著者
高柳 明夫 小林 皇 橋本 浩平 加藤 隆一 舛森 直哉 伊藤 直樹 塚本 泰司
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.99, no.7, pp.729-732, 2008-11-20 (Released:2011-01-04)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

症例は32歳, 男性. 両側精巣萎縮と性欲減退を主訴に2006年2月9日に当科を初診した. 問診より1999年からのアナボリックステロイド (AAS) の濫用が判明した. 身体所見では両側精巣容積が13mlと萎縮していた. 内分泌的検査では黄体化ホルモン, 卵胞刺激ホルモン, 総テストステロンは低値であり, 遊離型テストステロン (Free T) は高値だった. また, 後日判明した sex hornomne binding globulin (SHBG) も低値であり, 算出された calculated Bioavailable testosterone (cBAT) も低値だった. 以上の所見からからAASの濫用による低ゴナドトロピン性性腺機能低下症と診断した. AASの中止のみで経過観察を行ったが改善を認めなかったため, 5月18日より週1回のヒト絨毛性ゴナドトロピン (hCG) 3,000単位筋肉注射を開始した. その後6月22日に内分泌学的検査を施行したが自覚症状, 内分泌検査所見ともに改善は認めていない. AASの濫用により低ゴナドトロピン性性腺機能低下症となることが知られており, 一部の患者ではAAS中止後も性腺機能低下症が改善しないことが報告されている. 本症例においてはhCG注射を早期に開始したことが早期に精巣機能を改善するかどうかについて今後の注意深い観察が必要である. また, 本症例の病状を把握する上では free T よりもcBATを用いることが有用だったと考えられた. AASには多くの重篤な副作用があり安易な使用は控えるべきである. またAASの副作用に関しての広い啓発により濫用を防ぐことが必要と考えられた.
著者
新井 啓 川上 芳明 大澤 哲雄 波田野 彰彦 糸井 俊之 水澤 隆樹 筒井 寿基 谷川 俊貴 高橋 公太
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.525-528, 2003-05-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
19

症例は, 28歳男性および30歳男性の兄弟. 弟は左精巣の腫脹を主訴に受診し精巣腫瘍を疑われ手術となった. 術中, 子宮・卵管の遺残を認めたため, 交叉性精巣転移を伴うミュラー管遺残症候群に精巣腫瘍を合併したものと診断された. 兄は不妊症を主訴に受診し精巣の生検の際, 子宮・卵管の遺残を認め, 交叉性精巣転移を伴うミュラー管遺残症候群と診断された.
著者
小川 貢平 阪口 和滋 岡 優 永本 将一 黒澤 和宏 浦上 慎司 岡根谷 利一
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.110, no.1, pp.41-46, 2019-01-20 (Released:2020-01-20)
参考文献数
14
被引用文献数
2 1

症例は59歳女性.2015年3月肉眼的血尿,右腰部痛を主訴に当科を受診した.腹部CTにて両側腎盂に長径右18mm大,左15mm大の結石を認めた.並存疾患として潰瘍性大腸炎があり,サラゾスルファピリジン(SASP)を約30年間内服していた.尿検査所見は酸性尿で,尿酸結晶を認め,腹部単純X線では結石陰影を認めなかったことから尿酸結石を疑い,尿アルカリ化薬と尿酸生成抑制薬の投与を開始した.しかし,治療開始3カ月後の腹部CTにて,両側の腎結石は右25mm大,左24mm大と増大傾向を示し,右腰部痛増悪を認めたため,2015年9月右腎結石に対し,経尿道的砕石術(TUL)を行った.結石は橙色で柔らかく,約半分を砕石し結石分析に提出したところ,尿酸結石ではなく薬剤性結石が疑われた.結石と共にSASP錠を提出し,赤外分光分析法にて照合したところ結石と類似していたため,SASPによる薬剤性尿路結石と診断した.治療として潰瘍性大腸炎治療薬をSASPからメサラジンに変更し,尿アルカリ化薬の増量を行ったところ,3カ月後の腹部CTで両側腎結石消失を認めた.その後,結石予防薬の投与なしで,結石再発は認めていない.
著者
星 宣次 折笠 精一 吉川 和行 鈴木 謙一 石戸谷 滋人 伊藤 明宏 近藤 丘 今井 克忠 木崎 徳 鈴木 康義 加藤 正和
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.88, no.1, pp.46-52, 1997-01-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
20

(背景と目的) 腎癌肺転移切除例を検討し, その有用性と手術適応を明らかにする.(対象と方法) 1981年より1994年末までに腎癌肺転移の切除術を行った17例 (男性14例, 女性3例) を対象とした. 肺転移手術時の年齢は, 45歳から73歳で平均年齢61歳. 原発巣術後に肺転移が出現したのが11例, 6例は腎癌診断時肺転移があり, 3例は肺手術を, 3例は腎摘を先行した. 他臓器転移が4例に見られ, 脳転移摘出, 対側腎転移に対する腎部分切除, 胸壁と肋骨転移部切除, 対側副腎転移の切除がそれぞれ行われた. 肺の片側手術例14例, 両側手術例が3例であり, 12例に肺部分切除が行われ, 5例に肺葉切除術が行われた.(結果) 肺手術後生存期間は10ヵ月から10年9ヵ月で, 肺手術による合併症は認められなかった. 疾患特異的生存率, 無病生存率はそれぞれ5年で55, 48%, 10年で27, 14%であった. 癌なし生存例はすべて10個未満の肺転移例であった.(結論) 腎癌の肺転移切除により長期生存例が得られ, 症例によっては大変有用であった. 肺転移数が10個未満の症例に予後良好例が認められた.
著者
金田 真実 伊藤 秀明 堀江 直世 多賀 峰克 渡邉 望 大越 忠和 今村 好章 横山 修
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.104, no.6, pp.712-715, 2013-11-20 (Released:2014-12-11)
参考文献数
9

症例1は62歳,女性.腹部CT検査にて左腎腫瘍を指摘され受診した.腎細胞癌を疑い腹腔鏡下左腎部分切除術を施行した.腫瘍は類上皮細胞からなり,類上皮型腎血管筋脂肪腫と診断された.症例2は35歳,女性.背部痛精査のCT検査にて右腎腫瘍を指摘された.腎細胞癌の術前診断のもと,腹腔鏡下右腎摘除術を施行した.免疫組織化学検査にてHMB-45, MelanAなどが陽性で類上皮型腎血管筋脂肪腫と診断された.類上皮型腎血管筋脂肪腫は腎血管筋脂肪腫の一亜型であり,腎細胞癌や他の悪性疾患との鑑別が困難な,比較的稀な疾患である.悪性の経過を辿る例が報告されており,悪性腫瘍と捉えて腎細胞癌と同様の経過観察が必要と考える.
著者
笠井 利則 守山 和道 辻 雅士 上間 健造 桜井 紀嗣
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.92, no.4, pp.538-541, 2001-05-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
14
被引用文献数
1 2

症例は82歳, 女性. 無症候性肉眼的血尿を認め1997年6月3日, 当科を受診した. 膀胱, 後部尿道に多発性乳頭状腫瘍を認め膀胱生検を施行し, 病理所見は移行上皮癌, Grade 2 (TCC, G2) であった. CTで壁外浸潤, 遠隔転移を認めず adriamycin (ADM) 膀胱内注入, 低用量の cisplatin (CDDP) 点滴静注, 膀胱への放射線照射 (計50Gy) を施行した. 腫瘍は著明に縮小し, TUR-Bt. を施行した. 病理所見で膀胱筋層への浸潤は認めなかった. 1998年4月, 不正性器出血が出現し膣壁に多発性乳頭状腫瘍を認めた. 同時に膀胱内にも再発を認めTUR-Bt. を施行した. 膣粘膜生検の結果は, TCC, G2であった. MRI・全層針生検では膀胱から膣への浸潤は認めず膀胱移行上皮癌の膣内播種と診断し, 膣・子宮腔内照射を施行した. 膀胱内再発に対してはBCG膀胱内注入療法を施行している.
著者
池上 雅久 橋本 潔 大西 規夫 井口 正典 際本 宏 栗田 孝
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.85, no.12, pp.1781-1783, 1994-12-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
8

われわれは矮小陰茎を主訴として来院した48XXYYクラインフェルター症候群の1例を経験した. 症例は21歳の男性で高身長, 肥満型で女性化乳房を認め, 陰茎長は短く, 両側の精巣は発育不良であった. 内分泌学的にLH, FSHの高値, テストステロンの低値をしめした. 染色体分析にて非常にまれな48XXYY Klinefelter Syndrome と診断された. 軽度の知能障害があり, 精神状態が不安定であるということより, 会社を退職していたが, 外来にてプロテスチン処方により, 二次成長に関する変化がみられ, さらに精神状態が安定し, 再就職可能となった.
著者
高橋 正博 堀口 明男 濱田 真輔 神原 太樹 辻田 裕二郎 住友 誠 浅野 友彦 新本 弘
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.103, no.4, pp.636-639, 2012-07-20 (Released:2013-09-03)
参考文献数
11

症例は42歳男性.右陰囊痛にて近医を受診し,精巣上体炎の診断にて抗生物質の投与を受けた.その後,症状増悪する為に,紹介受診となった.超音波検査では,右精巣上極に血流が認められない径4 cm大の低エコー領域を認めた.MRIでは右精巣上極にT2強調画像で高信号,T1強調画像で淡い高信号を呈する病変を認めた.造影にて同部位に局所的な血流障害を認め,区域性精巣梗塞と診断されたため,保存的に経過観察した.陰囊痛は保存的に軽快し,発症3カ月後のMRIでは梗塞巣の縮小を認めた.精巣区域梗塞は稀であり,精巣腫瘍や精巣捻転との鑑別が困難なため,外科的摘除後に診断が確定する例が多い.急性陰囊症におけるMRI検査は不要な外科的治療を回避するのに重要な検査と思われた.
著者
里見 佳昭 仙賀 裕 福田 百邦 河合 恒雄
出版者
社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.909-916, 1984-06-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

腎細胞癌に対する化学療法の第4報として, インターフェロンの有効性について, リンパ芽球由来の human lymphoblastoid interferon (α型) を用いて検討した.1) 転移のある腎細胞癌患者19例に対し, 連日投与60回以上できた症例について効果を判定した. CRはなく, PR 2例, MR 3例, NC 4例, PD 5例で, 有効率は35.7% (5/14) と従来の抗癌剤にない高い有効率を示した. 現段階では腎細胞癌の第1選択薬剤として使用すべきと考える.2) 効果の発現は20回から60回投与の間で起こり, それ故, 効果の判定は60回以上投与後に行うべきと考える.3) 性, 年齢, 腫瘍の大きさは有効率を左右しない. low grade 症例は4/7の有効率であり, high grade 症例は1/7で, 特に low grade の腎細胞癌には第一選択剤として使用する価値のある薬剤である.4) 最大の副作用は全身倦怠と食欲不振で, しばしばこのために治療中止をせざるを得なくなる. 骨髄抑制はじめ他の副作用は軽微である.
著者
平賀 聖悟
出版者
社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.71, no.9, pp.1024-1046, 1980-09-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
55
被引用文献数
1 1

ラットおよびヌードマウスを用いて精巣組織の精巣内同種移植実験を行ない, 移植片の生着および生着後の機能に関して組織学的判定基準を作成し, 移植片生着とその造精機能について年齢的および免疫的要因を中心に検索した. 移植片の生着成績はヌードマウス間>幼若ラット間>幼若→成熟ラット間の順序に良好であり, 成熟ラット間の移植では全例生着しなかつた. なお移植組織が未熟なほど生着は良好であつた. 幼若→成熟ラット間の移植に対する免疫抑制 (azathioprine, prednisolone) の効果は azathioprine 単独投与例以外は生着率が向上した. 成熟ラット間移植に対しhCGによる recipient 精巣の刺激は効果を示さなかつた. 移植片の機能に関しては, ヌードマウスへの移植片は造精機能の低下と導入の遅れを認め, 幼若ラットの精巣移植片は donor が若いほど造精機能の導入は良好であつたが長期移植例では一度導入された造精機能が再び低下した. Recipient が幼若ラットの場合には未熟精巣移植片の造精機能が donor と同齢の対照に対し促進していた. 免疫抑制剤の投与により移植片は機能低下の傾向を示した. 以上より精巣組織の生着および造精機能に関しては donor の年齢的要因が重要であり, 精巣組織の成熟に伴う阻血に対する耐性の低下と造精細胞の抗原性の発現が移植組織の生着とその後の機能に関与しており, さらに生着組織の造精機能の導入には recipient 側の内分泌環境が関与していることが示唆された.
著者
三木 恒治 前田 修 細木 茂 木内 利明 黒田 昌男 宇佐美 道之 古武 敏彦
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.83, no.11, pp.1789-1794, 1992-11-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
23
被引用文献数
2 2

大阪府立成人病センター泌尿器科における stage I 精巣セミノーマの治療成績を検討し, 予防的放射線療法を行わない surveillance の適応について考察した. 1962年から1990年末迄に当科において治療を行った stage I 精巣セミノーマ50例を対象とし, その再発率, 再発部位, 予後などを検討した. 27例は予防的放射線療法を行い (RT群), 1986年以後の23例は予防的放射線療法を行わない surveillance のみとした (S群). RT群では1例 (3.6%) に除睾術後3ヵ月で肺に再発を認め死亡したが, 26例は全例再発なく生存している. 予防的放射線療法による副作用は, 照射時の一時的な食思不振のほかは認めなかった. 一方S群では2例 (8.7%) に除睾術後4ヵ月, 7ヵ月で後腹膜リンパ節に再発を認めたが, 2例とも化学療法にて完治した. 残りの21例は全例再発なく生存している (観察期間14~70ヵ月). 以上より再発率についてはRT群が低く, 肺のみの再発であり, 再発の検索は比較的容易である. しかし, シスプラチンを用いた有効な化学療法により, 予後について両者に差はなく, 十分な再発の検索が可能ならば, 今後 stage I 精巣セミノーマに対する surveillance 法は適応可能といえよう.
著者
小澤 迪喜 窪木 祐弥 末永 信太 石井 達矢 鈴木 仁 土谷 順彦
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.108, no.2, pp.114-117, 2017-04-20 (Released:2018-04-19)
参考文献数
11

61歳男性,維持透析中.PSA高値のため経直腸的前立腺生検を施行.生検1時間後から肛門部重苦感が出現,7時間後から強い下腹部痛と胆汁様嘔吐が出現.貧血の進行と単純CTで一部腹腔内に達する巨大な後腹膜腔内出血を認め,前立腺生検時の動脈性出血が原因と考えられた.全身状態安定しており輸血と保存的加療にて症状は改善した.
著者
槙山 和秀 中井川 昇 村上 貴之 林 成彦 佐野 太 河原 崇司 関口 善吉 窪田 吉信
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.101, no.6, pp.721-725, 2010 (Released:2012-03-16)
参考文献数
15
被引用文献数
2 1

(目的) 腹腔鏡下膀胱全摘除術(LRC)は従来の開腹膀胱全摘除術(ORC)と比較し,周術期にメリットがあるか否か検討した. (対象と方法) 横浜市立大学付属病院で膀胱全摘除術を施行した連続した22例を対象とした.2008年2月から2009年5月に施行したLRC 11例と,2006年10月から2009年4月に施行したORC 11例の周術期成績を比較した. (結果) 平均手術時間はLRC 521分,ORC 428分で有意にLRCが長かった(p=0.00794).平均出血量はLRC 801ml,ORC 2,156mlでLRCが有意に少なかった(p=0.0014).術後食事開始日の平均はLRC 4.6日目,ORC 9.3日目で有意にLRCが早期に食事開始できた(p=0.0142).術後最大C反応性蛋白(CRP)の平均はLRC 10.8mg/dl,ORC 16.6mg/dlで有意にLRCが低かった(p=0.0124).合併症発生率はLRC 27%,ORC 45%で有意な差はなかった(p=0.375).平均郭清リンパ節数はLRC 10.9個,ORC 13.7個で有意な差はなかった(p=0.262). (結論) LRCはORCに比べて,有意に手術時間は長いが,出血量は少なく,食事開始時期が早く,術後CRPのピークは低い.したがって,LRCはより低侵襲であり,術後早期にはメリットのある術式である.
著者
伊達 成基
出版者
社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.963-972, 1987-06-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
24

私たちの教室では, 経直腸的リニア電子走査装置を用いた精嚢超音波穿刺術を開発した。本法は, 経会陰的精嚢穿刺を超音波リアルタイム画像でモニタでき, 精嚢内容液の採取による内容液の分析, 細菌学的検査, 細胞学的検査など種々の精嚢の検査および精嚢疾患の治療が可能となった。1981年1月より1984年6月まで, 私たちの教室において, 精嚢炎53例, 血精液症8例, 前立腺癌5例, その他2例総数68例に対し精嚢超音波穿刺術を試みた。その結果, 本法は以下の点において有用であることがわかった。1) 精嚢内容液の採取。(1) 精嚢内容液の分析による生理学の研究。(2) 精嚢炎, 血精液症の病理生理学の研究。(3) 精嚢内容液の細胞学的検査による, 前立腺癌における精嚢への浸潤の有無。2) 精嚢内薬液注入。(1) 精嚢炎, 血精液症の治療。(2) 精嚢レ線造影。精嚢超音波穿刺術は, 近い将来, 精嚢疾患に対する新しい診断法および治療法となりえることが強く示唆された。
著者
上村 吉穂 福田 護 江川 雅之 小杉 郁子 大竹 裕志
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.102, no.4, pp.633-637, 2011 (Released:2012-08-09)
参考文献数
16

症例は,20歳代の男性.左背部痛を主訴に救急外来を受診.検尿で血尿を指摘され,当科を受診.DIPで左水腎症(grade 2),左腎盂尿管移行部(ureteropelvic junction;UPJ)狭窄,多発左腎結石を指摘.腹部CTでナットクラッカーディスタンスの短縮,腎血管造影検査で左腎高血圧を認め,ナットクラッカー症候群と診断.これらに対し,左腎静脈転位術,左腎盂形成術,左腎盂切石術を一期的に施行.術後経過は良好で,術後2カ月目には,背部痛や血尿は消失.術後3カ月目のDIPで,左水腎症の改善(grade 1),腹部CTでナットクラッカーディスタンスの延長を認めた.術後12カ月が経過し,症状や左水腎症の再燃は認めていない.我々が知る限りでは,ナットクラッカー症候群,UPJ狭窄及び多発腎結石の合併,及びこれらを一期的に手術治療した報告はこれまでにない.
著者
平賀 聖悟 黒川 順二 内島 豊 荒木 重人 竹内 信一 牛山 武久
出版者
社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.76, no.12, pp.1855-1868, 1985-12-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
26

小児VUR 12症例についてレ線透視下膀胱内圧測定 (CG-CM) を行なった. 対象の内訳は非閉塞性VUR 7例, 神経因性膀胱に伴なうVUR 5例の計18尿管であり, 次の結果を得た. 過去においても同様の検査が行なわれたが, 本検査法に基づくVURの分類が膀胱内圧曲線 (CMG) を中心にしておらず, 臨床例と適合しないところもあるので新分類を試みた. すなわち, CMGの静止圧時における低圧逆流をType I, 排尿反射時の高圧逆流をType II, 腹圧による意識圧時の高圧逆流をType IIIとした.VUR起始時の平均膀胱内圧はType I, 25.6mmHg, Type II, 41.4mmHg, Type III, 86.3mmHgであった. その時の平均膀胱容量はType I, 387.9ml, Type II, 245.6ml, Type III, 53.3mlであり, 非閉塞性VURで膀胱容量が大きく, 神経因性膀胱に伴なうVURでは小さい傾向が示された. 本検査法によるVUR起始時の grade はスクリーニングのために行なった one-shot の膀胱撮影乃至は排尿時膀胱尿道撮影と異なる頻度であった. VUR発現の過程におけるどの grade を真の grade とすべきかという問題が生ずるが, CG-CMによりVURの時間的因子を含めた機能的 grading が可能である. VURの各 Type における grade と水腎症の程度とを比較すると, Type Iでは両者がほぼ一致し, Type IIとType IIIでは grade に比し水腎症が軽度であった. VURの各 Type におけるCMGは, Type Iでは大部分正常型及至は弛緩型膀胱, Type IIから Type IIIへかけて痒性膀胱あるいは無抑制膀胱の割合が増加した. 本検査法の最終目標は小児VURの治療方針の決定にある. 臨床症例が少なかったため, 今回は明確な結論は得られなかったが, Type Iで grade の低い場合は経過観察でよいが, 高 grade のものは外科的治療を要し, Type IIから Type IIIへかけて保存療法の割合が増える傾向が示された.
著者
梅本 晋 野口 剛 堤 壮吾 小林 幸太 逢坂 公人 岸田 健
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.110, no.3, pp.160-167, 2019-07-20 (Released:2020-07-20)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

(目的) がん微小環境によるサイトカイン分泌の結果,末梢血リンパ球数(absolute lymphocyte count:ALC)の減少が起こるとされる.我々は抗癌剤治療を施行した進行性尿路上皮癌症例におけるALCと治療効果,予後との関連性について検討した. (対象と方法) 2011年1月から2018年4月までに,根治手術不能または根治術後再発転移例に対し当院でプラチナ製剤による化学療法を施行した63例を後方視的に検討した. (結果) 観察期間中央値は12.2カ月で,38例(60%)が癌死し,全生存期間の中央値は15.3カ月であった.非奏功群(SD+PD)における平均ALCは,奏功群(CR+PR)よりも有意に低値であった(1,312/μL,1,666/μL,p = 0.004).奏効性予測における至適リンパ球数をROC曲線で検討するとcut-off値は1,460/μLとなり,リンパ球数減少群(ALC <1,460/μL)は非リンパ球数減少群よりも全生存において有意に予後不良であった(p = 0.001).全生存に対する多変量解析では,リンパ球数減少が独立した予後不良因子であった(HR 3.46,p=0.002). (結論) プラチナ製剤による化学療法を施行した進行性尿路上皮癌において,治療開始時のリンパ球数減少は効果不良および予後不良因子であった.