著者
竹下 英毅 川上 理 立花 康次郎 平沼 俊亮 杉山 博紀 張 英軒 矢野 晶大 岡田 洋平 永松 秀樹 諸角 誠人 山田 拓己
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.107, no.4, pp.233-238, 2016-10-20 (Released:2017-10-24)
参考文献数
21

(目的) 精巣捻転症は,診断治療が遅れると精巣を喪失するため,臨床的社会的に重要な救急疾患である.近年,精巣捻転と外気温との関連が指摘されているが,その詳細は明らかでない.今回,急性陰囊症手術症例を後方視的に集計し,精巣捻転発症と外気温との関係について検討を行った. (対象と方法) 対象は2004年10月から2014年10月までに精巣捻転症が否定できず,手術が行われた急性陰囊症105例.患者病歴より年齢・居住地域・発症日時・手術検査所見等の情報を収集した.発症日の外気温は,気象庁ホームページより居住地域に最も近い気象台のデータを用いた.χ2乗検定,ウィルコクソンの順位和検定,ロジスティック回帰分析で解析を行った. (結果) 年齢中央値13(1~43)歳,患側は右側46例,左側58例,両側1例であった.術中所見で67例が精巣捻転症,38例が非精巣捻転症と診断された.発症日平均外気温は捻転群で中央値10.8℃(1.8~29.4℃),非捻転群で19.4℃(1.9~29.1℃)あり,捻転群で有意に低かった(p=0.006).精巣捻転症の割合は,発症日平均外気温が15℃未満の場合45/56(80%)で同15℃以上での22/49(45%)と比べ有意に高頻度であった(p<0.001).また平均外気温15℃以上でも,最高最低気温の差(日内気温差)が10℃以上の場合に13/21(62%)で,同10℃未満の9/28(32%)と比べ精巣捻転症が高頻度であった(p=0.037).多変量解析の結果,年齢・血清CRP値・発症日外気温が急性陰囊症手術症例中から精巣捻転症を予測する有意な因子であった. (結論) 低外気温または日内気温差が大きい日の急性陰囊症は,精巣捻転症の可能性が高く,注意すべきである.
著者
江左 篤宣 永井 信夫 井口 正典 池田 智明 大鶴 栄史 井手 辰夫
出版者
社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.78, no.7, pp.1215-1219, 1987-07-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
15

妊娠により水腎症が出現することは200年以上前から知られている. 我々は妊婦30例に対し腎の形態学的変化を無侵襲かつ簡便な超音波断層法を用いて経時的に観察し, また同時に尿化学的検査を行ない, 妊娠が腎に及ぼす影響についても検討した.1) 妊娠中の腎の計測値では健康成人に比べ厚径が増加していた.2) 妊娠中の水腎症の出現は妊娠中期から後期にかけて著明となり, その出現率は71%と高率であった.3) 妊娠中の水腎症の出現は左腎に比べ右腎に程度, 率ともに有意に高かった.4) 水腎症の程度と尿中BMG・NAG値との間に相関性を認めなかった.5) 水腎症の程度と妊娠中毒症の症状の間に関連性はなかった.6) 妊娠により出現した水腎症は分娩後約1カ月で正常に復すると考えられた.超音波断層法によって妊娠により水腎症が高率に出現することが証明された. しかし分娩後の回復は著明であり, 妊娠, 分娩という女性における生理学的環境の変化は腎の形態に一時的に水腎症を招来するものの妊娠中, 分娩後には機能的に影響を及ぼすことは少ないと考えられた.
著者
大橋 伸生 斯波 光生 上谷 恭一郎 高村 孝夫
出版者
社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.639-646, 1971-08-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
34
被引用文献数
1 4

1) Seventy days peritoneal dialysis was performed for seven months in a thirty year old woman who was suffering from acute renal failure following ‘cold wave’ neutralizer (potassium bromate) poisoning. After twenty two days of total anuria and twenty days of oliguria, urine flow resumed and creatinine clearance increased to a level of 6.5ml/min. on the one hundred and twentyninth day. However, she needed periodic peritoneal dialysis. Mental disorder (schizophrenia) found out since the fourtieth day and loss of hearing disturbed the treatment. Finally she died of chronic renal failure on the two hundred and seventh day at a mental hospital.2) Thirteen cases of potassium bromate poisoning were reported in Japan and seven cases died of renal failure (mortality rate, 54%).3) Eight cases among fourteen survivors with prolonged oliguria for more than three weeks recovered renal function sufficient to maintain usual life.
著者
堀田 浩貴 熊本 悦明 青木 正治 山口 康宏 佐藤 嘉一 鈴木 伸和 和田 英樹 伊藤 直樹 塚本 泰司
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.82, no.12, pp.1939-1946, 1991-12-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
18
被引用文献数
1

夜間睡眠時勃起現象 (NPT) は, ほとんどすべての健康男子に見られる生理現象であるが, 小児での検討は少ない. そこで今回我々は, 3歳から18歳までの小児30例で, NPT測定を行い, 身体的発育と性的成熟度との関連について検討した.1. NPTの回数は各年齢でバラつきが大きいが, 10歳過ぎ頃より増加傾向を認め, 13, 14歳の2例で14回と最高値を示した.2. 陰茎周増加値 (一晩のNPTのエピソード中, 最大の陰茎周変化の値) は10歳まではすべて10mm以下であったが, 12歳過ぎ頃に急激な増加が見られた.3. NPT時間 (一晩のNPT時間の合計), %NPT時間 (睡眠時間に占めるNPT時間の割合) は, ともに12歳頃より急激な増加が認められた. %NPT時間は, 血清LH値とほぼ正の相関を示していた. また思春期発来の指標と考えられている夜間睡眠時のLH pulseが認められた例では, 認められなかった例に比し, %NPT時間は明らかに高値であった.4. 以上から, 小児におけるNPTの測定は, 他の内分泌学的指標とともに思春期発来を知る上での生理学的指標となり得る可能性が示唆された.
著者
宮前 公一 大塚 知博 大塚 芳明 永芳 実 濱田 泰之
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.97, no.5, pp.743-747, 2006-07-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
8

(目的) 血塊による膀胱タンポナーデの症例報告は多く見られるが, まとめて検討した報告は非常に少ない. 今回, 我々が経験した血塊による膀胱タンポナーデの原因, 背景, 治療について retrospective に検討した.(対象と方法) 対象は2002年10月から2005年9月までに膀胱タンポナーデで当院救急外来または当科外来を受診した20例. それぞれの症例の原因, 患者背景, 凝固系検査, 治療内容について検討した. 平均年齢は740歳 (60歳~89歳) で男性17例, 女性3例であった.(結果) 抗凝固薬を内服していた症例は8例, 脳梗塞または心筋梗塞の既往を有する症例が6例, 抗コリン薬を内服していた症例は4例, 前立腺肥大または尿道狭窄を有する症例は9例であった. 出血源は膀胱腫瘍からが9例, 前立腺癌からが1例, 放射線性膀胱炎による例が3例, 慢性膀胱炎による例が1例, 腎悪性リンパ腫による例が1例, 医原性による例3例, 原因不明が2例であった. 1例を除き他19例全例に凝血塊の除去及び生理食塩水による膀胱内持続洗浄を施行し, 同処置のみで肉眼的血尿が消失した症例は8例であった. 同処置にて肉眼的血尿が消失しない症例には, 経尿道的手術を施行し, 10例出血が消失した. 1例は血尿が消失せず膀胱全摘除術を施行した.(結論) 高齢者の割合が増加するにつれ排尿障害や抗凝固薬使用が増加し, 膀胱腫瘍や放射線性膀胱炎以外にも血塊による膀胱タンポナーデ症例が増加する可能性があると考えられた.
著者
堀田 浩貴 熊本 悦明
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.85, no.10, pp.1502-1510, 1994-10-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
19
被引用文献数
1 2

夜間睡眠時勃起現象 (nocturnal penile tumescence: NPT) は, ほとんどの健康男子に認められる生理現象である. NPTの指標を測定することで性機能評価が可能であることから, NPTは臨床応用されてきているが, その基本となるべき年齢別正常値がこれまで整理されていなかった. そこで健康男子189例を対象にNPTの各指標を測定し, 日本人のNPTの加齢性変化について検討した.NPTの各指標は10歳を過ぎる頃急激な増加を示したが, この増加には思春期前後で劇的な変化を遂げる視床下部, 下垂体そして精巣系の加齢性変化の関与が考えられた. またNPT時間, 一回あたりのNPT持続時間のピーク以後の減少傾向にも androgen の低下の関与が考えられた. 陰茎周最大増加値 (一晩の最大陰茎周変化値), 陰茎周最大増加率 (陰茎周最大増加値の弛緩時の陰茎周値に対する割合) は50歳代後半からその減少傾向が強まったが, これには androgen の低下とともに陰茎血管系および陰茎海綿体の加齢性変化が関与している可能性が考えられた.NPTの各指標は加齢性変化を示すことが明らかとなり, 男性の性成熟あるいはその衰退を表す可能性が示唆された. また本邦におけるNPTの各指標の基準値が形成され, 今後の性機能の臨床において意義深いものと考えられた.
著者
太田 匡彦 大園 誠一郎 池田 朋博 中農 勇 平尾 佳彦 渡辺 秀次 高島 健次 平尾 和也
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.95, no.5, pp.705-710, 2004-07-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

(背景) 最近, 健康ブームで, スポーツ人口が増加しているが, 一部に運動後血尿を認める場合があり, 運動性血尿として注目されている. そこで, 最も一般的な運動であるランニングと血尿の検討を夏季において行った.(対象と方法) 泌尿器科的疾患のないヘルシーボランティア109名に運動前安静時尿採取後, 5kmランニングを行い, 運動後尿を採取した. 評価可能例は90名で運動前後尿につき, 検尿, 尿沈査, フローサイトメトリーにより赤血球数, 赤血球形態について比較した.(結果) 運動後の尿中赤血球数増加例が83名であり, 運動後顕微鏡的血尿例 (赤血球数3個/hpf以上) は32名であった. そのうち赤血球形態学的検討で dysmorphic pattern が23名と最多であった.(結論) ランニングにより血尿が誘起され, 糸球体性血尿が中心と考えられた.
著者
佐々木 恒臣 門野 雅夫 菅原 剛太郎 寺田 雅生
出版者
社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.337-344, 1967 (Released:2010-07-23)
参考文献数
61

A 7 years and 8 months old boy with precocious development of secondary sex characteristics and well developed external genitalia was presented. The urinary excretion of gonadotropin, 17-KS, 17-OHCS and estrogen were under 6muu/day, 3.1-2.18mg/day, 3.28mg/day and 9.0μg/day, respectively. The pneumoencephalographic and electroencephalographic examination revealed no abnormality. Testicular biopsy specimen demonstrated well developed spermatogenesis. From the results above mentioned it was noted that the diagnosis of the patient was an idiopathic precocious puberty.
著者
松下 真史 川崎 芳英 岡田 康弘
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.95, no.7, pp.817-819, 2004-11-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
10

77歳男性. 2001年9月19日初診, 右尿管膀胱癌の診断で術前化学療法としてMVAC療法を3コース施行し同年12月12日に右腎尿管膀胱全摘除術 (ileal-neobladder) を施行した. 病理診断はTCC, G3, pT3N0M0であった. 外来 follow 中食欲不振を訴え2003年4月30日に入院. 胸腹部CT, 骨シンチで明らかな転移は認めなかった. その後, 全身筋力低下, 頚部硬直が出現, 頭部CT, MRIで水頭症を認めたため癌性髄膜炎が疑われ髄液検査を施行した. 髄液検査では髄液圧の上昇, 糖の低下, 蛋白の上昇, 細胞診で class V (urothelial carcinoma) が認められた. 癌性髄膜炎の診断6日後に死亡した. 尿路上皮癌 (移行上皮癌) の癌性髄膜炎は本邦8例目であった.
著者
杉山 高秀
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.80, no.8, pp.1134-1140, 1989-08-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
14

排尿あるいは性機能に障害を訴える55人の患者を対象として, 挙睾筋反射を主とし, 球海綿体反射, 膀胱内圧測定などを組み合わせて測定した. 挙睾筋反射の測定は, 知覚閾値の約10倍の単発電気刺激で, 大腿内側皮膚又は, 陰茎背側皮膚を刺激し, 両側恥骨部の高さにおいて挙睾筋に刺入した同芯針電極によって導出した誘発活動電位について行なった. その結果, 神経学的に異常のない20人に対しては全例において挙睾筋反射を認め, その平均潜時は大腿刺激で72.5±4.5msec, 陰茎刺激で74.3±5.3msecであった. 平均バースト長は大腿刺激で55.2±3.5msec, 陰茎刺激で54.0±4.8msecであっ. これより挙睾筋反射は脊髄機能障害, 脳血管障害の患者においてはその脊髄内障害部位を測定するのに極めて有用であった. さらに, 膀胱内圧測定, 球海綿体反射などを組み合わせることによりさらに詳細な脊髄内障害部位診断が可能と考えられた.
著者
馬場 志郎 大東 貴志 橘 政昭 出口 修宏 実川 正道 畠 亮 田崎 寛
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.82, no.12, pp.1916-1923, 1991-12-20
被引用文献数
10 2

経尿道式前立腺温熱治療器"ブロスタトロン"を用いて31例の前立腺肥大症症例に高温度治療法を試み,自覚的症状,他覚的所見の変化を検討しその効果を判定した。経尿道的に尿道前立腺部に挿入する22Fの治療用バルーンカテーテルはマイクロウエーブアンテナと冷却潅流回路を備えており,高出力で前立腺内部を安全に加熱できる。尿道内最高治療温度は43.3〜45.5℃(44.7±0.96℃:mean±S.D.)で平均出力は27.4Wattであった。治療時間は単回,1時 間ですべて外来通院で行った。1例には治療後尿閉が改善せずTURPを行い切除標本を組織学的に観察した。尿道粘膜はよく保存されているわりに前立腺組織内には,間質の壊死性変化のみならず腺管腔内に脱落した萎縮腺上皮細胞も観察され,プロスタトロンによる温熱効果が組織学的に証明された。のこりの30例の効果判定は自覚的症状,残尿量ならびに最大尿流量率を点数で表し治療後8週目で治療前の点数と比較した。自覚的症状,他覚的所見の両方とも点数の改善が認められたのは13例(43.3%),他覚的所見に改善がみられず自覚的症状のみが改善されたものが14例,自覚的症状scoreが不変で他覚的所見scoreが改善されたもの2例,これらの症例を合計すると29例(96.7%)になんらかの改善が認められた。総合scoreで,25%以上scoreが減少したものを『有効』,24%未満10%以上を『やや有効』とすると有効率は各々53.3%,37%であった。
著者
石岡 淳一郎 影山 幸雄 一柳 暢孝 斉藤 吉宏 野津 聡 西田 一典 福田 博志 東 四雄
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.98, no.6, pp.752-756, 2007-09-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
11
被引用文献数
3 3

(目的) Cold resect によるTURBTと化学放射線療法を用いて浸潤性膀胱癌に対する膀胱温存治療を行い, その成績を検討した.(対象・方法) TURBTと化学放射線療法による膀胱温存治療を, 浸潤性膀胱癌26例に行った. 深達度はT2:15例, T3:9例, T4:2例, 異型度は, G2:3例, G3:23例であった. TURは, 進達度診断の正確を期するため, 深部筋層まで, 止血のための最小限の電気凝固を用いながら生検鉗子で切除した. その後, 40Gyの外照射を行い, メソトレキセート30mg/m2の全身投与, シスプラチン70mg/m2の動脈内投与を2クール併用した. 治療終了後, 残存腫瘍の有無をTURで確認した. 治療後のTURも膀胱周囲脂肪に至るまで生検鉗子で組織を採取した.(結果) 26例中24例がTURBTを施行され, pT0が13例 (50%), pT1が9例 (35%), pT2が2例 (8%) であった. 平均観察期間24ヵ月 (3.9~69.8), 中央値21.9ヵ月で, 経過中に筋層浸潤癌として再発した2例に膀胱全摘除術を行った. 膀胱温存率は26人中24人, 92%であった. 遠隔転移は4例 (15%) で, 全例局所再発は認めなかった. 2年疾患特異的生存率は91%であった. 重篤な有害事象は認めなかった.(結論) Radical TURBT と化学放射線療法による膀胱温存治療は, 浸潤性膀胱癌に対する安全で有効な治療になり得る可能性が示唆された.
著者
斉藤 博
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.96, no.6, pp.632-639, 2005-09-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
23
被引用文献数
2

(目的) ヒポクラテス (紀元前460年頃) は古代ギリシア, コスの有名な医師で, 彼の業績は, 後世『ヒポクラテス全集』に記載されている. 私は『ヒポクラテス全集』の結石に関する記述を研究した.(方法)『ヒポクラテス全集』(ラーブ版, 大槻版, 今版) の尿路結石の記述を採集し, コス学派とクニドス学派とで比較した.(結果) 尿路結石に関する記述は24ヵ所で, 発生病理に関する記述は12ヵ所 (50%), 症状6ヵ所 (25%), 治療4ヵ所 (17%), その他2ヵ所 (8%) あった. 尿路結石の症状は血尿, 腹痛, 排尿痛, 排尿障害, 排石であった. 膀胱結石15ヵ所 (63%), 腎結石4ヵ所 (17%), 2ヵ所 (8%) は腎と膀胱結石の両方であった. 7ヵ所 (29%) は部位の記述はなかったが, 多分, 膀胱結石と推測された. 尿路結石の記述のうち, コス学派, クニドス学派, 学派不明の記述は15ヵ所 (63%), 4ヵ所 (17%), 5ヵ所 (21%) であった. コス学派の膀胱結石に関する記述は比較的多く, 腎結石に関する記述は少ないが, クニドス学派が多かった. 尿路結石に対する治療法は, 薬, 多分, 排石を助ける薬, 痛み止め, 痛みに対する入浴, 温罨法, 患部が腫れて盛り上がったら, 腎切開をする.(結論)『ヒポクラテス全集』には尿路結石の記述があるが, コス学派による膀胱結石の記述が多い. 膀胱切石術の記述はなく,“宣誓”では, 尿路結石の治療には切開術を禁じている. しかし, クニドス派の“内科疾患”には, 腎切開, 多分, 腎切石術を推測させる記述があった.
著者
金子 立 宮崎 一興
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.84, no.8, pp.1479-1488, 1993
被引用文献数
4 2

射精不能者に対して, さまざまな人工的精液採取法が行われているが, Brindley 法とパルス電流を用いるように改良した Seager 改良法による電気射精を, 脊髄損傷40例, 直腸癌根治術後の射精不能例1例に対して行い, その有用性を検討した. Seager 改良法では, 刺激に際して患者に与える電気エネルギーを減じるため, 正弦交流にかえ両極性のパルス電流を用いた. Brindley 法では18例中11例から精子を回収し, Seager 改良法では29例中24例から精子を回収した. 直腸癌根治術後の射精不能例1例も Seager 改良法により精子を回収することができた.<br>電気射精の副作用としては, 自律神経過反射と疼痛がみられた. 自律神経過反射は, 刺激の中止により速やかに消失し, この点でネオスチグミンのくも膜下腔注入法より安全な方法と考えられた.<br>脊髄損傷例の精液所見では, 受傷後経過期間とともに回収できた総精子数は減少する傾向がみられ, 運動率は慢性期のみならず, 受傷後1ヵ月以内の急性期の症例においても低下がみられた. したがって, 脊髄損傷における精巣, 精巣上体等の障害はかなり早期からおこる可能性が示唆された.
著者
白井 将文 竹内 睦男 佐々木 桂一
出版者
社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.241-245, 1971 (Released:2010-07-23)
参考文献数
19

Sexual dysfunction following perineal exposure and removal of the prostate gland is a common occurrence and well documented in urologic literature. The incidence of impaired potency following forms of prostatectomy, especially retropubic resection, however, has received less attention, thereby providing the basis of investigation for this publication. The case materials for this study were patients treated at the Tohoku University Hospital during the period from January, 1962, to March, 1969.Excluded from the study were patirents with prostatic cancer and those over 65 years of age. All data for the study were gathered in a form of questionnaire. In each history, such items as sexual desire, morning erections, frequencies and potency in coitus, condition of ejaculation and orgasm were explored. A total of 72 individuals answered the questionnaire.The operative technic was retropubic prostatectomy. Eighteen patients (25.0 per cent) complained a decrease in sexual desire following prostatectomy.Twenty three patients (31.9 per cent) reported a reduction in activity of erection during intercourse. Of these 23 patients, 14 had diminished potency and the remaining 9 were totally impotent.The mean frequency of intercourse was 2.58 per month before operation. Following prostatectomy, it diminished to 1.99 per month.Fourty-one point seven per cent of the patients (30 individuals) had no ejaculation following operation.Disturbance in orgasm was found in 37 individuals (51.4 per cent) following prostatectomy.
著者
近藤 厚生 木村 恭祐 磯部 安朗 上平 修 松浦 治 後藤 百万 岡井 いくよ
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.94, no.5, pp.551-559, 2003-07-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

(目的) 神経管閉鎖障害に罹患する胎児の発生リスクは, 母親が妊娠前に葉酸を摂取すると低減できる. 研究目的は, 女性が食事から摂取する葉酸について検討し, 葉酸血清濃度を測定することである.(対象と方法) 対象者は一般女性, 二分脊椎患者の母親, 妊婦, 二分脊椎患者, 看護学生の5群からなる222名の女性. 食事から摂取した葉酸量は, 食事記録を5訂日本食品標準成分表に準拠して解析した. 葉酸血清濃度は化学発光免疫測定法で測定した.(結果) 対象者は食事から葉酸を平均293μg/日摂取しており, 血清濃度は平均8.1ng/ml, エネルギー摂取量は平均1,857Kcalであった. 妊婦が食事から葉酸を最も多く摂っており, 血中濃度も最高値を示した.「日本人の栄養所要量」が規定する葉酸量を充足しない対象者の割合は, 成人女性が22%, 妊婦が72%であった. 葉酸は第3食品群 (香川綾分類) から最も多く摂取されていた. 葉酸サプリメント400μg/日を16週間内服すると, 基線値は7.8ng/mlから17.3へ上昇した.(結論) 葉酸経口摂取量は平均293μg/日, 血清濃度は平均8.1ng/mlであった. 妊婦の過半数は政府が勧告する葉酸量を摂取していなかった. 妊娠可能期の女性は葉酸に富む第3食品群を多く摂り, 妊娠を計画する女性は妊娠4週前から妊娠12週まで葉酸サプリメント400μg/日の内服が望ましい.
著者
丸茂 健 長妻 克己 村井 勝
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.90, no.12, pp.911-919, 1999-12-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
24
被引用文献数
1 3

(目的) 性機能に影響を与える危険因子についての検討が, これまで様々な方法でなされている. 著者らは質問紙法を用いて, 加齢と疾病が男性性機能に与える影響を検討した.(方法) 通常の日常生活を送る男性1,020例を対象として, 国際勃起機能スコア (International Index of Erectile Function, 以下IIEF) 質問紙を用いて男性性機能を評価し, 各疾病の有無と加齢が勃起機能, 極致感, 性欲, 性交の満足度, 性生活全般の満足度の尺度となるスコアに与える影響を検討した.(結果) 有効回答は967例 (94.8%) であった. 回答をもとに分散分析法を用いて解析を行ったところ, 高血圧症, 心臓病などの循環器系疾患, 糖尿病, 高脂血症が50歳代の男性において勃起機能に有意な影響を与えることが示された (p<0.05). これらの危険因子を有する対象を除外し, 健常と考えられた男性において, 加齢が勃起機能, 極致感, 性欲, 性交の満足度に有意に影響することが示されたが (p<0.001), 性生活全般の満足度に影響するものではなかった (p=0.146).(結論) 従来より勃起障害の危険因子考えられていた疾病と加齢が男性性機能に影響を与えることを質問紙法の結果から示した. IIEFは勃起障害を治療する際の治療効果の評価のみならず, 各種疾病または生活習慣などが勃起機能に与える影響を検討するための, 疫学的検討にも有用であると考えられた.