- 著者
-
鈴木 明
- 出版者
- 社団法人 日本泌尿器科学会
- 雑誌
- 日本泌尿器科學會雑誌 (ISSN:00215287)
- 巻号頁・発行日
- vol.79, no.3, pp.527-533, 1988 (Released:2010-07-23)
- 参考文献数
- 25
細胞骨格蛋白の中間径フィラメントは, 細胞の癌化の過程をとらえる指標とひとつとして, 最近注目を集めている. 腎癌は近位尿細管上皮細胞から発生すると言われているため, 上皮細胞由来のサイトケラチンは, 腎細胞悪性化の適切な指標と推測される. また, ビメンチンは, 中胚葉由来細胞に特徴的に認められる. 今回, 我々は腎癌患者7例の手術によって摘出された腎の組織を用い, 二次元電気泳動法および免疫組織化学的方法を施行し, サイトケラチンおよびビメンチンの癌化に伴う変化を検討した. 塩基性型サイトケラチンの亜分画を検討したところ, 腎癌はサイトケラチンNo. 4のみの存在が同定されたが, 正常部髄質ではサイトケラチンNo. 1, 2, 3, 4, 6の5つの亜分画を検出し得た. また, 正常部皮質ではNo. 1, 4の2つの亜分画を検出した. 酸性型サイトケラチンを検討したところ, 腎癌と正常部組織のサイトケラチン表現型は非常に類似していたが, 腎癌ではサイトケラチンNo. 12が欠損していた. 一方, ビメンチンは腎癌の7例全例で認められた. 免疫組織化学的に検討しても, サイトケラチンとビメンチンの存在は, 腎癌全例で確かめられた. 以上の生化学的, 免疫組織化学的な特性から, 所謂腎癌は単なる腺癌ではなく, 肉腫のもつ性格をもあわせもっている腺癌であると考えた方が, 臨床的な特性を説明するうえにも矛盾がないように思われる.