著者
尾崎 米厚 福島 哲仁 阿部 顕治 中川 昭生 岡本 傳男 山根 洋右
出版者
THE JAPANESE ASSOCIATION OF RURAL MEDICINE
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.937-941, 1987

島根県農村部における輸入赤痢アメーバ症の2例について報告した。2例とも中華人民共和国のツアー中に, 北京にてスイカを食べており, これが感染経路と考えられた。<BR>症例1は, 帰路上海にて発症し, 患者は, 悪心・嘔吐・下痢・意識消失を来し, 上海病院に緊急入院し, 脱水症状に対する治療を受けた。帰国後, 糞便検査にて<I>Entamoeba histolytica</I>の栄養型が認められ, 赤痢アメーバ症と診断された。メトロニダゾールにて治療を行なったが, 高令で激症アメーバ性大腸炎を呈した本例においては, 効果があまりなく, チニダゾールの方が効果を示した。<BR>症例2では, 自覚症状が認められなかったが, 糞便検査にて, <I>Entamoeba histolytica</I>の嚢子型が認められ, キャリアと診断され治療を受けた。<BR>近年は, 都市部のみならず農村部においても海外渡航者が増えており, 旅行者における輸入赤痢アメーバ症の多発, およびその集団発生に, 今後注意を払う必要があるものと考える。
著者
福島 哲仁 守山 正樹
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.209-216, 2003-07-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
15
被引用文献数
1

日本の食生活などの生活習慣と健康との関わりを明らかにする目的で, 日本へUターン移住した日系ブラジル人21人を対象に健康状態の変化を調査し, 移住者から見た日本の生活習慣から, その関連を分析した. 日本の生活環境に適応できた者は2人に過ぎず, 10人が十分適応できず, 9人は不適応の状態であった. 適応できない理由として, 読み書きができない, 対人関係, 仕事環境などが挙げられた. 現在の悩みや不安では, 将来16人, 人間関係12人, 日本語9人, 仕事8人, 子供の教育6人などが上位を占め, 海外からの移住者に対して地域社会の受け入れに問題のあるケースが多いことがわかった. 一方, 来日後の食物摂取量の変化では, 塩分, 肉, 果実摂取量が減少し, 魚の摂取量が増加した者が多かった. 日本とブラジルの食生活に共通するもので, サラダや米食は, 健康によいと感じている反面, コーヒーは悪いと感じている者が多かった. 相違点では, 日本の食習慣で, 魚介類を多く食べることは健康によいと感じているが, 果物と豆料理が少ない点は悪いと感じている者が多かった. 現在の健康状態は, 何らかの問題を抱えている者が半数以上であった. 体重の変化と食生活の変化との関連を見ると, 砂糖の摂取量増加と体重増加との間に関連が認められた. 日本の生活習慣が健康に与える影響について, ブラジルと日本の食習慣などの共通点と相違点を元に, 引き続き追跡していく必要がある.
著者
辻 雅善 各務 竹康 早川 岳人 熊谷 智広 日髙 友郎 神田 秀幸 福島 哲仁
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.B12008, (Released:2013-02-05)
被引用文献数
3 8

目的:福島原発事故発生以降,毎日約3,000人の作業員が事故収束のために従事している.通気性の悪い防護服を着用した作業員に熱中症の頻発が懸念された.今後の原発作業員における熱中症予防対策の一資料とすべく,原発事故以降に発生した熱中症について分析を行った.対象と方法:福島労働局で把握した福島原発事故収束作業員の2011年3月22日から9月16日までに発生した熱中症事案43例を対象とした.熱中症発生数を年齢,発生月,発生時刻,気温,湿度毎に検討し,また熱中症の重症度の検討も実施した.重症度をⅠ度とⅡ度以上の2群に分け,年齢,気温,湿度に対してMann-Whitney U検定を行い,さらに,年齢(<40歳,40歳≤),気温(<28℃,28℃≤),湿度(<75%,75%≤),クールベスト着用の有無に対してχ2検定およびロジスティック回帰分析を行った.検定は両側検定,有意水準5%とし,統計ソフトはSPSS statistics 17.0を用いた.結果:熱中症が最も多く発生した年齢は40代(30.2%),次いで30代(25.6%)であり,発生月は7月(46.5%),発生時刻は7時から12時(69.8%),気温は25℃以上(76.7%),湿度は70%から80%(39.5%)であった.重症度Ⅱ度以上の者は10例,内5例が6月に発生していた.統計解析の結果,全因子において重症度の違いに有意差は認められなかった.考察:一般労働者の熱中症の好発年齢は45歳から60歳であるが,原発事故収束作業員では30・40代に相当数が認められており,比較的若年齢層においても熱中症予防対策が重要であることが示唆された.また,厚生労働省により夏季の午後は原則作業を中止する措置がとられたが,原発作業員の熱中症の好発時刻は午前中に集中しているため午前中の予防対策も必要である.重症度Ⅱ度以上が10例中5例も6月に集中していることから,6月から熱中症予防対策を実施すべきであると考える.今回,発生因子において重症度の違いに有意差が認められなかったのは,他の要因が関与している可能性,あるいは例数が少なかったためと考える.本研究結果の特徴を踏まえ,今後,原発事故収束作業員の熱中症予防対策を実施することが必要である.
著者
佐藤 勢 早川 岳人 神田 秀幸 熊谷 智広 各務 竹康 辻 雅善 日高 友郎 遠藤 翔太 森 弥生 福島 哲仁
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.133-137, 2017 (Released:2017-02-28)
参考文献数
15
被引用文献数
2 1

〔目的〕老健施設入所者の転倒状況を調査し,時間帯別に分析を行い,転倒者の個人要因の特徴を明らかにすること.〔対象と方法〕福島市の老健施設で初回転倒した94名を対象者とし,性,年齢,身長,体重,要介護度,活動分類,認知症の分類,ADL評価,握力,長谷川式スケール,10 m歩行,BPSD,転倒場所について時間帯別に比較を行った.〔結果〕転倒者は9:01~17:00で39名,17:01~1:00は32名,1:01~9:00は23名の計94名であった.1:01~9:00の転倒者は低身長,BPSDの夜間不眠,廊下での転倒が有意に多かった.〔結語〕低身長,夜間不眠,廊下通行の特徴を持つ者は深夜から早朝にかけて転倒する可能性が高いため,注意が必要である.
著者
福島 哲仁
出版者
福島県立医科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

中国北京にある中国予防医学科学院(現中国CDC)との共同研究は、フィールド予定地域において重症急性呼吸器症候群が流行したため、平成15年度から中断している。引き続き問題となった鳥インフルエンザなど新たな感染症発生にも影響を受けたため、中国予防医学科学院との共同研究は、中断のリスクが大きいと判断した。現在は、フィールド地を中国湖北省襄樊市及びその周辺に変更し、長期的に安定して共同研究が可能な武漢大学公衆衛生学院の譚 曉東教授との共同研究に切り替えた。今年度、新たなフィールド地域住民のナイアシン摂取状況とパーキンソン病発生状況に関する予備調査を開始し、襄樊市周辺の農村地域でトウモロコシ生産地域のパーキンソン病有病率が極めて低いという結果を得つつある。この結果をふまえ、現在、襄樊市及びその周辺地域において10万人規模の悉皆調査を計画中であり、ナイアシン低摂取地域において、本当にパーキンソン病有病率が低いのかどうか、さらに詳しい栄養調査によって、パーキンソン病発症に関連した環境要因について引き続き検討していく予定である。この疫学調査と並行して、仮説を裏付けるために実験室レベルの研究も進めており、これまでの疫学的分析と合わせて一定の到達点を整理しレビューとしてまとめた。この結果は、すでに雑誌に掲載されているが、体内に摂取されたナイアシンは、体内でNADH合成に使われるが、分解過程で脳を含め全身の組織でニコチンアミドが遊離し、メチル化が生じる。このメチル化されたニコチンアミドがミトコンドリアの呼吸鎖酵素複合体complex Iを直接的に、あるいはミトコンドリアDNA破壊を介して間接的に傷害し、神経細胞の脱落を招くのではないかと考えており、これを裏付ける結果を得つつある。実験室レベルの研究と中国における悉皆調査をさらに進め、表題にある仮説の検証を行っていきたいと考えている。
著者
辻 雅善 各務 竹康 早川 岳人 熊谷 智広 日髙 友郎 神田 秀幸 福島 哲仁
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.53-58, 2013-03-25 (Released:2013-04-27)
参考文献数
23
被引用文献数
3 8

目的:福島原発事故発生以降,毎日約3,000人の作業員が事故収束のために従事している.通気性の悪い防護服を着用した作業員に熱中症の頻発が懸念された.今後の福島原発事故収束作業員における熱中症予防対策の一資料とすべく,福島原発事故以降に発生した熱中症について分析を行った.対象と方法:福島労働局で把握した福島原発事故収束作業員の2011年3月22日から9月16日までに発生した熱中症事案43例を対象とした.熱中症発生数を年齢,発生月,発生時刻,気温,湿度毎に検討し,また熱中症の重症度の検討も実施した.重症度をI度とII度以上の2群に分け,年齢,気温,湿度に対してMann-Whitney U検定を行い,さらに,年齢(<40歳, 40歳≤),気温(<28°C, 28°C≤),湿度(<75%, 75%≤),クールベスト着用の有無に対してχ2検定およびロジスティック回帰分析を行った.検定は両側検定,有意水準5%とし,統計ソフトはSPSS statistics 17.0を用いた.結果:熱中症が最も多く発生した年齢は40代(30.2%),次いで30代(25.6%)であり,発生月は7月(46.5%),発生時刻は7時から12時(69.8%),気温は25°C以上(76.7%),湿度は70%から80%(39.5%)であった.重症度II度以上の者は10例,内5例が6月に発生していた.統計解析の結果,全因子において重症度の違いに有意差は認められなかった.考察:一般労働者の熱中症の好発年齢は45歳から60歳であるが,福島原発事故収束作業員では30・40代に相当数が認められており,比較的若年齢層においても熱中症予防対策が重要であることが示唆された.また,厚生労働省により夏季の午後は原則作業を中止する措置がとられたが,福島原発事故収束作業員の熱中症の好発時刻は午前中に集中しているため午前中の予防対策も必要である.重症度II度以上が10例中5例も6月に集中していることから,6月から熱中症予防対策を実施すべきであると考える.今回,発生因子において重症度の違いに有意差が認められなかったのは,他の要因が関与している可能性,あるいは例数が少なかったためと考える.本研究結果の特徴を踏まえ,今後,福島原発事故収束作業員の熱中症予防対策を実施することが必要である.
著者
福島 哲仁 永幡 幸司 嘉悦 明彦 守山 正樹
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

バリアフリーの視点で環境を整えることによって、痴呆を患っても、ユーモアのセンスと豊かな人間性が養われる事がわかった。デイケアにより、初期の不十分な状況の下で生じた不安または混乱から起こったトラブルが消え、彼ら自身と環境への自信が生まれていた。家族へのインタビューから、痴呆を患うことで、痴呆高齢者の隠された人間性が表に現れてくることが明らかになった。痴呆高齢者とその家族双方の「記憶障害」に対する受容は、家族間に生じるトラブルを防ぎ、痴呆高齢者の豊かな人間性を発展させる上で重要なプロセスと考えられた。ケアスタッフの視点、役割は、痴呆高齢者と家族の間のこのダイナミックなプロセスの進行にとって非常に重要である。幸福に今を生きることは、痴呆高齢者にとって重要であるが、将来への希望や豊かで人間的な生活への期待がさらに重要であることがわかった。痴呆高齢者の生活環境の改善について考える時、音の効果を無視することはできない。痴呆高齢者の生活環境に対する音の効果を明らかにするために、どのような種類の音が回想されるかを調べた。デイケアのリーダーが、擬声語を書いた大きなカードを示し、その擬声語を声を出して数回読み、その間に何を想像しているかを自由に話してもらった。この結果わかったことは、(1)一般的に、鳥の鳴く声や雨の音など自然にある音は、性を問わず擬声語から容易に回想される。(2)台所仕事の音は、女性によりよく回想される。(3)昔の生活習慣に関する音は、はっきりと回想される。(4)それぞれの生活史に関わる音は、深い感情を呼び起こし、鮮明に回想される。これらの結果は、痴呆症を患う高齢者が、痴呆を患う前に身近にあった音を容易に回想することができることを示している。
著者
守山 正樹 我妻 則明 齊場 三十四 福島 哲仁
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

研究の最終年度として、触知実験の手順をまとめ、実習書を試作した。同時に、触知などの保有感覚を生かして社会復帰をする過程を総合的に把握するため、中途失明を克服し、サラリーマンとして働いているS氏の事例研究を試みた。特に注目したのは、社会復帰後に失明前の仕事だけでなく、ボランティア活動までも行っているS氏のコミュニケーションである。2001年11月にA大学医学部の医学概論カリキュラムにおいてS氏が行った授業を分析し、S氏が周囲と人間関係を築く過程の解明を試みた。「S氏の授業の進め方は、他の講師の授業に比較して、どのような特徴を持つか」を、S氏の授業が終了した直後に、自記式の評価表により、学生に評価してもらった。評価表の作成に関しては、S氏が1998、99年度にも同様の授業をした際に、学生が述べた感想や、医学概論の全授業に臨席したスタッフの印象を参考に作成した。11個の評価項目のうち最初の三評価項目については、S氏の授業は他の授業に比較して有意な低値をとった。特に、「1、黒板を活用する」、および「2、スライドやOHPを活用する」の2項目はゼロであった。S氏の授業に際しては、S氏が職場復帰した様子を報じた新聞記事を資料として印刷し、学生に配布していたが、「3、プリントを活用する」においても、S氏の授業は4.2%と他の授業の82.1%に比較して、有意な低値とった。資料のプリントは講義後に読む参考資料と位置づけられ、プリント自体の解説をS氏が授業中には行わなかったことが、低値の原因と考えられた。4番目以降の項目については、その全てでS氏の授業は他の授業に比較して高値をとり、特に「5、全体の学生に語りかける」、「8、ひとり一人の学生に語りかける」、「9、ひとり一人の学生に問いかける」、「10、ひとり一人の学生の応答から話を発展させる」の4項目に関しては、差が有意であった。これらのことより、S氏の授業は、全体の学生に対しても、個別の学生に対しても語りかけ、問いかけることを、特徴とすることが明らかになった。