- 著者
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松本 真輔
- 出版者
- 日本文学協会
- 雑誌
- 日本文学 (ISSN:03869903)
- 巻号頁・発行日
- vol.53, no.6, pp.11-20, 2004-06-10
中世における聖徳太子信仰が、観音信仰と重なるものであったことは、かねてより指摘のあることである。そこには、「救世」の言葉にふさわしく、慈愛に満ちた太子のイメージを読みとることができる。しかし、中世における太子信仰は、観音信仰のみで語り尽くせるものではない。多種多様な形で展開していた中世太子信仰の世界においては、時として、戦争を仕掛ける凶暴な太子の姿も描かれていた。本稿では、中世太子伝における太子の兵法伝受説の展開を端緒として、武人としての太子像の形成について検討し、更に、こうした太子像の広がりを示す一例として、滋賀県甲賀郡にある油日神社の縁起を取り上げる。