著者
小田 朋宏 荒木 啓二郎
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.4_129-4_143, 2017-10-25 (Released:2017-11-03)

ソフトウェアシステムの開発において仕様記述は重要な工程であり,仕様記述の曖昧さや誤りは開発全体の生産性および信頼性に重大な影響を与えることが知られている.形式仕様を記述することはモデリングの一種であり,数学的な裏付けのある道具立てによって適切な抽象度でシステムの機能を厳密に定義する工程である.厳密で適切な抽象度の仕様記述を得るために,形式仕様記述者は仕様記述の初期段階において問題領域を探索し対象ドメインの知識獲得や要求項目への理解を深めながらモデリングを進める.本論文では,探索的なモデリングを支援するためのツールに求められる性質を示した上で,形式仕様記述言語VDM-SLによる探索的モデリングを支援する統合開発環境ViennaTalkのデザイン指針,設計および実装を示す.
著者
松田 一孝 胡 振江 中野 圭介 浜名 誠 武市 正人
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.2_56-2_75, 2009-04-24 (Released:2009-06-24)

双方向変換は,元のデータの一部を抽出し加工する順方向変換と,順方向変換で得られたデータに対する変更を元データに書き戻す逆方向変換の二つの変換から構成される.双方向変換を用いることで,XML文書の同期や相互変換を行える.さらには,双方向変換はプレゼンテーション指向の文書作成やソフトウェアエンジニアリングにも利用できる.著者らは2007年に,順方向変換を記述するプログラムが与えられたときに自動的に逆方向変換を得る系統的な手法を提案した.しかし,そこで扱われている順方向のプログラムは制限が強く,制限の一つとして変数を二度以上使用することが禁止されていたため,複製を含む変換は記述できなかった.そこで本論文では,前手法を拡張し,複製を含むプログラムにおいても自動的に逆方向変換を得る手法を提案する.
著者
今井 健男 酒井 政裕 萩谷 昌己
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.2_207-2_226, 2013-04-25 (Released:2013-08-25)

本稿では,プログラムの事前条件推定を行う新たな手法を提案する.本手法では,プログラムのテキストから生成した述語の集合とプログラムに相当する論理式,および事後条件の否定の連言を作り,そのMinimal Unsatisfiable Core(MUC)から事前条件を求める.MUCは一般的に複数存在するが,本手法ではまずMUCを列挙し,その中から事前条件として適格で,かつ最も弱い条件を選択する.こうして得られる事前条件は理想的な最弱条件ではないが,与えられた述語群の組み合わせの中で最も弱いという点で,我々はこれを「準最弱」な事前条件と呼ぶ.我々は,C言語向け有界検査ツールCForgeを援用し,上記手法を実現するツールSMUCEを試作した.その上で,教科書的なアルゴリズムを実装するC言語関数9個に,2種類の事後条件と共に適用し,人手で求めた事前条件との比較による評価を行った.結果,延べ18個中10個において,人手で求めた事前条件と同等か,より弱い条件が推定され,提案手法が原理上,実用的な事前条件を推定できることが確認できた.
著者
上嶋 祐紀 住井 英二郎
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.1_139-1_154, 2009-01-27 (Released:2009-03-27)

C言語サブセットのプログラムを安全なJava言語のプログラムに変換する方式を実装した.そのような変換のためには,C言語独特の操作であるポインタ演算を,Javaプログラムで安全に模倣する必要がある.これを実現するために,まずC言語のポインタやメモリブロックを表現するJavaのクラスを定義した.次に,これらのクラスを利用するようなJavaへの変換規則を定め,規則に従ってトランスレータを実装した.また,C言語ではポインタと整数を相互にキャストすることが可能なので,整数もポインタと同様のオブジェクトに変換しなければならない.しかし,すべての整数をポインタと同様に表現すると大幅に効率が悪化する.そこで,データフロー解析により,ポインタが代入されない基本型の変数は,Javaの通常の基本型変数に変換する,などの最適化を実装した.9個のベンチマークプログラムで実験したところ,最適化前の変換結果コードは元のCプログラムに対し3.3倍~585倍程度の実行時間がかかったが,最適化後は(元のCプログラムに対し)1.3倍~5.9倍程度に改善した.
著者
高田 崚介 志築 文太郎 高橋 伸
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.3_45-3_56, 2018-07-25 (Released:2018-09-25)

データグローブを構築するための,導電繊維が編み込まれた手袋を用いて手形状を認識する手法を示す.提案手法は,手形状として指の曲げおよび指同士の接触を推定する.指の曲げ推定には,指を曲げた際に手袋表面の導電繊維同士が短絡することによって電気抵抗が減少する現象を用いる.また,指同士の接触推定には,各指ごとに異なる周波数の交流信号を印加し,指同士が接触した際に信号が伝搬する現象を用いる.我々は実験により,指の関節の角度と導電繊維の抵抗値の関係を明らかにした.さらに導電繊維の抵抗値と曲げセンサの抵抗値を比較した.また,それぞれ異なる周波数の交流信号を印加した人指し指–小指のどの指骨に親指が接触したかを機械学習を用いて推定し,実験により触れた位置の推定精度が80.5%であることを明らかにした.さらに電源的に独立した手袋同士の接触についても検証し,信号が伝搬されることを確認した.
著者
大田 昌幸 杉本 周 福田 健介 廣津 登志夫 明石 修 菅原 俊治
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.2_129-2_139, 2011-04-26 (Released:2011-05-26)

本稿では,インターネット上の小規模な観測アドレス空間(Darknet)を用いて,その近隣のアドレス空間へ到着する異常パケットの振る舞いを推定できる可能性を示す.我々はこれまで,各組織の断片的未使用アドレス空間に到着する異常パケットの振る舞いを観測することで,近隣のアドレス空間に到着する異常パケットを推定・防御する分散協調監視アーキテクチャを提案してきた.異常パケットの振る舞いを推定するには,小規模な観測アドレス空間とその近隣へ到着する異常パケット間の時系列相関強度を調査する必要がある.そこで,アドレス空間をスキャンする異常パケットを対象に,Darknetの観測空間を小規模なサブ観測空間に分け,そのサブ観測空間の間の時系列解析から相関強度を求めた.さらに,サブ観測空間のサイズを変更させ,その相関強度のサイズ依存性を調査した.その結果,十分小さなサブ観測空間でも,近隣へ到着する異常パケットの振る舞いを推定できることが分かった.また,特定の観測位置をベースとした解析を行うことで非常に高い相関強度を得られた.これらの結果から,小規模な観測空間を用いる分散協調監視アーキテクチャでも異常パケットの振る舞いを推定できる可能性が示せた.
著者
佐藤 洸一 菊池 健太郎 青戸 等人 外山 芳人
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1_179-1_193, 2015

項書き換えシステム上の帰納的定理の自動証明手法として書き換え帰納法(Reddy, 1989)が提案されている.しかし,書き換え帰納法は末尾再帰による関数定義が含まれると有効に働かない場合が多い.一方,プログラムの自動検証を容易にすることを目的としたプログラム変換法として,文脈移動法および文脈分割法(Giesl, 2000)が提案されている.これらの手法は,末尾再帰プログラムを自動検証に適した単純再帰プログラムへと変換する.本論文では,項書き換えシステムに対する文脈移動法・文脈分割法の正当性を証明し,それらが書き換え帰納法による帰納的定理の証明に有効であることを明らかにする.
著者
得能 貢一 山田 茂 Koichi Tokuno Shigeru Yamada 鳥取大学工学部社会開発システム工学科 鳥取大学工学部社会開発システム工学科 Department of Social Systems Engineering Faculty of Engineering Tottori University Department of Social Systems Engineering Faculty of Engineering Tottori University
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.321-330, 2003-07-25
参考文献数
20
被引用文献数
1

本論文では,間欠的にシステムが利用される環境を考慮したソフトウェア可用性評価モデルについて議論する.これまでに提案されてきたソフトウェア可用性評価尺度は,特定の時点でシステムが動作可能かどうかに注目していた.しかしながら,実際の利用者の立場から見ると,使用していないときにシステムが故障してもその故障の発生は認知されない.言い換えると,システムを使用しているときにソフトウェア故障が発生するか,あるいはシステムの修復中に使用要求が起こった時点で,システム故障の発生が認知される.ここでは上述の状況を考慮して,使用中の失望確率,使用要求拒絶による失望確率,および修復中の失望確率という3つの新たなソフトウェア可用性評価尺度を導出する.使用要求の発生時間および使用時間間隔はランダムであるとし,ソフトウェアシステムの状態遷移の様子はマルコフ過程を用いて記述される.このとき,ソフトウェア信頼度の成長過程やフォールトの複雑度・修正困難度の上昇傾向,発見されたフォールトに対するデバッグ作業はいつも確実に実施されるとは限らないという不完全デバッグ環境がモデルに反映される.最後に,これらの評価尺度の数値例を示す.
著者
倉橋 節也
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.252-260, 2008

本研究では,中国の家系記録「族譜」をもとに,科挙合格者を多く輩出したひとつの家系を約500年に渡ってエージェント技術を用いて分析を行った.家系ネットワークと個人のプロファイルデータをそれぞれ隣接行列と属性行列として表現し,実プロファイルデータを目的関数とする,マルチエージェントモデルによる逆シミュレーションを実施した.その結果,家庭内において子供への文化資本の伝達には,祖父と母が大きな影響を持つことがわかり,家族が維持する規範システムの一部を発見できた.本モデルによって,逆シミュレーション手法を用いたエージェントベースモデルが歴史学や人類学の分野において,新たな知識の発見に貢献できることを示した.
著者
小川 祐樹 山本 仁志
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.3_178-3_186, 2014-07-25 (Released:2014-09-10)

本研究では,人は身近な近接他者や集団の多数派から影響をうけるという関連研究をふまえ,Axelrodのシミュレーションモデルを拡張し,集団の集約情報と相互作用するモデルを導入した.そして提案モデルをもとにシミュレーションを行うことで,集約情報が社会における意見や嗜好の分布多様性に与える影響を検討した.シミュレーションの結果,集約情報は文化種類の多様性の維持において有効であるが,集約情報の範囲によってその効果に違いがみられることがわかった.具体的には,局所的・中域的・大域的の異なる範囲における集約情報の効果を分析し,中域的範囲の集約情報が,文化の多様性を維持するうえで有用であることがわかった.
著者
石川 拓也 本田 晋也 高田 広章
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.4_161-4_181, 2012-10-25 (Released:2012-11-25)

近年,組込みリアルタイムシステムにおいてもメモリ保護機能が重要となっており,メモリプロテクションユニット(MPU)という,メモリ保護機能の実現をサポートするハードウェアを搭載したプロセッサが存在する.MPUを用いる場合,同じアクセス権を設定する必要のあるコードやデータを連続した番地に配置するように,静的にメモリ配置を行う必要がある.本論文では,メモリ保護機能を持ったリアルタイムOSとして開発した,TOPPERS/HRP2カーネル(HRP2)について述べる.HRP2カーネルは,MPUによるメモリ保護をサポートできるように,静的コンフィギュレーション時において,メモリ配置を静的に行い,同じアクセス権を設定する必要のあるコードやデータを連続して配置する.そして,メモリ保護属性の異なるコンテキストへ切り替わるとき,同時にMPUの設定情報を書き換えることによって,MPUを用いたメモリ保護機能を実現している.HRP2において,メモリ保護機能を持つことによって生じるオーバヘッドを,メモリ保護機能を持たないリアルタイムOSと比較することで評価した.
著者
福田 健介
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.2_23-2_32, 2013-04-25 (Released:2013-08-25)

本論文ではインターネットバックボーンにおける異常トラフィックについて説明し,それらを効率良く検出するための種々の異常検出アルゴリズムを紹介する.さらに,公開されている10年にわたる国際線バックボーントラフィックデータに対して,複数の異常検出アルゴリズムを適用した結果をもとにバックボーントラフィックにおける異常の振る舞いについて説明する.
著者
大岩 元 Hajime Ohiwa 豊橋技術科学大学情報工学系
雑誌
コンピュータソフトウェア = Computer software (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.218-227, 1988-07-15

ソフトウェアの生産性が問題となっているが,必ず実効の上がる改善策としてキーボード教育がある.まず英文タイプのブラインド技術はわずか2~3時間の初期訓練によって獲得できるものであることを示し,続いてタイピング作業の認知モデルを,タイピングCAIプログラムと関連させて述べる.ソフトウェア作成には文書化作業が大きな比重をしめるが,この作業効率を上げるには,下書きせずに技術者が直接ワークステーションで文書作成を実行することが望ましい.これには日本語入力の方法とそれをどのように教育するかが問題となる.そこでまず日本語入力の基本となる,各種カナ入力法について論評を加える.さらに漢字の直接入力法について論じた後,入力法の評価に関する研究をいくつか紹介し,それが非常に困難な問題であることを示す.最後にキーボードと計算機本体の接続を標準化すべきことを指摘する.
著者
小関 悠 角 康之 西田 豊明 間瀬 健二
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.3_41-3_50, 2007 (Released:2007-09-30)

本稿では研究発表会や博物館見学といったイベント空間において取得可能な体験データを,ユーザーが閲覧・編集するためのシステムを提案・実装する.種々のカメラやセンサー機器の発達により大量の取得が可能となった体験データを,ユーザーの扱いやすい形にすることで,その編集や共有を促すことが狙いである.システムは大きく二つの部分に分けられる.一つは体験データを自動的に要約してユーザーに提示するシステムであり,特にセンサー情報を用いることで映像データを「ぱらぱらアニメ」,すなわち,シーンを表現する複数枚の特徴的なスナップショットのセットへと変換する手法について述べる.もう一つは要約された体験データの鑑賞・編集システムであり,こちらでは「ぱらぱらアニメ」の特性を生かし漫画的なレイアウトを組むことで体験データを好みの観点で観賞・編集が出来ることを中心に述べる.本システムは体験データの閲覧や編集へのアクセシビリティを高めるため,Webアプリケーションとして実装した.