- 著者
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渡邉 幸佑
- 出版者
- 一般社団法人 情報科学技術協会
- 雑誌
- 情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
- 巻号頁・発行日
- vol.73, no.5, pp.192-194, 2023-05-01 (Released:2023-05-01)
坂口安吾の作品について,先行研究によると1945年ごろを境に一人称が「僕」から「私」に転じ,ふたたび「僕」に戻ることも混用もなかったという。しかし,この先行研究は「僕」と「私」の頻度を数えたものではなく,直感による論考に留まる。そこで,本稿では,坂口安吾のエッセイを対象に,KH coder(計量テキスト分析のためのフリーソフトウェア)を用いて,「僕」と「私」の頻度を数え,一人称の変化について検証した。その結果,1945年以前に「私」のみを使用した作品があり,1945年以後に「僕」と「私」の混用があるとみられるものがあった。先行研究の指摘は必ずしも妥当するものではなく,「僕」と「私」の使い分けについてさらなる検討が必要である。