著者
金澤 潤一郎 榎本 恭介 鈴木 郁弥 荒井 弘和
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.47-51, 2019 (Released:2019-01-01)
参考文献数
9

大学生アスリートを対象としてADHD症状と海外で最も研究が進んでいる脳震盪経験との関連について検討した. その結果, 第一にADHD症状が陽性となった大学生アスリートは27.9%であった. 第二にADHD症状がスクリーニング調査によって陽性となった場合, 脳震盪経験が高まることが示された (β=0.25, p<0.05). これらの結果から, スポーツ領域においても脳震盪の予防や対応の観点からコーチやアスリート支援をしている心理士などに対してADHDについての知識の普及が必要となる. さらに大学生アスリートは学生であることから, 脳震盪からの復帰の際には, 競技面と学業面の両側面からの段階的復帰を考慮する必要がある.
著者
荒井 弘和 中村 友浩 木内 敦詞 浦井 良太郎
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.46, no.7, pp.667-676, 2006-07-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
26
被引用文献数
4

本研究の目的は,主観的に評価された睡眠の質と,身体活動および心理的適応(不安・抑うつ)との関連を検討することであつた.本研究の対象者は,夜間部に通う大学1年生の男子186名であつた.測定尺度にはPittsburgh Sleep Quality Indexの日本語版(PSQI-J),身体活動評価表(PAAS),Hospital Anxiety and Depression Scale (HADS)日本語版を用いた.本研究は,横断的研究デザインであつた.相関分析の結果,運動や日常身体活動を行つていない者ほど,睡眠時間が長く,眠剤を使用していた.また,日常身体活動を行つている者ほど,睡眠困難や日中覚醒困難を感じていないことが明らかになった.次に,階層的重回帰分析を行つた結果,運動の実施はPSQI得点を予測していなかつたが,日常身体活動の実施は睡眠時間,睡眠効率,睡眠困難,および日中覚醒困難を予測することが明らかになつた.結論として,本研究は,身体活動が主観的な睡眠の質と部分的に関運することを支持した.
著者
伊藤 大輔 渡邊 明寿香 竹市 咲乃 石原 綾子 山本 和儀
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.334-338, 2018 (Released:2018-05-01)
参考文献数
18

筆者らは, 心療内科クリニックのショートケアにおいて, 主にうつ症状によって休職に至った者を対象に, 職場に焦点化した集団認知行動療法 (WF-CBGT) の効果を予備的に検証した. WF-CBGTは, 職場での問題を積極的に扱いながら, 行動活性化療法, 認知療法および問題解決療法などを含んだ合計8回 (1回150分) のプログラムであった. 参加に同意した対象者16名は, 介入前および介入後に, 抑うつと不安症状, 社会適応状態, 職場復帰の困難感に関する自記式尺度に回答した. 分析の結果, 職場で必要な体力面の困難は有意傾向であったが, うつと不安症状, 社会適応状態, 職場復帰後の対人面の困難と職務に必要な認知機能面の困難については介入後に有意に改善することが示され, 中程度以上の効果サイズが得られた. さらに, プログラムを完遂した多くの参加者が職場に復帰し, 復職3カ月後も就労を維持していることが確認された. このことから, WF-CBGTは, 復職支援に有用な介入である可能性が示唆された.
著者
本谷 亮
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.411-417, 2018 (Released:2018-07-01)
参考文献数
28

緊張型頭痛は, 慢性頭痛の一種であり, 生活に支障をきたすきわめてありふれた疾患である. また, 緊張型頭痛は, 発症や維持に心理社会的要因が強く関係する神経・筋系の代表的な心身症であり, 生活障害の改善を目的とした心身医学的治療が不可欠であるとされる. 緊張型頭痛への心身医学的治療では認知行動療法が有効である. 今回, 疼痛の心理学的な維持モデルであるfear-avoidance modelに基づく認知行動療法プログラムを作成し, 試験的に実施した. その結果, 緊張型頭痛患者の痛みに対する破局的思考と回避行動が減少し, 生活障害の改善を示し, 3カ月後時点での効果維持を認めた. 本稿では, 緊張型頭痛に対する認知行動理論に基づく維持メカニズム, 上述した生活障害の改善を目的とした治療プログラムを紹介するとともに, プログラム実施における配慮や工夫, 課題について報告する.
著者
塚本 路子 村上 正人 松野 俊夫 塚本 克彦 縄田 昌子 瀬戸 恵理 山縣 然太朗
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.183-189, 2018 (Released:2018-03-01)
参考文献数
22

片頭痛は遺伝的因子が関与する可能性が高く女性に多い疾患である. 女性片頭痛患者の60%は月経周期に関連して片頭痛が生じており, 月経前に起こるエストロゲン離脱が片頭痛発作と深く関係しているといわれている. そこで, 海外から片頭痛との関連が報告されたエストロゲン受容体の遺伝子多型 (ESR1 397T>C, 325C>G, 594G>A) と涼冷刺激受容体TRPM8の遺伝子多型 (rs10166942) を, 当院を受診した月経に関連する片頭痛患者41例と対照群41例について調べた. その結果, 日本人においてもESR1 397およびESR1 325は, 月経に関連する片頭痛に関連があることが示唆された. 問診による調査では, 患者群の80.5%に家族歴があり, 片頭痛の出現は82.9%の患者において月経に伴いエストロゲンが変動するようになる初経年齢以降だった. また, 片頭痛患者がしばしば訴える 「冷えによる痛み」 と 「車酔い」 が患者群に有意に多く認められた.
著者
塚本 路子 村上 正人 松野 俊夫 塚本 克彦 縄田 昌子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.347-351, 2018 (Released:2018-05-01)
参考文献数
13

女性患者が日常生活に支障をきたしていても羞恥心のために医療機関を受診しづらい症状の一つに外陰部痛がある. 外陰部痛の中でも特に器質的疾患が認められないvulvodyniaは治療に難渋することが多い. 今回われわれは, 漢方薬内服と心理療法が有効であったvulvodyniaの症例を経験した. そこでvulvodyniaの病態と治療について, 漢方医学および西洋医学の視点から心身医学的に考察した. 本症例は, 漢方医学的には腎虚と瘀血の所見がみられ, 八味地黄丸と桂枝茯苓丸が有効であった. Vulvodyniaは西洋医学的には外陰部の血流障害や筋肉の攣縮としてとらえられ, 治療薬として抗うつ薬や抗けいれん薬などが用いられる. またvulvodyniaには今回の症例のように心理療法を含む心身医学的なアプローチも大切である.
著者
大矢 幸弘
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.376-383, 2018 (Released:2018-07-01)
参考文献数
25
被引用文献数
1

Holy Sevenと呼ばれた7つの代表的な古典的心身症の中で, アレルギー疾患は2つ (気管支喘息とアトピー性皮膚炎) も含まれており, 昔から心因の関与が知られていた. しかし, 医学の発展に伴い, ほとんどの疾患に心因の関与があることが明らかになり, また薬物療法の発展により古典的心身症のコントロールが改善するにつれ, これらの古典的心身症に対する心身医学的関心は低下していった. しかし, 今なお, 難治性重症のアレルギー疾患は心身医学的アプローチなくしては克服が困難である. それは, レスポンデント条件づけやオペラント条件づけが成立しているからであり, リラクセーション技法による逆制止をはじめとして曝露療法による脱感作や応用行動分析が劇的な改善効果をもたらす. 妊娠中の親の不安や抑うつが生まれてくる子どものアレルギー疾患の発症の危険因子となっていることがわかりつつあり, 世代を超えた心身医学的アプローチが, 将来のアレルギー疾患の克服には必要となろう.
著者
福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.335-342, 2017 (Released:2017-04-03)
参考文献数
48
被引用文献数
1

ストレスは21世紀の心身医学が真剣に取り組むべき重要な問題である. 過敏性腸症候群 (irritable bowel syndrome : IBS) を代表格とする機能性消化管障害の研究は, ストレス関連疾患を考えるうえで重要な成果をあげている. IBSはストレスにより発症・増悪する内科疾患であり, 代表的な心身症である. IBSは脳からの遠心性信号による小腸・大腸の機能異常の病態を有する. ストレスにより視床下部の室傍核からcorticotropin-releasing hormone (CRH) が放出されると仙髄副交感神経を活性化して大腸運動が惹起される. また, CRHは, 大腸粘膜の肥満細胞を脱顆粒させ, 粘膜透過性を亢進させ, 内臓知覚を過敏にする. IBSの内臓知覚過敏とは, 消化管から中枢へのシグナル伝達の病態である. 中でも, 大腸からの求心性信号による局所脳の変化, 特に, 膝下部前帯状回, 膝上部前帯状回, 中部帯状回, 前部島皮質, 後部島皮質, 扁桃体中心核, 扁桃体基底外側核, 海馬, 視床下部, 背外側前頭前野, 内側前頭前野, 眼窩前頭皮質, 背側線条体, 腹側線条体, 中脳中心灰白質の変化が明確にされてきている. これらは脳領域間結合からの分析も進んでいる. ストレスは腸内細菌の多様性を変化させ, IBSの腸内細菌も健常とは異なっている. IBSは不安・うつ・失感情症に関連することが証明されている. このようなストレスによる機能的変化と心理的変化の背景には, 検出方法を工夫すれば, 器質的変化が存在する. 換言すれば, 心身医学においては, 機能的変化と器質的変化の差異は程度の問題にすぎず, 生体の変化の精密・定量的な測定が鍵である. 重度ストレスはグルココルチコイド受容体遺伝子のプロモーター領域のメチル化を招き, CRHのネガティブフィードバック機構を障害して視床下部-下垂体-副腎軸の病的活性化を招く. IBSは遺伝子環境相関の面でも注目され, 有力な候補遺伝子がCRH受容体遺伝子も含め同定されている. IBSに対する治療法は, 薬物療法と心理療法の根拠が高水準になり, 先進的なニューロモデュレーションが開発されつつある. IBSにおいては, 分子生物学と脳科学からストレスと脳腸相関の法則を得るとともに, 認知行動療法を中心とする心身医学を日常診療に応用することが臨床医の重要な役割になり, これは他領域に応用可能なモデルになると予言する.
著者
矢野 純
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.10, 2004

耳鳴は全人口の15〜20%にみられる症状であるが, 耳鳴を苦にして治療を求める人は少数である. 耳鳴のもたらす苦痛, 睡眠障害, 情緒的反応, 職業や日常生活への影響などは, 患者により異なる. 耳鳴を訴える患者の多くは難聴を伴うが, 20%は正常聴力である. 耳鳴を測定すると, それぞれの聞こえの域値上, 5〜15dB程度の大きさにすぎない. 多くの人は耳鳴をかすかな, 注意を向けるに値しない音として認知するが, 耳鳴に悩む人には大きな不快な音として聞こえるのである. 耳鳴には, カウンセリング, 抗うつ薬, 抗てんかん薬, 抗不安薬, 局所麻酔薬, 血管拡張薬などの薬物や手術, マスキング法, 心理療法, バイオフィードバック, 針治療, 高気圧酸素室, 側頭下顎関節の治療などが行われているが, 満足できる結果が得られていない. 耳鳴再訓練療法(tinnitus retraining therapy;TRT)は1980年代に提唱され, 1990年に最初の報告がなされた. 耳鳴の神経生理学的モデルに基づいて, 耳鳴の知覚と耳鳴への反応に慣れを誘導し維持しようとする方法であり, 慣れは聴覚系と大脳辺縁系, および自律神経系を結ぶ神経の連絡の変容の結果として得られる. 耳鳴の神経生理学的モデルから, 治療に重要な点を挙げると以下のようになる. (1)耳鳴の患者では, 聴覚系に加えて大脳辺縁系と自律神経系が耳鳴に関連した, および音響に誘発された活動に関与している, (2)自律神経系の交感神経系の過剰活動の維持が耳鳴に誘発された行動に関与している, (3)脳のさまざまな系の間の機能的な結合は, 条件反射の原則でつくられる, (4)これらの条件反射に慣れをつくることで耳鳴による行動へのネガティブな影響を除くことができる. TRTはカウンセリングとTCI(補聴器と同じような形の音響発生装置)の装用の2つからなる. カウンセリングでは, 耳鳴の理解(情報の提供), 心理面のサポート, リラクセーション法の指導, TCIの装用の指導を行う. 重要な, 注意に値する音として認知されてしまう耳鳴に心地よいかすかな音を併用することで, 耳鳴を無害な, 注意するに値しない音としての認知に変えてしまうことが目標となる. すなわち, TRTは耳鳴を止める治療ではなく耳鳴に慣れて気にしなくなる治療である. TCIは持続的に心地よい音を鳴らし続ける装置で, 耳掛型の補聴器の形をしている. 音量の設定は, 周囲の環境音と耳鳴がわずかに聞こえる程度に設定する. 1日6〜8時間装用して効果が明らかになるには6ヵ月, 継続的な改善が得られるまでには, 12ヵ月が必要である. 80%の患者で改善が得られた. 改善の得られた例では, 過去12年間, 再発はみられていない. 結論としては, (1)TRTはあらゆるタイプの耳鳴と聴覚過敏に適用できる治療で80%に有効である, (2)TRTは聴覚過敏に治癒をもたらす可能性がある, (3)TRTは頻回の通院が不要で副作用もない, (4)効果が得られるには治療者のトレーニングが必要である.
著者
牛島 一成 志村 正子 渡辺 裕晃 山中 隆夫
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.259-266, 1998-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
14
被引用文献数
2

1994年度と1995年度に, 大学の公開講座として運動不足気味の一般市民向けに「体と心にエアロビクス教室」を実施し, その参加者(男性2名, 女性26名, 計28名)を対象に数種の有酸素運動を約2カ月間にわたって, 1回1.5時間程度, 週2回のペースで行って, 心身への長期的影響および短期的精神影響を検討した.長期的精神影響としては, SDSおよびSTAI-Tの著明な低下が認められた.1995年度のみ実施したCMIにおいても身体的自覚症および精神的自覚症の低下傾向, 精神的自覚症のうちの抑うつおよび不安項目群での低下傾向が認められた.これらより, 習慣的で長期的な有酸素運動の実施がメンタルヘルスを考えるうえで大変重要であると思われた.しかし, 性格・行動型である自己抑制傾向, 「いい子」度, タイプA傾向およびI型(情緒不安定内向)傾向には変化が認められなかった.基礎体力では, 2カ月の運動後に無酸素性作業能力のみが増加していた.運動種目ごとにSTAI-S, POMS, Nowiis気分評定表を用いて短期的精神影響を検討したところ, 愉快さ, 活動性, 社会的愛情および活力・積極性はいずれの運動種目でも増加する方向へと変化し, STAI-S, POMSのTMDおよび混乱・物おじはいずれも低下する方向へと変化していた.これらの結果は, メンタルヘルスを目的とした運動処方の可能性を示唆する.
著者
島津 明人
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.261-266, 2018 (Released:2018-04-01)
参考文献数
22

産業構造の変化, 働き方の変化, 情報技術の進歩など従業員や組織を取り巻く社会経済状況が大きく変化している. こうした変化に伴い, 従業員はこれまでよりも健康で, 「かつ」, いきいきと働くことが必要になってきた. 本稿は健康の増進と生産性の向上を両立させる鍵概念としてワーク・エンゲイジメントに注目する. 最初に, ワーク・エンゲイジメントが, 活力, 熱意, 没頭から構成される概念であることを定義したうえで, ワーク・エンゲイジメントの先行要因と結果を統合した 「仕事の要求度-資源モデル」 を紹介した. 次に, 行動医学の視点からワーク・エンゲイジメントを高めるための方策について言及した.
著者
中尾 睦宏
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.1032-1039, 2017 (Released:2017-10-01)
参考文献数
18

Evidence-based medicine (EBM) では, つくる側と利用する側で, 情報の集め方が異なる. つくる側の立場では, 最新の医学的文献を集め, その中身を精査し, 批判的吟味 (critical reading) をする. EBMを利用する観点に立てば, 医療者でない人, つまり患者や健康な人に対して, できるだけわかりやすく正確に情報提供される必要がある. その際, 情報で終わるだけでなく, 現実の問題を解決するための具体的な道筋が示されなくてはならない. 筆者は5年前の心身医学講習会で, 2つのEBM実践例について発表をした (心身医学52 (12) : 1110-1116, 2012). 「高血圧症へのバイオフィードバック療法」 と 「慢性腰痛を有する心気症患者への認知行動療法」 である. 本稿では, 2つの実践例がその後どうなったかまとめる. そしてEBMの先にある課題として, 「ヘルスコミュニケーション」 と 「問題解決アプローチ」 について紹介をする.
著者
五十嵐 和彦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.343-349, 2017 (Released:2017-04-03)
参考文献数
18

細胞種特異的なDNA情報の発現は, 主にヒストンやDNAの化学修飾と転写因子によって制御される. 特に化学修飾による調節は比較的安定な変化をもたらすため, しばしばエピジェネティクスと呼ばれる. Rett症候群など先天性の疾患やがん細胞ではエピジェネティクス変化を伴うことから, エピジェネティクスと疾患の関連も注目されている. ヒストンのアセチル化は中間代謝物のアセチルCoAを, ヒストンやDNAのメチル化はS-アデノシルメチオニン (SAM) をそれぞれ化学基の供与体とすることから, これら修飾反応と代謝や栄養との関連が注目を集めつつある. SAM合成酵素の一つであるMAT2 (methionine adenosyltransferase 2) は転写因子MafKやBach1, そしてヒストンメチル化酵素と複合体を形成し, 酸化ストレス応答を抑制することから, このような酵素複合体はメチオニン代謝系とエピジェネティクス系の共役機構を成していると考えられる. 近年, 胎生期の栄養状態により成人病などの発症が影響を受けることから, 栄養とエピジェネティクスの関係が注目されているが, その分子病態は明らかではなく, さらなる研究が必要である.
著者
添嶋 裕嗣 胸元 孝夫
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.7, pp.628-637, 2018 (Released:2018-10-01)
参考文献数
31

目的 : 体育大学新入学生の入学直後の睡眠の質を評価し, 主観的健康状態, 抑うつ, および健康関連QOLとの関連性を検討すること. 方法 : 対象は体育大学新入学生336名 (男子247名, 女子89名). 入学翌日に睡眠調査票PSQI, 健康チェック票THI, 抑うつ質問票BDI-Ⅱ, および健康関連QOL尺度SF-36に回答してもらった. 統計解析は, まず, PSQIスコアと他の質問票スコアの相関係数を求め, 次に, 有意の相関を認めた項目と所属クラブ (個人または団体競技) を説明変数, PSQI global clinical scoreを目的変数として, ステップワイズ法による重回帰分析を男女別に行った. 結果 : 睡眠の質を予測する因子として, 男子ではTHI下位尺度の抑うつ性と生活不規則性が, 女子ではSF-36下位尺度の全体的健康感が採択された. 結論 : 体育大学新入学生の入学直後の睡眠の質は, 男子では抑うつを含む主観的健康状態と, 女子では健康関連QOLと関連している可能性がある.
著者
野間 俊一
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.45-51, 1999-01-01
参考文献数
15

ドイツにおける心身医学の現状を概観した。ドイツではすべての大学医学部に, 心身医学科あるいは精神療法科が設置され, 心身医学や医学的心理学の研究・教育に従事している。1992年に精神療法医学の専門医制度が導入された。バード・ノイシュタット心身症病院では, 集団療法や独自の身体療法によって, 狭義の心身症, 神経症, 人格障害, 嗜癖の治療に当たっている。また, ドイツの心身医学者としてGroddeck, Weizsacker, Uexkullの理論を素描し, さらに近年ドイツで話題になっている, 健康保持のメカニズムに焦点を当てたサルトジェネシスという医療観を紹介した。
著者
高橋 幸子 山本 賢司 松浦 信典 伊賀 富栄 志水 哲雄 白倉 克之
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.167-175, 1999-02-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
24
被引用文献数
2

音楽聴取が情動にどのような影響を及ぼすかを明らかにするために実験を行った.被験者は健康な女子大学生31名.セッションは, 安静保持と検者が選択した音楽と被験者が選択した好みの音楽(どちらも落ち着くことを目的として選択された)を用いた.情動変化を測定するために心理テストProfille of Mood States(POMS)を用い, その絶果を解析した.短時間の音楽聴取により, POMSの「活気」以外の各因子において, 明らかに一時的な情動変化が観察された.その変化は音楽のジャンルに関係なく, 一貫したパターンを示した.これらの結果から, 音楽聴取はホメオスタティックな情動変化を起こしていることが考えられた.
著者
福永 幹彦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.12, pp.1104-1111, 2013

近年,確認できる機能性の異常に比して,強い身体症状を訴える患者を総称して「機能性身体症候群」と呼ぶことがある.これに含まれる患者は,一般外来患者の中にかなりの比率でいる.過敏性腸症候群,機能性ディスペプシア,線維筋痛症,慢性疲労症候群がその代表的なものだ.しかし,すでに機能性疾患として確立したものが多く含まれており,統合的な概念の必要性については疑問も多い.本稿では統合的な概念の意義につき,患者が重なり合う概念の,medically unexplained symptom,身体表現性障害,心身症などとの概念の違いを明らかにすることから検討した.統合的に考えることで,治療に関係するプライマリ・ケア医,各科専門医,精神科医,心療内科医に対して,症候群に共通する治療法を検討するため共通の土台を提供するということが最も大きいのではと考える.
著者
石川 ひろの 中尾 睦宏
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.201-211, 2007-03-01
被引用文献数
4

患者-医師間のコミュニケーションは,診察の主要な構成要素であり,患者-医師関係を築き治療を進めるうえで必要な情報の共有や意思決定をしていくための,最も基本的な手段である.診察における医師,患者のコミュニケーションは,各個人の特性によって異なるだけでなく,その場での相手のコミュニケーション行動に影響を受け,それに対応して変化していく.したがって患者-医師間のコミュニケーションを分析するためには,患者-医師間の会話や行動を客観的に評価すると同時にその相互作用を明らかにする必要がある.Roterが開発した相互作用分析システムは,医療現場に特有な相互作用を評価できるツールである.本稿では,そのシステムを日本の外来癌診療場面に用いた研究を紹介し,患者-医師コミュニケーション研究の新たな可能性について展望する.