著者
高岸 治人 高橋 伸幸 山岸 俊男
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.159-166, 2009 (Released:2009-03-26)
参考文献数
32

人々は,不公正な状況(e.g.資源の不公平な分配)に直面した際に,多くの場合,その不公正を是正しようとする傾向を持つ。これまでの最後通告ゲームでの実験によって,行為者の不公正な意図が,不公正の被害者による不公正是正行動に重要な役割を果たしていることが示されてきた。本研究では,同じ研究方法を用いて,第3者が行う不公正是正行動においても,行為者の不公正な意図が重要な役割を果たしているかどうかを実験によって検証した。実験の結果,意図の効果は見られたものの,意図がない状況でも,多くの参加者が不公正是正行動をとることが示された。これらの結果は,相手に意図がない状況で不公平な結果を改善したいという動機が,被害者の立場よりも第3者の立場で強く生じていることを示している。
著者
藤井 貴之 高岸 治人
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.181-188, 2018 (Released:2020-12-20)
参考文献数
32

近年,日本国内における発達研究の国際化が進んでおり,国際誌に日本発の英語論文が掲載されることも多くなってきた。しかし,学術論文を国際誌へ投稿することは,現在の心理学業界において最も優先される選択肢であるとは必ずしもいえないのが現状である。そのような中で,著者らは従来の発達心理学の枠を越えた,学際的なアプローチによってその成果を国際的な場で発表し続けてきた。本稿では,著者らがこれまで行ってきた,子どもを対象にした利他行動における他者の監視の効果に関する発達研究をまず紹介するとともに,日本発の発達研究をするにあたり,著者らが何故このテーマを選んだかについて述べる。最後に研究を国際的に発信する意義と今後の日本における発達心理学の展望について著者らの考えを記す。
著者
品田 瑞穂 山岸 俊男 谷田 林士 高橋 知里 犬飼 佳吾 小泉 径子 横田 晋大 三船 恒裕 高岸 治人 堀田 結孝 橋本 博文
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.149-157, 2010 (Released:2010-09-09)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

Cooperation in interdependent relationships is based on reciprocity in repeated interactions. However, cooperation in one-shot relationships cannot be explained by reciprocity. Frank, Gilovich, & Regan (1993) argued that cooperative behavior in one-shot interactions can be adaptive if cooperators displayed particular signals and people were able to distinguish cooperators from non-cooperators by decoding these signals. We argue that attractiveness and facial expressiveness are signals of cooperators. We conducted an experiment to examine if these signals influence the detection accuracy of cooperative behavior. Our participants (blind to the target's behavior in a Trust Game) viewed 30-seconds video-clips. Each video-clip was comprised of a cooperator and a non-cooperator in a Trust Game. The participants judged which one of the pair gave more money to the other participant. We found that participants were able to detect cooperators with a higher accuracy than chance. Furthermore, participants rated male non-cooperators as more attractive than male cooperators, and rated cooperators more expressive than non-cooperators. Further analyses showed that attractiveness inhibited detection accuracy while facial expressiveness fostered it.
著者
山岸 俊男 坂上 雅道 清成 透子 高橋 伸幸 阿久津 聡 高岸 治人
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2015-05-29

平成29年度には、行動・心理・脳構造・遺伝子多型データセットの解析を進め、ゲーム行動と脳構造の関連性に関する実験を行った。その結果、以下の知見を含む複数の知見を論文化した。知見1:社会的規範の逸脱者への罰は、従来の研究では社会的公正動機に基づく利他的な行動と考えられてきた。しかし本研究の結果、規範逸脱者へ単に苦悩を与えたいという公正さとは無縁な攻撃的動機に基づく罰行使者もかなりの比率で存在することが明らかになった。さらに攻撃的罰行使者は左尾状核が大きいという脳形態的特徴があり、この尾状核は線条体に含まれることから、罰行使で何らかの満足を得ている可能性が示唆された。知見2:攻撃性と社会規範成立との関係については、学生参加者による検討から社会的地位の高さとテストステロン量の多さが、相手への支配的行動を強めることも明らかにされている。本研究の知見は、複数の罰行動の背後にある心理・神経基盤を混同してきた従来の研究へ警鐘を鳴らし、攻撃的な罰が社会的公正の達成へ正負いずれの方向に機能しうるかという観点からの研究の重要性を示唆するものである。海外の研究者と共同で信頼ゲーム実験を17カ国で実施し、ペアの相手の集団所属性について国を単位として内集団・外集団・不明集団で操作したところ、偏狭的利他性(内集団成員をより信頼・協力する)が文化・社会を超えた普遍的な心理的基盤である可能性と、そうした利他性は評判に基づいた間接互恵性によって相殺される可能性も併せて示された。これにより関係形成型独立性へと移行する社会制度設計に評判が重要な役割を果たすことが示唆された。本研究の最終目的につながる文化形成実験は、社会的ニッチ構築の観点からの心の文化差の説明を検証する世界初の本格的実験であるが、プレテストを繰り返し実施する中で適切な実験デザインを確定し、社会的ニッチ構築理論の精緻化を進めた。
著者
高岸 治人
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本プロジェクトの目的は、心の理論と呼ばれる他者の心的状態を推測する認知能力と社会行動(利他性)の関連を検討することにある。本年度は昨年度実施した自閉症スペクトラム障害を抱えた成人(ASD参加者)を対象にした実験で測定した眼球運動の解析を行った。課題は自分より多い金額を受け取る人(Xさん)と自分より少ない金額を受け取る人(Yさん)が存在するという状況の中で、Xさんの取り分をどのくらい減らすか、もしくはYさんの取り分をどのくらい増やすかを回答するという方法で行った。実験の結果、まずASD参加者は、精神疾患や発達障害を持たない健常参加者よりもYさん(自分より少ない金額受け取る人)の取り分を増やさない傾向を持つことが明らかになった。また、注視時間に関してもASD参加者はYさんの利益に注意を払わない傾向を持つことが明らかになった。これらの結果は、ASD参加者は行動レベルでも認知レベルにおいても利他性に関して健常参加者とはまた違った傾向を持つことを示している。次に第二実験としてオキシトシンをASD参加者へ投与することで利他性が促進されるかどうかを確かめる研究を実施した。オキシトシンはこれまで授乳時、分娩時に重要な役割を果たすホルモンであると考えられてきたが、近年の研究の結果、他者に対する信頼や心の理論といった社会性を促進させる働きを持つことも明らかになった。またこれらの結果を受け、近年、ASDの改善薬として注目が集まっている。実験では、20名のASD参加者に対してオキシトシンを投与し、投与前後の利他性の程度を測定した。結果に関しては現在分析中である。
著者
山岸 俊男 坂上 雅道 清成 透子 高橋 伸幸 高岸 治人 品田 瑞穂
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2011-05-31

本研究は、人類に特有とされている高度な向社会性を、向社会行動をとることが自らの適応性の上昇をもたらす社会のしくみを作り出すことで形成され維持されているとする社会的ニッチ構築理論に基づき、一連の経済ゲーム実験、脳撮像実験、遺伝子多型分析を通して,一方では現代の人々がもつ心の文化差が、人々が集合的に作り出している社会的ニッチの違いを反映していることを示す証拠を提出すると同時に、もう一方では、現代社会に暮らす人々の向社会性のあり方の違いが、そうした違いを適応的にしている社会的ニッチの違いを反映していることを示す証拠を提供している。
著者
高岸 治人
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

2010年度は6月に京都市内にある私立小学校にて、小学生を対象とした分配ゲーム(独裁者ゲーム)を実施し、他者が見ている状況と他者が見ていない状況という2つの状況における分配行動を比較するという実験を行った。参加者は2年生から6年生までの児童約210名であり、自身とお友達の間で10枚のコインチョコレートをどのように分けるかという課題を行った。その結果、他者から見られている状況では、男女ともに学年が上がるにつれて友達への分配個数が増加するというパタンを見せた。特に、小学校低学年では、他者が見ている状況でも友達にお菓子を渡さない傾向が見られたが、小学校中学年以降では、友達にお菓子を渡す傾向が見られた。しかし、他者が見ていない状況では、女児は他者が見ている状況と同様のパタンを示したが、男児はいずれの学年においても友達に対してお菓子を渡さない傾向を示した。これらの結果は、他者が見ている状況では、小学校中学年以降になると他者の目を意識するようになるために、友達に対して利他的になること、そして、少なくとも男児においては他者が見ていない状況では、友達に対して利他的にはならないことが明らかになった。この結果を踏まえて、現在、何故、利他行動における他者の監視の効果に性差が見られたのかを調べる実験、そして、利他行動における他者の監視の効果を支える認知発達的な基盤(例えば心の理論の発達)を調べる追加実験を計画している。