- 著者
-
村永 信吾
- 出版者
- 昭和大学学士会
- 雑誌
- 昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
- 巻号頁・発行日
- vol.61, no.3, pp.362-367, 2001-06-28 (Released:2010-09-09)
- 参考文献数
- 9
- 被引用文献数
-
30
歩行, 階段など移動能力の改善に下肢筋力は重要な因子である.今日, 客観的筋力評価としてダイナモメータを用いての報告が散見されるものの, 機器が高価であり, かつ多くが固定式使用のために, 使用場所が制限され診療現場で広く活用されているとは言い難い.本研究はダイナモメータでの下肢筋力値を簡便に推定する方法として, 立ち上がり能力に着目し, その臨床応用について検討した.対象は筋力低下を主症状とする入院中の男性74名 (年齢60.2±18.5歳) , 女性68名 (年齢57.6±15.5歳) , 総計142名 (年齢58.9±17.0歳) とし, 股関節, 膝関節さらに足関節に著明な可動域制限なく, 痴呆等の精神障害もない者とした.立ち上がり評価は, 40cm, 30cm, 20cm, 10cm高のそれぞれのボックスに腰かけ, 反動を使わず両脚及び片脚にて立ち上がり可能な高さで判定した.ダイナモメータによる下肢筋力値として体重と膝伸展筋力の比率である体重支持指数 (WBI; weight bearin gindex) を算出した.また移動能力は, アンケート調査をもとに (1) 平地歩行, (2) 椅子からの立ち上がり, (3) 床からの立ち上がり, (4) 階段昇り, (5) 階段降りの各移動動作を全介助 (EAR) ・重介助 (SAR) ・軽介助 (MAR) ・修正自立 (MI) ・不完全自立 (II) ・完全自立 (CI) の自立度に分類し, この自立度とWBI, さらに立ち上がり能力との関係を明らかにした.立ち上がり能力とWBIに明らかな正の相関 (両脚r=0.67, p<0.01, 片脚r=0.75, p<0.01) が見られた.40cm, 30cm, 20cm, 10cmブロックでの立ち上がりに必要なWBIは, 両脚立ち上がり (BLS: both legs standing) の場合, 片脚当たりそれぞれ28.9±7.2%, 35.3±5.0%, 44.3±3.5%, 51.9±14.0%, 片脚立ち上がり (SLS: single leg standing) の場合, それぞれ62.3±14.3%, 68.0±13.7%, 90.2±9.2%, 102.7±11.8%であった.移動能力とWBIとの関係では, 平地歩行に比較して床からの立ち上がり, 階段昇降など重心の垂直成分を多く含む動作ほど高いWBIを必要とすることが示された.階段等を含めた移動動作におけるMIにはWBI43.8±7.5%, BLS20cm, IIにはWBI55.5±15.8, SLS40cm, さらにCIには72.2±19.9%, SLS20cmを必要とすることが明らかとなった.本結果から, 今回考案した立ち上がり評価は, 下肢筋力や移動能力が簡便に推定可能であり, 広く臨床場面で活用できると考える.