. 気管内吸引後, 8-12秒の4w/v%手洗い用クロルヘキシジンによる手洗いを行った後では, ほとんど細菌は検出されなかった.<BR>手洗いの不十分な現状とともに手洗いをまず行うことの重要性が明らかになった.