- 著者
-
佐藤 博明
- 出版者
- 日本地質学会
- 雑誌
- 地質学論集 (ISSN:03858545)
- 巻号頁・発行日
- no.46, pp.115-125, 1996-09-20
- 被引用文献数
-
4
雲仙普賢岳の1991年噴出物の岩石組織の3つの側面(斜長石斑晶の累帯構造, 気泡組織, 石基結晶度)について記述し, ドームを形成するデイサイトマグマの噴火の引き金, 脱ガス過程, 結晶作用についての制約条件について議論した。1つ目の側面は斜長石斑晶の累帯構造であり, それは逆累帯構造を呈するリムでMgO, FeO^*量が増加しており, 噴火直前に珪長質の斑状マグマとより苦鉄質な無斑晶質マグマの混合が生じたことを示している。雲仙普賢岳は南北張力場の地溝帯中にあり, 火山下のマグマポケットは東西方向に伸びた割れ目状の形態をとっていると考えられる。これまでに知られている室内実験によると, マグマで充たされた2つの割れ目が接近すると互いに近づいて合体する傾向があり, いったん合体すると割れ目の上昇速度は急増する。雲仙普賢岳1991年噴火の場合もマグマで充たされた割れ目の合体が, マグマポケットの上昇のきっかけとなり5月20日の溶岩ドーム出現に至ったと考えると, 1989年の地震発生-マグマ混合現象-ドーム噴出のタイミングやマグマ混合現象がうまく説明される。雲仙普賢岳ではドーム噴火が爆発的なプリニー式噴火に伴っておらず, 上部地殻でマグマの上昇速度が小さく, マグマが地表に至る前に揮発性成分の脱ガスが効果的に生じていると考えられる。雲仙普賢岳の1991年噴出物の気泡組織は多様な変形構造を呈しており, 粘性の高い溶岩の流動により気泡の変形が生じている。溶岩の含水量は気泡の変形度と関係があり, 火道中での粘性の高い溶岩の脱ガスが, 溶岩の流動により気泡の連結が促進され見掛けのガス透過率が高まったために生じた可能性が考えられる。1991年噴出物の含水量は全岩で0.2-0.5wt%であり, 1気圧での飽和含水量(0.1wt%)よりも大きい。一方, 火砕流発生を伴わなかった1792年, 1663年溶岩の含水量は0.1wt%以下である。溶岩の石基の結晶度についてみると, 1991年溶岩は20-30Vol%であり, 1792年溶岩1663年溶岩では結晶度が約50%と明瞭な違いが認められた。1991年溶岩は1792年溶岩よりも粘性が高く, 脱ガスが不十分であったために石基ガラス中の高い含水量を生じ, 結晶作用が不十分にしか進行しなかった。粘性の高い溶岩の不完全な脱ガスが溶岩の自爆性, ひいては火砕流発生の条件となっていることが考えられる。