著者
西平 重喜
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.5-18,224, 2005-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
19

選挙制度を議員の選出方法に限れば,小選挙区制と比例代表制の理念ははっきりしている。前者はなるべく狭い地域で選挙をして,選挙民が人柄のよく分かった代表を議会に送り出そうとする。後者は選挙民の意見の縮図を議会に作り出そうというものである。これ以外の選挙制度の理念は,この2つの制度を,それぞれの社会の実情に合わせようということで,やや違った次元の理念といえるだろう。「政治改革から10年」の特集といえば,中選挙区制を廃止し並立制が採用されたのは,どんな理念によるものかが問題になる。この変更にあたっての論議の重点は,安定した政権の樹立や政権交替がしやすい選挙方法という点におかれた。あるいは少しでも中選挙区制による閉塞状態を動かしてみようという主張が強かったようだ。ここではまず各選挙制度の理念や長所短所の検討から始める。そして最後に私の選挙制度についての理念である比例代表制の提案で結ぶ。
著者
吉野 孝
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.14-25, 2010 (Released:2017-05-08)
参考文献数
20
被引用文献数
1

本稿の目的は,アメリカ連邦公職選挙における選挙-政党組織関係の変化を分析し,その特質を解明することにある。同国の連邦公職選挙では,1950年代に至るまで,集票が固定的人間関係に基づいて行われ,政党機関が選挙運動をコントロールした。1960代にテレビの利用がはじまると,党大会の運営と選挙戦略の立案においてメディア専門家が全国委員長に取って代わった。1970年代以降,世論調査,メディア広告,ダイレクトメールなどの選挙運動手段が発達し,選挙コンサルタントが登場すると,候補者は自身の選挙運動組織を形成し,政党組織は周辺に追いやられた。1980年代に豊かな資金を背景に全国政党機関が選挙運動の表舞台に復帰したものの,2000年代になると,候補者はインターネットを用いて直接的な選挙民への到達を試みた。要するに,新しい選挙運動手段に対応する過程で,政党組織は選挙運動の重要な役割を喪失してきた。

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出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.115-132, 2015 (Released:2018-03-23)
著者
小野 恵子
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.41-57, 2017 (Released:2020-03-01)
参考文献数
43

米社会では長期的に見ると人種・民族の多様化が進み,性別や人種による格差が縮小する一方で,産業の空洞化によって低スキルの雇用は減り,学歴に基づく格差が拡大している。2016年の大統領選挙で共和党のトランプ候補は大量の移民が職を奪い,犯罪を増やすなどの主張を繰り返してきた。社会における白人の比較優位が失われる中,こうした社会の多様化と学歴格差の拡大の影響を強く受けている白人高卒有権者がトランプ氏の主張を好感したことが考えられる。本稿では州レベルの投票データと全米選挙調査などの調査データを使い,社会の変容を経済的,社会的な「脅威」と見る白人高卒有権者がトランプ候補に魅力を感じ,彼らの支持が同氏の当選に大きく貢献したことを示す。
著者
安野 智子
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.84-101, 2015

近年,日本でも,富裕層と貧困層の経済的格差の広がりが問題視されるようになっている。経済格差の議論で特に問題とされるのは,所得格差よりも資産の格差である。資産は次世代に受け継がれることによって格差の定着・拡大を招くからである。政治参加に関する海外の先行研究では,所得や学歴,人種などによって政治参加や投票行動の程度が異なることが見いだされており,経済的格差の拡大が民主主義を損なう可能性が指摘されている。しかし日本における従来の研究では,社会経済的地位と投票参加との関連ははっきりしなかった。本稿では,2013年の参院選時に行われたCSES調査のデータを用いて,資産状況が投票行動に及ぼす影響を検討した。その結果,株・債券という資産の所持が投票参加に,また,住宅の所有が安倍内閣支持に,それぞれ正の効果を持っているという知見が得られた。
著者
浜中 新吾
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.178-190,227, 2005-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
43

イスラエルでは首相公選制導入後,議会で多くの政党が乱立するようになり,公選首相が連立政権の維持に精力を注がざるを得ない状況に陥った。政党乱立の要因は有権者の「分裂投票」にあるとされたが,「分裂投票」をつくりだしたメカニズムについては十分明らかにされてきたとは言えない。そこで本稿では「首相公選制度下では誠実投票インセンティブが生じ,有権者の選好に沿った投票行動が強まった」という仮説を立て,統計的に検証した。条件付ロジットモデルによって検証した結果,仮説は支持された。よって本稿は次のように結論した。首相公選制度導入前と廃止後の選挙では,政府選択の機会と議会構成の選択機会が不可分であるため,連立政権での政府選択を優先する投票がありうる。しかし首相公選制度下では,有権者は誠実投票を行うと考えられる。よって首相公選期には多党化が進むことになった。
著者
平野 淳一
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.39-54, 2012 (Released:2017-09-01)
参考文献数
30

地方分権改革,市町村合併といった一連の地方制度改革によって,市は規模と権限の両面でより大きな力を得るようになっている。市長選挙についても,それまで多数を占めていた国政与野党による相乗りの枠組みが減少し,脱政党化が増えるなど変化が起きている。こうした変化は先行研究でも指摘されてはいたが,データ収集の難しさから,その全体像は必ずしも十分に明らかにされてはいない。また,市長選挙における主要政党の関与が,何によって規定されているのかについても明確な説明がなされているとはいえない。以上のような問題意識のもと,本稿では近年の市長選挙における民主自民両党の関与についてのデータを構築し,55年体制期との比較を行うことで,いかなる特徴が見られるのかを探る。また,近年の市長選挙に見られる主要政党の関与について探索的な分析を行い,その規定要因を明らかにすることを試みる。
著者
境家 史郎
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.81-95, 2014

政治学において自然科学を範とする傾向がますます強まり,「より科学的」な研究を行うがための方法論争が盛んである。近年の実験的手法の流行もこの文脈において理解できる。しかしそもそも政治学者の想定する自然科学像ないし自然科学における研究蓄積過程のイメージは,どれだけその実態に即しているのだろうか。本稿では筆者自身のfMRI実験(Sakaiya et al. 2013)の経験もふまえ,認知神経科学における研究蓄積過程の実際を概観する。その結果,メカニズム追究,少数事例研究,帰納的分析といった,政治学にお いて意義の争われてきた方法が,自然科学分野において積極的に採られていることが示される。また,実験(という政治学者が理想とする検証方法)が可能な自然科学分野においても,少数の検証結果によって最終的結論に至るわけではなく,実際には同様の目的の実験を反復し,あるいは他のアプローチを併用するなど,きわめて慎重に議論が進められていることも示される。以上の観察は,政治学研究の「科学的」発展のための新たな方法論的示唆を与える。
著者
井出 知之
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.72-84, 2011 (Released:2017-07-03)
参考文献数
46

この論文は日本の社会階層論における政治意識研究の研究動向を整理し,課題と展望を議論するものである。社会階層論の研究においては,社会構造とその変動の分析枠組みの一つである社会階層について論じるに留まらず,その政治変動への影響なども論じられてきた。そのために階層的地位に関する変数と政治意識に関する変数との関連が分析されてきたのである。本論文がこれらの社会的変数と政治的変数の関連をめぐる議論をまとめることで得られる結論は,社会階層構造とその変動が政治意識に反映される際に,系統的なズレが生じるということである。それは政治意識が政党や政権といった要因で攪乱されるということと,客観的な階層が主観的な階層に変換されていく過程でズレが生じるということである。これらの点をモデルの複雑化でなくシンプルな理論の面白さに生かすことが問われている。
著者
飯田 健
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.107-118, 2010

これまでの投票参加に関する研究においては,問題の本質が投票率の「低下」という変化にあるにもかかわらず,結局のところ「誰が投票するのか」という極めて記述的な問いに対する答えが与えられてきた。それらは基本的に,クロスセクショナルなバリエーションから,時間的なバリエーションを説明しようとするものであり,「なぜ人は投票するようになる(しなくなる)のか」という変化について直接説明するものではなかった。本研究ではこうした現状を踏まえ,衆議院選挙,参議院選挙,そして統一地方選挙における投票率という三つの時系列から "recursive dyadic dominance method" を用いて「投票参加レベル」を表す年次データを構築し,それを従属変数とする時系列分析を行う。またその際,失業率,消費者物価指数,与野党伯仲度などを独立変数とする時変パラメータを組み込んだARFIMAモデルを用いることで,時代によって異なる変化の要因を検証する。
著者
楠 精一郎
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.32-40,177, 1999-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
13

本稿は主として1980年代以降に書かれた日本の選挙の歴史に関する業績を整理し,今後の研究課題を示すことを目的としている。ところで,歴史学的な立場からの選挙研究を分類すれば,選挙制度史研究と選挙過程史研究の二分野になる。両者を比較するなら,史料的制約のより多い後者が立ち遅れたのは仕方のないことであった。しかし,政治史を深化させるには,選挙過程の研究は欠かせない。そのためにも,第一に基礎的選挙データの収集は急務であるし,第二に選挙の実情を伝える日記や書簡の収集も重要であろう。そして,第三に普遍的な視点を提供できるような分析が求められよう。経験的に知られた個別的事実を確認したに止まるだけでは,歴史研究として十分とはいえないからだ。
著者
平野 淳一
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.32-39, 2008 (Released:2016-10-03)
参考文献数
10
被引用文献数
2

本稿では,平成の大合併前後に行われた市長選挙の構図を描くことを試みる。従来までの合併を巡る研究は,合併の要因やメカニズムが主として扱われており,政治的効果という観点から分析したものは少ない。本稿では,市町村合併を行った市にみられる選挙の枠組み,当選者の属性,投票率等に注目し,その他合併を行わなかった市との比較でどのような違いが見られるのかを考察する。
著者
末木 孝典
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.120-130, 2011 (Released:2017-06-12)

第2回衆議院議員選挙において,第一次松方内閣は選挙干渉を行った。本稿は,選挙干渉の有効性を分析するため,①選挙の結果,政府支持派を拡大できたか,②選挙後の第三議会において,政府の方針に従う議員を増加できたかという2点について検討した。 その結果,まず,内務省の名簿により,選挙では幅広い勢力を取り込み,政府支持派を大幅に増加させたことがわかった。選挙後,政府は自由党や独立倶楽部などに対して多数派工作を行ったが,政府支持派と見ていた独立倶楽部が分裂するなど,成功したとはいえない。そして,第三議会における各議員の議案賛否をパターン分析した結果,基礎票で民党と吏党の差はほとんどなく,方針通りに投票した議員が民党側約90%,吏党側約75%と差 がついたことがわかった。以上のことから,選挙干渉は議会運営の円滑化には有効な結果をもたらさなかったといえる。
著者
三輪 博樹
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.97-108, 2015 (Released:2018-04-06)
参考文献数
20

インドにおける選挙制度改革をめぐる議論は,わが国におけるそれとは異なり,選挙の公正性や透明性の確保,政治腐敗の防止といった観点からのものが中心となっている。1970年代以降,さまざまな政府機関や政府任命の委員会によって選挙制度改革に関する提言がまとめられてきたが,そうした提言が実際の政策決定に反映された例は少ない。この背景として,選挙制度改革をめぐる議論自体が,社会政策を行う上での制約や政党政治の影響などを受けてきたことがあると思われる。しかしその一方で最近では,「ガバナンス」 に対する有権者の意識の高まりによって,市民団体による盛んな選挙監視活動など,選挙制度改革をめぐる議論に新たな要素が加わっている。こうした市民団体の活動は,インドにおいて選挙制度改革を進めていく上で,今後さらに重要になるものと思われる。
著者
小林 哲郎 稲増 一憲
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.85-100, 2011

社会心理学およびコミュニケーション研究の観点からメディア効果論の動向について論じる。前半は,マスメディアの変容とその効果について論じる。特に,娯楽的要素の強いソフトニュースの台頭とケーブルテレビの普及がもたらしたニュースの多様化・多チャンネル化について近年の研究を紹介する。また,メディア効果論において重要な論点となるニュース接触における認知過程について,フレーミングや議題設定効果,プライミングといった主要な概念に関する研究が統合されつつある動向について紹介する。後半では,ネットが変えつつあるメディア環境の特性に注目し,従来型のメディア効果論の理論やモデルが有効性を失いつつある可能性について指摘する。さらに,携帯電話やソーシャルメディアの普及に関する研究についても概観し,最後にメディア効果論の方法論的発展の可能性について簡単に述べる。
著者
森脇 俊雅
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.82-90,213, 2008-02-28 (Released:2011-05-20)

「平成の大合併」により自治体数は激減し, それに伴い議会数も大幅に減少するとともに議員数も削減された。合併は地方議会活動にも大きな影響を与えている。本論文は合併が地方議会や議員の活動にどのような影響を及ぼしたのかについての議員アンケート調査結果を分析したものである。まず,「平成の大合併」の先駆といわれる兵庫県多紀郡4町合併によって成立した篠山市議会議員に対して2000年4月に実施したアンケート調査結果の分析を行い, つづいて2006年11月に実施した近畿地方2府4県の31合併議会議員に対するアンケート調査結果の分析を行った。これらの調査結果から, 議員たちは合併自体については肯定的であるものの, 合併の評価については厳しい見方をしていること, 合併後の議会についての評価も低いことがわかった。
著者
稲増 一憲 池田 謙一 小林 哲郎
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.40-47, 2008 (Released:2016-10-03)
参考文献数
20

2007年参院選最大の争点は年金であったとされるが,有権者にとって,「年金が争点」とはどういうことを意味していたのだろうか。本稿では,国会答弁・新聞報道・一般有権者の自由回答という3種類のテキストデータを用いた計量的な分析を行うことで,2007年参院選における争点の構造を検討し,年金争点の持つ意味を明らかにすることを試みた。本研究で用いたテキストデータの分析は,研究者があらかじめ質問を用意するのでなく,人々が自発的に語った内容を分析することにより,研究者の先入観をなるべく排除して争点の構造化を行うことが可能になるという利点を持つ。分析の結果,年金が2007年参院選最大の争点であったことは間違いないものの,一般有権者における年金争点への態度とは,年金制度そのものへの態度というよりは政治や行政のあり方についての評価に近かったということが明らかになった。