著者
安達 登 近藤 修 角田 恒雄 神澤 秀明
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

研究期間中に、査読つき英文論文6編、査読つき和文論文5編を出版した。成果の中で特筆すべきものとして、江戸時代アイヌのミトコンドリアDNAについて世界初の論文を公表したことが挙げられる。この研究で、アイヌは縄文時代人の遺伝的特徴を色濃く受け継ぐ他に、シベリア先住民族および本州日本人の遺伝的影響も想像以上に大きいことが明らかとなり、日本列島人の成立を説明する二重構造モデルに一部修正が必要なことを初めて実証した。さらに、北海道船泊遺跡出土縄文後期人骨について、世界初となる現代人レベルでの高精度ゲノム解析に成功した。このデータは今後日本列島人の成立を考える上で根幹となる重要なものである。
著者
篠田 謙一 井ノ上 逸朗 飯塚 勝 斎藤 成也 富崎 松代 安達 登 神澤 秀明
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では縄文人骨43体、弥生人骨4体の合計47体のゲノム解析を行った。ミトコンドリアDNAの全配列を使った系統解析から、縄文人は遺伝的に均一な集団ではなく、地域による違いがあることが判明した。また、弥生人の遺伝的多様性は従来考えられていたより大きなものだった。そして渡来系弥生人もすでに在来の縄文人と混血していることも明らかとなった。これらの事実は従来の日本人起源論を再考する必要があることを示唆している。
著者
篠田 謙一 神澤 秀明 角田 恒雄 安達 登
出版者
一般社団法人 日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.127, no.1, pp.25-43, 2019 (Released:2019-06-26)
参考文献数
42
被引用文献数
5 5

佐世保市下本山岩陰遺跡から出土した2体の弥生人骨の核ゲノム解析を行った。これらの人骨は,遺跡の地理的な位置と形態学的な研究から縄文人の系統を引く西北九州弥生人集団の一員であると判断されている。しかし,次世代シークエンサを用いたDNA解析の結果,共に縄文系と渡来系弥生人の双方のゲノムを併せ持つことが明らかとなった。これらの人骨の帰属年代は弥生時代の末期にあたる。本研究結果から,この時期には九州の沿岸地域でも,在来集団と渡来した人々との間で混血がかなり進んでいたことが明らかとなった。このことは,これまで固定的に捉えられていた渡来系弥生人と西北九州弥生人の関係を捉え直す必要があることを示している。また本研究によって,古人骨の核ゲノムの解析で得られたデータは,このような混血の状況を捉えるのに有効であることも示された。今後,北部九州の弥生人骨のゲノム解析を進めていけば,日本人の成立のシナリオは更に精緻なものになることが期待される。
著者
安達 登 澤田 純明 神澤 秀明
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

縄文から中世に至るまでの幅広い年代の人骨について、ミトコンドリア、およびY染色体を含む核ゲノムの遺伝子解析をおこない、得られた結果を比較検討することで、東北地方における古代人の遺伝的変遷を明らかにする。遺伝的変遷の時期や、その内容が明らかになったところで、その原因について考古学的情報を踏まえて考察する。これによって、これまでその人類学的実像が不明であった「エミシ」と呼ばれた人々の遺伝的実像を明らかにすることができると考えている。
著者
篠田 謙一 佐藤 丈寛 安達 登 角田 恒雄 神澤 秀明
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2018-06-29

昨年度行った縄文人のゲノム解析の成果の一部を本年に論文発表した。また同時に、得られたSNPデータからこの人物の形質の特徴を抽出して復顔像を作成し、プレス発表を行った。このニュースは多くのマスコミの取り上げられ、大きな反響があった。北部九州と南西諸島の縄文時代相当期の人骨の持つミトコンドリアDNAの分析を進め,両者が1万年ほど前に分離した集団である可能性があることを明らかにし、沖縄で行われた学会で発表を行った。更に、初年度の分析で縄文人のゲノム解析に関してある程度の成果を得たので,本年は日本人の成立を考える上で重要な,弥生時代人骨を中心にゲノム解析を進めた。縄文人の末裔と考えられている西北九州の弥生人のゲノム解析によって,彼らが既に渡来系集団と混血した集団であることを明らかにし,論文発表した。また,渡来系集団の起源地と考えられる韓国の6千年前の貝塚人骨である加徳島の新石器時代の遺跡から出土人骨のゲノム解析を行い,彼らが現代の韓国人よりも縄文的な要素を多く持っていることを見いだし報告した。更に渡来人の遺伝的な特徴を更に詳しく知るために,弥生相当期に当たる韓国の人骨の分析を進めている。日本国内でも渡来系とされる弥生人集団のゲノム解析を進めた。特に大量の人骨が出土した弥生時代後期の鳥取県青谷上寺地遺跡から出土した人骨について,網羅的な解析を行った。その結果,彼らの遺伝的な特徴は現代日本人の範疇に入るものの,多様性は大きいことが判明した。このほか,全国の大学研究機関や埋蔵文化財センターに所蔵されている縄文~古墳時代人骨を収集し,ミトコンドリアDNAの分析を進めた。更にその中でDNAの保存状態の良い個体については核ゲノムの解析も実施している。
著者
青野 友哉 新美 倫子 澤田 純明 永谷 幸人 篠田 謙一 近藤 修 添田 雄二 安達 登 西本 豊弘 渋谷 綾子 神澤 秀明
出版者
東北芸術工科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

「縄文時代には争いや格差はなかった」というイメージは、受傷人骨や子供への厚葬の存在により、どの地域・時期でも当てはまるとは言い難い。特に北海道有珠モシリ遺跡18号墓は、頭部に受傷痕跡を持つ8体を含む11体の人骨が1つの墓に再埋葬されており、集団間の争いを想起させる。墓が作られた北海道の縄文晩期後葉は西日本の弥生前期にあたることから、農耕文化の受容に伴う広域的な社会変容の可能性もあり、解明には受傷痕跡の成因や人の移動、血縁関係など多角的な検討が必要となる。本研究では、骨考古学・形質人類学・法医学の知見と骨科学分析により、縄文終末期の日本列島で起きた社会変容の実態と合葬墓の埋葬原理を明らかにする。
著者
篠田 謙一 神澤 秀明 角田 恒雄 安達 登
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.127, no.1, pp.25-43, 2019
被引用文献数
5

<p>佐世保市下本山岩陰遺跡から出土した2体の弥生人骨の核ゲノム解析を行った。これらの人骨は,遺跡の地理的な位置と形態学的な研究から縄文人の系統を引く西北九州弥生人集団の一員であると判断されている。しかし,次世代シークエンサを用いたDNA解析の結果,共に縄文系と渡来系弥生人の双方のゲノムを併せ持つことが明らかとなった。これらの人骨の帰属年代は弥生時代の末期にあたる。本研究結果から,この時期には九州の沿岸地域でも,在来集団と渡来した人々との間で混血がかなり進んでいたことが明らかとなった。このことは,これまで固定的に捉えられていた渡来系弥生人と西北九州弥生人の関係を捉え直す必要があることを示している。また本研究によって,古人骨の核ゲノムの解析で得られたデータは,このような混血の状況を捉えるのに有効であることも示された。今後,北部九州の弥生人骨のゲノム解析を進めていけば,日本人の成立のシナリオは更に精緻なものになることが期待される。</p>