著者
植田 真司 長谷川 英尚 久松 俊一
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.75-85, 2016
被引用文献数
4

<p> 青森県六ヶ所村に点在する淡水湖の田面木沼および市柳沼,汽水湖の鷹架沼および尾駮沼における水質の現状と変遷を明らかにすることを目的に,2004年4月~2015年3月の期間,月一回の水質調査を行った。田面木沼,市柳沼および鷹架沼において全窒素(TN),全リン(TP)および化学的酸素要求量(COD)濃度は高く,富栄養化レベルであった。田面木沼および市柳沼においては,毎年8~10月の期間,アオコの発生が観察され,水質汚濁が顕在化していた。しかしながら,11年間を通してみると汚濁の進行は止まっており,ほぼ横ばいに推移していた。また,鷹架沼は,湖盆の真中を縦断する防潮堤を挟んで水質が異なり,防潮堤の西(奥)側の水質が,東(海)側よりも富栄養化が進んでいた。一方,尾駮沼は年間を通してTN,TPおよびCOD濃度は低く,水質は良好であり,中栄養化レベルであった。尾駮沼が水質を良好に保っている要因は海水交換が大きいことが考えられる。いずれの湖沼の水質も長期間の観測を通してほぼ横ばいに推移していたが,40年前の水質と比較して概ね改善方向にあることが認められた。</p>
著者
上野 益三
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.121-144, 1959-11-30 (Released:2010-01-27)
参考文献数
26

Lake Ótori-ke, in latitude 38°22' N., lies at an elevation of 963 ± 3 m to the northern side of Mt. Ito-dake, the northernmost peak of the Asahi mountain range in Yamagata Prefecture. lt is noticeable that this deep mountain lake, having the greatest depth of 65 m, was formed behind a landslide dam which happened in the geological past. The present-day lake, which occupies 0.342 km2 in superficies (when 966 m, 0.406 km2), is situated at the bottom of a small drainage basin of granitic rocks. The lake is fed by three short streams of melted water at the southern shore, and the lake water discharges over the top of the dam at its north-eastern corner and runs down as a rapid. Its volume is 1.1 (or 1.23) × 107 m3. It is natural that such a body of water lying in the igneous rock basin and in the subalpine climatic conditions is oligotrophic in nature.The lake appeared, when the writer visited there in the end of July, 1959, to be dark green and turbid, probably due to the heavy rain in the preceding days. Transparencies were smaller than 2 m. The probable shortness of the daily period of insolation due to the situation of the lake, which is surrounded by steep mountains, may cause the decrease of heat income to the lake. The surface water did not exceed 21°C at the end of July. Sharp but unstable thermal stratification developed at the layers below the surface. This seemed to facilitate heat transport into deep water, where temperatures were observed above 4°C. The oxygen dissolved in the surface water was in an amount of 8.46 mg/l, and its diminution in the deep water was rather great. The water showed acid reaction, probably owing to the acidic igneous rocks of the basin ; its pH values were 6.4 in the surface water and gradually became lower toward the bottom, at which the pH was 5.8. The chemical analyses for some major and minor constituents suggest that this lake has rather dilute water, as is discussed in a separate paper. Besides the surface water, there existed slightly turbid water at the layers below 20 m, suggesting the presence of heterogenous water mass, for which the chemical analyses showed the increase of the amounts of organic matter and nitrogenous compounds. Phosphorus was not found throughout the bottom.There were found deposits of soft dark grey ooze on the bottom of the limited area deeper than 60 m, where a considerable amount of fragments of fallen leaves from the surrounding forests of the lake was present. No bottom-inhabiting animals were found, but a considerable number of ephippial eggs occurred on the surface of mud. These eggs, it was determined in hatching experiments, belonged to Daphnia living in the lake. In the bottom ooze there were found 28 species of diatoms, among which Cyclotella Meneghiniana Meneghiniana and C. stelligera were dominant.The plankton is characterized by the occurrence of a few species of animals, among which Conochilus unicornis is the most abundant. The others are crusta-ceans, namely Holopedinm gibberum, Cyclops vicinus, Acanthodiaptomus pacificus and Daphnia ambigua. They were, however, small in quantity, and were concentrated in the upper layers, shallower than 10 m. The primary productivity (phytoplankton), too, was extremely small in quantity, only a small number of Dinobryon cylindricum occurring in the end of July. TheDaphnia found in this lake is peculiar in having a very short shell-spine, and is identical with the races inhabiting the lakes of northeastern Japan (including Hokkaido). It is presumably a peculiar race of thelongispina group, and is identical withDaphnia ambigua Scourfield.
著者
渡辺 圧美 内田 武司 古谷 進
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.21-36, 1968-05-28 (Released:2009-10-16)
参考文献数
5
被引用文献数
1 2

1. 古遠部鉱山大黒沢西部OL3ループ坑内水中からチオ硫酸塩を酸化するTh.ferrooxidansが分離された.2. 鉄酸化バクテリア (F.ferrooxidans) による第一鉄の酸化は接種菌量の大きいほど促進される.接種量1.0ml/100ml (培地) では11日間の培養で, 培養初期のFe2+濃度の70%がFe3+に転換されたにすぎなかつたが, 2.0mlの接種では99%がFe3+に転換された.そして4.0~10.0mlと接種が大きくなると, 第一鉄の酸化は一段と促進され, 8日間の培養で97~99%がFe3+に転換された.3. 鉄酸化バクテリアの銅耐性は硫酸銅の濃度を順次高めた培地での培養の繰り返しによつて遂次増大し, 25g/lの銅 (Cu) 濃度に耐性が増大した.4. 鉄酸化バクテリアは第一鉄を酸化するのみならず, 硫黄も酸化する能力を持つが, 多量の硫黄が存在すると第一鉄の酸化は抑制される.5. 鉄酸化バクテリアによる第一鉄の酸化におよぼす有機物の影響を追求したところ, 尿素およびペプトンは0.2%以上の濃度において第一鉄の酸化およびバクテリアの増殖に阻害的影響を示した.グルコースは添加量の増大につれてバクテリアの増殖を促進せしめた.しかし, 0.1%以上の濃度になると, 第一鉄の酸化に阻害的影響を示した.6. 鉄酸化バクテリアのチオ硫酸塩の利用については明らかでなかつたが, 鉄硫黄酸化バクテリア (Th.ferrooxidans) はチオ硫酸塩をよく利用して増殖し, そして硫黄酸化バクテリア (Th.thiooxidans) はチオ硫酸塩を利用する力が小さかつた.7. 鉄硫黄酸化バクテリアおよび鉄酸化バクテリアはエネルギー源として黄銅鉱を利用することができた.鉄硫黄酸化バクテリアは50日間の振とう培養で黄銅鉱中から86%の銅を溶出し, 鉄酸化バクテリアは68%の銅を溶出した.しかし, 硫黄酸化バクテリアは黄銅鉱からの銅の溶出には影響をおよぼさなかつた.
著者
瀬野 錦蔵 山本 荘毅 木内 四郎兵衛 清水 欣一
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1-12, 1968-05-28 (Released:2009-10-16)

The lake Togo-ike with its area of 4. 1 km2 and maximum depth of 5. 2 m. is a brackish lake and situated on the middle part of Tottori Prefecture. There are many hot springs such as Togo, Shin-Togo and Asazu in and around the lake. The authors studied the influence of the change of lake level due to polderling on the discharge of hot springs. The results obtained are summarized as follows : (1) Togo hot spring group has the same chemical constituents and ground temperature, suggesting that they have the same origin under the ground.(2) Some of these springs discharge through the lake bottom into the lake, but they give little influence on the quality of lake water.(3) Factors which will affect the discharge of spring water are barometric pressure, rain-fall amount, lake level change, tidal change and pumping. Barometric change and tidal change are not separated. Distinguished effects of rain-fall and lake level upheaval are shown in Table 5. Pumping effect is also obvious.(4) The effect of lake water level change on the spring discharge, dQ/dh is larger at Azusa than that of at Togo (Table 6). It suggests that change of lake water level affects directly to the discharge of hot spring.The results above mentioned lead us to the conclusion that the polderling of this lake will cause the decrease of hot spring discharge.
著者
生方 秀紀 倉内 洋平
出版者
The Japanese Society of Limnology
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.131-144, 2007
被引用文献数
4

北海道釧路湿原,達古武沼の岸沿いの11調査区でトンボ目の成熟成虫のセンサスを行い,6科18種2,572個体のトンボ目を記録した。環境要因として,ヨシ原の奥行き,水草の被度,水深および底質(細礫以上とシルト以下)を分析に用いた。各調査区のトンボ群集によるDCAの散布図上の配置パターン(平面上の相対的位置関係)は地図上の調査区の配置パターンとほぼ一致したが,環境要因によるDCAでは調査区の配置パターンは地図上のそれとほとんど一致しなかった。CCAの結果,沼の水辺は,水草が多くヨシ原が広くやや深い場所(沼の南岸),水草が少なく深い場所(北岸),ヨシ原が狭く水草が少なく浅い場所(東岸キャンプ場付近,西岸の護岸沿い)および水草が多くやや浅い場所(東岸)の4類型に分かれた。水草の被度と相関するクロイトトンボなど8種,ヨシ原の奥行きと水深に対して相関するルリイトトンボなど7種,水草と負の相関するコサナエなど3種,ヨシ原の奥行きおよび水深と負の相関を示すシオカラトンボ,深い場所を好むキトンボなど2種を列挙し,これらの種が環境変化の指標として有効性を持つことを指摘した。また,DCAとCCAの結果の比較を元に,沼におけるトンボ成虫の局所分布に影響しうる上記以外の環境要因について考察した。
著者
横山 寿
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.80, no.3, pp.125-144, 2019
被引用文献数
2

<p> アジア原産のシジミ属二枚貝が1920年代に北アメリカに侵入し,その後,南アメリカ,ヨーロッパに拡散した。1980年代には日本国内にも侵入し,世界各地の生態系や経済に負の影響を及ぼしてきた。この問題への関心を喚起するため,どこを原産地とする何というシジミが,どのように,なぜ新地への侵入に成功し,分布を拡大させ,在来生態系や地域経済にいかなる影響を及ぼしてきたのか,いかなる対策が必要かを2報に分けて解説する。第1報の本報では分類の問題点,外来シジミの起源,侵入・拡散経路の推定に寄与した形態と遺伝子分析による系統分類および侵入・拡散のメカニズムを概説した。最近の系統分類研究の成果は次のとおり:1) 形態のみでは種,系統を同定できない;2) 雄性発生する雌雄同体,淡水性の数系統が外来種となっている;3) 在来のマシジミと外来のタイワンシジミ間の形態・分子遺伝学的差異は微小であり,両種はごく近い近縁種か,前者は後者の一系統と推定される。生息場所,形態,核型,精子形態,生殖様式,ミトコンドリア・核の遺伝子マーカーの分析により,外来シジミの系統,起源と侵入・拡散経路の一端が明らかになりつつある。</p>
著者
大高 明史 井上 忍 宮崎 葉子
出版者
日本陸水學會
雑誌
陸水學雜誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.241-254, 2010-12-25
参考文献数
31
被引用文献数
1

青森県・津軽十二湖湖沼群の越口の池水系は,湧水から始まり湖沼と河川が連続する短い水系で,水温の年間変動幅は流程に沿って顕著に増幅する。この水系の河川で,水温がヤマトヨコエビ(アゴナガヨコエビ科サワヨコエビ属)の分布や生活史に与える影響を調べた。ヤマトヨコエビは,水温が通年約10℃に保たれている源頭部の2湖沼とそれに流出入する2河川では通年繁殖が見られ,一方,水系の中ほどに位置する3河川では繁殖が冬季に限定されていた。さらに,下流側の2河川には分布しないことが分かった。現地調査と室内実験から,ヤマトヨコエビの生息や繁殖期間の違いには,生存と繁殖に関わる,いずれも高温で抑制される2種類の温度条件が関係していると推測された。ヤマトヨコエビは水温が約25 ℃以上にならず,かつ約12 ℃以下になる水域に生息可能で,このうち,夏期の水温が約12 ℃を越える場所では低水温期に繁殖が同調し,常に約12℃を下回る場所では繁殖が通年起こると考えられる。国内3種のサワヨコエビ属はいずれも湧水域を中心に分布するが,早期の繁殖と高い高温耐性を伴った柔軟な生活史変異を持つヤマトヨコエビは,この中で最も分散能力の高い種類だと考えられる。
著者
神戸 道典 伴 修平
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.375-389, 2007 (Released:2008-12-31)
参考文献数
39
被引用文献数
2 3

琵琶湖固有種であるアナンデールヨコエビ(Jesogammarus annandalei)について, 8,15,20および25℃における生残率,呼吸速度,アンモニアおよびリン排出速度を測定し,その水平分布に与える水温の影響について考察した。本種は,年一世代で,日中7~8℃の湖底に生息し,夜間温度躍層下部まで上昇する。飼育水温を8~15℃に変化させても生残率に影響はみられないが,20あるいは25℃まで上昇させると1日以内に50%が死亡した。呼吸速度はいずれの季節でも水温上昇に伴って増加する傾向を示し,また1~3月と10月に比べて5~6月に高かった。これは成長に伴う増加を示しており,呼吸速度(R)は体乾燥重量(W)と水温(T)で,logR = 0.695·logW + 0.03·T-0.34と表すことができた。一方,アンモニアおよびリン排出速度は5~6月には水温上昇に伴って増加傾向を示したものの,1~3月と10月には温0度に伴う増加はみられず,20℃を上回る高水温ではむしろ低下する傾向を示し,その影響は若齢個体で顕著だった。琵琶湖北湖における本種の水平分布は,湖底水温が周年を通して10~15℃以下の地点に偏っていた。本研究は,このことをよく説明し,水温が本種の水平および鉛直分布を決定する重要な環境要因の一つであることを示唆した。
著者
萩原 富司 諸澤 崇裕 熊谷 正裕 野原 精一
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.157-167, 2016-09-26 (Released:2018-06-11)
参考文献数
36
被引用文献数
2

霞ヶ浦には,在来種のヤリタナゴ,ゼニタナゴ,タナゴおよびアカヒレタビラの4種が同所的に生息する。近年,これら個体群の減少が著しく,地域絶滅が危惧されるものの,種ごとの個体数変動の要因はよく分かっていない。そこで,本湖におけるタナゴ亜科魚類群集の変遷とその要因を明らかにするため,1999年から2011年まで,タナゴ亜科魚類およびその産卵基質として利用されるイシガイ科二枚貝類の生息状況調査を実施した。調査の結果,在来タナゴ類の内,ゼニタナゴとヤリタナゴは採集されず,アカヒレタビラとタナゴは湖内全域で徐々に減少し,2010年頃にはほとんど採集されなくなった。外来種のオオタナゴは2000年頃に初確認され,その後徐々に増加し,2005年以降は毎年採集された。外来種のタイリクバラタナゴは減少傾向にあり,国内外来種のカネヒラも全調査期間を通して数個体しか採集されなかった。一般化混合加法モデルを用いて種ごとにタナゴ類個体数の時系列変化を解析した結果,在来タナゴ類が激減した要因として,オオタナゴの影響は検出できなかった。在来タナゴ類が利用するイシガイ科二枚貝類は,2006年の調査時点において,湖内全域で個体数が著しく減少していたことから,産卵基質の減少が影響している可能性が示唆された。一方,オオタナゴは,他のタナゴ類が激減した2010年以降も比較的多数採集された。これは,本種が産卵母貝として外来種のヒレイケチョウガイ交雑種を主に利用し,その産卵基質が淡水真珠養殖用に毎年供給されているためと考えられた。
著者
三橋 弘宗
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.251-258, 2000-10-30 (Released:2009-06-12)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

東京都多摩川水系秋川において,ニッポンアツバエグリトビケラNeophylax japonicus とコイズミエグリトビケラNeophylax koizumii の流程分布及び生活史の調査を行なった。上流域にはニッポンアツバエグリトビケラが,下流域にはコイズミエグリトビケラのみが分布しているが,比較的広範囲で両種の分布の重複がみられた。両種が同所的に生息する地点で生活史の調査を行なった。この2種はともに年一化の生活環をもち,ニッポンアツバエグリトビケラは,コイズミエグリトビケラよりも3ケ月早く12月に初齢幼虫が,1ケ月早く10月に成虫が出現した。両種間で幼虫,蛹,成虫の出現期間にずれがあったが,幼虫期の一部と前蛹期では,出現期間の重複が認められた。両種の幼虫が重複して出現する時期に,微生息場所の物理環境条件を調べたところ,両種間で齢期構成は異なるが,ニッポンアツバエグリトビケラはコイズミエグリトビケラと比して,より流速が早く水深が深い場所に分布していた。また,両種ともに前蛹期と蛹期が生活環の半分以上の期間を占め,この時期に集合性を示すことがわかった。
著者
大高 明史 神山 智行 長尾 文孝 工藤 貴史 小笠原 嵩輝 井上 栄壮
出版者
日本陸水學會
雑誌
陸水學雜誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.113-127, 2010-08-25
参考文献数
49
被引用文献数
1 4

湧水で涵養される湖列である津軽十二湖湖沼群・越口の池湖群(北緯40°)で,湖水循環のパターンと底生動物の深度分布を調べた。秋から春までの連続観測により,越口の池湖群には,通年成層しない湖沼(青池,沸壺の池),冬季一回循環湖(落口の池),二回の完全循環が起こる湖沼(越口の池),春の循環が部分循環で終わる湖沼(王池)という,複数の循環型の湖沼が混在していることが示唆された。これには,水温が一定の多量の湧水の流入や,冬期間の結氷の厚さや持続期間,有機物の分解に伴う底層での塩類の蓄積が関連していると推測された.落口の池と王池の底生動物群集の構成や現存量は,溶存酸素濃度に応じて深度とともに明瞭に変化した。酸素が欠乏する深底部上部にまで見られる種類は,イトミミズとユリミミズの2種の貧毛類とユスリカ属の一種など4分類群のユスリカ類で,他の山間の富栄養湖と共通していた。源頭に位置する青池と沸壺の池のふたつを除く7湖沼は,循環型が異なるにもかかわらず,いずれも成層期には深水層で溶存酸素が欠乏し,深底部下部に底生動物は見られなかった。自生的,他生的な有機物の負荷が高いため,成層期に湖底で速やかな酸素消費が起こるためと推測される。
著者
谷口 智雅
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.19-25, 1995
被引用文献数
1

戦前の水環境について,特に水質については現在発表されている数値に対応できるレベルのデータはない。そのために歴史的水環境の復元をするにあたり,文学作品中の水に関する記述に注目し,現在の資料と同じレベルの指標に変換することによって水環境の評価を行った。文学作品は著者による主観的なものではあるが,その時代や土地柄などの背景を十分映しだしている。そのため,自然の描写や社会情勢などは,ある程度客観的なものとして捉えることができるとみなした。文学作品中の河川や魚,植生などの自然の描写は,水環境を復元するうえで有効な資料である。<BR>文学作品中の生物的・視覚的水環境表現は生物的水域類型をもとに3段階評価を行い,1920,1940年頃の東京の水環境をメッシュマップとして復元した。その結果,1920年頃は「きれいな水域」が24,「少し汚れた水域」が186,「汚れた水域」が56であったのが,1940年頃にはそれぞれ13,150,113になった。1920~1940年頃にかけては「きれいな水域」と「少し汚れた水域」が減少し,「汚れた水域」のメッシュ数は2倍以上にも増加した。
著者
平林 公男 林 秀剛
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.p105-114, 1994-04
被引用文献数
5
著者
古田 世子 吉田 美紀 岡本 高弘 若林 徹哉 一瀬 諭 青木 茂 河野 哲郎 宮島 利宏
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.433-441, 2007 (Released:2008-12-31)
参考文献数
27
被引用文献数
4 6

琵琶湖(北湖)の今津沖中央地点水深90 mの湖水検体から,通常Metallogeniumと呼ばれる微生物由来の特徴的な茶褐色のマンガン酸化物微粒子が2002年11月に初めて観測された。しかし,Metallogeniumの系統学的位置や生化学については未解明な部分が多く,また特に継続的な培養例についての報告はきわめて少ない。今回,Metallogeniumが発生した琵琶湖水を用いてMetallogeniumの培養を試みたところ,実験室内の条件下でMetallogenium様粒子を継続的に産生する培養系の確立に成功した。Metallogeniumを産生する培養系には,真菌が存在する場合と真菌が存在せず細菌のみの場合とがあった。実際の湖水中には真菌の現存量は非常に少ないため,細菌のみによるMetallogeniumの産生が湖水中での二価マンガンイオン(Mn2+)の酸化的沈殿に主要な役割を担っていると考えられる。真菌が存在する培養系では約2週間程度の培養によりMetallogeniumが産生された。しかし,細菌のみの培養系においては,Metallogeniumの産生に4週間から6週間を要した。本論文では特に細菌のみの培養系におけるMetallogeniumの発育過程での形態の変化を光学顕微鏡および走査電子顕微鏡を用いて継続観察した結果について報告する。
著者
石飛 裕 神谷 宏 糸川 浩司
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.69-79, 1993-01-25 (Released:2009-06-12)
参考文献数
15
被引用文献数
12 19

1985年の9月から1986年8月まで,宍道湖および中海の水位を観測した。境水道では潮汐と気圧の影響を受けた水位変動が見られるが,これが,殆ど減衰することなく中海に伝わっていた。ところが,宍道湖では大きく減衰した半日周潮,日周潮と4~8日程度の不定期な周期をもつ長周期変動が見られた。この宍道湖の水位の変動特性を,355日間の時間データを用いたフーリエ解析により,下流の中海および境水道の水位変動と比較検討した。宍道湖で見られる半日周潮,日周潮は境からの伝搬時間が異なるが,これは,潮汐成分によって,中海が高く宍道湖が低い場合,その水位の関係が持続する時間が異なるために起きると推察された。また,流入河川による淡水の供給が小さい時の長周期変動は,境の水位変動の25時間平均値に従うことが明らかになった。毎秒200トンを越える斐伊川出水がある時の長期変動パターンについても議論した。
著者
昆野 安彦
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.145-149, 2003-08-20 (Released:2009-06-12)
参考文献数
10
被引用文献数
1 2

我が国で唯一永久凍土丘のパルサが存在する大雪山平ヶ岳南方湿原(43°37'N,142°54'E,標高1,720m;以下,パルサ湿原)において,池塘に生息する水生昆虫を調べた。その結果,4ヶ所の池塘から合計して5目15種238個体の水生昆虫類が採集された。優占4種はキタアミメトビケラ,ダイセツマメゲンゴロウ,オオナガケシゲンゴロウ,センブリであった。
著者
山本 優
出版者
日本陸水學會
雑誌
陸水学雑誌 = Japanese journal of limnology (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.51-58, 2017-01

この30年間で日本のユスリカの分類学的な知見は飛躍的に増大し,現時点で1206種の分布が確認されている。しかし,日本列島の多様な環境から,おそらく2000を超える種が分布するものと推測される。形態分類学の立場からユスリカの系統関係を推定するとき,正確な形態理解は必須条件である。しかし,特に雄生殖器の付属器や幼虫頭部の頭楯・上唇域は亜科や属間で形質状態に大きな相違が見られ,同一の名称が付けられていても,それらが相同器官であると判断するのは必ずしも容易ではない。Saether(1980)は雄生殖器基節上の三つの付属肢をvolsellaと判断し,それぞれsuperior volsella,median volsellaおよびinferior volsellaという形態述語(ターム)を与えている。この述語自体の使用はSnodgrass(1957)の解釈に基づけば形態学的には問題はないと判断されるが,各々の器官がユスリカ科全体を通して相同であると捉えることについては疑問が残る。現時点では雄生殖器に関してChironominaeについてはTokunaga(1938)あるいはEdwards(1929)に,OrthocladiinaeではSoponis(1977)の解釈に従っておく。幼虫頭部の形態についてはTokunaga(1935)の解釈を採用する。
著者
浦部 美佐子
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.109-116, 1993-04-30 (Released:2009-06-12)
参考文献数
16
被引用文献数
8 6

琵琶湖水系及びその周辺の2地点より得られたチリメンカワニナSemisulcospira reinianaを,遺伝的変異と成殻・胎殻形態の面から調べた。浜大津・宇治・美濃津屋の3ケ所では,遺伝的に区別される2型が生息していた。MPI-A型は,比較的小さく平滑または縦助のある胎貝を持っていた。MPI-B型は大きく縦肋のある胎貝を持っていた。しかし,同じ地点から得られたこれら2型は,成殻形態では区別できなかった。これらの結果から,過去の分類学的研究においては2型が混同されてきたことを指摘し,さらに成殻の収斂現象について示唆した。
著者
田中 晋 志垣 修介
出版者
The Japanese Society of Limnology
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.111-115, 1987-04-30 (Released:2009-11-13)
参考文献数
12
被引用文献数
2 3

The Japanese form of Daphnia obtusa Kurz, 1874 emend. Scourfield, 1942 is described. This taxon was recorded as a variety of D. pulex (De Geer) in Japan by UÉNO (1927), but has not been definitely described in the Japanese literature since SCOURFIELD's revision (1942). In Toyama Prefecture, D. obtusa occurs only in Yadoya-ike Pond, a small-shallow and turbid pond, from early March to early May.