著者
佐藤 康弘 福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.26-30, 2020

<p>神経性やせ症, 神経性過食症に代表される摂食障害は, 多様な合併症状を呈し, 治療をさらに困難にしている. 神経性やせ症患者では, 極度の栄養不足と脱水から, 肝機能障害, 腎不全, 便秘, 脱毛など, 全身に多様な症状が出現する. 中でも低血糖, 電解質異常に起因する不整脈, 治療介入初期の再栄養症候群は死につながる危険性がある. 成長期における身長増加の停滞, 骨粗鬆症は体重回復後も影響が残る可能性がある. 過食排出型患者では自己誘発嘔吐によるう歯や, 嘔吐, 下剤, 利尿剤乱用による電解質異常が深刻な問題となる. 一方精神面では神経性やせ症でも神経性過食症でも不安, 抑うつなどの精神症状や, パーソナリティ障害の合併を認めることは多く, 治療上の障害となっている. ED患者の治療には, 心身にわたる合併症状への適切な対処が求められる. </p>
著者
中井 義勝 任 和子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.361-368, 2016 (Released:2016-04-01)
参考文献数
18

食行動異常のため受診した患者を対象に, DSM-Ⅳ診断基準とDSM-5診断基準を用いて摂食障害の診断を行い, 以下の点が明らかとなった. DSM-Ⅳ診断基準で, 摂食障害全体の37.1%を占めた特定不能の摂食障害は, DSM-5診断基準では, 8.4%と著しく減少した. DSM-5の過食性障害 (BED) の診断基準を満たす症例が251例の摂食障害患者中70例 (27.9%) 存在した. BEDは神経性過食症非排出型 (BN-NP) との鑑別診断が容易でない. 非排出行動の判定基準を明確にし, 判定方法を確立する必要がある. DSM-5ではbinge eatingを過食と訳しているが, 患者の訴える「過食」は, さまざまな食行動を含み, BEDの診断基準に合致しない場合があるので, 慎重な問診を必要とする. DSM-5で使用されているBEDの訳「過食性障害」と, binge eatingの訳「過食」の問題点について考察した.
著者
石蔵 文信
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.421-423, 2004-06-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
5
被引用文献数
1

近年,中高年男性にも女性と同様の更年期様症状があり,男性更年期として注目されている.泌尿器科領域では,男性ホルモン低下による種々の症状が新たな疾患概念となりつつある.近年の不況,リストラなどで中高年男性の自殺率が急速に上昇し,心療内科分野では,中高年男性のうつ病や不安症などをミドルエイジクライシスとよび,注意を喚起している.さらに,最近では中高年男性の勃起障害治療薬が発売され,勃起不全(ED)が注目され始めた.かかる状況の中で,中高年男性に特徴的な循環器疾患,EDさらにうつや不安症などを包括して診断治療するために男性更年期外来を2001年4月に開設したので,その特徴と経験を報告する.
著者
石蔵 文信
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.421-423, 2004-06-01
被引用文献数
1

近年,中高年男性にも女性と同様の更年期様症状があり,男性更年期として注目されている.泌尿器科領域では,男性ホルモン低下による種々の症状が新たな疾患概念となりつつある.近年の不況,リストラなどで中高年男性の自殺率が急速に上昇し,心療内科分野では,中高年男性のうつ病や不安症などをミドルエイジクライシスとよび,注意を喚起している.さらに,最近では中高年男性の勃起障害治療薬が発売され,勃起不全(ED)が注目され始めた.かかる状況の中で,中高年男性に特徴的な循環器疾患,EDさらにうつや不安症などを包括して診断治療するために男性更年期外来を2001年4月に開設したので,その特徴と経験を報告する.
著者
安藤 哲也 小牧 元
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.47-56, 2009
参考文献数
31
被引用文献数
1

摂食障害への罹患しやすさには遺伝的要因が大きく関与している.これまで候補遺伝子法による相関解析ではセロトニン2A受容体遺伝子,セロトニントランスポーター遺伝子,脳由来神経栄養因子遺伝子多型と神経性食欲不振症との関連が,メタアナリシスで示された.罹患同胞対連鎖解析では第1,第2,第13染色体上に神経性食欲不振症との連鎖が,第10染色体上に神経性過食症と連鎖する領域が報告された.グレリンは主に胃から産生され,成長ホルモンの分泌を刺激し摂食と体重増加を促進するペプチドである.筆者らはグレリン遺伝子多型およびハプロタイプが神経性過食症に関連すること,同じ多型が若年女性の体重や体格指数,体脂肪量,腹囲,皮脂厚などの身体計測値,「やせ願望」と「身体への不満」という心理因子,空腹時の血中グレリン濃度と関連することを示した.さらにグレリン遺伝子多型が制限型のANの病型変化のしやすさにも関連していた.マイクロサテライトマーカーを用いたゲノムワイド相関解析により,神経細胞接着関連分子遺伝子領域(11q22)と脳関連遺伝子クラスター(1p41)領域で感受性SNPが検出された.近年,生活習慣病,多因子疾患の疾患関連遺伝子の同定に成果を上げているゲノム全体を網羅するSNPマーカーを用いたゲノムワイド相関解析の実施を摂食障害においても目指すべきである.摂食障害に関する臨床研究,疫学研究での評価項目に遺伝子解析を入れておくことが,発見された摂食障害関連遺伝子の意義を決めるのに重要である.

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著者
岡 孝和
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.204-208, 2018 (Released:2018-03-01)
著者
深尾 篤嗣 高松 順太 河合 俊雄 宮内 昭 花房 俊昭
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.42-50, 2013-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
35
被引用文献数
1

甲状腺疾患の心身医療においては,患者ごとに「ホルモンが先か?ストレスが先か?」を念頭に置きながら診療することが重要である.バセドウ病,橋本病ともに精神変調を合併しやすいことが知られている.今日,精神病像として多いのはともにうつ状態,神経症であり,甲状腺機能のみならず多様な心理社会的要因が影響している.近年,多くの研究により,バセドウ病の発症にライフイベントや日常いらだち事が関与していることが確認されている.一方,本症の治療経過に影響する心理社会的要因の研究により,増悪要因としてライフイベント,日常いらだち事,抑うつ,不安,アレキシサイミア,エゴグラムのAC,摂食障害が,反対に改善要因としてエゴグラムのAやFCが見い出されている.
著者
東 豊 美根 和典 早川 洋 金沢 文高 土田 治 久保 千春
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.473-482, 1995
参考文献数
12
被引用文献数
5

This paper reports nine serious cases of non-ulcer dyspepsia (NUD) treated by systemic family therapy, and also discusses the connection between the patients symptoms and their family dynamics. About 90% of the patients revealed significant improvement by this therapy. This study also discusses the therapist's effective involvement in the therapeutic process. Generally, problems arising due to familial causes have to be viewed at two different levels. The first is that of content. That is, the specific problem as identified by either the patients or their family members. The second is that of context which is the web of interrelationships and other related circumstances within the family which are infiuenced by the belief that there is a problem. Systemic family therapy thus places greater emphasis on changing the dynamics within the family which are influenced by the belief that there is a problem. Systemic family therapy thus places greater emphasis on changing the dynamics within the context. In the representative three cases reported here in the therapist ostensibly addressed the content, each in a different way. In the first case the therapist "denied the existence of the specific family relationship problem identified by the patient and the family members." In the second representative case the therapist "acknowledged the patient's family relationship problem but denied its relation to the patient's symptoms, " In the third case the therapist "acknowledged the patient s famlly relationship problem and also acknowl edged its relation to the patient's symptoms." Thus the therapist adapted three different stances. In each of the representative three cases, however, the therapist actually attempted to change the dynamics within the patient's familial context. The reason for using different therapeutic approaches in the three cases was that in each case the strength of the patients' and/or their family members' belief in the existence of a family relationship problem differed. The therapist, therefore, had to deal with each patient and his/her family members in a different way in order to establish a harmonious optimum therapeutic relationship.
著者
横山 顕子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.251-257, 2019 (Released:2019-04-01)
参考文献数
16

過敏性腸症候群 (irritable bowel syndrome : IBS) に対して腸管に焦点を当てた催眠療法 (gut-directed hypnotherapy : GDH) の有効性が欧米などから多く報告されているが, 本報告では, GDHではなく, 単回の年齢退行催眠療法で1年にわたり有効であった男性の下痢型患者の1例を報告する. 症例は49歳, 男性. Rome Ⅳ基準下痢型IBS. 8歳の頃に実母が病死後, IBSを発症. 母親が亡くなる前後の場面を催眠下で想起し, その場面に対する認知の変容を導いたところ, セッション後IBS症状は軽快した. セッション前後の心理検査ではうつと不安の尺度が軽減し生活の質が高まったと評価された. 少ない来院回数を望む患者やGDHに反応しない患者, 幼少時のトラウマの関与が疑われる患者に対しては, 退行療法が治療の選択肢の一つになると考える. なお, 退行療法を行う際には, クライアント自らの気づきを尊重することが重要と考える.
著者
坂入 洋右 雨宮 怜
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.836-842, 2017 (Released:2017-08-01)
参考文献数
11
被引用文献数
1

現在, 人工知能の分野を先頭に, 科学的研究と応用的実践の方法に大きな変革が起きている. それは, 一般的仮説を検証してその成果を現実に適用するトップダウン型の方法論から, 現実の多量なデータに基づいてアウトカムを予測する最適モデルを個別に構築していくボトムアップ型の方法論へのパラダイムシフトである. 近い将来, メカニズムが複雑で個人差が大きな慢性疾患や心身医学的な問題には, 患者本人の膨大なデータに基づくボトムアップ型のアプローチが不可欠になるのではないだろうか. すでに, スポーツや教育などの実践方法においても同様のパラダイムシフトが起きており, 自律訓練法などの心身医学療法を臨床的に活用する場合にも, そのアプローチの違いが劇的な効果の差を産み出す可能性がある. 本稿では, それらがどのようなものか解説するとともに, 自律訓練法を題材として, 研究と実践における2タイプのアプローチの違いを具体的に提示する.
著者
古川 洋和 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.889-895, 2008-10-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
14

本研究の目的は,自律訓練法(AT)によるリラクセーション効果の妨害要因である不安感受性の操作が,ATによるリラクセーション効果に及ぼす影響を明らかにすることであった.健常大学生を対象に,(1)不安感受性が高く,AT指導前に不安感受性の緩和を目的とした認知行動プログラムが行われる介入群(10名),(2)不安感受性が高く,AT指導前に不安感受性に対する介入は行われないH統制群(5名),(3)不安感受性が低いL統制群(40名),の3群についてATによるリラクセーション効果の差異を検討した結果,H統制群は,ATによるリラクセーション効果が得られないことが明らかにされた.本研究の結果から,不安感受性の高い者においても,AT実施前に不安感受性を緩和することで,ATによるリラクセーション効果を促進できることが示され,不安障害の治療にATを用いる際は,不安感受性を緩和させてからATを指導する必要性が指摘された.
著者
園田 順一 武井 美智子 高山 巌 平川 忠敏 前田 直樹 畑田 惣一郎 黒浜 翔太 野添 新一
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.329-334, 2017

<p>ACT (Acceptance and Commitment Therapy) は, 1990年代に, 米国のヘイズら (Hayes SC, et al) によって発展され, 心理療法として, 急速に世界に広がった. わが国でも次第に知られるようになった. ACTは, その精神病理として6つの構成要素を挙げ, それに治療過程を対応させている. われわれは, これに倣って森田療法で対応した. 驚いたことに, ACTと森田療法はきわめて類似している. その共通点として, ACTと森田療法は, どちらも精神病理においては, 回避行動ととらわれがみられ, 治療過程においては, 受容と目的に沿った行動を強調している. このような中で, 1920年代に生まれたわが国の森田療法の存在は, 現在, 光り輝いている.</p>
著者
長岡 千賀
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.7, pp.603-607, 2020 (Released:2020-10-01)
参考文献数
9

心理カウンセリングの対話におけるクライエントとカウンセラーの関わりについて, 身体動作の同調性 (身体動作が相互作用者間で同期する現象) を切り口として検討した. 分析した事例は, プロのカウンセラーとクライエント役の対話4事例で, そのうち2事例は心理面接として高く評価されたが (高評価群), あとの2事例はそうではなかった (低評価群). 加えて, 高校教諭と高評価群のクライエント役の悩み相談の対話2事例も分析対象とした. これら6事例を撮影した映像を解析して各人の身体動作の大きさの時系列的変化を測定し, 相互移動相関分析を行った. 結果から, ①カウンセラーの身体動作はクライエントの身体動作の約0.5秒後に起こる傾向があること, またこの傾向は, ②高評価群において特に顕著であり, ③悩み相談の対話では確認されないこと, また④時間経過に伴って同調性の強さが変化することが示された. クライエントとカウンセラーの関わりの質の変化について考察した.
著者
田中 勝則 田山 淳 有村 達之
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.334-342, 2013-04-01

本研究では大学生における身体醜形懸念とアレキシサイミアの関連について検討することを目的とした.身体醜形障害およびアレキシサイミアのいずれにもネガティブ感情が関連していることから,身体醜形懸念,アレキシサイミア,ネガティブ感情についての関連を検討した.大学生328名(男性187名,女性141名)から得られたデータを分析した結果,ネガティブ感情を統制したうえでも,身体醜形懸念の下位因子はいずれもアレキシサイミアの下位因子である感情同定困難因子と有意な正の相関を示した.また,身体醜形懸念の下位因子の一つである容姿への否定的評価因子は,同様にネガティブ感情を統制した際に,アレキシサイミアの下位因子である感情伝達困難因子とも有意な正の相関を認めた.アレキシサイミアの外的志向因子は身体醜形懸念とは有意な相関を認めなかった.重回帰分析の結果,感情同定困難因子は身体醜形懸念のいずれの下位因子とも有意な正の関連を示した.一方,感情伝達困難因子および外的志向因子は身体醜形懸念のいずれの下位因子とも有意な関連を示さなかった.以上の結果より,アレキシサイミアの特徴の一つである感情同定困難が身体醜形懸念と正の関連を有している可能性が示唆された.
著者
福井 義一
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.347-353, 2021 (Released:2021-05-01)
参考文献数
34

過敏性腸症候群 (irritable bowel syndrome : IBS) の診療ガイドラインでは, 標準的治療が奏効しなかった第3段階で心理療法が推奨されており, エビデンスを有する心理療法の1つとして催眠療法が挙げられている. しかしながら, 本邦において, IBSに対する催眠療法の有効性は十分に周知されておらず, 患者からの催眠療法に対するアクセシビリティも低い. 本稿では, IBSに対する催眠療法の適用について, そのエビデンスと背景にあるメカニズムについて述べ, 介入研究でよく使用されてきた催眠療法プロトコルの構成要素を紹介した. また, 実際にIBSに対して催眠療法を適用する際の工夫について述べ, 今後のわが国におけるIBSに対する催眠療法の課題と展望についても論じた.
著者
友成 晶子 山内 祐一
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.163-170, 2015-02-01

症例は,内気で気が弱く孤立傾向のある病前性格をもつ独居男性.社交不安障害(SAD)から職場不適応になり自宅閉居となった.休職が長期化し治療介入方法の選択に苦慮したが,認知行動療法が功を奏し,徐々に不安,緊張に改善傾向が認められるようになった.しかし東日本大震災が発生.患者は外出困難が再現し,食料がなく飢餓状態になっても家族が安否不明であっても「ひきこもり」を続けた.震災2カ月後にようやく実家へ出向き,津波の惨状を目の当たりにした.患者は自己の「ひきこもり」に対して絶望感から焦燥感へと心的変化があったと語り,復興ボランティアへの志願,職場復帰プログラムへの参加など自ら積極的に行動した.身体症状もほぼ改善され,震災10カ月後に職場復帰するに至った(休職2年3カ月).その後就労継続し再発はない.過去,「ひきこもり」治療の具体的な報告はほとんどみられない.職場復帰に成功した症例を経験したので報告する.