著者
季武 嘉也
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.55-66, 2010 (Released:2017-03-31)
参考文献数
21

多数代表制か少数代表制かという観点を中心に,現在でも選挙区に関する議論は多くの関心を集めているが,第二次世界大戦以前の日本でも選挙区制度は重大な関心事であり,実際に1890年から1925年までの僅か35年間で,小選挙区→大選挙区→小選挙区→中選挙区とめまぐるしく改正された。ただし,当時の選挙区制度を巡る議論は,どのような代議士が選出されるべきか,ということが最重要争点であった。そこで本稿は,戦前期すべての選挙区制度改正ごとに,制度採用の目的→実際の代議士選出結果→結果に対する評価 →新たな制度改正論の台頭,を概略的にトレースする。考察の結果,制度の改正は,(1)制度に託された国家・社会の理想像,(2)制定者側の権力欲,(3)制度が現実社会に適用されることによって起こる変質,の三者を軸とするダイナミズムの中で展開されていった点が判明した。
著者
上ノ原 秀晃
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.116-128, 2014 (Released:2018-02-02)
参考文献数
29

2013年の参議院選挙は,初めての「ネット選挙」であった。近年,インターネットではソーシャルメディアの比重が増しており,海外では選挙運動にも広く利用されている。そこで本論文では,「ネット選挙」解禁に候補者がどう対応し,(代表的なソーシャルメディアである)ツイッターを活用したのかを分析する。具体的には,①どのような候補者がツイッターの利用に積極的であったのか,②どのような内容を投稿したのかを分析する。 分析の結果,小政党の候補者,競合的な選挙区もしくは比例区の候補者がツイッターに積極的であったことが分かった。また,コンピューターによる内容分析の結果,多くの投稿が告知や報告に関わるものであり,政策関連の投稿は少ないことは分かった。いくつかの小政党の候補者はツイッターの双方向機能を活用し,有権者との情報交換に積極的であった。
著者
竹内 桂
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.35-46, 2016 (Released:2019-12-01)

本稿は,1974年の第10回参議院議員選挙の徳島地方区における保守系候補者の対立を検討する。徳島地方区では,三木武夫副総理の直系で現職だった久次米健太郎と,田中角栄総理の系統で新人の後藤田正晴との間で事実上の一騎打ちとなり,その争いは「阿波戦争」や「徳島戦争」などと称されるほど激しいものとなった。 本稿では,その争いの発端から選挙の結果までを対象に,①徳島地方区の自民党公認候補の決定過程,②公示までの動向,③選挙戦の展開を明らかにする。その上で,久次米が当選を果たした要因を検証する。さらに,この参院選が,三木武夫が権勢を誇っていた徳島県政の勢力図を変えていく契機となったことを指摘する。
著者
中村 悦大
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.5-15, 2011 (Released:2017-07-03)
参考文献数
64

有権者が十分に理性的な政治的判断を行い得るのか,あるいは感情的で非合理的な存在であるのかは投票行動論の重要なテーマである。本論文では,投票行動論において,有権者の政治的判断の合理性に関する理解が近年どのような展開を見せているのかを概観する。本論文では,まず1990年代後半までの主要な研究を取り上げ,その中で,the American Voter以来の伝統的な非合理的有権者像が見直されてきたことを説明する。次に心理学の発達に基づいて,近年さらに有権者の合理性が見直されてきている点を述べる。さらに,第三節ではそのような心理学的な議論のいわば基礎理論を提供している生物学および神経科学などの知見と応用について取り上げる。最後にこれらの研究潮流に関しての特徴をまとめ,本論文を終わる。
著者
上川 龍之進
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.54-68,195, 2007

本稿は,2005年総選挙以後の小泉政権において,政策決定過程がどのように変化したのかを論じる。第1に,小泉首相が政権発足直後に打ち出したものの,与党や省庁の反対にあって頓挫していた政策が,総選挙以降,小泉のリーダーシップによって次々と決められていったことを示す。第2に,2005年末以降,「官邸主導」による政策決定を可能にしてきた経済財政諮問会議の役割が変質し,自民党•官僚主導の政策決定が復活したという見解に対し,歳出•歳入一体改革の決定過程は依然として「首相主導」であったことを明らかにする。第3に,2006年の通常国会では重要法案が軒並み成立しなかった。これも,会期延長を求める与党の声を無視した「首相主導」の結果であると論証する。総選挙での大勝によって小泉の自民党内での影響力が飛躍的に高まった結果,政策決定過程が先述したように変化したというのが本稿の主張である。
著者
横大道 聡
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.118-131, 2018 (Released:2021-07-16)

現行法上,NPO法人に対しては「政治活動」を制限する規定が置かれ,公益社団法人については公益性審査に際して「政治活動」を行う団体であるかが審査されている。これら団体による「政治活動」の制限に対して,憲法学はほとんど関心を示してこなかった。その最大の理由は,法人格の取得が一般社団法人制度によって担保されているため,何らかの利益を伴う法人格については,それを付与しなくとも憲法上の問題とはならないという思考にあるように見受けられる。しかし,他の法人格と別異取扱いをする合理的理由がなければ憲法14条1項の問題になりうるし,それら法人による政治活動を広く制限することは憲法21条1項で保障される結社の自由の客観的・社会的価値を損なわせることになる。そのような視点から,憲法上の問題として検討していくことが求められる。
著者
加藤 言人 安中 進
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.151-167, 2020 (Released:2023-11-16)
参考文献数
44

特定の政策において,日本で「左派」や「右派」と呼ばれる政党やその支持者は,欧米における左派や右派とは逆の「ねじれ」た選好を持つことが指摘されてきた。特に金融緩和政策では,緩和拡大に対し,欧米では左派が右派に比べて積極的な傾向がある一方で,日本では左派が反対する動きが根強い。この要因に関しては様々な議論があるが,経験的な検証は行われていない。本稿では日本の有権者を対象にサーベイ実験を行い,情報環境の側面からイデオロギーと金融緩和選好の関係を規定する要因を探る。実験では,特に貧困削減フレームと経済学者の賛成意見が同時に提示された条件下で,左派が右派と同程度かそれ以上に金融緩和を支持する傾向が見られた。結果は,日本におけるイデオロギーと政策選好の関係が欧米とは異なる背景について,情報環境が重要な役割を果たしていることを示唆している。
著者
湯淺 墾道
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.51-61, 2009 (Released:2017-02-06)

選挙権の性質については憲法学界において論争が続いているが,被選挙権の性質についての議論は少ない。しかし近時,多選制限と関連して被選挙権は憲法上の権利ではないとする見解が明らかにされたことを契機に,あらためて被選挙権の性質が問われている。従来の通説では被選挙権は選挙によって議員その他に就き得るための資格,選挙人団によって選定されたときこれを承諾し公務員となりうる資格であるとされたが,昭和43年の大法廷判決などに触発され,被選挙権の憲法上の権利性を肯定する学説も増えている。被選挙権の憲法上の権利性を認めるとすれば,選挙権の中に含まれていると見るべきであり,選挙権の公務性(一定の公共的性質)から説明できる。
著者
谷 聖美
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.84-99,206, 2002-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
41
被引用文献数
1

社会党は,60年代に入ると停滞し,その後は長期低落の道をたどった。この停滞と衰退をめぐってはさまざまな原因が指摘されてきた。なかでも,党の非現実的イデオロギーが党の適応力を奪ったという見方はもっとも一般的なものであった。本稿は,衰退の原因をめぐる諸々の説明を逐一検討し,それらの多くが必ずしも説得力を持たないことを明らかにする。ついで,選挙におけるこの党の集票戦術を分析し,労組依存に安住して個人後援会などの集票組織の構築に努力しなかったことが衰退の一因であることを示す。さらに,片山•芦田内閣失敗の負の影響はあったものの,この党の連合戦略と政策展開は60年代中葉までは巷間いわれているよりもずっと現実的で,党が活力を失ったのは,そうした現実派が党内抗争で社会主義協会などの教条的左派に敗れたあとになってからのことであることを指摘した。
著者
奥 健太郎
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.67-82, 2010 (Released:2017-03-31)
被引用文献数
1

参議院全国区選挙は,利益団体が代表者を送り込むべく競争した場であったことは広く知られている。この全国区選挙ではいくつかの利益団体が脱落していくが,本稿で取り上げる日本遺族会は議席を確保し続けることができた。本稿では遺族会が勝ち残った理由,とりわけ戦没者遺族が年々減少する中で,なぜそれが可能だったのかを考察した。 遺族会が勝ち残ることができた最大の要因は,遺族会が公務扶助料受給者の期待を集め,それに応えたからである。特に1960年代以降,戦没者の妻が遺族会の集票のために熱心に活動した。妻には遺児を育てあげる責任があり,子育てが終わった後は物価上昇の中で高齢化し,生活に不安を抱えていたためである。第二は遺族会が,戦没者の兄弟や子も取り込んだことである。彼らに年金の受給権はなかったが,慰霊活動やそれにかかわる 「利益」が,遺族会と彼らを結び付けたのである。
著者
上野 俊彦
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.56-70, 2015 (Released:2018-03-23)

現行ロシア連邦憲法下の下院選挙制度の変化の概要について,発足時から現在に至るまで,選挙法の改正を中心に解説する。ロシア連邦の下院の選挙制度は,小選挙区比例代表並立制から純粋比例代表制へと代わり,次の2016年12月に予定されている選挙から再び小選挙区比例代表制に戻ることになっている。
著者
平野 浩
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.60-72, 2011 (Released:2017-06-12)
参考文献数
25

本稿は,2009年衆院選の前後に実施された2波の全国パネル調査データに基づき, この選挙時におけるメディアへの接触が有権者に対してどのような影響を及ぼしたのかを明らかにし,それを通じてメディアと選挙との今日的関係について考察することを目的とする。分析の結果,(1)政治的知識への効果に関しては,特定のテレビ番組や対人ネットワークが知識の3次元のすべてにプラスに働くのに対し,新聞やインターネットの効果は限定的である,(2)メディア接触は内閣への業績評価・期待,政党リーダーへの感情に対しては一定の影響を及ぼしているが,経済状況認識や争点態度に対する影響は僅かである,(3)投票方向に対するメディア接触の影響は,一部のテレビ番組視聴を除いてほとんど見られない,などの点が明らかとなった。これを受けて,メディアの影響力に関する有権者の実感と上記の知見との架橋について考察する。
著者
岡田 信弘
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.65-72,187, 2000-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
32

本稿では,戦後憲法学における選挙研究のありようを,「原点」,「転換点」,そして「現点」を示す代表的な文献を読み解きながら検討することとしたい。その特徴を簡単にまとめるならば,次のようになろう。まず,対象とその取り上げ方について,共通の枠組みが存在していることを指摘することができる。第一に,普通選挙の原則の実現に関わるもの,第二に,選挙運動の自由の確保に関わるもの,そして第三に,選挙の方法あるいは代表方法に関わるものという柱立てである。次に,方法ないし論じ方であるが,「規範の学」としての憲法学の手法が基本的には用いられることになる。つまり,法令によって定められた具体的な選挙制度は選挙に関する憲法上の諸原則から見てどのように評価されるべきか,という問題設定の下に考察がなされているといえよう。
著者
増田 正
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.19-29, 2015 (Released:2018-03-23)
参考文献数
30

本稿では,フランスの選挙制度改革に関する最近の議論を整理する。フランスの選挙制度と言えば,最初に思い出されるのが2回投票制であろう。2回投票制は,フランスの選挙制度を理解するための最も重要な概念である。大統領選挙でも使われている2回投票制は,名簿式とも組み合わされながら,様々なレベルで活用されてきた。最近,第二の重要な概念としてパリテがこれに付け加えられた。2000年以降のあらゆる選挙制度改革は,多かれ少なかれ,パリテを巡って展開されてきたと言える。パリテは,2015年3月実施の県議会議員選挙から2回投票制にまで結びつけられるに至った。しかしながら,結論的には,これらの特殊フランス的な制度が,他国へ波及する可能性は現時点ではあまりないと考えられる。
著者
玉井 清
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.137-157,216, 2006-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
109

本稿は,昭和3(1928)年に実施された第1回普選の投票率に注目しながら,普選導入により新たに選挙権を獲得した人々の選挙に対する基本的な意識,すなわち彼らが新たに獲得した選挙権をどのように自覚し,投票を通じた政治参加にどの程度の意義を見出していたかについて考察を加えた。その結果,新有権者の選挙に対する関心や意識が必ずしも高くなかったことを,前年に実施された普選による府県議選の低投票率や,選挙買収を当然視する考え等から明らかにした。政府は,かかる違反防止のための選挙啓蒙活動を積極的に行うが,その活動は,有権者に選挙違反への脅威を抱かせ,彼らを選挙から遠ざけ,棄権を助長する恐れを生じさせた。こうした状況を受け,選挙後半戦より政府が,違反防止から棄権防止に力点を置く選挙啓蒙活動を展開するようになったことを,実際に用いられたポスターやビラ等を紹介しながら明らかにした。第1回普選の投票率は,当初懸念されたほど下がることはなかったものの,その背景において,本稿において詳述したような選挙啓蒙活動が必要にせまられ積極的に行われていた事実を示すことにより,新有権者の選挙に対する関心や意識は必ずしも高くはなかったことを検証した。
著者
白崎 護
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.5-22, 2009 (Released:2017-02-06)
参考文献数
70
被引用文献数
1

1993年総選挙を対象とする本研究は,有権者の政治的な意識や行動に影響を与える対人接触とマスメディア接触に関しての計量分析である。政党のマスメディア対策が精緻化する今日,その端緒となった本選挙におけるマスメディアの役割を再確認する。同時に,ソーシャル・キャピタルの一環として近年注目が高まる対人環境の果たした役割を検証する。以上の目的に最も適合したデータは,対人接触とマスメディア接触に関する質問項目が豊富なCNEP(Cross-National Election Project)データであり,これを使用する。 各党に対する感情温度,および投票を従属変数とする回帰分析により得られた知見は以下の通りである。既成政党(自民党・社会党)に関しては,対人接触に一貫した影響を認めた。他方で新党(新生党・日本新党)に関しては,マスメディア視聴に一定の影響力を検出したが,対人接触の影響力をほとんど確認できなかった。
著者
小宮 一夫
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.19-34, 2016

中選挙区制下の静岡第2区は,伊豆半島以東の静岡県東部地域を区域とし,戦後は石橋湛山や社会党の勝間田清一の選挙区であった。本稿は,石橋や勝間田と競合した保守政治家・山田弥一の選挙戦を検討する。熱海の大月旅館/大月ホテルの経営者でもあった山田は,つるや旅館/つるやホテルの経営者であった畠山鶴吉と国政選挙で同士討ちを繰り広げた。 熱海を畠山と二分する山田は,山田会という個人後援会を組織し,沼津をはじめとする静岡県東部に進出を図った。山田は,当選を重ね,入閣を果たすことで,「熱海の山田」 から「静岡2区の山田」をめざした。しかし,宿敵畠山の参院選に絡む公職選挙法違反と, 河野一郎の秘書を務める伊東出身の新人・木部佳昭に強固な地盤の伊豆半島や静岡東部に根付きかけた地盤を侵食され,「黒い霧解散」にともなう第31回総選挙で落選し,政界から退場することになるのである。
著者
長富 一暁
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.102-114, 2010 (Released:2017-05-08)
参考文献数
43

イギリスでは近年,選挙区割りについての研究が発展している。とりわけジョンストン,パティー,ドーリング,ロシター(Johnston, Pattie, Dorling & Rossiter, 2001)が提起した選挙区割りの分析の枠組みは画期的であった。この枠組みは国会や地方議会の選挙区割りに適用されている。このような研究の発展の背景にイギリス政治およびイギリス政治学の展開がある。現実の政治の側面で重要なのは,イギリス政治の多党化によって小選挙区制の不公平性についての認識が広まったことである。政治学の側面で重要なのは,イギリスの選挙研究に特徴的な選挙地理学の影響である。選挙区割りの研究の発展はイギリスの政治や政治学の現状を如実に反映しているわけである。このように,イギリスの選挙区割りの研究を理解することを通して,イギリス政治やイギリス政治学への理解を深めることができる。
著者
飯田 健 松林 哲也
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.101-119, 2011 (Released:2017-07-03)
参考文献数
51

本稿は選挙研究における因果推論の方法を概観する。まず因果関係とは何を意味するのかについて日本の社会科学研究における代表的な知見をまとめ,その応用における問題点を指摘する。次に近年主流となりつつある潜在的結果にもとづいた因果的効果の定義を紹介し,その枠組みの中で観察データを用いた回帰分析の問題点を指摘する。次に厳密な因果推論を行うために必要となる方法とその応用例を紹介する。第一に,サーベイ実験やフィールド実験などの実験アプローチ,第二にイベントを利用した自然実験などの疑似実験アプローチ,第三にマッチングを用いた統計学的アプローチの特徴とその応用研究についてまとめる。