著者
櫻井 孝平 増原 英彦
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.3_141-3_152, 2007 (Released:2007-08-31)

本研究はアスペクト指向プログラミング(AOP)の新たなポイントカット機構として,テストに基づいたポイントカットを提案する.AOP言語はアスペクトを適用する時点を指示しなければならない.既存のAOP言語のポイントカットは,アスペクトが適用されるプログラム中の型名やメソッド名により指示を行うため,プログラムの些細な変更に応じてアスペクトの変更が必要であった.テストに基づいたポイントカットでは,テストを通じて間接的にアスペクトが適用される時点を指示する.そのため,プログラムの変更時にテストも修正される前提の下では,ポイントカット記述の変更が必要なくなる.またテストに基づいたポイントカットは,テストごとに異なる実行履歴を利用して,プログラムの実行時の実行履歴に依存したアスペクトの適用を指示することができる.そのため,適用するプログラムの特定の分岐などの時点を詳細に指示する必要がなくなり,簡潔な記述を得ることができる.実際にいくつかの事例に対してテストに基づいたポイントカットを利用し,ほとんどの場合に既存のAspectJによる記述よりも変更に強く簡潔な記述が可能であることを確認した.
著者
中島 震
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.2_26-2_32, 2018-04-24 (Released:2018-06-25)

統計的な機械学習プログラムには通常のソフトウェア・テスティングが前提とする確定的なオラクルが存在しない.相対的な正解値に基づく疑似オラクルを用いることになる.その具体的な方法として,多様なデータを入力して検査するメタモルフィック・テスティングが有力である.一方,機械学習プログラムへの入力は多数のデータからなるデータセットである.データ分布の違いが入力の多様性を表すといってよい.本稿は,コーナケース・テスティングを目的として,適切な偏りを持つ入力データセットを得るフォローアップ入力生成の新しい方法を提案する.具体例として,サポートベクタマシンならびにニューラルネットへの適用事例を報告する.
著者
阿部 洋丈 Hirotaka Abe 科学技術振興機構 CREST JST CREST
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1-14, 2006-01-26
参考文献数
32
被引用文献数
1

本稿では,近年注目を集めているpeer-to-peer型分散システムを構築するための基盤技術,分散ハッシュテーブル(Distributed Hash Table; DHT)についての入門的な解説を行う.分散ハッシュテーブル技術は,システム全体を管理する中央サーバを持たないようなpeer-to-peerシステム(pure peer-to-peerシステム)において,効率的なオブジェクト発見の実現を可能にする.
著者
森 彰 松本 吉弘
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.4_362-4_373, 1995-07-17 (Released:2018-11-05)

圏論は抽象数学から派生した代数的手法であるが,構文と意味の関係を厳密に定義できることと,可換図式や普遍写像性などによって,数学的構造を視覚的に扱うことができることから,ソフトウェア設計における意味の可視化に役立つものと考えられる.本論文では,情報システムを構成するデータ集合間のシグネチャを圏によって可視化することで,ソフトウェア設計の形式化を図る試みについて論じる.まず,ソフトウェアの統一意味モデルという概念を,GoguenとBurstallによって導入されたインスティチューションの概念を借りて説明し,この意味モデルがソフトウェア設計に占める重要性について論じる.そして次に,この意味モデルを圏を用いて可視化する方法について述べ,それがソフトウェア設計の形式化にどう役立つかを考察する.
著者
竹川 佳成 寺田 努 西尾 章治郎
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.4_51-4_59, 2006 (Released:2007-06-11)

鍵盤演奏において運指は演奏に影響する重要な要素であるが,同じ楽曲であっても演奏家の身体的特徴や音楽の表現方法によってさまざまな運指が考えられるため,楽曲から運指を一意に決定することは難しい.一方,実際に演奏を聴きながらリアルタイムで演奏者の運指情報を得られれば効率的な演奏学習や奏者と一体感のある音楽視聴が可能となる.そこで,本研究ではカメラベースのシンプルな画像処理と,鍵盤や運指特性から得られた演奏ルールを組み合わせることで,実時間で高精度に運指を取得するシステムを構築する.さらに,鍵盤習熟者による評価実験を行うことで,システムの有効性を検証する.
著者
千葉 滋 立堀 道昭 佐藤 芳樹 中川 清志
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.427-437, 2004-11-25 (Released:2008-11-30)

リフレクションの研究は,計算モデルが先行したので,当初実装は素朴なものばかりで実用にはならないとされていた.本論文は,素朴な実装では実行時に全て動的におこなっていた処理を,機能に制限を加えつつも,静的におこなえるようにし,実行速度を改善する技術について述べる.我々が開発したこの技術により,C++言語やJava言語のような実行効率が重視される言語でも,リフレクション機能を利用することが可能になった.また本論文は,リフレクションとアスペクト指向プログラミングとの関連を軸に,この分野の研究の今後の展望について,著者らの見解を述べる.
著者
山口 高平 福田 直樹 小出 誠二
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.4_12-4_18, 2005-10-26 (Released:2008-09-09)

セマンティックWebのバックボーンとして位置づけられるオントロジーは,知識ベース構築のプリミティブとしての意義を継承しつつも,Webの特徴である拡張性や分散性に対応するための新しい特徴を併せ持つ.本稿では,オントロジー記述言語OWLの特徴を要約すると共に,ソフトウェア工学の新しい潮流であるWebサービスを高度化する視点からOWLの記述能力についても言及する.
著者
渥美 紀寿 桑原 寛明
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.4_50-4_66, 2016-10-25 (Released:2017-01-14)

ソースコードの品質を向上させることを目的とし,様々な静的検査ツールが開発されている.静的検査ツールを利用する際は,繰り返し検査を実行して報告される警告を確認し,必要に応じて対処することが重要である.しかし,静的検査ツールが報告する警告にはfalse-positiveが含まれており,それらはソースコードを改変後も繰り返し警告として報告される.この問題を解決するために,本稿では,ソースコードの静的検査において得られる警告に関して,開発者が修正の必要性の有無を記録し,その情報を管理するツールを提案する.本ツールでは,ソースコードの版管理ツールを利用して,記録された警告の対象コードの変更前後の対応箇所を追跡し,既に記録された修正の必要のない警告を非表示にする.これにより,何度も同じ違反を確認する必要がなくなる.
著者
中田 育男 渡邊 坦 佐々 政孝 森 公一郎 阿部 正佳
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1_2-1_18, 2008 (Released:2008-03-31)

COINSコンパイラ・インフラストラクチャは,コンパイラの研究・開発・教育を容易にする目的で開発したものである.COINSは(1)高水準中間表現と低水準中間表現の2水準の中間表現をもつ,(2)記述言語はJavaで,すべて新規開発した,(3) SSA最適化など最適化の機能が充実している,(4)リターゲッタブルなコード生成系をもつ,(5)並列化の機能を持つ,といった特徴をもっている.開発作業は10箇所以上で分散して行い,3週間に1回程度の全体打ち合わせを持ち進めた.途中いくつかの失敗もあったが,ほぼ当初の目標を達成できた.入力言語はCとFORTRANとして,対象機種はSPARC, x86など,全部で8機種のコンパイラが出来ている.Cコンパイラの目的コードの性能は,GCCのそれに匹敵するものが得られている.COINSシステムはJavaで約26万行の大きさである.本論文では,このインフラストラクチャについて,技術面と開発作業の観点から述べる.
著者
秦野 智臣 石尾 隆 井上 克郎
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.4_4-4_15, 2016-10-25 (Released:2017-01-14)

ソフトウェア工学において,Javaを対象としたプログラム解析を行う場合,制御フローグラフやデータ依存関係,制御依存関係,メソッドの呼び出し関係がしばしば必要になる.これらの情報を得る手段として,既存のプログラム解析ツールを用いることが考えられるが,利用者が解析アルゴリズムについて十分理解していないと,その利用が困難である. SOBA(Simple Objects for Bytecode Analysis)は,プログラム解析に関する詳細な知識なしで容易に利用できるように設計された Javaバイトコード解析ライブラリである.本論文では,SOBAの主要な機能や設計方針,プログラム例を紹介する.
著者
品川 高廣 河野 健二 益田 隆司 Takahiro Shinagawa Kenji Kono Takashi Masuda 東京農工大学工学部情報コミュニケーション工学科 電気通信大学情報工学科:科学技術振興事業団さきがけ21 電気通信大学情報工学科 Department of Computer Information and Communication Sciences Faculty of Engineering Tokyo University of Agriculture & Technology Department of Computer Science University of Electro-Communications:PRESTO Japan Science and Technology Corporation Department of Computer Science University of Electro-Communications
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.107-113, 2004-03-25
参考文献数
11
被引用文献数
1

本論文では,UNIXシステムにおけるsetuidプログラムのバグを利用したroot権限の不正取得に対処するために,setuidプログラム中のroot権限で動作するコードを最小化する手法について述べる.この手法では,我々が提案している細粒度保護ドメインを利用することでsetuidプログラム中の最小限必要なコードのみをroot権限で動作させ,root権限が不要なコードに含まれるバグによるroot権限の不正取得を防止することができる.
著者
古瀬 淳 米澤 明憲
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.180-185, 2008

C言語プログラムでのメモリ脆弱性攻撃などによって生ずる機密情報漏洩を防ぐため,我々はC言語のメモリ安全化コンパイル技術を仮定した上で,その情報流解析手法を提案する.Cのメモリ安全化コンパイルにおけるエラー忘却型計算では,メモリ脆弱性攻撃を受けた際のプログラムの脆弱性回避を自動的に行うが,我々の情報流解析による安全性は,このエラー忘却型計算の「不安定な挙動」をも安全化できる.これにより,我々のCのコンパイル技術VITCではメモリ脆弱性攻撃を受けた後にも一定の安全性の下でプログラムの継続実行を行うことができる.
著者
岡崎 裕之 紫村 彰吾 宮本 樹 渡邊 樹 布田 裕一 村上 恭通
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.1_99-1_113, 2020-01-24 (Released:2020-02-22)

暗号技術は情報セキュリティを実現するための基盤要素である.暗号を専門とする研究者や技術者のみならずネットワークエンジニアや運用者等にとっても暗号技術に関する知識の習得は必須である.実際のシステムは,公開鍵暗号や電子署名等の複数の要素技術を組み合わせて構築する必要があるため,様々な攻撃について必要な対策を施しつつ安全性要件を満たすように実現しなければならない.しかしながら,システム構築を座学だけでは初学者に学ばせることは困難である.この課題を克服するために,報告者等は計算機援用による形式的暗号プロトコル安全性検証ツールを利用した暗号技術の基礎知識と利用方法を学習する教材を作成し,演習形式による授業を実践した.形式的暗号プロトコル安全性検証ツールの利用により,既存の教材では学習困難な実際の暗号技術の動作や攻撃を,学習者が設定した暗号システム上でシミュレーションしてインタラクティブに学ぶことが可能となった.本論文では,まず,実践した教育内容の概要とその成果を報告し,更に,現在進めている本教材を元とする CAI 教材開発方針の紹介と,その課題について報告する.