著者
井谷 信彦
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.184-196, 2021 (Released:2021-11-02)

本論稿の課題は、演劇教育家V.スポーリンの思想に見られる「エネルギー」という概念の内実と射程を明らかにすることにある。これにより、従来即興パフォーマンスの実演/思想を立脚点とする教育の実践/理論のなかで多くの場合に無規定なまま使われてきたこの概念の、意味と用法を見定めるための端緒が築かれる。加えて、即興演劇やインプロゲーム等の手法を用いた教育実践の分析・省察にとって、このエネルギーと呼ばれる現象に関する彼女の思想が重要な視点を提供するものであることが明らかにされる。
著者
山村 滋
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.157-170, 2010-06-30 (Released:2017-11-28)

本稿は、高大接続の問題点に、2つのアプローチにより迫り、それを踏まえて改善のための基本的構想を提示したものである。大学入試と高校教育の多様化は、高校教育の学力的・学習内容的拡散、受験シフトをもたらした。また、高校までに身についた技能と大学で必要な技能の分析の結果、「パフォーマンスにもとづく評価」が適する技能・能力が、大学での勉学のために必要なことが明らかになった。したがって、大学で必要な技能を含む学力・能力の形成にも資する高校教育課程を前提として、受験シフトを防ぐように工夫された、高校での成績の評価に基づく大学入学システムが必要なのである。
著者
小泉 かさね
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.273-284, 2021 (Released:2021-11-02)
参考文献数
19

本研究は研究室コミュニティへの参加の実態と課題の解明により、その改善に資することを目的とする。大学の国際化において研究室の重要性が増す中、国内外でその実態が解明されておらず、学術的に体系化された方法論がない。分析の結果、留学生のコミュニティ参加の契機、参加の肯定的・否定的側面が明らかになった。また、コミュニティの閉鎖性と同化圧力、参加形態における選択肢の少なさが同化圧力をうむことが示唆された。
著者
川上 英明
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.87, no.3, pp.367-378, 2020 (Released:2021-01-09)
参考文献数
35

本稿は、森昭における人間の「生成」の歴史性と自然性に関する議論を、京都学派の思想圏との関係性に着目しながら検討し、その可能性と限界を見定めることを目的とする。具体的には、森のハイデガー解釈に着目し、それが和辻哲郎と高坂正顕によるハイデガー解釈と関連していることを示すことで、本稿の目的に迫る。この検討は、人間生成の歴史性と自然性との緊張を緊張として思考する地平を切り開くものとなる。
著者
佐藤 一子
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.143-154, 2017-06-30 (Released:2018-04-27)

戦後教育改革期に、新憲法精神の啓蒙的普及と公民館設置を通じて社会教育における「政治的教養」の習得が奨励された。本稿では社会教育法理念における「政治的教養」のもつ意義を明らかにし、国民の学習権思想の生成と主権者意識を育む政治学習の展開をあとづける。今日、社会教育施設で中立性の名目で「学習の自由・表現の自由」を規制する動きがある。公民館での俳句サークルの裁判の事例を通して、社会教育の中立性をめぐる法理と学習権保障の課題を考察する。
著者
橋野 晶寛
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.315-323, 2016-09-30 (Released:2016-12-14)
参考文献数
28
著者
森田 伸子
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
教育學研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.498-510, 2003-12-30

The history of modern education has been the history of nationalization of people by teaching them the national language and its letters. The level of national literacy has been regarded as the criterion of the level of the modernization. It must be noticed that this process of invention of literate people was also the process that made deaf people abandon their natural language=sign language and accept the national language=language of voice. Deaf people were forced to learn the language of voice, as well as its letters. In other words, the hypothesis of the general development from orality to literacy, which has been supported by some anthropologists, has no meanings for the deaf people. There used to be, however, various ideas of languages, including the gestures as well as the speech, especially in the 17th and 18th centuries Europe. It is remarkable that both of them were regarded as "natural language" and thought to have their own writings, alphabet letters for the former and some kind of characters for the latter. In this paper, we will examine these two types of writings, and the different meanings or possibilities of literacy.
著者
濱中 淳子
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.411-422, 2016-12-30 (Released:2017-05-26)
参考文献数
13

高大接続をめぐっては、すでにさまざまな施策が試みられているが、その根底には、ひとつの共通した要素が確認される。関係者たちの「善意」だ。ただ、善意がいつも望ましい施策につながるわけではないのもたしかだろう。本論文は、大学生や高校生に実施した質問紙調査の分析から、むしろこれら施策が中間層にあたる高校生を学習から遠ざけ、大学での充実した学びも難しくさせている様相を実証的に描いたものである。
著者
小玉 重夫
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.412-423, 2009

1990年代以降の教育改革において「説明責任」とならんで重要な概念として浮上してきた「遂行性」は、学校や教師をアイデンティティの不安へと追い込み、シニシズムをもたらしつつある反面、多様なアイデンティティの構築可能性を含む「転用戦の場」でもある。さらに、遂行性にはらまれている「アイデンティティの固定化」という限界を超えるためには、遂行性を宙づりにしつつ、廃棄、刷新することを可能にする遂行中断性が重要である。この遂行中断性に、新しい教育政治学の条件を見いだすことができる。
著者
倉石 一郎
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.360-369, 2007-09

高知県の「福祉教員」とは、戦後の新学制の発足直後の長欠・不就学問題対策のため配置され、その後同県の同和教育を担う人材を輩出した独特の教員制度である。本稿では、教育界の内と外の境界上に位置し、その開閉を通じて内外の調整をはかる存在という視点から福祉教員を位置づけ、その活動の軌跡の検討を通じて、長欠・不就学問題やその背後にある部落問題といった、教育実践の安定構造を脅かす危機(<社会>)に直面することによって教員の職分を画する境界にどのような変容が生じるかを考察した。分析から浮き彫りになったのは、境界を開いて問題状況を呈している子どもに、教育関係を媒介せずに直接的に働きかける側面と、その逆に自らが外部の盾になって遮断につとめ、かつての安定構造への回帰をもくろむ側面の両方であった。しかしこうした矛盾ともとれる両面性にもかかわらず、あるいはそれゆえに、福祉教員の足跡には多くの今日的示唆がある。
著者
野平 慎二
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.356-367, 2008-12

1990年代半ば以降、教職の脱専門職化を促進する教員政策が次々と打ち出されている。国民の高学歴化、消費者化とも相俟って、教師の社会的地位は相対的に低下し、教師の仕事は多様化、教職の専門性の基礎は不明確化している。ひるがえって、教職の専門性研究の主題は、地位や制度への問いから、専門的実践の内実への問いへと移行してきた。その背景には、専門性の制度的保障が権威主義に転化することへの疑義がある。本論では、学校教育の公共性が変質しつつある現状を踏まえ、学校教育の公共性の整理とそこでの教職の性格づけの検討をとおして、あらためて教職の専門性の基礎を問い直す。結論として、対話を基礎とした非権威主義的な教職の専門性の概念を提示する。それは、国家と社会からの教育要求に対して一定の自律性をもち、当事者のニーズを対話的に媒介することで、子どもの学習権を保障するものである。