著者
飯田 健
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.48-59, 2013 (Released:2017-12-06)
参考文献数
23

本論文は,有権者のリスク態度に焦点を当てることで,投票選択に関する従来からの問いに新たな答えを与えるものである。政権交代はしばしば急激な政策変化を伴い,その政策変化は経済や社会に良くも悪くも不安定性をもたらす。それゆえ,そうした不安定性を嫌うリスク回避的な有権者は選挙において,たとえ与党に不満を感じようとも野党を支持せず,再び与党に投票する傾向が見られるであろう。反対に,リスク受容的な有権者は政権交代を求めて喜んで野党に投票するかもしれない。本論文では,2012年12月の総選挙後に行われたJapanese Election Study V(JESV)のデータを用いて,この仮説を検証する。多項ロジットを用いた統計分析の結果,政党支持態度や経済評価の影響を考慮してもなお,2009年に民主党に投票したリスク受容的な有権者は2012年において自民党もしくは維新の会へと投票先を変える傾向にあったことが示された。
著者
新井 誠
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.62-73, 2009 (Released:2017-02-06)
参考文献数
16

近年,野党が国会の参議院の多数派を形成したことで,いわゆる「直近の民意」論が示されたように,これまで日本では,衆参両院の憲法上の権限関係は非対等でありながら,衆参で類似の選挙制度が採用されるなど,両院の民主的対等性が所与のことのように考えられてきた。しかし,国会での両院関係そのものが党派間争いの主戦場となり,国会運営が停滞する場面が頻繁に見られる現在,各院の民主的正当性のバランスを再考することもあながち不要であるともいえまい。そのような点で,第二院の組織方法に間接選挙制を導入するなど,下院との非対称な選挙制度を採用するフランス元老院が注目される。しかし,フランス元老院の選挙制度にも問題があり,なかでも一定の政治勢力を固定化させる機能を有している点が特に問題でもある。こうした点を克服しつつ,日本でも現行憲法の下で,衆参両院が非対称となる選挙制度を構築する理論的可能性を探ることが必要である。
著者
木村 高宏
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.125-136,257, 2003-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
11
被引用文献数
4

本稿では不満な有権者の棄権を,ハーシュマン(Hirschman, Albert O.)の提示した「退出」であると考える。この理論枠組みを敷衍して,不満な者の投票参加がいくつかの要因によって影響を受けるという仮説を検証する。本稿の分析を通じて,不満であっても何らかの政治課題を重要だと考えれば投票し,あるいは,社会をよくするために何かができると考えれば投票する,という有権者の存在を示すことができた。このことは,有権者自身の態度形成を問題にしており,政策距離を中心に考える期待効用差からの研究に対して,有権者の政治を理解する能力が十分に成熟していない場合にも採用可能であるという利点があるだろう。また,分析において,政治的疎外感を示す質問と,「社会をよくする」というような有力感に関する質問とが,質的に異なることを示すことができた。
著者
黒阪 健吾 肥前 洋一 芦野 琴美
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.16-30, 2014 (Released:2018-01-05)
参考文献数
18

本論文では,デュヴェルジェの法則とその中選挙区への応用であるM+1ルールの頑強性を実験室実験により検証する。単記非移譲式の1つの選挙区を想定し,実験参加者たちが有権者として4人の候補者たちの中から1人に投票するという設定で1議席(小選挙区)と2議席(中選挙区)を比較したところ,1議席のほうが票が少数の候補者に集中するというM+1ルールの比較静学が支持された。しかしながら,いずれの議席数でもM(議席数)+1人より多くの候補者に票が分散した。したがって,M+1ルールの比較静学は頑強と言えるが,ちょうどM+1人に票が集中するためには,本実験では排除された他の要因が必要であると考えられる。

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出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.135-144, 2011 (Released:2017-07-04)
著者
田中 愛治
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.80-99, 1992-04-30 (Released:2009-01-22)
参考文献数
35
被引用文献数
3
著者
豊田 紳
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.88-100, 2018 (Released:2021-07-16)
参考文献数
36

非民主主義体制(=独裁体制)の政治過程は,秘密のベールに覆われている。そのため,その選挙,殊に選挙不正については,不明な部分が多い。本稿の目的は,独裁体制の選挙不正に新たな光を当てることを通じて,その政治過程の理解に貢献することである。具体的には次の2つを主張する。第1に,独裁体制における選挙不正には,独裁体制内の中下級エリートが独裁者に対して,自らの得票率を誇示するための「ゲーミング」として行うものが存在する。第2に,野党が競争選挙に参加し,監視するようになると,ゲーミングとしての選挙不正は起きづらくなる。2000年の民主化以降,様々なアーカイブ資料やデータが利用可能となったかつての独裁国家メキシコを分析し,これらの仮説の妥当性を検証した。
著者
陳 淑玲
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.135-146,183, 2001

本稿は宇都宮市長選挙に出馬した民主党推薦候補者石海行雄の事例を実地調査し,分析したものである。<br>官僚出身の落下傘候補者の集票母体の構成や集票活動の管理は,民主党と労働組合に重点を置いていたが,新たな集票活動のユニークなパターンとして,シンポジウムを開催することおよび選挙公約の作成にあたっては,官僚のキャリアを生かしたことが注目される。<br>そして当候補者の選挙活動を選挙キャンペーンモデルに適用すれば,「準政党中心モデル」の特徴が示される。このことは当候補者の集票活動の運営は,推薦政党の民主党が主導権を握っていたが,労働組合の支援のない民主党は実力のない看板政党に過ぎないものと考えられるからである。なぜならば,民主党(栃木県連)の再結成は主に労働組合出身議員の合流から成立ったものの,労働組合はかならずしも民主党を支持するものではないのである。こうして,労働組合からの支援を有することを前提とする民主党により運営される選挙活動は「準政党中心モデル」と称する。
著者
待鳥 聡史
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.67-77,182, 2001

本稿では,1971年の参議院における重宗雄三議長の四選出馬断念と河野謙三議長選出をめぐる政治過程が,参議院自民党内の閣僚ポスト配分ルールに対して与えた影響について論じる。重宗の議事運営の手法や人事の私物化には,参議院内部に広範な批判が存在した。河野への議長交替過程は,理想主義的な一部の自民党議員による専横的な議長への挑戦が,同じく参議院改革を目指した野党との提携によって成功したとされてきた。これに対して筆者は,議長交替に至る過程において,参議院三木派が重宗四選反対に回った点に注目する。三木派の行動は,重宗の人格や参議院の理念の問題というより,選挙での脆弱性を抱えた小派閥による閣僚ポスト配分ルール形成の試みとして理解されうる。初入閣時当選回数や派閥別閣僚ポスト配分の分析からは,重宗議長の退任後,参議院自民党における制度化は大きく進展したことが分かる。
著者
井上 治
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.33-47, 2013 (Released:2017-12-06)

インドネシアで初の国政選挙すなわち国民代表議会(DPR)議員選挙が行われたのは独立宣言から10年後の1955年である。だが,比例代表制で行われた選挙の結果,最大政党でさえ議会で占める議席数は4分の1にも達せず,議会運営は安定しなかった。その結果,1957年にスカルノ初代大統領は,与野党の対立する西欧型民主主義を否定して,インドネシアの伝統と慣習に基づく「相互扶助」内閣すなわち実質的な総与党体制の構築に踏み切った。1965年の政変を経て30年余にわたり大統領の座に君臨したスハルト第2代大統領時代も「政治はNo,開発はYes」といった政党政治を忌避するスローガンが掲げられ続けた。1998年5月のスハルト退陣後インドネシアは民主化へ向けた改革を進めているが,現在でも政治的不安定への危惧から国軍将兵への選挙権の付与や共産主義政党の合法化には踏み切れていない。
著者
山田 真裕
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.100-116, 1992-04-30 (Released:2009-01-22)
参考文献数
30
被引用文献数
1
著者
今井 亮佑
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.5-23, 2009

「亥年」である2007年の参院選後に行われた意識調査の分析を通じて,「統一選で自分の選挙を戦い終えたばかりの地方政治家が,参院選時に選挙動員に精を出さないこと が,『亥年現象』を発生させる要因である」とする石川仮説の妥当性について,有権者レヴェルで実証的に再検討した。具体的には,地方政治家の中でも特に市町村レヴェルの政治家の動向に着目した分析を行い,(1)春の統一選時に道府県議選のみが実施された自治体の有権者に比べ,道府県議選に加えて市町村レヴェルの選挙も実施された自治体の有権者の方が,参院選時に政治家による選挙動員を受ける確率が有意に低かった,(2)後者の自治体の有権者の間では,参院選時に政治家による選挙動員を受けた人ほど棄権ではなく自民党候補への投票を選択する確率が有意に高かったという,石川仮説に整合的な結果を得た。
著者
浅野 正彦
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.33-49,212, 2008-02-28 (Released:2011-05-20)
参考文献数
2

本論文は, 選挙学会誌の『選挙研究』と『選挙学会紀要』に掲載された論文を分類・分析することにより, 日本における選挙研究の動向を明らかにすることを目的にしている。研究対象に関しては『選挙研究』でも『紀要』でも, 国別でみると60%以上の論文が日本を研究対象にしていることがわかった。そのうち半数強の論文が重回帰分析など比較的高度な数理・計量度の手法を使っている。『選挙研究』に掲載された論文に比較的高度な数理・計量度の手法が使われた割合は, 1980年代から90年代そして2000年代と次第に増えており, 1986年発刊の『選挙研究』に掲載された論文の約39%, また2003年に発刊され始めた『選挙学会紀要』に掲載された論文の約49%が同様の手法を使っていることがわかった。
著者
小宮 京
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.5-13, 2010 (Released:2017-05-08)
参考文献数
20

2009年9月,1955年の結成以来,ほぼ政権の座にあり続けた自由民主党の一党優位体制が崩壊し,民主党を中心とした鳩山由紀夫内閣が発足した。政治報道も変化した。とりわけ派閥という存在は,従来の自民党政権と,新しい民主党政権の断絶あるいは連続性を考える上で,興味深いテーマである。本稿は,この問題を考える前提作業として,自由民主党における非公式組織である派閥の機能について歴史的に検討する。その際,総裁選出過程における派閥の役割を,1920年代,1945-55年,1955年以降の三つの時代に分けて, 分析した。その結果,派閥のあり方を規定したのは,第一に,大日本帝国憲法や日本国憲法のもとでの運用,第二に,総裁選出方法との強い関連が明らかにされた。そして,派閥は,非公式の組織でありながら確固たる存在となったことが判明した。
著者
加地 直紀
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.169-178,273, 1998-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
60

Yukio Ozaki (1858-1954), a member of the House of Representatives argued that time was not mature to enforce the universal election in Japan. After “Kome Sodo”, that was the riot broken out in 1918 because of a sudden rise in the prise of rice, he emphasized the necessity of the universal electiotion in 1919. He thought that it was necessary for the public to ecpress their opinion by means of voting.
著者
河崎 健
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.78-87, 2010

本論は2009年9月27日に行われたドイツ連邦議会選挙を分析したものである。 大連立政権を構成していた二大政党・キリスト教民主/社会同盟とドイツ社会民主党の 首相候補(メルケル首相とシュタインマイヤー前外相)同士の争いとあって,同選挙は争点に乏しく,投票率も過去最低であった。その中で選挙前に論議されたのは,同国の選挙制度特有の超過議席如何によって与野党が逆転する可能性についてであった。しかしながら予想外の低投票率もあり社民党が惨敗したため,超過議席の問題は未然に終わった。本論では,この超過議席をめぐる議論を簡単に紹介した後,投票率と社民党の得票率の相関を見た上で,この低投票率の原因と,連立政策との関連で各党の勝敗を決した要因について分析を行う。
著者
濱本 真輔
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.32-47, 2015

日本の首相は与党内をどのように統治し,議員はそれにどのように対応しているのか。1990年代の首相,総裁権限の強化により,首相や官邸を軸とした政策決定への変化が観察されている。ただし,首相や党執行部への集権化の指摘がある一方で,首相・党首の交代を意図した党内対立も存在しており,首相-与党関係の全体像は必ずしも明らかとなっていない。本稿は1980年から2014年までの政府人事と造反を分析し,首相の党内統治のあり方を検討する。分析からは,選挙制度改革後に①主流派優遇人事の増加,②造反の増加,③人事と造反の関係の変化を明らかにする。結果として,1980年代以降の自民党政権下の党内統治のあり方は,人事権を派閥に大きく委ねつつも造反を抑止する状態から,首相への委任が安定的ではないものの,首相及び首相支持グループを軸とした党内統治へと進みつつあることを指摘する。
著者
加藤 元宣
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
no.17, pp.154-170,207, 2002

本論文の目的は,2000年衆院選の選挙結果について都市部と農村部で明確な違いが存在したこと,小選挙区当選者の属性データと地域特性の間に少なからぬ関連性が認められたことの2つの仮説を検証することである。本論文は人口,産業などを代表する26の変数を用いて主成分分析を実施し,地域特性に基づく小選挙区の分類を行った。そして,析出された都市対農村の軸を尺度として2000年衆院選を分析した。その結果判明したことは,第1に都市部における民主党の局地的大勝&bull;自民党の局地的大敗という特徴が明確に浮かび上がったこと,第2に農村部に対する都市部の投票者比率が2000年には急激に増加しており,そのことが選挙結果に少なからぬ影響を与えたこと,第3に当選者の属性を比較したとき都市部と農村部で明確な差異が認められ,代議士の構成について微かではあるが変化の兆しが見られたことである。
著者
斉藤 淳 浅羽 祐樹
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.114-134, 2012

比較優位を失った農産物の保護政策を自由貿易と整合的にどのように実施するかは先進工業国に共通する重要な政策課題である。日韓はコメ保護農政において価格統制から出発し強大な農業者団体を有するなどの類似点にもかかわらず,日本は与党への支持と減反への協力と引き換えに公共事業を選択的に提供する恩顧主義から脱却しきれず,TPPに対する態度を保留している半面,韓国は裁量の余地がないプログラム型の直接支払制へと移行し,米国やEUとFTAを締結した。権限が強く,農村部が過大代表されたままの第二院を抱える両院制議院内閣制の下,衆参ねじれが常態化し,与党に対する規律が弱く,日本の首相は執政権が制約され,現状点が維持されたままである。他方,韓国の大統領は,都市部の消費者や国民経済全体の厚生により敏感で,任期半ばで迎える議会選挙の公認権を通じて与党を統制することで,政策転換が可能になった。