著者
川名 敬
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.257-260, 2019-08-01 (Released:2019-09-20)
参考文献数
9

子宮頸癌の原因因子が,ほぼすべてでヒトパピ ローマウイルス (HPV) であることから,HPV を標的と した治療ストラテジーが期待される.子宮頸癌は,婦人 科腫瘍において,最も特定の標的を定めることができる 癌である.本稿では,我々が開発している HPV 標的治 療の可能性と,若年の浸潤性子宮頸癌 I 期に対する子宮 温存手術(生命の再建術)について紹介したい.
著者
渡邉 隆太 渡辺 一郎 奥村 恭男 永嶋 孝一 高橋 啓子 新井 将 若松 雄治 黒川 早矢香 大久保 公恵 中井 俊子 平山 篤志 磯 一貴 國本 聡 園田 和正 園田 和正 戸坂 俊雅
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.33-39, 2019-02-01 (Released:2019-03-30)
参考文献数
30

背景:心房細動 (AF) に対する高周波 (RF), cryoballoon (CB), hotballoon (HB) による肺静脈隔離 (PVI) が心臓自律神経活動に及ぼす効果を検討した. 対象及び方法:AF に対する RF (n = 18),CB (n = 31), HB (n = 16) による PVI 症例で PVI 前後に左房 (LA) 自律 神経叢 (GP) を刺激を施行し,迷走神経反射 (VR) の有無 を検討し,さらに,心拍数および心拍数変動を比較検討 した. 結果:RF-PVI 群,CB-PVI 群,HB-PVI 群で GP 刺激 による VR が 72%,73%,78%で消失した.術後の心 拍数は CB-PVI,HB-PVI 群で有意に増加したが,RFPVI 群では差を認めなかった.心拍数変動の高周波成分 (HF),低周波成分 (LF)/HF には各群とも PVI 前後で差を 認めなかった. 結語:PVI 後早期の心拍数変動は RF, CB, HB の3群 間で同等であったが,心拍数は CB, HB 群において有意 に増加した.PVI 後早期の心臓自律神経活動評価におい て,心拍数増加がバルーンを使用したアブレーションと カテーテルアブレーションとの違いであった.
著者
加藤 真帆人
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.153-160, 2015-08-01 (Released:2016-01-25)
参考文献数
30

Heart failure is an ambiguous term as a technical terminology, which means sometimes an existence of ventricular dysfunction, and sometimes a decompensated heart failure with symptoms and signs due to clinical congestion. Diagnostic procedure for congestive heart failure, so called Framingham Criteria, has been no changed for approximately half a century, however, the therapeutic strategy has been improved considerably, resulting in the congestion could be managed and heart failure patients released from symptoms and signs by congestion. Ironically, that makes the word heart failure more complex and obscure. Chronic heart failure is a new concept that is constructed by NYHA functional class as a degree of symptoms and by stage of heart failure as a degree of remodeling of myocardium due to neurohumoral activation, renin-angiotensin-aldosterone system and sympathetic nerve system, and would be able to cover all conditions of heart failure and also to provide the managements for patients in each stage. More understanding for the concept of chronic heart failure is beneficial regarding clinical managements of heart failure for not only cardiologists, but also all attending physicians.
著者
櫻井 健一 小笠原 茉衣子 芳沢 昌栄 岸田 杏子 奥山 貴文 増尾 有紀 秋山 敬 榎本 克久 天野 定雄 藤崎 滋 槙島 誠
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.179-182, 2015-08-01 (Released:2016-01-25)
参考文献数
10

リンパ節転移を伴った甲状腺微小癌を経験した.症例は68 歳,女性.甲状腺腫瘍を指摘され来院した.超音波検査で甲状腺に多発する腫瘍を認めた.穿刺吸引細胞診を施行したところ左葉の直径5 mm の腫瘤のみがClass IV の診断であった.甲状腺亜全摘術+リンパ節郭清術を施行した.病理組織診断は多発する腺腫様甲状腺腫と直径5 mm のpapillary carcinoma であり,左気管傍リンパ節に転移を認めた.微小癌の予後は良好とされるが,今後の慎重な経過観察が必要であると考えられた.
著者
落合 邦康
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.178-180, 2013-06-01 (Released:2014-12-20)
参考文献数
10

主要歯周病原菌 Porphyromonas gingivalis などが大量に産生する酪酸は,T 細胞やマクロファージなどに顕著にアポトーシスを誘導し,歯肉局所の免疫応答低下を誘導することから,感染が促進される可能性を報告した.また,ヒト免疫不全ウイルス (HIV) 感染者の歯肉溝内 HIV 量と歯周病の進展とが深く関わっているため,歯周病原細菌の増殖が潜伏感染 HIV の再活性化に関与する可能性があると考え検討を行った.その結果,酪酸のエピジェネティック制御を介して HIV が再活性化し,歯周病患者血清内で増加している TNF-α との相乗作用によりエイズ発症の可能性が示唆された.また,酪酸産生能のある腸内細菌や女性生殖器内細菌によっても同様に潜伏感染 HIV が再活性化された.さらに,酪酸は Epstein-Barr ウイルスの再活性化や口腔がん細胞の転移にも影響する可能性がある.「微生物間相互作用」 という視点から得られたこれら結果は,“慢性炎症性疾患・歯周病” が新たな全身疾患に深く関与している可能性を強く示唆している.
著者
儀保 翼 森本 哲司 吉田 圭 森内 優子 小川 えりか 高橋 悠乃 鈴木 潤一 石毛 美夏 渕上 達夫 高橋 昌里
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.87-91, 2017-04-01 (Released:2017-05-02)
参考文献数
12

集団食中毒で,急性脳症を合併した腸チフスの小児例を経験した.海外渡航歴はなく,発熱や消化器症状を主訴に入院.便・血液培養からSalmonella typhi が同定され,腸チフスと診断した.入院後みられた急性脳症は,後遺症なく治癒した.急性脳症発症時の髄液でIL-8,monocyte chemoattractant protein-1 が高値をとり,脳症発症にこれらのサイトカインの関与が示唆された.
著者
益子 貴行 小沼 憲祥 麦島 秀雄 松本 太郎
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.197-202, 2011-08-01 (Released:2013-10-20)
参考文献数
14

ハブ毒は強力な蛋白融解活性を有することが知られている.今回,ハブ毒静脈内投与による腸管絨毛傷害モデルマウスの作成を試みるとともに,このモデルを用いて腸管上皮再生における骨髄由来細胞の関与を検討した.各種濃度のハブ毒を C57BL/6 マウス尾静脈より投与し,用量―反応試験を行った結果,2.1 mg/kg ハブ毒投与によって,可逆性の腸管絨毛傷害を再現性よく惹起できることが明らかになった.次に GFP マウス骨髄細胞を移植したマウスに対し,ハブ毒を投与して腸管傷害を惹起し,再生絨毛上皮に存在する GFP 陽性細胞を組織学的に検討した.その結果, 再生上皮に存在する GFP 陽性細胞はハブ毒投与 3, 7 日後に有意な増加を認めた.骨髄由来で上皮細胞に分化したと考えられる (GFP 陽性CD45 陰性) 細胞もハブ毒投与後に一過性増加が認められたが,上皮細胞に占める割合は 1%以下であった.以上の結果より骨髄由来細胞は腸管絨毛傷害時の上皮再生過程に一部寄与する可能性が示唆された.
著者
葉山 惟大
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.127-128, 2015-06-01 (Released:2016-01-25)
参考文献数
12
著者
大瀧 宗典 松本 太郎 加野 浩一郎 徳橋 泰明
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.246-252, 2015-10-01 (Released:2016-01-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

脱分化脂肪細胞dedifferentiated fat cell (DFAT) は成熟脂肪細胞を天井培養することによって得られる多能性を有する細胞である.今回ヒトDFAT を用いた軟骨組織再生の可能性を検討した.ヒトDFAT を3 週間軟骨分化誘導培地にてペレット培養した結果,トルイジンブルーに異染性を示し,アグリカン陽性,II 型コラーゲン陽性の軟骨様組織の形成が認められた.3 週間ペレット培養したヒトDFAT を重症免疫不全マウスの皮下に移植し,移植2 週間後に皮下より摘出すると,より成熟度の高い軟骨様組織の形成が認められた.DFAT は少量の脂肪組織から簡便に大量調製が可能であることから,軟骨再生医療の新たな細胞源として期待できる.
著者
菊田 晋祐
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.70-73, 2016-04-01 (Released:2016-07-20)
参考文献数
21

Cardiovascular regenerative therapy has the potential to improve the treatment of peripheral artery disease (PAD), ischemic heart disease (IHD) and severe heart failure. Autologous implantation of bone marrow-mononuclear cells into ischemic limbs was reported as an effective application by the secretion of various angiogenic factors or cytokines. On the other hand, bone marrow cells and skeletal myoblasts transplantation for cardiac angiogenic therapy, injected directry into cardiac ischemic lesion, was generally insufficient to repair severe myocardial damage. To improve the efficacy of cardiac cell therapy, cell sheet technology was developed to reduce the damage of the transplanted cells. The discovery of iPS cells and cardiac master genes have changed the field of cardiac regenerative medicine. Because cardiomyocytes are terminally differentiated cells with limited regenerative capacity in adult heart, implantation of cardiomyocyte cell-sheet differentiated from iPS cells or the other pluripotent cell types, is expected as a new strategy of cardiac cell therapy. Moreover, direct cardiac reprograming which means cardiac fibroblasts induced converting directry into cardiomyocytes in damaged cardiac tissue, was discovered recentry. Here, this review summarizes recent advances in cardiovascular regenerative therapy and discusses the perspectives and challenges of new technology in basic biology and clinical applications.
著者
中村 秀
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.283-292, 2016-12-01 (Released:2017-01-25)
参考文献数
23

高齢者の中大脳動脈(middle cerebral artery: MCA) 領域脳梗塞では,脳萎縮の存在が生命・機能予後に影響すると報告されている.そこで,我々は計測するに簡便な二次元(梗塞面積)の評価方法を提唱すると同時に,病前の脳萎縮の程度を加味できる新評価法とすることで,それらが生命・機能予後の予見可能性を評価した.2009 年から2011 年までに当院に入院した60 歳以上のMCA 領域梗塞患者86 例を解析した.生命予後の点では脳萎縮を加味した測定法が有用であった.一方,機能転帰予測には脳萎縮を加味する利点はなかった.これは,脳萎縮が高度であれば急性期生命予後を改善する一方で,機能予後を悪化させる逆説的な結果となった.このことから,脳萎縮を同時に考慮し,評価に加えられるこの方法が,高齢者の広範囲MCA 梗塞に対する治療選択の一助になると考えられた.
著者
古川 誠
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.245-246, 2016-10-01 (Released:2016-11-07)
参考文献数
6
被引用文献数
1
著者
藤田 英樹
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.31-35, 2017-02-01 (Released:2017-03-21)
参考文献数
32
被引用文献数
1

乾癬はT 細胞性免疫に基づく慢性炎症性皮膚疾患である.これまで乾癬における免疫制御療法にT細胞機能を広汎に抑制するシクロスポリンが使用されてきた.近年,免疫反応に関係するサイトカインをターゲットとした生物学的製剤が多数登場し,すでに臨床の場で使用されているとともに新規薬剤の開発も進んでいる.TNF-α 阻害薬はそのような生物学的製剤としての成功例であるが,より最近の生物学的製剤は乾癬の免疫反応の中心をなすIL-23/Th17 の経路をターゲットとしている.IL-12/23p40 阻害薬のウステキヌマブやIL-17 阻害薬のセクキヌマブ・イキセキツマブ・ブロダルマブは乾癬に対して優れた効果が証明され,本邦でもすでに乾癬に対して承認済みである.本稿では乾癬の免疫制御療法の発展を,その病態理解の進歩とともに解説する.
著者
鈴木 周平 櫻井 健一 安達 慶太 増尾 有紀 長島 沙樹 原 由起子 榎本 克久 天野 定雄 野田 博子
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.304-307, 2015-12-01 (Released:2016-01-25)
参考文献数
9

症例は95 歳女性.50 年前にパラフィン注入法による豊胸術が施行されていた.左乳房腫瘤を自覚して来院した.左乳房AC 領域に直径7 cm の腫瘤を触知した.針生検の結果,浸潤性乳管癌と診断された.閉塞性換気障害のため全身麻酔は危険と判断され,局所麻酔下乳房切除術を施行した.豊胸術後の乳癌は異物注入により多様な臨床像を呈すため発見が困難であり進行例が多い.患者が高齢であれば手術方法も制限される可能性もあり,豊胸術後の定期的な検査が必要であると考えられた.
著者
八田 善弘
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.8-10, 2017-02-01 (Released:2017-03-21)
参考文献数
6

免疫チェックポイントは本来は,過剰な免疫応答を起こさないようにするnegative feedback 機構である.しかし,一部の癌腫はこの機構を利用して免疫逃避を行っている.この機序に関与するT 細胞上のCTLA-4,PD-1,および腫瘍細胞に発現しているPD-1 のリガンドであるPD-L1 に対する抗体が開発され一部は臨床応用が始まっている.これらの免疫チェックポイント阻害薬はがん治療の方向性を大きく変えつつあるが,今後はどのような症例に効果が現れるのかを見極め,適切に使用していくことが求められる.
著者
齋藤 修
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.122-127, 2015-06-01 (Released:2016-01-25)
参考文献数
4

2013 年,日本人の平均寿命は女性が86.6 歳と2 年連続世界一,男性は80.2 歳と初めて80 歳を超え世界4 位に上昇した.65 歳以上の人口が8-10% を占めると高齢化社会と言われるが,日本ではこの超高齢化に伴い2010 年には65 歳以上の人口が23% を占めるようになった.また何らかの介護を享受する人口は2009 年には470 万人に増加している.介護を要する原因疾患は2010 年の統計では,脳血管疾患が21.5%,認知症15.3%,老衰13.7%,転倒・骨折10.9%,関節疾患10.2% と整形外科疾患が21.1% を占めているのが現状である.2007 年日本整形外科学会(JOA; The Japanese Orthopaedic Association) は“locomotive syndrome”(ロコモティブシンドローム)の概念を提唱した.ロコモティブシンドロームは略称でロコモ,和名で運動器症候群と言われ,JOA はその診断,予防対策を推進してきた.日本国民のロコモティブシンドロームに関する認知度は未だに低いが,我々整形外科医が認知度の向上,診断,予防対策に貢献しなければならない.
著者
寺本 紘子 相澤(小峯) 志保子 真島 洋子 泉 泰之 芝田 克敏 黒田 和道 早川 智
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.16-20, 2009 (Released:2009-12-15)
参考文献数
11

漢方薬には,感冒様症状に対する多くの方剤があり,臨床の場面で処方されることも多い.本研究では,感冒様症状に対し処方される代表的な 4 方剤 (葛根湯,麻黄湯,小青竜湯,桂枝湯) に関して,ヒト末梢血単核細胞 (PBMC) のインフルエンザ HA 抗原特異的 Interferon-gamma (IFN-γ) 産生に対する漢方薬の影響,ならびにインフルエンザウイルス複製に及ぼす影響をELISPOT法とHA法で検討した.その結果,葛根湯,麻黄湯, 小青竜湯, 桂枝湯はいずれも 1-1000μg の範囲で,インフルエンザワクチン接種を受けた 6 名の健常者の PBMC のインフルエンザ HA 抗原特異的 IFN-g 産生を抑制した.小青竜湯は単独で PBMC の viability を低下させた.他の 3 方剤においても,インフルエンザ HA 抗原刺激下では抗原単独刺激に比較してPBMC の viability を低下させた.葛根湯,麻黄湯,小青竜湯,桂枝湯はいずれもインフルエンザウイルスの複製・増殖を抑制しなかった. 以上の結果より,葛根湯,麻黄湯,小青竜湯,桂枝湯のインフルエンザ感染に対する臨床症状の改善効果は,特異的免疫応答の増強ではなく,炎症反応の抑制によるものである可能性が示唆された.