著者
田崎 晴明
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.51, no.10, pp.741-747, 1996-10-05
参考文献数
30

磁石(強磁性体)の中で, 数多くの電子のスピンが同じ方向を向いてそろうのは何故か? この古典的な間に答えるためには, 強い非線形な相互作用を及ぼしあいながら, 複雑に絡み合って量子力学的に運動する多くの電子たちの生み出す物理的なストーリーを読みっとていかなくてはならない. そのような理論的な試みの一つの側面を, Hubbard模型での強磁性の厳密な例を中心に解説する. 学部程度の量子力学の知識だけを前提にして, このテーマのおもしろさと最近の結果を伝えたい.
著者
黒田 和明 河邊 径太
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.62, no.9, pp.659-668, 2007-09-05
参考文献数
32
被引用文献数
2

ハルスとテイラーによるパルサー観測によりその存在が確認された重力波を直接検出することは,一般相対性理論の検証として重要であるばかりでなく宇宙観測の新しい手段として天文学や宇宙論の発展に貢献する.この重力波の検出を目指し,世界で大型レーザー干渉計が建設され,観測が行われている.干渉計による長期観測データの取得でいち早く世界をリードした日本のTAMA計画,すでに連星中性子星合体現象を15Mpc^<*1>までカバーできる感度ぞ観測中の米国LIGO計画と特徴的な検出器を擁する英独合同のGEO計画,観測に加わる態勢が整った仏伊合同のVirgo計画など,地上のレーザー干渉計検出器が本格的な観測を開始する.これに加えて,重力波の確実な検出を目指してより高感度な干渉計を建設する動きも強まっている.地上の検出器の完成に合わせて,より低い周波数の重力波検出を目指歩宇宙干渉計の計画も進行している.以上について解説する.
著者
梶田 隆章
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.326-331, 2003-05-05
被引用文献数
4

Cosmic ray particles entering the atmosphere interact with the air nuclei and produce neutrinos. These neutrinos are called atmospheric neutrinos. The atmospheric neutrino anomaly observed in Kamiokande is now understood as due to neutrino oscillations by high statistics measurements of the atmospheric neutrinos in Super-Kamiokande. The studies of the atmospheric neutrinos have matured into detailed studies of neutrino masses and mixings.
著者
笠木 治郎太 結城 秀行
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.190-194, 2003-03-05
被引用文献数
1

金属中でのD+D核融合反応が,クーロン障壁よりはるかに低いkeVエネルギー領域まで測定された.その結果,反応率がホスト金属に大きく依存すること,さらに,ある種の金属中では,反応率が常識では説明できないほど大きく増大することが明白になった.Li+D反応でも反応率の異常増大が観測され,金属中の核融合反応では,既知の遮蔽効果に加え,反応率大幅増大を可能にする重要なメカニズムの存在が強く示唆されている.
著者
村上 修一 平原 徹 松田 巌
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.840-848, 2010-11-05
参考文献数
94
被引用文献数
1

トポロジカル絶縁体は量子スピンホール相とも呼ばれ,最近"新しい物質状態(a new state of matter)"として量子伝導,場の理論,表面物理などを中心に物性物理の研究分野全体に話題を提供している.この相は2次元及び3次元系で実現されるもので,バルクが非磁性絶縁体であるのに対して,そのエッジ状態(2次元の場合)や表面状態(3次元の場合)はギャップレスである.このエッジ/表面状態はスピン流を運び,しかもこのエッジ/表面状態は非磁性不純物等による散乱からトポロジカルに保護されているなど新奇な物性が理論的に提唱されているが,ごく最近になってその実験的観測が報告された.本記事ではトポロジカル絶縁体の理論を解説するとともに,最近の実験研究の話題を紹介する.
著者
本堂 毅
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.430-434, 2003-06-05
被引用文献数
5 2

「車内では携帯電話・PHSの電源をお切り下さい」通勤電車内で見かける携帯電話のつり広告.その片隅に,申し訳程度に小さく書かれたこの文章に出会うときがある.では,電車内で何故携帯電話の利用が問題となるのだろう.飛行機なら携帯電話の電波(電磁波)が航空機の様々な電子機器に影響を与え,安全な運行を妨げることは知られている.でも,携帯電話の使用が電車の運行を妨げるという話は聞かない.マナーの問題なら,電源までオフにする必要はないだろう.
著者
須藤 靖
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.311-316, 2012-05-05

宇宙膨張は(正しく理解されているかは別として)今や現代人の常識と言っても良いほど広く知られた事実である.理論的には一般相対論の自然な帰結であり,その膨張宇宙解は,ロシアのアレキサンドル・フリードマン(1922年)およびベルギーのジョルジュ・ルメートル(1927年)によって発見された.一方,それが単なる理論的な解ではなく,我々の宇宙を記述していると考えられる根拠は,遠方銀河があまねく我々から遠ざかっており,しかもその速度がその銀河までの距離と比例しているという観測事実である.この速度-距離関係は,1929年の論文で発表した米国の天文学者エドウィン・ハッブルの名前を冠してハッブルの法則,速度と距離の比例係数はハッブル定数と呼ばれている.しかし,ルメートルは1927年の論文(フランス語)ですでに「ハッブルの法則」を発見していたという.しかも1931年に出版された英訳版の論文では,その該当箇所がなぜか消えている.このミステリアスな事実が最近,一部の天文学者の間で注目を集めている.
著者
金 信弘 増渕 達也
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.440-444, 2009-06-05

米国フェルミ国立加速器研究所の陽子反陽子衝突型加速器テバトロンを用いて行われている大型国際共同実験CDFとD0でのヒッグス粒子探索の結果と今後の展望について報告する.
著者
小島 智恵子
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.75, no.8, pp.509-512, 2020-08-05 (Released:2020-11-14)
参考文献数
21

歴史の小径少数派物理学者としてのド・ブロイ
著者
伏屋 雄紀 勝野 弘康
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.12, pp.817-822, 2022-12-05 (Released:2022-12-05)
参考文献数
26
被引用文献数
1

コーヒーにミルクを入れると,最後には均質なカフェオレができる.拡散が系を均質化することは,誰もが日常生活を通してよく知っている.しかし1952年,数学者のアラン・チューリングは,この日常経験に反する驚くべき現象が起こりうることを示した.拡散によって系が“非”均質化し,パターンが形成されるのである.さらにチューリングは,生物における形態形成のメカニズムは,この拡散に誘発される非均質化にあると予測した.1970年代には生物学分野でチューリング・パターンの研究が加速し,キリンやヒョウ,熱帯魚など様々な生物の模様がチューリング・パターンとして説明された.1990年代には化学分野で溶液反応を用いて実験的にチューリング・パターンが確認された.ところ変わって現代の固体物理学では,トポロジカル物質の研究が大変熱心に進められている.ビスマス原子1つ分の厚さしか持たないビスマス単原子層は,スピンだけの流れを室温でも生成できるトポロジカル物質の有力な候補として注目されている.2018年,スタンフォード大のグループが均質なビスマス単原子層の作製を試みる中で,これまで見たこともない奇妙な模様が原子レベルで現れていることを発見した.原子が描く模様の幅はわずか1 nmで,なぜそのように奇妙な原子模様が現れるのか,その理由は全くの謎であった.ビスマス単原子層におけるナノスケールの奇妙な模様は,見た目の上では,熱帯魚の縞模様によく似ている.熱帯魚の模様はチューリング・パターンとしてよく説明できることが知られている.ならば,ビスマス単原子層の奇妙な模様も,チューリング・パターンとして説明できるのではないか? そう考えた我々は,原子層におけるパターン形成の理論研究を行った.熱帯魚とビスマスの模様の見た目が酷似しているとはいえ,材質はもちろん,そのスケールが決定的に異なる.かたや幅約1 cm,かたや1 nm.7桁も異なるスケールが単一のチューリング理論でともに説明できるかは全く自明でない.我々は試行錯誤の末,ビスマス単原子層に本質的な三種の原子間ポテンシャルからなる有効模型を構築した.そこから得た時間発展方程式の数値シミュレーションにより,ビスマス単原子層で観測された模様と非常によく一致するパターンが形成されることを示した.さらに解析を進め,我々の時間発展方程式がチューリング・パターンの方程式と本質的に等しいことを数理的に証明した.すなわち,ビスマス原子が描く奇妙な模様の正体は,熱帯魚と同じ,チューリング・パターンであったことが明らかとなった.実際に観測されたチューリング・パターンとしては,世界最小である.今回の結果は,チューリング理論がcmからnmまで極めて広いスケールで有効であることを示している.そればかりでなく,チューリング・パターンがソフトマターだけでなく,原子スケールのハードマター(固体)でもみられることが明らかになった.今回の発見は,これまで考えられてきたよりもずっと多くの対象でチューリング理論が有効であることを示唆している.さらに,固い単原子膜に傷をつけても,生物と同様に自然治癒する性質があることもシミュレーションによって示された.生命科学で見られる現象が,無生物の固体で見られたのは驚きである.本研究のほかにも,生命現象に類似した現象が無生物の固体で見出される可能性が高く,今後の展開に注目したい.