- 著者
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伊藤 俊彦
- 出版者
- 日本鉱物科学会
- 雑誌
- 岩鉱 (ISSN:09149783)
- 巻号頁・発行日
- vol.91, no.6, pp.209-219, 1996 (Released:2006-11-25)
- 参考文献数
- 22
- 被引用文献数
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氷点下の気温になる冬季間,北海道足寄町螺湾のシオワッカ冷泉からの弱い流れの中で,ikaiteが生じている。積雪の少ない年には,氷に閉じこめられた産状でikaiteからなる輪縁石ダムが見られた。海洋,湖沼以外である流水域におけるikaiteの生成はこれまでは知られていない。先年の夏に同地域から,calciteといっしょにmonohydrocalciteの生成が知られたところから,冬のikaiteの生成が予想された。シオワッカ冷泉石灰華からはikaiteからの転移鉱物のvateriteを加えると,aragoniteを除き,自然界での炭酸カルシウム塩鉱物のほとんど全てが得られた。本地における夏から冬の間の炭酸カルシウム塩鉱物の生成の過程を,産状から考察した。これらの鉱物の生成における必要条件は,水質のほか,水温(ikaite,calcite),地表面の濡れ(monohydrocalcite:伊藤,1993),など,それぞれによって異なる。また,シオワッカ冷泉の水質,ikaiteおよびvateriteのX線粉末回折線値,ikaiteから転移した後の方解石の化学組成を示した。 Ikaiteが冷たい海域,深海堆積物から次々と発見されたことから,1982年来,これまで源鉱物の明らかでなかったglendoniteや玄能石と呼ばれてきた方解石仮像の源鉱物がikaiteであるとする説が多く出されてきた。しかし,ikaiteの結晶形と一般的な大きさはこれまでに知られている方解石仮像と一致しない。ここでは,方解石仮像に特徴的な四角錐に対応する結晶形が,走査型電子顕微鏡で観察されたikaiteの結晶面の組み合わせによって導かれることを示した。Ashoro-cho 足寄町,Rawan 螺湾,Shiowakka シオワッカ,Konbumori 昆布森