著者
笹塲 育子 上田 智章 山森 信人 佐久間 春夫
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.3-17, 2016 (Released:2017-10-29)
参考文献数
32

今日, 競技力向上に必要不可欠な一側面として心理面の強化が世界的に認知されており, メンタルトレーニングはその代表的なアプローチの一つである. その効果については, 定性的・定量的両側面からの評価が望ましいが, 未だ多くがアスリートの主観的な報告に留まっており課題である. また, 世界レベルのエリートアスリートが体験している高強度なプレッシャーについて, 実験室と実際の競技現場では大きなギャップが生じていることに着目する必要がある. そこで本研究では, 実験室で習得されたメンタルスキルが実際の競技場面においてどのように応用され機能しているのかについて, パフォーマンス直前の集中状態を含めたメンタルトレーニングの効果を明らにすることを目的とした. 実験1では, エリートアスリート (個人採点競技種目オリンピック代表選手1名) を対象に実験室において20日間の呼吸法トレーニングを実施し, さらに競技場面への応用について検証した. 実験室場面および競技場面でのトレーニング効果は, 生理的指標, パフォーマンス指標, 内省報告の多面的な側面から検討を行った. さらに, 実験1の結果に基づいて実験2では, 類似した競技特性を持つ学生選手への適用を試みた. 結果, 生理的指標からはStress Eraser (SE) ポイントの増大および呼吸数の減少により呼吸法トレーニングの効果が実証された. 加えて, パフォーマンス指標からは呼吸法トレーニングの実施が競技成績の向上に役立ちパフォーマンス直前の適切な集中状態をつくりあげるセルフコントロールスキルの一つとして機能していたことが示唆された. 最後に, 内省報告からは, アスリートが主観的に感じていた呼吸法習得過程の困難さやトレーニング効果, また実験室場面と競技場面とのズレが, SEポイントや呼吸数などの生理的指標の結果と一致していたことなどが明らかとなった.
著者
王 国譜 王 文超 佐久間 春夫
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.67-73, 2007
被引用文献数
1

本研究では,健康づくりに太極拳を取り入れている健常者を対象に,太極拳式呼吸法の遂行に件う精神生理学的応答について検討を行った.被験者(年齢57±4.4歳,継続年数5.6±2.3年)は,太極拳を継続している者であった.安静時,太極拳式呼吸時,終了後30分時の各時間条件での状態不安,心拍,血圧,脳波を測定した. 安静時条件に比べ以下の結果が得られた,(1)太極拳式呼吸を実施した直後及び終了後30分に状態不安の有意な低下,(2)太極拳式呼吸時及び終了後30分時の心拍数の有意な低下,心拍変動のCVRRとHF/LF≧1の出現頻度にも有意な増加,(3)血圧の低下傾向,(4)条仲間には脳波の含有率の有意な差が見られなかったが,脳波帯域別に有意な差が認められ,α1帯域がβ2帯域より,α2帯域がθ帯域及びβ2帯域より有意に多かった. 以上のことから,太極拳式呼吸の実施により,状態不安が低下し自律神経系の側面からも心理的ストレスが減少することが示された.また,太極拳の継読者は,太極拳の習得および修得により太極拳式呼吸が日常生活においても習慣化されていることによって,α1帯域及びα2帯域の出現率が優位であったと考えられる.従って,これらの結果は,身体運動を伴わない太極拳式呼吸のみ実施しても,心身の健康を向上させる効果のあることが示唆されたものと考えられ,太極拳式呼吸法の活用の有益さを示すものと期待される.
著者
生月 誠 原野 広太郎 山口 正二
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.1-4, 1987-06-14 (Released:2017-05-23)

安静時のSCLの値および弛緩訓練を負荷したSCLのバイオフィードバック訓練におけるSCLの変化過程が,被験者の神経症的な傾向をどの程度反映するのかを検証しようとした。その結果,神経症者で不安,恐怖を生訴とする群(B群)は,健常群(A群)および神経症者で強迫観念,強迫行為,心気症状を主訴とする群(C群)と比べて,SCLの値が高く,また弛緩訓練を負荷したバイオフィードバック訓練において,B群はA群およびC群よりもSCLが下降傾向を示した。
著者
郷久 鉞二
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.33-39, 1996-12-24 (Released:2017-05-23)

I was in Okushiri Island when the Great Earthquake happened in July 1993,and I was also in Yubari county during the Great burst accident in a coal mine ten years ago. There were many children born without fathers because a hundred coal miners died. However the women of Yubari and Okushiri counties who suffered bereavement appeared not to feel too much loneliness, partly as a result of the strong emphasis these cultures place on family cohesion which offered the new mothers great social support. 1) I compared Yubari(Country) with Sapporo(City) for patients with climacteric syndrome(N = 64,30) , and for women giving birth(N = 1288,4775). The women in Yubari in both of the above categories were younger than in Sapporo City significantly. 2) The grief care cases(N = 38) were more stressful and more psychosomatic than other cases. 3) I had one case of a woman from Hakodate when the Great Earthquake happened about thirty years ago giving birth whose delivery pains suddenly disappeared. It was suggested that this was due to an increase of plasma adrenaline, a chemical which in our previou study hasbeen shown to exist in higher lebels in women who's husband are absentduring child birth.
著者
味村 俊樹 福留 惟行
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.23-31, 2012-04-25 (Released:2017-05-23)

【目的】便秘症のうち骨盤底筋協調運動障害に起因する便排出障害に対しては,バイオフィードバック(以下,BF)療法が有効とされ,本学会誌38号1巻において,この病態に対する直腸バルーン排出訓練単独によるBF療法の有用性を報告した.それ以降,肛門筋電計を用いた真の意味でのBF療法を併用することによって更に良好な成績を得たので報告する.【方法】2010年8月〜2011年5月に,骨盤底筋協調運動障害に起因する便排出障害型便秘症に対して直腸バルーン排出訓練に加えて肛門筋電計を用いてBF療法を施行した19例を対象に,その臨床背景と治療効果を検討した.治療効果は,便秘症状をmodified Constipation Scoring System (mCSS : 症状なしO点〜最重症26点)で,生活の質をPatient Assessment of Constipation Quality of Life Questionnaire (PAC-QOL : 最善1点〜最悪5点)で評価するとともに,BF療法における怒責時の肛門筋電計活動度の変化も評価した.また,受けた治療に対する満足度を5段階で評価した.【結果】19例の年齢中央値は73歳(範囲:62〜85歳),男性13例で,BFセッション回数は中央値3回(1〜5)であった.4例は初回のBF療法後に来院しなかったため,BF療法後に治療効果を評価出来たのは15例であった.mCSS中央値(範囲)は,初診時12点(6〜18)からBF療法直前10点(4〜14)と有意に改善し(P=0.0005),BF療法後には5点(3〜12)と更に有意に改善した(P=0.004).PAC-QOLも,初診時3.3点(1.7〜4.6)から2.7点(1.7〜3.8)と有意に改善し(P=0.009),BF療法後には1.5点(1.0〜2.7)と更に有意に改善した(P<0.0001).BF療法における怒責時の肛門筋電計活動度を評価出来た10例では,BF療法初回の中央値9μVが,最終回には4μVと有意に低下した(p =0.0156).BF療法後に評価出来た15例での治療に対する満足度は,「非常に満足」7例,「かなり満足」4例,「満足でも不満でもない」2例,「あまり満足していない」1例,「全く満足していない」O例,無回答1例で,「満足」と回答したのは11例(73%)であった.【結論】骨盤底筋協調運動障害を呈する便排出障害型便秘症に対するBF療法において,直腸バルーン排出訓練に加えて肛門筋電計を使用すると治療成績が向上し,便秘症状も便秘特異的な生活の質も有意に改善した.
著者
森谷 ★ 小田 史郎 中村 裕美 矢野 悦子 角田 英男
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.61-70, 2002-09-22 (Released:2017-05-23)

芳香のセラピー効果の判定には,主観的な感情による評価と客観的な生理的効果の両面から確認する必要がある.私たちは,クレペリンテストを45分間負荷した後,カモミール茶(または同量・同温の白湯)を飲ませ,自律神経機能(心電図R-R間隔データと体温)と感情指標(質問紙MCLによって測定した快感情,リラックス感,不安感)の変化を同時に測定した.カモミール茶を飲んだ後にリラックス感得点が上昇した.一方,自律神経機能では心拍数と交感神経活動の指標とされるLF/HF比の低下が大きく,末梢皮膚温の上昇が大きかった.カモミール茶を飲んだ後のリラックス感得点の変化量と自律神経機能の変化量の間に,有意な相関が認められた.これらの結果から,客観的に評価される生理指標の値と主観的な感情得点がかなり良く対応すると考えられる.
著者
市原 信 矢島 正晴 梅沢 章男 児玉 昌久
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.5-10, 1984

The microcomputer-based, multi-purpose biofeedback (BF) sytem was developed for several clinical applications. The main components of system were as follows : the microcomputer, (Apple II), a color CRT display, a synthesizer, an anlog-to-digital converter with 12 channel analog multiplexer. To fascilitate data processing, a Z80 CPU card with the disk operating system (CP/M) was also installed. First, 2-channel EMG BF training was introduced to motor disturbance caused by cervical spinal cord injury. Two EMG activities obtained from an upper limb of a subject were sampled by the system, then fedback as graphic patterns on a CRT or as auditory stimuli via a synthesizer. This multiple BF procedure with integrated feedback information was effective for reducing the muscle co-contraction in such a subject and the appropriate motor pattern tended to be established easily. Second, potentiometers were attached one each to two weight scales to which subject's weight was allocated. Analog outputs from the potentiometers were fed to the BF system. It was shown that reliable data to evaluate the voluntary control of standing posture in cerebral palsied children, could be obtained with the simple measuring devices and the system. It was discussed that, as shown in the second example described above, the quantitative data acquisition could be realized only with the addition of simple sensors or transducers. Furthermore, thtypical BF training process in clinical applications was summarized in terms of softwares of this system. The process consist of planning, execution, and evaluation of BF training, all of which are controlled and optimized at the software level. It was exemplified well in the multiple EMG BF training in the present report. It was suggested that further quantitative data analysis with this BF system is necessary to reveal the critical role of feedback information for more effective application of BF procedures to clinical situation.
著者
可部 明克 柿本 亜紀 横田 善夫 長澤 夏子 加瀬 隆明 加藤 英理子 渡辺 仁史
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
BF研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.9-18, 2006

現代社会で生活する中で、人は様々なストレスを感じることがある。そのためリラックスして安心・快適に感じるための装置やツールがさらに求められ、現在はエレクトロニクスで制御されているものが、近い将来はロボット技術によって制御されるかもしれない。21世紀における"ロボット技術"の新しい役割とは、人間を直接サポートする新しいタイプのロボットを開発することである。"スヌーズレン(気持ちよく心地よい空間で、リラックスし穏やかな時を過ごす)"デバイス、及びロボットを用いて、バイオフィードバックを行う考え方は、早稲田大学理工学総合研究センターの研究会で潜在ユーザや各国の市役所・研究機関とコンタクトし、ビジネスに繋がるアイデアを検討している際に、市場分析の中から見出されたものである。本稿では、"スヌーズレン"デバイスとロボットからなる基本的なシステム、ユーザのインタフェースとなるロボットの主要な機能、事業化の事例と事業拡大の可能性、ユーザのストレスレベルの計測方法(予備検討のレベルのオフライン計測)、予備計測の結果などにつき報告する。また、このバイオフィードバックシステムの次のステップとしては、特定のセンサを導入して生体計測をさらに行い、ロボットやスヌーズレンデバイス(刺激ツール)との統合を進める。本研究は、建築学、ロボット工学、医学などの各研究グループが融合した形で行われ、ASMeW(早稲田大学先端科学・健康医療融合研究機構)の中で活動しており、人間の周辺の環境制御、医学、ロボット工学が融合した新しい分野を切り開く可能性もある。
著者
鈴木 里砂 村岡 慶裕 岡崎 俊太郎
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.15-20, 2017 (Released:2017-05-22)
参考文献数
9

【目的】我々は, 筋電図バイオフィードバック療法の普及を促進する目的で, 最新の主要なスマートフォン, タブレット端末で使用可能な低コスト簡易型筋電図バイオフィードバック装置 (以下, LC-EMG) を改良した. 今回, この改良したLC-EMGがどの程度の性能を有しており, バイオフィードバック療法で使用可能となる性能を持ちうるか検討するため, 既存の検査用筋電計と比較し, 筋電波形の一致度を確認したので報告する.【方法】正電極, 負電極, および参照電極からのコードをそれぞれLC-EMGと検査用筋電計である日本光電工業社製Neuropack 8に接続し, 性能比較を行った. 対象者の右尺側手根伸筋に電極を貼付け, 手関節掌背屈運動を10秒間で5回実施し, 得られた筋電波形を比較検討した.【結果】提案装置は, 筋収縮量や収縮のタイミングが検査用筋電計とほぼ同様であり, EMG-BF装置として, 妥当性のある筋活動を, 容易かつリアルタイムに視認できた.【結論】今回の提案装置は, EMG-BF療法で活用する時に, 妥当性があることが示された. また, 機器自体を低コストで作成でき, 広く普及しているスマートフォン, タブレット端末を筋電図モニター及び筋電図波形の記録装置として利用可能となるため, 施設や在宅など場所を選ばず利用することができ, 汎用性に優れた装置であるといえる.
著者
松浦 桂 山本 隆一郎 野村 忍
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.17-22, 2009-04-25

本研究では,ストレスークリーナー(SC-SX:株式会社テクノスジャパン製)の心理・身体的リラクセーション効果を検証した.対象者は44名(男性20名,女性24名,平均年齢34.14歳,SD=11.58歳)であった.対象者は,SC-SXの音楽付映像AおよびBを順に視聴した.心理指標の測定には,対象者の気分状態が用いられた.気分状態の測定には,Profile of Mood State短縮版(POMS:横山,2005)を用い,映像視聴前(T1)・A視聴後(T2)・B視聴後(T3)の3時点で回答するよう教示された.POMSは,緊張-不安(Tension-Anxiety:T-A),抑うつ-落ち込み(Depression-Dejection:D),怒り-敵意(Anger-Hostility:A-H),活気(Vigor:V),疲労(Fatigue:F),混乱(Confusion:C)の6つの下位尺度から構成され,総合的な気分状態(Total Mood Disturbance:TMD)は,Vを除く全ての下位尺度を合計した点数からV得点を減じて算出された.生理指標の測定には生体信号(筋電位)が用いられた.生体信号は,周波数解析(FFT)を行われた後,2Hz〜40Hzのパワー値が3時点について記録された.記録された生体信号は,全て積算され,平均を求めたものがPCの画面上へ100指数で表された(以下,NB値:Numerical of biological signal).統計解析には,映像視聴時期を独立変数,POMSの各下位尺度得点平均値・総合得点(TMD)平均値・NB値平均値を従属変数とする1要因3水準の反復測定分散分析を用いられた.全ての下位尺度,TMD,NB値において,映像視聴時期の主効果が確認されたT-A,A-H,F,C,TMD:p<.001,V:p<.01,D:p<.05,NB:p<.10).単純主効果(Bonferoni法)の検討を行った結果,T1-T2において,全ての下位尺度およびTMDの有意な低減が確認された(ps<.05).T1-T3においては,D以外の全ての下位尺度およびTMDの有意な低減が確認された(ps<.01),また,T2-T3においては,T-AおよびNB値に有意な低減が認められた(緊張-不安:p<.01,NB:p<.10).以上の結果から,SC-SXの心理・身体的リラクセーション効果が確認された.
著者
秋葉 光俊
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.60-64, 1983-06-30

The purpose of our research was to assess the effectiveness of biofeedback circuit during meditation periods experimentary and theoretically, using EEG-EMG biofeedback instruments. We commanded 10 students-Dept. of Electronic Engng.- to meditate, self suggest to grow warmer or to feel heavy in arms, and to have pleasant orunpleasant image, etc. We measured the percentage time Alpha during their self-control peroids without the biofeedback instruments and then with it. Only when it was recognized that their EMG potentials were lower than 2Q μV threshold, their percentage time Alpha were measured. The results showed that the average EEG Alpha increesed more than 20 percent except a few when they had trained using EEG-EMG biofeedback instruments. In this biofeedback loop, controlled variable is the rhythmic potential from thalamus to neocortex in the nervous "Hierarchy Control System". This valiable is compared with the desired value through the feedback circuit consists of the instruments and the auditony nervous system. We consider that the feed forward circuit including the learning function is added to the feedback circuit by each EEG EMG biofeedback training, and the training is to be useful to modify some parameters in this nervous control system.
著者
竹林 直紀
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.77-82, 2011-10-25

この度の東日本大震災や原発事故による大きな環境の変化は,心だけでなく身体にも自律神経を介して影響を及ぼしている.「精神生理学的ストレス(トラウマ)ケア」は,心身のストレス反応を自分自身の力で改善していくためのセルフケアの方法である.医療施設や薬がない状況下でも,自律神経バランスを自分自身で回復することで,さまざまな心と身体の症状を改善することができる.この方法は,従来の「治療モデル」の考え方による専門家を必要とする医療的ケアとは異なり,「教育モデル」に基づき,震災被害により引き起こされた自律神経系などのストレス反応を,認知,行動,栄養の3つの要素を重視しながら自らセルフコントロールやセルフケアにより回復させていく.
著者
高井 秀明
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.157-165, 2009-10-25

本研究では,安静時における心拍音の傾聴が心理・生理的変化に及ぼす影響について検討した.本研究は2つの実験から構成され,実験1では心拍音傾聴条件(閉眼状態で心拍音を傾聴する状態)の影響を,実験2ではメトロノーム音傾聴条件(閉眼状態でメトロノーム音を傾聴する状態)の影響を統制条件(閉眼状態で心拍音とメトロノーム音を傾聴しない状態)と比較して検討した.心理指標にはPOMS(Profile of Mood States)短縮版と内省報告を用い,生理指標には心電図R-R間隔,皮膚電位水準を採用した.さらに心電図R-R間隔からは,Lorenz plotを算出した.その結果,心拍音傾聴条件の特徴がみられたのは,実験1の生理指標であるLorenz plotのCSI値と皮膚電位水準においてである.Lorenz plotのCSI値より,心拍音傾聴条件は実験後安静において心臓交感神経活動を抑制した.また,実験中の心拍音傾聴条件の皮膚電位水準は,統制条件よりも陽性値を示した.以上のことから,安静時に心拍音を傾聴することは,閉眼安静状態よりも交感神経活動を抑制させることが明らかになった.