著者
花田 恵介 空野 楓 河野 正志 竹林 崇 平山 和美
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.118-126, 2020-02-15 (Released:2020-02-15)
参考文献数
20

右手動作の拙劣さと両手に道具把握の障害を呈した,左の前頭葉および頭頂側頭葉梗塞例を経験した.手指分離動作は十分可能で協調運動障害もなかった.しかし,右手での手指形態模倣や,衣服のボタン操作,手袋の操作が困難であった.さらに箸やスプーン,ハサミなどが,左右手ともうまく把握できなかった.この症状に対して右手の課題指向型訓練を14日間実施した.本例は道具を一旦正しく把握できれば,それ以降の使用動作は問題なく行えた.また,把握の誤りは,検査者が道具を手渡したり,一方の手でもう一方の手に道具を持たせたりすると少なくなった.この残存能力を生かして訓練を行ったところ,日常生活における右手の使用頻度が増加した.
著者
田中 卓 竹林 崇 花田 恵介
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.86-93, 2022-02-15 (Released:2022-02-15)
参考文献数
23

今回,脳卒中後左片麻痺と左半側空間無視を伴う全般的認知機能障害を呈した事例に対して,病態に応じた工夫を施した麻痺手に対する複合的なアプローチ(病棟スタッフ主体のTransfer Packageや課題指向型アプローチ,電気・振動刺激)を実施した.結果,予後不良と考えられた事例において,臨床上意味のある最小変化量を超えた上肢機能の改善と,意味のある作業の達成が可能となった.さらに,半側空間無視も中等度の障害から軽度の障害への変化が見られた.回復期の介入のため,自然回復の影響は否めないが,本介入は認知機能低下を呈した事例に対する上肢機能アプローチにおける工夫として有用な可能性があると考えられた.
著者
花田 恵介 勝山 美海 河野 正志 竹林 崇 平山 和美
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.503-511, 2021-08-15 (Released:2021-08-15)
参考文献数
20

要旨:体性感覚障害は脳卒中後にしばしば起きる症状だが,体性感覚障害に対する介入が,対象者の内観や生活行動にどのような変容をもたらすかは明らかでない.今回我々は,重度の体性感覚鈍麻によって,日常生活で左手の使用に困難をきたした脳卒中慢性期の男性を経験した.Careyらが示した原則(1993,2012)に準じて,体性感覚刺激を弁別したり同定したりする能動的感覚再学習を1回1時間,週2回,8週間行ったところ,左手の体性感覚の一部と日常生活における使用感が改善した.改善の背景に,残存能力を用いた意識的な代償がうかがわれ,能動的感覚再学習がそれを促した可能性が考えられた.
著者
小渕 浩平 竹林 崇 花田 恵介 徳田 和宏 中村 裕一
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.703-710, 2022-12-15 (Released:2022-12-15)
参考文献数
22

脳卒中後の上肢麻痺に対するエビデンスの確立されたアプローチの多くは,生活期の患者を対象としている.急性期でもエビデンスレベルの高い研究が望まれるが,急性期に比較試験を行うことは容易でない.そこで今回,急性期での修正CI療法の効果を推定するために,先行研究のデータプールを用いて,課題とされる対照群を設定し,介入群と傾向スコアマッチングによる比較検討を行った.結果,急性期での修正CI療法の実施は,比較的予後が良好な自宅退院例では有効な可能性がある一方で,回復期転院例では,短期間で十分な効果が得られない可能性が示唆された.今後は,麻痺手の使用行動に関する影響に関しても比較検討を行っていく.
著者
庵本 直矢 稲垣 亜紀 柏木 晴子 竹林 崇 花田 恵介
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.78-85, 2022-02-15 (Released:2022-02-15)
参考文献数
21

今回,脳出血後に上肢麻痺を呈した2症例に対し,脳卒中後の上肢麻痺に対してエビデンスが確立された介入を麻痺手の状態に合わせて行った.また,得られた上肢機能や使用行動の改善と白質のFractional Anisotropy(以下,FA)の変化の関連性を検討した.結果,2症例ともに上肢機能や使用行動の改善が得られ,FAでは鉤状束のみが両者とも向上した.そのため,上肢機能や使用行動の改善に伴って,運動機能に関わる皮質脊髄路の可塑的変化が生じる可能性は低いと思われた.一方で,報酬系に関わる鉤状束の可塑的変化が生じる可能性が示された.
著者
岸 優斗 竹林 崇 堀 翔平 花田 恵介
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.336-343, 2021-06-15 (Released:2021-06-15)
参考文献数
16

脳卒中慢性期の重度片麻痺例に対し,先端機器を備えていない施設において行った具体的介入や,その経過を共有することは意義がある.今回,発症から13年経過した重度上肢麻痺を呈した脳卒中患者に対し,ADOCを用いた目標設定を行い,電気刺激療法や装具療法,促通反復療法,CI療法を用いて複合的に介入した.その結果,麻痺手の機能は介入前後で大きく変化しなかったが,麻痺手による意味のある作業を獲得でき,主観的評価も改善した.本事例への介入は,限られた設備環境であっても実現可能な内容である.麻痺手機能の向上と日常生活での麻痺手の使用を促す関わりは,重度片麻痺患者の意味のある作業に寄与する可能性がある.
著者
小渕 浩平 竹林 崇 花田 恵介 松井 克明 中村 裕一
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.694-702, 2022-12-15 (Released:2022-12-15)
参考文献数
24

本邦では,急性期でのCI療法後の長期経過を観察した研究は見当たらない.今回,急性期にて1日2時間以内の修正CI療法を実施した複数の対象者について,介入から1年後までの長期間の追跡調査を行い,麻痺側上肢の回復経過を観察した.結果,FMA,MALともに,介入後・介入1年後と時点の固定効果で有意な差を認めた.またMALは,短期・長期ともにMCIDを超える変化を認めた.さらに,長期的なFMAの改善は,MALと強い関連があることが示された.本研究から,急性期においても適応患者によっては,修正CI療法が長期的にも上肢機能と麻痺手の使用行動に良好な変化を与える可能性が示唆された.
著者
石根 幹久 花田 恵介 徳田 和宏 竹林 崇 藤田 敏晃
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.780-787, 2023-12-15 (Released:2023-12-15)
参考文献数
26

脳卒中患者の上肢機能と麻痺手の使用頻度はしばしば正の相関があるが,一方で乖離があることも報告されている.しかし,先行研究には高次脳機能障害による影響を検討した報告はほとんどない.今回,脳卒中発症後に麻痺側上肢の運動機能は向上したにもかかわらず,日常生活での麻痺手の使用行動に繋がらなかった70歳代男性を経験した.詳細な神経心理学的な検討を行ったところ,運動無視や無為を認めた.本例においては,これらが麻痺手の使用頻度に影響を与えていた可能性が考えられた.
著者
佐藤 光 竹林 崇 花田 恵介 渡嘉敷 淳 宇都宮 裕人
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.711-718, 2022-12-15 (Released:2022-12-15)
参考文献数
10

近年,遠隔リハビリテーションの有効性が示されている.米国では脳卒中患者に対し,遠隔Constraint-induced movement therapy(CI療法)が古くから試行されている.事例は脳卒中後右片麻痺を呈し,回復期リハビリテーション病棟退院後当院への外来受診を検討していたが,通院が困難であった.したがって,1回40分の遠隔CI療法を週2回の頻度で計8回実施した.結果,Fugl-Meyer Assessment,Motor Activity Logが回復期リハビリテーション病棟退院後に,臨床的に意味のある最小変化量を超える改善を認めた.本報告では,遠隔CI療法における経過を報告する.
著者
秋葉 周 竹林 崇 花田 恵介
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.106-112, 2022-02-15 (Released:2022-02-15)
参考文献数
14

本邦における脳卒中急性期の作業療法において,目標設定や介入方法に関するShared Decision Making(以下,SDM)を行った報告はきわめて少ない.今回,我々は,麻痺手の使用頻度が低く,目標設定や介入内容の意思決定に消極的な事例に対して,ガイドラインを用いて作業療法介入に関するSDMを行った.その結果,事例の作業療法への積極的な参加が促され,麻痺手の使用頻度も臨床的意義のある最小変化量を超えて向上した.事例の経過は,脳卒中急性期の作業療法においても,目標設定やガイドラインを用いた介入内容のSDMが有益である可能性を示している.
著者
花田 恵介
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.124-133, 2019-09-25 (Released:2019-10-10)
参考文献数
55

頭頂弁蓋の内側面にある第二体性感覚皮質や,後部島皮質を損傷した患者の多くに,温冷覚や痛覚の著しい障害が生じる.生じる障害は,温冷覚と痛覚とでそれぞれ程度や性質が異なりうる.また,刺激が強くても知覚できないという状態だけでなく,痛み刺激を知覚でき程度の評価もできるのに逃避反応や情動反応が起こらない状態や,温冷刺激を痛みとして感じてしまい温かいとか冷たいとかは感じない状態などが起こりうる.これらの障害について,解剖学的背景,過去の症例,神経科学上の知見などを引いて解説した.また,これらの領域の損傷によりそれぞれ異なった特徴の障害を呈した3症例を紹介した.
著者
池田 奈菜子 竹林 崇 花田 恵介 島田 真一
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.466-472, 2021-08-15 (Released:2021-08-15)
参考文献数
17

要旨:【はじめに】慢性腎臓病を併発した脳卒中患者は低栄養状態に陥りやすい.【方法】慢性腎臓病を呈している脳卒中患者にリスク管理や栄養管理に注意しながら入院・外来リハビリにて複合的な上肢機能練習を実施した.【結果】入院期間中は麻痺手の瞬発的な筋出力は改善したが,持久力を伴う生活場面の使用には支障をきたしていた.退院後,新たに栄養状態を改善するために処方された腎不全患者用の配合薬を摂取しながら運動を行った.結果,持久力の向上が得られ,日常生活で右手の使用頻度に改善が得られた.【結論】腎臓病を併発した脳卒中患者に対しても,適切な運動負荷に加え栄養指導を行うことで長期的な上肢機能の改善が得られる可能性がある.
著者
堀本 拓究 徳田 和宏 花田 恵介 安川 嘉一 竹林 崇
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.481-487, 2021-08-15 (Released:2021-08-15)
参考文献数
13

要旨:回復期脳卒中後上肢麻痺を呈した5例の対象者に対して,時期をずらした2回のCI療法を実施したので,結果を報告する.上肢機能評価はFugl-Meyer Assessment(以下,FMA),Motor Activity Log(以下,MAL)を1回目と2回目の実施前後に実施した.1回目ではFMA,MALともに有意差を認めたのに対し,2回目ではMAL-AOUのみ有意差を認めた.1回目はShaping課題中心,2回目は重要な家事や職業動作,趣味活動などを取り入れた.ADLが改善し,退院後の生活を意識した時期にCI療法を実施することは,麻痺手の使用と具体的な作業活動獲得に影響する可能性がある.
著者
横山 広樹 竹林 崇 花田 恵介 鈴川 理沙
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.494-501, 2022-08-15 (Released:2022-08-15)
参考文献数
15

通所リハビリテーションを利用する脳卒中慢性期の重度上肢機能障害例に対し,ボツリヌス療法と,Constraint-induced movement therapy(以下,CI療法)に準じた課題指向型練習やTransfer packageを併用して介入した.1回20分の介入を週2回,約1年間継続したところ,麻痺手の運動機能や使用頻度,痙縮の程度がいずれも測定誤差を超えて改善した.加えて,ボツリヌス療法における施注量が減少し,定期であった施注間隔も長くなった.低頻度であっても適切な介入を実施することで,慢性期の重度上肢麻痺を改善できる可能性が示唆された.
著者
花田 恵介 竹林 崇 河野 正志 市村 幸盛 平山 和美
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.550-558, 2019-10-15 (Released:2019-10-15)
参考文献数
29

脳卒中片麻痺患者を対象に加速度計(ActiGraph Link GT9X)を用いた上肢活動量計測を行い,本邦においてもこの評価が妥当であるか否か,および2点計測法と3点計測法のどちらが,より妥当な手法であるかを検証した.本研究は単一施設の横断研究で,37名を対象とした.3点計測法は,各手の測定値を体幹部の測定値で減じた上で,左右手の活動量比や活動時間比を算出した.その結果,2点計測法と3点計測法のどちらであっても,麻痺側上肢の活動量と上肢機能評価の間に中程度から強い相関関係が示された.3点計測法の優位性は示されなかった.脳卒中患者の上肢活動量評価において,どのような計測方法や分析方法がより適切であるかは,引き続き検討を重ねる必要がある.
著者
河野 真太朗 花田 恵介 竹林 崇
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.725-732, 2022-12-15 (Released:2022-12-15)
参考文献数
26

脳卒中後に麻痺側上肢の肩関節痛を呈した対象者に,肩関節の疼痛や心理状況に合わせて上肢機能練習を行った.特に,Transfer Packageでは麻痺手の活動によって生じた痛みの程度や使用感も記録するよう依頼し,痛みへの対処法や環境調整を含めた指導を行った.その結果,麻痺側肩の疼痛が軽減し,日常生活における麻痺手の使用頻度も改善した.肩関節痛のある上肢麻痺例では,それらに配慮してTransfer Packageを行うことが有用であるように思われた.
著者
石根 幹久花田 恵介小山 隆藤田 敏晃
雑誌
第56回日本作業療法学会
巻号頁・発行日
2022-08-29

【序論】脳卒中によって運動麻痺が上肢に生じると,日常生活で麻痺手を使用できなくなる.客観的な上肢機能評価と日常生活での麻痺手の使用頻度には正の相関があるが,この傾向がすべての患者に当てはまるわけではない.脳卒中亜急性期の対象者のなかには,上肢機能評価の結果が良いにも関わらず,それに見合った麻痺手使用が日常生活に汎化されない患者が存在する.このような“mismatch”(Esser,2019)のある患者は,半側空間無視(Buxbaum,2020)や体性感覚障害(Esser,2021)や,自己効力感の低下を有すると指摘されている.しかし,これらは多数例における相関を調べた研究であり,“mismatch”の原因を詳細に検討した症例報告はほとんど見当たらない. 今回,麻痺が改善したにも関わらず,病棟生活での麻痺手使用が少なく,主観的な変化にも乏しかった脳卒中亜急性期の症例を経験した.そこで,本例の麻痺手使用と主観的変化が乏しい要因を検討したので報告する. なお,本報告は症例本人に発表の意図を十分説明し書面にて同意を得た.【症例】70歳代の右利き男性である.病前のADL,IADLは自立していた.夜間に左半身麻痺を自覚し,翌朝も改善しなかったため当院に救急搬送された.頭部MRI拡散強調画像にて右放線冠~内包後脚に高信号域を認めた.また,FLAIR画像では右内包前脚~尾状核に陳旧性出血と思われる低信号域を認めた.その後は保存的に治療された. 【作業療法経過】第2病日のBRSは上肢Ⅳ,手指Ⅳ,FMA-UEは26点であった.体性感覚は正常であった.FIMは運動項目30点,認知項目29点.MMSE-Jは23点,MOCA-J19点であった.第14病日にFMA-UEは56点まで改善したがMALのAOU,QOM共に1点,3軸加速度計 (花田,2020)ではUse Ratioが0.70であり,非麻痺側上肢を多く使用していた. 作業療法ではADL練習と,修正CI療法やReoGo-J®︎を用いた上肢機能練習を,1回あたり40-60分を週6回行った. 第37病日のBRSは上肢Ⅴ,手指Ⅴ,FMA-UEは60点まで改善した.FIMも運動項目57点,認知項目34点に改善した.一方,MALのAOUは2.44点,QOMは2.33点で,Use Ratioも0.61と改善に乏しかった.そのため,この”mismatch”を検討する目的で,神経心理学的検討を行った.【mismatchに対する検討】MMSE-J29点,MOCA-Jは24点,RCPMは26点であった.TMTはA73秒,B138秒と低下していた.BVRTは正答数4で年齢相応であった.Kohs でIQは71.4で構成障害はなかった.BIT通常検査成績は143/146 点,Fluff Testは9/9で,半側空間無視や半身無視もなかった. また,観念性失行や観念運動性失行もなかった.しかし両手で”かいぐり”動作をしようとすると左手を動かせなくなった.Garbalini(2012)の検査でも両手を協調的に動かす際に左手を動かせなくなった.また,やる気スコアが19/42点であった.【考察】本症例は,両手を動かす際に左手を動かせなくなる運動無視を呈していた.日常生活動作は両手で行うことが殆どなので,これが”mismatch”に関与した可能性が考えられた.また,軽度のアパシーも麻痺手の使用行動に影響したかもしれない. 今後,麻痺手への介入だけでなく生活での使用に関与すると言われている症状に対しどのようなアプローチを行うべきか検討していく必要がある.
著者
與田 夏菜恵花田 恵介小山 隆藤田 敏晃
雑誌
第56回日本作業療法学会
巻号頁・発行日
2022-08-29

【はじめに】脳卒中後の体性感覚障害は,運動麻痺と同じく,麻痺手での物品操作を難しくするとともに,学習性不使用を助長する.しかし,どのような体性感覚障害が麻痺手の機能や日常生活での麻痺手使用に影響を与えるかについてはあまり検討されていないように思われる.今回,重度の体性感覚障害を呈した亜急性期の脳卒中患者2例を経験した.各症例における運動機能や感覚機能の経過を詳細に評価したので報告する.なお,本報告はご本人に発表の意図を十分説明し書面にて同意を得ている.【事例】事例1 50歳代後半の右利き男性.病前生活は自立していた.早朝に突然左半身の麻痺と呂律困難が生じたため,当院に救急搬送された.頭部MRIでは右視床に出血巣を認めるとともに,左橋に陳旧性梗塞を認めた.既往に糖尿病,高血圧,不整脈があった.初期評価時の上肢機能はFMA-UEが47点で,FMA-Sは0点であった.MMSEは29点,MoCA-Jは27点で認知機能は全般的に保たれていた.第14病日にはFMA-UEが52点に向上した.MALはAOUが0.3点,QOMが0.4点で,3軸加速度計(Bailey,2015)によるUse Ratioは0.59であった.また,第12病日の体性感覚検査では,触覚や温痛覚が強く障害されていた.運動覚も重度に鈍麻しており,拇指探し試験はⅢ度であった.二点識別や立体覚は検査困難であった.一方で,重量覚 (SOT-600, 酒井医療)は20g差が弁別できた,また,紙ヤスリを使った手触り覚は,粗めの番手であれば#20差を弁別できた.事例は「触った感触はないが,力の入れ具合で弁別できる」と語った.事例2 60歳代前半の右利き女性.病前生活は自立していた.知り合いの店に入るなり倒れたため当院に救急搬送された.頭部MRIでは左被殻に出血巣を認めた.既往歴はなかった.初期評価時の上肢機能はFMA-UEが24点で,FMA-Sは0点であった.発話はジャルゴン様で聞き取りにくく,錯語も強かったが,単語レベルでの簡単な動作従命は可能であった.第18病日にはFMA-UEが44点に向上した.MALはAOU,QOMともに0点で,Use Ratioは0.73であった.体性感覚検査では,触覚や温痛覚,運動覚,拇指探し試験は事例1と同じく重度に障害されており,二点識別や立体覚は検査困難であった.重量覚は40g差でなければ弁別できなかった.また,紙ヤスリは#40差でも弁別できない時があった.【方法】 事例1は第4病日より,事例2は第2病日より作業療法を開始した.2症例とも移乗動作やトイレ動作獲得に向けたADL練習や上肢機能練習(ReoGo-J®︎を含む)を1回あたり40-60分,週6回行った.前述のように介入開始時と発症約2週経過時に加え,発症1ヶ月経過時にも同様の評価を行った.【結果】事例1 FMA-UEは62点に改善した.MALはAOU1点,QOM2点で,顔を洗うときに左手も添える,お茶碗に手を添えて食事をするなど使用場面が見られるようになった.Use Ratioは1.05と病棟生活でも左右手が同等の使用量まで改善した. 事例2 FMA-UEは57点に改善した.MALはAOU1点,QOM0点であった.Use Ratioは0.76で,発症2週時と変わらなかった.【考察】重度体性感覚障害であった2事例に対し,亜急性期における麻痺手の上肢機能や体性感覚機能の改善経過を比較した.事例1,2ともにFMA-UEは大幅に改善したが,麻痺手の使用行動には明らかな差が見られた.発症後約2週目に評価した体性感覚検査では,2事例とも基本的な体性感覚が重度に障害されていたにも関わらず,事例1は事例2と異なり,重量覚や手触り覚が比較的保たれていた.2事例の検討より,体性感覚の各様式のなかでも,能動的触知覚(active touch)の残存が,日常生活における麻痺手使用に影響を及ぼす可能性が示唆された.
著者
堀 翔平 齋藤 潤也 花田 恵介 竹林 崇
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.535-542, 2021-08-15 (Released:2021-08-15)
参考文献数
12

要旨:右上肢麻痺を呈した脳卒中者に対して,エビデンスの高い手法を組み合わせた多角的なアプローチに加えて,装具装着下で実生活における麻痺手の使用を促す介入を実施したので報告する.介入は,装具・電気刺激・ロボット療法を併用したCI療法を1日1~2時間実施した.さらに,筋緊張の抑制・実生活での麻痺手の使用といった異なる目的の装具を作成し,実生活での装着を促した.結果は複数の上肢機能評価において,臨床上意味のある最小変化量を超える改善が見られ,麻痺手使用の機会が増大した.手指の伸展が十分でない脳卒中者に対しても,装具着用下での実生活の麻痺手の使用は麻痺手の使用場面の拡大の一助となる可能性が考えられた.
著者
勝山 美海 花田 恵介 河野 正志 市村 幸盛 竹林 崇
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.733-741, 2020-12-15 (Released:2020-12-15)
参考文献数
19

要旨:右上肢麻痺を呈した亜急性期脳梗塞患者1例に対して,リストバンド型活動量計を用いた行動心理学的介入(Transfer Package)を行った.作業療法介入は,第17病日から1回2時間,週3回,計10回行った.また上肢活動量計測は1週ごとに実施し,対象者に示した.その結果,麻痺側上肢機能と日常生活における麻痺手の使用頻度は改善し,外来終了2ヵ月後にも維持された.上肢活動量の客観的計測は,対象者と作業療法士の双方が麻痺手の使用状況を客観的に振り返ることができ,Transfer Packageをより効率化できると思われた.今後はケースシリーズ研究や比較研究を行い,その有効性を確認する必要がある.