著者
橋本 亮太 安田 由華 大井 一高 福本 素由己 山森 英長 新谷 紀人 橋本 均 馬場 明道 武田 雅俊
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.2, pp.79-82, 2011 (Released:2011-02-10)
参考文献数
5

精神疾患によって失われる普通の健康な生活は,他のすべての疾患と比較して最も大きいことが知られており,社会的経済的な影響は重大である.精神疾患の代表である統合失調症の治療薬である抗精神病薬はその効果が偶然見出された薬剤の発展型であるが,これらを用いると20~30%の患者さんが普通の生活を送ることができるものの,40~60%が生活全体に重篤な障害をきたし,10%が最終的に自殺に至る.そこで統合失調症の病態に基づいた新たな治療薬の開発が望まれており,分子遺伝学と中間表現型を用いて,統合失調症のリスク遺伝子群を見出す研究が進められている.これらのリスク遺伝子群に基づいた治療薬の開発研究が始まっており,今後の成果が期待される.
著者
新谷 紀人 橋本 均 馬場 明道
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.123, no.4, pp.274-280, 2004 (Released:2004-03-25)
参考文献数
35
被引用文献数
4 5 1

PACAPは神経伝達物質·神経調節因子としての作用のほか,神経栄養因子様の作用や神経発生の調節作用が示唆されている神経ペプチドである.これまで主として脳室内投与実験からPACAPの高次脳機能調節作用の一端が示唆されてきた.しかし,薬理学的濃度よりも極めて低濃度でも作用が認められることから,PACAP投与実験の結果が生体内におけるPACAPの働きとして普遍化できるものではなかった.そこで最近著者らは,PACAPの遺伝子欠損マウス(PACAP-KO)を作成し,主として行動薬理学的解析により本マウスの種々の高次脳機能を解析した.PACAP-KOは新規環境や新規物体刺激に対する反応性が変化しており,不安レベルの低下あるいは好奇心の亢進が認められた.また各種中枢神経作用薬に対する反応性が変化していることも見い出された.PACAP-KOでは記憶·学習の分子基盤として考えられているin vivo LTP形成や,記憶·学習行動にも異常が見い出された.また雌性PACAP-KOでは交配時の行動異常に起因すると考えられる妊孕率の低下が認められた.以上の結果により,多様な高次脳機能の調節にPACAPが関与することが示されたとともに,内因性PACAPの予想外の生理機能が見い出された.また,これらの精神運動行動の異常はある種のヒト精神疾患の一面を反映すると考えられることから,本マウスがこれらの疾患の発症メカニズム等を解析する上で有用なツールとなる可能性が示されたと言える.
著者
橋本 亮太 安田 由華 大井 一高 福本 素由己 山森 英長 新谷 紀人 橋本 均 馬場 明道 武田 雅俊
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理學雜誌 = Folia pharmacologica Japonica (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.2, pp.79-82, 2011-02-01
被引用文献数
1

精神疾患によって失われる普通の健康な生活は,他のすべての疾患と比較して最も大きいことが知られており,社会的経済的な影響は重大である.精神疾患の代表である統合失調症の治療薬である抗精神病薬はその効果が偶然見出された薬剤の発展型であるが,これらを用いると20~30%の患者さんが普通の生活を送ることができるものの,40~60%が生活全体に重篤な障害をきたし,10%が最終的に自殺に至る.そこで統合失調症の病態に基づいた新たな治療薬の開発が望まれており,分子遺伝学と中間表現型を用いて,統合失調症のリスク遺伝子群を見出す研究が進められている.これらのリスク遺伝子群に基づいた治療薬の開発研究が始まっており,今後の成果が期待される.
著者
川口 ちひろ 礒島 康史 馬場 明道
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.3, pp.193-199, 2007 (Released:2007-09-14)
参考文献数
26
被引用文献数
1

睡眠/覚醒,体温,内分泌など種々の生命活動で見られる約24時間周期のリズム,すなわち概日リズムは,生物が地球の自転に伴う明暗(昼夜)の周期的変化に適応するために獲得した生理機能である.哺乳類の場合,脳視床下部視交叉上核が体内時計中枢として概日リズムを形成・統合する他,光・温度・社会的要因などの外部環境同調因子を利用して,24時間周期から若干ずれた概日リズムの位相を外界の24時間周期の明暗位相に同調させる“位相変化機構”も担う.ゲノミクス的手法の発達と相まって時計本体の分子機構はこの10年の間に全貌がほぼ明らかにされた一方で,位相変化機構をはじめとする個体レベルでの概日リズムの調節機構は,その評価方法が特殊かつ複雑である上,調節に関与する候補分子の同定が不十分なため,時計本体ほどは解明されていない.本稿ではまず,動物個体の概日リズムを解析するにあたり必要な装置および周辺機器について例示した.次に概日リズムの基本特性である周期性および周期長の測定方法について説明し,これらのパラメーターに異常が見られる動物,特に時計遺伝子の改変動物を実例として挙げた.概日リズムの位相変化機構では,最も強力な外部環境同調因子である光による位相変化機構の特性について述べ,その測定方法に関しては著者らが行った,光情報伝達の調節に関与すると示唆されているpituitary adenylate cyclase-activating polypeptide遺伝子の欠損マウスの解析結果を交えて解説した.また現代社会特有の位相変化機構と言える時差ぼけ(jet lag)の評価方法についても説明を加えた.このような個体レベルでの概日リズム解析が今後進展することは,概日リズム障害や睡眠異常などの種々の疾患における,より有効な治療法確立に貢献すると期待される.
著者
馬場 明道 松田 敏夫 橋本 均 新谷 紀人 塩田 清二 矢田 俊彦
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

神経ペプチドPACAPは、神経伝達物質、神経栄養因子として種々の生理機能に関与すると予測されている。本研究は、精神疾患、糖尿病の分子レベルでの病態発現におけるPACAPの関与を、遺伝子の発現変化とその機能解析により究明し、これら病態の新規創薬標的分子の同定ならびに治療薬開発に資することを目的として計画・実施し、以下の知見を得た。1.PACAP遺伝子欠損(KO)マウスの異常表現型として、概日リズムの光同調障害、海馬神経可塑性の異常、神経因性疼痛および炎症性疼痛の欠如、エタノール感受性の低下など、多岐の中枢機能変化を見出し、中枢神経機能におけるPACAPの予測外の働きを明らかにした。2.KOマウスが示す種々の異常行動が、精神興奮薬アンフェタミンで改善されること等から、PACAPとヒト注意欠陥多動症(ADHD)との関連を示し、更なる薬理学的解析から、本病態の治療効果に5-HT_<IA>受容体が重要な働きを担うことを示唆した。また、PACAPとIL-6のKOマウスを用いた検討から、外因性・内因性のPACAPによる脳傷害保護作用にIL-6が大きく関与することを明らかとした。3.膵臓β細胞特異的PACAP過剰発現マウスを用いたI型およびII型糖尿病モデルでの検討から、糖尿病時の膵β細胞増殖作用や、ラ氏島過形成の制御への関与など、PACAPに関する全く新しい知見を見出した。また本マウスの膵島に対し、laser capture microdissection(LCM)およびDNA microarray解析を行なうことで、糖尿病態下の膵β細胞増殖制御に関与するいくつかの遺伝子を見出した。4.ベルギーとの国際共同研究により、PACAPが責任因子である初めてのヒト症例を見出し、その病態とPACAP遺伝子改変動物の解析から、内因性のPACAPが血小板活性化の抑制因子として働くことを明らかとした。
著者
馬場 明 小島 秀治郎
出版者
Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.291-298, 1958

各種の処理を施したアミロースのβ-アミラーゼによる分解率を測定するとともに,杏エムルシンの精製とβ-グルコシダーゼ,β-キシロシダーゼ,Z-酵素相互の関係を検討し次の知見を得た.<br> (1) アミロースを第1表の如く処理してもβ-アミラーゼによる分解率に大きな変化を来さない.<br> (2) アミロースを乾燥状態で長期間放置するとヨードによる呈色度を著しく減少する.然しながらβ-アミラーゼによる分解率は変らない.<br> (3) アミロースを0.4N-NaOHで98°, 1時間加熱するとき,残るアミロースはβ-アミラーゼによって殆んど100%分解される.<br> (4) Z-酵素がβ-グルコシダーゼでないことを確認するとともにβ-キシロシダーゼでもないことを認めた.<br> (5) 杏エムルシン中のα-アミラーゼのアミロース分解曲線が麦芽及び細菌のα-アミラーゼのそれと異ることを認めた.<br> (6) アミロースがβ-アミラーゼで100%分解されない原因がアミロースの高分子的な性質によることの可能性ならびにZ-酵素が微量のα-アミラーゼである可能性について考察した.
著者
馬場 明道 橋本 均 松田 敏夫
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、我々が作製したPACAP欠損(KO)マウスを含め3種類の遺伝子改変マウスを用いて、PACAPによる中枢・末梢神経機能調節等の発現機構、その生理・病態的意義を解明することを目的として実施し、以下の成果を得た。1.精神行動機能調節(1)PACAP-KOは、新規環境下の自発行動量の増加、異常ジャンプ行動、好奇心増大(または不安減少)を呈した。これらの精神行動異常は、抗精神病薬あるいはSSRIにより改善された。(2)PACAP-KOに音刺激驚愕反応prepulse inhibitionの低下(障害)が認められた。以上の結果は、PACAPが精神行動の調節に関与すること、本マウスの表現型が統合失調症あるいはADHDの病態と一部類似性があることを初めて示すものである。2.海馬機能PACAP-KOとPACAP1型受容体欠損マウスの海馬シナプス伝達長期増強(LTP)の障害、行動薬理試験におけるPACAP-KOの海馬依存性記憶・学習障害を見い出し、これら高次脳機能におけるPACAPリガンド-受容体シグナルの寄与を明らかとした。3.神経因性・炎症性疼痛神経因性・炎症性疼痛の発現がPACAP-KOでは消失していた。PACAPが痛覚過敏およびアロディニア(異疼痛)の発現制御に必須な役割を果たすことが示された。4.日内リズムPACAP-KOにおいて、光照射による日内行動リズムの位相変化および視交叉上核のc-fos誘導が減弱していた。光同調機構の維持にPACAPが重要な役割を果たすことがin vivoで示された。5.糖尿病態モデル(1)ストレプトゾトシン投与時の膵臓特異的PACAPトランスジェニック(Tg)マウスの膵臓では、β細胞新生が促進することが見い出された。(2)遺伝性肥満・糖尿病KKAyマウスとTgマウスとの交配による病態モデルにより、PACAPによる膵臓ラ氏島過形成の調節作用が見い出された。膵臓のβ細胞新生およびラ氏島形成をPACAPが調節することを示す本成績は、GLP-1属であるPACAPの臨床応用の可能性を支持する重要な知見として位置付けられる。
著者
津田 敏秀 馬場 明園 三野 善央 山本 英二 宮井 正弥 茂見 潤
出版者
日本衛生学会
雑誌
日本衞生學雜誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.462-473, 2000-07-15
被引用文献数
1 2

As a condition to achieving an agreement of recognition on the causal relationship in medicine, we firstly explained Hume's problem and counterfactual model. We, however, emphasized that we believe in the existence of causality on medical issues in our daily lives. Therefore, we illustrated conditions when we usually believe in causality. On the other hand, we criticized two well-known key phrases, "lack of mechanism in epidemiology" and "black box in epidemiology", which have often been used in Japan for skeptic viewpoints against epidemiologic methods even if epidemiology is often used to elucidate a causal effect in medicine in the world. We emphasized that a priori determinations of levels for inference of mechanism is necessary. And, the level and feature of mechanism should be defined in concrete expressions. After explanation of these basic concepts, we mentioned a classic view on specific diseases and non-specific diseases which have not been sufficiently discussed enough yet in Japan. As an example, we used the statements in the Japanese Compensation Law for the Health Effect by Environmental Pollution. In Japan, the classification of these diseases has been confused with that between manifestational criteria of diseases and causal criteria of them. We described the basic concepts to illustrate the causal relationship between non-specific disease and its exposure by using attached figures. Actually, we cannot recognize disease occurrence as a specific disease for several reasons. We indicated that we can recognize the magnitude of effect by causal relationships in medicine as a quantitative continuous variable.
著者
松崎 寿 青山 稔 馬場 明 丸山 武紀 新谷 〓 柳田 晃良 菅野 道廣
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 = Journal of Japan Oil Chemists' Society (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.625-630, 2000-06-20
被引用文献数
1 2

13カ国で製造された菓子類に含まれるトランス酸含有率を, ガスクロマトグラフィーと銀イオン薄層クロマトグラフィーを併用して分析した。<BR>総トランス酸含有率はアメリカ (27.1%) が最も高く, 次いでカナダ (22.3%), スイス (18.7%) 及びベルギー (15.0%) であった。オランダ, ノルウェー, スウェーデン及びイギリスの総トランス酸含有率は11~12%であり, デンマーク, フィンランド及びドイツのそれは6~8%であった。オーストラリア及びイタリアの総トランス酸含有率はそれぞれ3.5%及び3.1%であり, イタリアは最低値を示した。<BR>菓子類に含まれていた主要なトランス異性体はC18 : 1トランス異性体であったが, C20 : 1及びC22 : 1トランス異性体も7銘柄でみられた。<BR>菓子類の総トランス酸含有率と家庭用マーガリンのそれを比較したところ, カナダ, アメリカ及びイギリスでは菓子類と同程度の値であった。対照的に, ベルギー, デンマーク, ドイツ及びオランダでは家庭用マーガリンよりも菓子類が高い値を示した。