著者
柴山 修 堀江 武 樋口 裕二 大谷 真 石澤 哲郎 榧野 真美 瀧本 禎之 吉内 一浩
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.432-438, 2015-05-01 (Released:2017-08-01)

症例は19歳男性.X-5年激しい腹痛で救急受診し浣腸で軽快以降,排便へのこだわりが強まり,多数の下剤を使用するようになった.X-2年部活動を辞めてからは食抜きをするようになり,BMI18.1から体重減少傾向.X-1年4月大学入学後一人暮らしを始めさらに減少.近医内科より摂食障害として紹介され,X年5月当科外来初診となった(BMI14.1).肥満恐怖やbody imageの障害はなく,特定不能の摂食障害と診断.X+1年4月より語学留学中,排便のリズムが崩れ食抜きが強まり,6月末BMI12-1となり,帰国し当科入院.排便への過剰なこだわりから生活に大きな支障をきたしている認識あり,強迫性障害と診断.曝露反応妨害法とfluvoxamine内服を開始したところ強迫観念は軽減し完食を続け,退院.退院後は休学のうえ実家で生活し,徐々に儀式を減らし,BMI18.5を超え,X+2年4月から復学.一人暮らしに戻っても支障なく経過している.非典型的な摂食障害例で強迫傾向が強く認められる場合は強迫性障害を積極的に疑うことも重要である.
著者
岩橋 成寿 國井 啓子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.143-149, 2005-02-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
7

対麻痺を繰り返し神経内科で多発性硬化症が疑われた症例に二次的疾病利得を認め, 直面化技法を行い, これが奏効したので報告する. 患者は38歳, 大学工学部卒の男性. 突然の両下肢の知覚消失と麻痺が生じ, 多発性硬化症を疑われて神経内科に入院, ステロイド療法を施行された. 過去に2度, 7年前と8年前に対麻痩のため, それぞれ前脊髄動脈症候群, 横断性脊髄炎の診断で6カ付き間の神経内科入院歴があった. 脳と脊髄のMRI所見に異常を認めず, 症状と神経学的所見の解離を認められて第18病日に心療内科に紹介された. 家族面接により, 患者は職場での使い込みと借金を繰り返し, その度に親が責任を問わずに返済していたこと, 今回の発症も使い込みの露見直後である事実が判明し, 使い込みの責任を疾病によって回避するという二次的疾病利得の存在が明らかになった. 診断は転換性障害と詐病の判別が極めて困難であった. 生育歴上, 両親に溺愛され, 父性原理が欠如した養育を受けており, 超自我が未発達と思われた. 父親から「借金の後始末は今回が最後で, 次回は刑事責任も自分でとれ」と通告された後に対麻痺は消失し, 3日後に退院した.
著者
可知 悠子 前田 基成 笹井 惠子 後藤 直子 守口 善也 庄子 雅保 廣山 夏生 瀧井 正人 石川 俊男 小牧 元
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.215-222, 2006-03-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
27
被引用文献数
4

本研究の目的は, 摂食障害とアレキシサイミア傾向の関連を, 健康な対照群との比較から検討することである.68名の摂食障害女性患者〔神経性食欲不振症制限型(AN-R)28名, 神経性食欲不振症むちゃ食い/排出型(AN-BP)25名, および神経性過食症排出型(BN-P)15名〕と236名の女子学生を対象に, 日本語版Toronto Alexithymia Scale-20 (TAS-20)ならびに日本語版Eating Attitude Test-26 (EAT-26)を用いて自己記入式質問紙による調査を施行した.その結果, 摂食障害患者においては病型に関係なくアレキシサイミア傾向が強いことが明らかになった.また, TAS-20の下位尺度である"感情の同定困難"と摂食障害の症状の重症度との間に関連が認められた.以上により, 摂食障害患者の治療においては, アレキシサイミアを考慮したアプローチが重要あることが示唆された.
著者
瀬藤 乃理子 丸山 総一郎
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.395-405, 2004-06-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
53
被引用文献数
3

本論文では,日本でも社会的ニーズが高まっている遺族のブリーフケアの今日的意義を見直し,特に喪失悲嘆が強いとされる「子どもとの死別」を取り上げ,死別後に生じる心理・社会的問題とそのグリーフケアのあり方について,国内外の文献から考察した.子どもを亡くした家族のグリーフケアにおいては,当事者の喪の過程における心理的問題だけでなく,喪失によって引き起こされる家族システムの問題や,遺された兄弟姉妹への影響,悲嘆の重症化や慢性化に関連する心身医学的問題などにも対応していく多角的な視点が必要である.グリーフケアとは何か,ブリーフケアを行う際の注意点,今後の死別研究の課題について言及した.
著者
岡本 百合 三宅 典恵 永澤 一恵
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.44-50, 2017 (Released:2017-01-01)
参考文献数
20

精神科・心療内科の臨床場面では, 背景に自閉症スペクトラム (ASD) をもつ成人例が多いといわれている. 特に知的障害のない高機能ASD者は, 診断が遅れ, それまでにさまざまな傷つきを経て不適応に至っている例が多いと思われる. われわれは, ASD特性をもつ思春期青年期の若者の臨床像と支援について論じた. 受診した42例について, 過去の心身症症状について検討したところ, 幼少期に心身症症状を呈し, 思春期青年期に気分障害, 不安障害, 摂食障害などに変化していく例が多かった. また, 青年期の適応良好例に前思春期・思春期前期に治療を受けていた者が多かった. 心身症症状として表れる幼少期または前思春期・思春期前期に何らかの治療や支援があると, その後の適応が良好となる可能性が示唆された. また, 摂食障害とASDは共通点も多い. 症例の紹介とともに, 関連性について論じた.
著者
野々垣 勝則
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.251-257, 2007-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
26

肥満の病態はレプチンの作用不全であると提唱されている反面,過食の病態とその分子機序は実に多彩である.セロトニンは感情だけでなく食欲の調節にも深く関与するモノアミンで,モノアミンの中で最も顕著な摂食抑制効果を引き起こすことから,これまで海外で抗肥満薬としてセロトニン系作動薬が開発されてきた.反面,fenfluramineのように心肺系への副作用によりヒトへの投与が中止となったケースもある.副作用の少ない選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)は,国内で抗うつ薬として導入されているが,抗不安作用や抗過食効果から,過食病態に有効なケースもある.本パネルディスカッションでは,セロトニン5-HT_<2C>受容体の行動制御における役割とセロトニン系薬剤の食欲調節における役割,肥満に対する薬物療法と行動療法のEBMについて概説する.
著者
北見 公一
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.31-37, 2020 (Released:2020-01-01)
参考文献数
24

慢性頭痛をストレス関連障害として心身医学的にとらえるための解説を述べた. 慢性頭痛は心身症であり, 性格傾向や痛みの認知機能と深い関連がある. 緊張型頭痛や片頭痛などの一次性頭痛が慢性化する機序, 特に中心となる睡眠障害と傍脊柱筋筋膜痛およびその背景にあるストレス耐性について解説した. 慢性頭痛をストレス関連障害として診断治療するためには, 診断基準に準拠するのみならず, ナラティブな個人史を重視し, 心身医学的アプローチが必要不可欠であることを述べた.
著者
伊藤 康宏 加藤 みわ子 古井 景 伊藤 祥輔 若松 一雅
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.52-59, 2019 (Released:2019-01-01)
参考文献数
18

多くの人々は, 若くて健康な人の肌の色は, そうではない人と比べて黒っぽいと考えることが普通である. しかしながら, 病気で入院している患者や血液透析を受けている人は肌の色が黒っぽく感じられる. 人は重度の病気になると不安を感じ, 抑うつが高くなるものである. われわれは, 健常な学生ボランティアの皮膚のメラニン度数と抑うつを測定し, 両者の関係を検討した. その結果, 皮膚のメラニン度数と抑うつには相関が認められた. メラニンには黒・褐色のユーメラニンとピンク・黄色のフェオメラニンがある. このうち, フェオメラニンの生成にはグルタチオンなど多量の抗酸化物質が必要である. 抑うつによる生活リズムの乱れは生体の酸化ストレスを誘導し, それに対応するために抗酸化物質が使われる. その結果, フェオメラニンの生成量が減少してユーメラニンの比率が増加し, 皮膚への色素沈着が起こるものと考えている.
著者
大隈 和喜 吉松 博信 坂田 利家 足立 和代
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.247-253, 2000-03-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1

肥満者には荒噛み, 早喰いなどの食べ方の問題点がある.一方, 咀嚼で摂食量が減ることも微証がある.そこで肥満症治療の技法として「咀嚼法」を考案した.「咀嚼法」は1口30回咀嚼させ, その成否を○×で用紙に記録させる.21名の肥満症患者に対し, 日本食化超低エネルギー食, ならびに低エネルギー食を用いた入院減量プログラムに本技法を併用した.入院中本技法を継続することで咀嚼習慣をつけさせた.退院後に追跡調査できた12名の患者を, 退院後さらに減量できた減量群とそうでない非減量群に分け, 治療前後の食べ方や満腹感覚を比較した.その結果, 減量群では咀嚼に代表される食べ方の改善が認められ, 満腹感覚も回復していたことなどが示唆された.
著者
川人 潤子 上田 夏生 神原 憲治 三木 崇範 黒滝 直弘
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.540-545, 2021 (Released:2021-09-01)
参考文献数
4

本稿では,全国的に実施事例のない,心理職志望学生の解剖実習見学による教育効果を報告する.2020年1月に公認心理師養成課程である香川大学医学部臨床心理学科に在籍する2年次生が,同大学医学部医学科における解剖実習を見学した.見学後のアンケートの結果,15名のうち8割の学生は,人体の形態・機能に関する理解を深めた.さらに,献体への敬意を含む生命倫理の理解,心理士としての職責の理解,ならびに学習意欲に関しては,すべての学生の意識が促進された.また,自由記述による回答では,主に「心理士に必要な知識・技能・態度」「実感による学習」「献体への敬意」に関する記述が報告された.見学を通じて,学生の人体の形態・機能の理解が促進され,さらに生命への慈愛の精神や対人援助職として必須である倫理観が育まれた.解剖実習見学による,心理士養成課程の学生への高い教育効果が確認された.
著者
中井 義勝 任 和子 鈴木 公啓
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.69-74, 2017 (Released:2017-01-01)
参考文献数
18

食行動異常のため受診した患者を対象に, DSM-5診断基準を用いて回避・制限性食物摂取症 (ARFID), 神経性やせ症摂食制限型 (AN-R) とAN過食・排出型 (AN-BP) の診断を行い, その臨床症状を3群間で比較検討した. ARFIDは, 食行動障害および摂食障害群570例中83例 (14.6%) で, 全例が女性であった. ARFIDはAN-BPに比し初診時年齢が若く, 罹病期間が短かった. 精神病理を検討した結果ARFIDが3群間で最も低いことを示唆する結果であった. 今回検討した思春期以降のARFIDの臨床症状は欧米で報告されている小児のARFIDの臨床症状と異なる点があった.
著者
髙倉 修 鈴山 千恵 山下 真 波夛 伴和 須藤 信行
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.797-804, 2017 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9

摂食障害は発症や経過に心理社会的要因が密接に関わることから, 広義の心身症ととらえることができる. 患者の多くは発症前に何らかの苦痛や孤独を感じている場合が多く, 低い自尊心が内在している. さまざまな心理社会的ストレスに対して, 過食や拒食といった手段で対処しようとしているともとらえることができる. やせることで周囲から賞賛されたり, 努力すれば体重が減少するといった経験を通して一時的な自尊心の高まりを感じていることも多い.また, 慢性的な飢餓状態により強迫性などが強まるなど, 脳機能への影響も生じる. さらに, 神経性やせ症患者において, 遺伝子の後天的な発現変化が生じることも報告されている.摂食障害の治療は難渋することも多いが, 病態に即した心身両面からの統合的治療が重要である.
著者
小泉 準三 白石 博康 宮本 真理 松本 好正
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.255-261, 1981-06-01 (Released:2017-08-01)

A 24-yearold male was admitted to our hospital with his complaints of severe polydipsia, polyuria and headache. The total volume of urine reached up to nearly 15 liters per day. He showed nausea, vomiting, aggravation of headache and polydipsia by psychic stress during his hospitalization. No remarkable organic changes were observed in the laboratory data and other examinations. Being given a water deprivation test, he was diagnosed as psychogenic polydipsia. Psychological and environmental factors were considered to be related to the development of the disorder. He received supportive psychotherapy as well as drug treatment with no marked improvement. When the intake of water was restricted to the volume of 2 liters per day by using a scaled polyethylene vessel, the patient made a rapid recovery.
著者
江川 美保
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.515-520, 2020 (Released:2020-09-01)
参考文献数
11

有経女性に比較的高頻度に認められる月経随伴症状のうち器質的異常を伴わないものは, 月経期に出現する機能的月経困難症と黄体期に出現する月経前症候群/月経前不快気分障害に大別される. これらは正常な排卵周期における性ホルモン変動がもたらしており, 周期的に繰り返され生活の質に悪影響を及ぼす. 両者の症状発現のメカニズムは異なるが, 低用量エストロゲン-プロゲスチン配合薬という共通の治療薬が有効である. 子宮内膜症を含む月経関連疾患は少産化, 晩産化という女性のライフスタイルの変化によって顕著になった現代病であるともいえ, 女性の心身の健康増進のためには 「月経は我慢するのではなくコントロールするもの」 という意識改革と現代のライフスタイルに見合ったヘルスケアが求められている.
著者
高畑 紳一 萬谷 智之 馬屋原 容子 倉本 恭成 山口 博之 森岡 壮充
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.525-529, 1996-08-01

今回、我々は mazindol 投与後に交流分析的アプローチが奏効した過食症の1例を経験したので報告する。症例は20歳、女性で、18歳時にダイエットを開始し、過食、下剤乱用、抑うつ気分を主訴に当科に来院した。神経性過食症(DSM-III-R)と診断され、当科入院となった。向精神薬による薬物療法、交流分析、行動療法を施行したが、治療に抵抗し、症状が増悪した。しかし、食欲抑制効果のある mazindol のみが過食行動を抑制した。両親とボーイフレンドの協力を得て交流分析を学習し、抑うつ気分などの症状は徐々に改善した。交流分析的見地から本例の発症機序や病態に関して考察し、mazindol の食欲抑制効果が過食症の治療において貢献しうることが示唆された。