著者
岸本 進太郎 辛嶋 良介 近藤 征治 杉木 知武 川嶌 眞之 川嶌 眞人
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.25, 2016 (Released:2016-11-22)

【はじめに】 近年,野球肘に関しても投球肩障害と同様に,肩後方タイトネスやScapula Dyskinesiaなどの存在を指摘する報告がされている.今回,成長期の選手における野球肘と肩関節機能の関連性ついて調査したので以下に報告する.【対象と方法】 対象は,2015年9月から2015年12月の期間に当院を受診し,野球肘と診断され加療を行った7例(内側型4例,外側型3例)とした.全例男性,右利き,右投げであり,平均年齢12.3歳(10?17歳)であった.なお,投球時の一発外傷例は除外した.方法は,肩関節機能の理学所見を原テスト11項目で評価し陽性率を調査した.評価内容は以下のとおりである.①Scapula-spine distance(以下SSD),②Combined abduction test(以下CAT),③Horizontal flexion test(以下HFT),④下垂時外旋筋力テスト(以下ISP),⑤下垂時内旋筋力テスト(以下SSC),⑥下垂時外転筋力テスト(以下SSP),⑦Elbow extension test(以下EET),⑧Elbow push test(以下EPT),⑨Loosening test(以下loose),⑩Hyper external rotation(以下HERT),⑪Impingement test(以下impingement).また,内側型野球肘4例(平均年齢10.5±0.6歳)を内側群,外側型野球肘3例(平均年齢14.7±2.5歳)を外側群とし11項目の陽性率を2群間で比較した.統計学的検討にはχ2検定を用い,いずれの検定も有意水準5%未満とした.【結果】 原テスト正常項目は平均6.6(5?8)項目であった.陽性率は,SSD:100%,CAT:57.1%,HFT:71.4%,ISP:14.3%,SSC:42.9%,SSP:42.9%,EET:71.4%,EPT:28.6%,loose:0%,HERT:0%,impingement:14.3%であった.2群間の比較では,SSCは内側群75%,外側群0%で有意に内側群が高かった(p<0.05).CATは内側群25%,外側群100%で有意に外側群が高かった(p<0.05).SSD,HFT,ISP,SSP,EET,EPT,loose,HERT,impingementの陽性率は有意な差を認めなかった.【考察】 可知らは中学・高校野球選手に対する投球時の肘痛と肩関節機能について調査し,肘痛を有する野球選手の原テスト正常項目は6.3項目であったと報告していた.本調査も平均6.6項目とほぼ同様の結果であった.自験例から,肩甲骨位置異常,肩後方タイトネスを示す項目の陽性率が高い傾向にあり,成長期の野球肘において,肘関節に加え肩関節機能の評価と治療が重要だと考えられた.また,coking phaseからacceleration phaseの野球肘が発生しやすい投球相で,骨頭を求心位に保つ腱板に機能不全を起こしている可能性が示唆された.両群間でSSCとCATに差が認められたが,これは受診時の年齢の違いに起因する問題が原因として考えられた.内側群は平均年齢が低く,筋機能の未発達な時期に投球負荷が加わり,腱板機能にimbalanceを起こすと思われた.一方,外側群は平均年齢が高く,無症候性に病態が進行するため,障害発生の危険因子として特徴的な肩後方タイトネスが顕著となったと思われた.本調査の限界として,症例数が少なく今後も調査を継続していきたい.【倫理的配慮,説明と同意】 本調査はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,当院倫理員会の承認を得て実施した.また研究の実施に際し,対象者に調査内容について説明を行い同意を得た.利益相反に関する開示事項はない.
著者
金城 慎也 田中 創 副島 義久 西川 英夫 森澤 佳三
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.102, 2009 (Released:2009-12-01)

【はじめに】 肩関節周囲炎患者において,肩関節の内外旋や前腕の回内外の可動域制限が肩関節挙上角度に影響を及ぼすことは先行研究により示唆されている.また,臨床場面においても,前腕の回内外可動域制限を来している症例が多い.しかし,それと同時に手指機能が不良な例も多く,特に母指の伸展,外転の可動域制限を来している症例をよく経験する.母指の伸展,外転の可動域制限は末梢からの運動連鎖として前腕の回内,肩関節の内旋を余儀なくされ,肩関節挙上制限の一因子となると考えられる.そこで今回,肩関節周囲炎患者に対して,母指可動域と肩,前腕可動域の関係性について検討したので報告する.【対象及び方法】 対象は保存的加療中の一側肩関節周囲炎患者12名(平均年齢54.25±6歳)とし,自動運動での肩関節の前方挙上(以下、前挙),外旋,前腕回内外,母指橈側外転,伸展の可動域を計測した.得られた計測値をもとに健側を基準として各計測値の左右差を求めた.統計学的処理にはウィルコクソン符号付順位和検定を用い,得られた値から肩,前腕,母指の可動域制限の関係性を調べた.【結果】 統計処理の結果,肩関節前挙と母指橈側外転(p<0.05),肩関節前挙と母指伸展(p<0.01),肩関節外旋と母指橈側外転(p<0.05),肩関節外旋と母指伸展(p<0.01),前腕回外と母指伸展(p<0.05),母指橈側外転と母指伸展(p<0.05)に有意な正の相関が認められた.【考察】 研究結果より,肩関節周囲炎患者において,肩関節前挙制限には母指橈側外転制限と伸展制限,肩外旋制限には母指橈側外転制限と伸展制限,前腕回外制限には母指伸展制限との関係性が認められた.肩関節前挙に関して肩外旋可動域制限が多大な影響を及ぼすことは知られており,上肢の運動連鎖において,前腕の回外運動には肩外旋として運動が波及することが言われてる.今回の研究結果から,遠位関節からの運動連鎖として,母指橈側外転と伸展が前腕の回外運動に影響していることが示された.その背景として,遠位橈尺関節から回外運動を波及させる為には,筋の起始停止の走行から長母指外転筋と短母指伸筋が関与していると考えられ,それらの機能が破綻することで前腕回外制限が生じると考えられる.これらのことから,肩関節周囲炎患者の挙上制限に対しては前腕,母指の影響まで考慮してアプローチしていく必要性が示唆された.
著者
野原 英樹 平川 善之 石田 奈穂子 安田 和弘 北川 智子 蓮尾 幸太 元尾 篤 隈本 健 北條 琢也 山崎 登志也
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.46, 2004 (Released:2004-11-18)

【はじめに】 反張膝は、膝前十字靭帯損傷などスポーツ障害、外傷の危険因子の一つと言われている。反張膝の原因は、関節弛緩性、膝伸展屈曲筋力の低下、足関節の可動域制限などが考えられる。臨床上で反張膝の評価は、過伸展角度の測定のみが一般的であるが、過度の下腿外旋を示すケースが多く見られる。そのようなケースに膝屈曲伸展の徒手筋力検査を行うと過度の下腿外旋を伴う(screw home movementの増大)膝伸展や屈曲開始時のみに筋出力の低下を認めるケースを経験する。我々は、反張膝が膝関節初期屈曲筋力に影響を及ぼすのではないかと推測している。そこで今回、健常者を対象に下腿回旋肢位、足関節肢位を考慮し膝初期屈曲筋力を測定した。加えて反張膝を有する者の膝屈曲筋力の検討を行ったので報告する。【対象と方法】 対象は下肢に疾患を有しない健常者21名39肢(男性13名23肢24.8±3.4歳 女性8名16肢25.8±4.1歳)で、自然立位にて10°以上の膝過伸展を有する反張膝群(以下R群)11名20肢(24±2.8歳 平均伸展角度14.3±2.9°)と、非反張膝群(以下NR群)10名19肢(26.4±3.6歳 平均伸展角度4.5±3.4°)に分類した。 筋力測定にはCYBEX NORM 770を用いた。収縮様式は求心性収縮で角速度60°とした。腹臥位にて体幹部をベルトで固定し、各被験者の完全伸展位から30°までをA:足関節背屈-下腿中間位(以下D-N)B: 足関節背屈-下腿内旋位(以下D-IR)C:足関節背屈-下腿外旋位(以下D-ER)D:足関節底屈-下腿中間位(以下P-N)E:足関節底屈-下腿内旋位(以下P-IR)F:足関節底屈-下腿外旋位(以下P-ER)の計6肢位で3回ずつ測定した。測定肢位の順番はランダムに行い、最大ピークトルク値を測定値として採用し、各最大ピークトルクを体重で除したものを筋力値とした。(Nm/BW×100)また、6肢位で算出した筋力値を基に(1)R群及びNR群それぞれで肢位の違いによる筋力値の差(2)R群、NR群間の筋力値の差について検討した。統計処理は(1)には一元配置分散分析及び多重比較検定(2)には2元配置分散分析を行った。有意水準は1%未満とした。【結果】(1)R群、NR群ともに肢位の違いによる筋力値の差があった。R群ではD-NがD-IR、P-IR、P-ERに対して有意に筋力値が大きかった。D-ERがP-ERに対して有意に筋力値が大きかった。D-Nと比べ足関節底屈位では下腿回旋肢位で筋力値が有意に低下した。足関節背屈位間において下腿中間位に比べ下腿内旋位で筋力値が有意に低下した。下腿外旋位間において背屈位と比べ底屈位で筋力値が有意に低下した。NR群ではD-NがP-IR、P-ERに対して有意に筋力値が大きかった。足関節背屈位と比べ足関節底屈位では下腿回旋肢位で筋力値が有意に低下した。(2)R群、NR群間に筋力値の差及び交互作用は認められなかった。【考察】 両群に共通して見られた結果は、足関節底屈回旋肢位での筋力は背屈下腿中間肢位に比べ有意に低下を示すことであった。R群では上記に加え2つの肢位に有意差が見られた。1)足関節背屈位で下腿内旋位筋力は下腿中間位筋力に比べ有意に低下した。2)下腿外旋位で底屈位筋力が背屈位筋力に比べ有意に低下した。前者は下腿を内旋させることにより足部が内反背屈位となり足関節を固定させにくいため背屈筋の筋力に左右されたのではないかと考えた。後者は下腿が外旋位になることで膝関節靭帯などの受動組織の機能が不十分となり腓腹筋の活動に依存されやすくなったのではないかと考えた。 下腿回旋が膝屈曲筋力に与える影響について論じた報告は少ない。本杉らは前十字靭帯再建術後患者の健側の屈曲筋力を座位、等尺性収縮(膝屈曲30°、70°、90°位)、足関節底屈位で測定し、回旋による差はなかったと報告している。今回とは測定条件が違うが、本研究でもNR群では底背屈位それぞれで回旋の差はなかった。しかしR群においては、背屈位で回旋の違いによる差が認められ、外旋位で足関節肢位の違いによる筋力の差が見られた。【まとめ】 健常者をR群、NR群に分け、膝関節初期屈曲筋力を下腿回旋肢位、足関節肢位の違いにより測定した。健常者においては肢位の違いにより膝屈曲筋力に差が見られることを確認した。今回の研究では、R群、NR群間には差は認められなかったが、R群における傾向として足関節筋の作用が膝屈曲筋力を左右しやすく、特に下腿外旋位での影響は反張膝の関節機能を含め今後さらに検討していきたいと思う。
著者
時安 樹子 木藤 伸宏 奥村 晃司 吉用 聖加 佐々木 誠人 川嶌 眞人
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.83, 2004

【はじめに】<BR> 拘縮肩の理学療法の目的は、疼痛軽減と関節可動域(以下、ROM)改善が主である。症状の改善が得られない場合、関節鏡を併用した授動術が行われる。臨床的には、それによって改善傾向に進む症例と、改善が得られず、再度拘縮肩へと移行するケースがある。後者の場合、理学療法として単にROM訓練、筋機能訓練に主眼を置くアプローチのみでは限界を感じている。<br> 今回、ROM制限、疼痛が強く、上肢運動機能改善に難渋した拘縮肩を有する症例を経験し、肩甲帯・体幹の動き、重心の位置に着目し理学療法を行い職場復帰まで至ったので報告する。<br>【症例紹介】<BR> 年齢:47歳 性別:男性 職業:消防士<br> 診断名:右肩関節拘縮<br> 現病歴:平成15年10月下旬、階段から転倒しそうになり右手で手すりをつかんだ際に疼痛出現。近医受診し注射治療にて様子を見ながら仕事を続けていた。その後、徐々に夜間痛、運動時痛増強し、12月に当院受診。12月18日右肩関節鏡視下授動術施行となった。<br> 手術所見:前方関節包付近に瘢痕様組織あり。前・後・下方関節包を鏡視下に切離し完全屈曲、外旋60獲得。<br>【術前理学療法評価】<BR> 安静時痛visual analogue scale(以下、VAS)0/10、夜間痛VAS 10/10、運動時痛VAS 10/10、疼痛部位は肩関節前方にあり、肩峰下・結節間溝部に圧痛が認められた。ROMテストでは右肩関節屈曲115、外転80、外旋10、内旋60であり、外転時肩甲帯挙上・体幹左側屈、外旋時肩甲骨内転・体幹右回旋による代償が強く認められた。徒手筋力テストは疼痛のため測定困難であった。筋の状態は右頚部筋の緊張亢進、右棘下筋の萎縮が認められた。姿勢評価として右肩峰、肩甲骨下角の高さが左側と比較して低く、胸椎に軽度左凸の側弯が認められた。<br>【術後理学療法所見】<BR> 術翌日より理学療法開始し、術後2週間三角巾固定。訓練時のみ三角巾除去。術後、疼痛・脱力感の訴え強く、立位にて右上肢下垂困難、振り子運動、肘・手関節のROM訓練も困難な状態であった。アライメントは胸椎後彎・右側肩甲骨外転・肩関節内転、内旋・肘関節屈曲・右肩甲帯挙上位であった。それによって右肩関節から頚部周囲筋の筋緊張亢進し、右頚部・右肩甲骨内側に疼痛があった。また、胸椎後弯により肩甲骨外転位となり関節窩と骨頭の位置関係が崩れていた。また動作時、左側へ重心移動を行う傾向があった。今後その状態にて挙上を行うと疼痛・可動域制限が生じると考え、挙上しやすい環境を作ることが重要と判断した。<br>【理学療法アプローチ】<BR> (1)頚部筋のリラクゼーションを目的として、スリングセラピー施行。(2)下部体幹安定性の獲得を目的としてエアスタビライザーを用いて坐位保持訓練、左右への重心移動を行い、胸椎伸展に伴う肩甲骨の内転運動を促した。(3)身体全体の正中化を図る目的として右下肢での片脚起立訓練、ストレッチポールを用いた立位保持を行った。(4)関節包内運動、ROM制限となる筋・靭帯に対するストレッチを行い、ROMの改善を図った。<br>【経過】<BR> 術後1ヶ月にて退院となり、下肢荷重検査を施行した。その結果、左下肢での荷重が多く、上半身重心の左側方偏位より左下肢への荷重量が増加していた。<br> 術後2ヶ月頃より疼痛軽減が認められ、下部体幹の安定化、坐位・立位でのアライメントの改善、身体正中化が得られた。<br> 術後3ヶ月での評価においては、安静時痛VAS 0/10、夜間痛VAS 2/10、運動時痛VAS 5/10であった。ROM制限は依然として認められるが、右肩関節屈曲120、外転100、外旋20、内旋50と改善した。また、術前と比較して体幹・肩甲骨での代償運動は軽減した。姿勢では、両肩峰・肩甲骨下角の高さも改善し、下肢荷重検査においても左右差の改善が認められた。疼痛の軽減に伴い右肩関節を動かすことへの恐怖感も軽減し、右上肢での日常生活動作が可能となり、職場復帰可能となった。<br>【まとめ】<BR> 本症例は術前より疼痛強くROM制限が著明であるため、肩関節そのものに対するアプローチよりも、肩関節の運動機能を発揮できる環境作りのために、全身的なアプローチを行った。依然としてROM制限、筋機能低下は残存しているものの、本症例に行ったアプローチは疼痛を伴う症例に行うことは有用であると思われ、具体的詳細、考察を加え報告する。
著者
村山 佑一郎 南野 大佑 多田 克史 白尾 泰宏
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.274, 2016

<p>【はじめに】</p><p>ジュニア期のサッカーにおけるスポーツ障害は膝関節が最も多いといわれている。菅原らはジュニア期のサッカー選手に圧痛検査を行い、脛骨粗面に圧痛が多かったことを報告している。臨床の中でも、ジュニア期のサッカー選手において脛骨粗面の圧痛を訴えることが多く、その要因に下肢筋の柔軟性低下があることが多いように感じる。そこで今回の目的は、ジュニア期のサッカー選手を対象に脛骨粗面の圧痛と、下肢筋の柔軟性低下が関連しているのか検討した。</p><p>【対象および方法】</p><p>サッカーのクラブチームに属している12~15歳の24 名48側(平均年齢:13.53±0.62歳、平均身長:151.11±7.31cm、平均体重:43.2±7.36kg)であった。脛骨粗面の圧痛検査を行い、圧痛有り群、無し群で下肢筋の柔軟性を比較した。腸腰筋はトーマス法(対側の膝窩から床までの距離を0.1cm単位で測定)、ハムストリングスはSLR角度(5°単位で測定)、大腿四頭筋はHBD(腹臥位で膝関節を他動的に屈曲していき軽度の抵抗で停止した位置での踵と殿部の距離を0.1cm単位で測定)、下腿三頭筋は膝伸展位での背屈角度(5°単位で測定)を測定した。統計学的処理にはShapiro-Wilkの正規性検定行いMann-Whitney検定行った。</p><p>【結果】</p><p>圧痛有り群は12膝、無し群は36膝であった。</p><p>腸腰筋では圧痛有り群5.02cm、無し群5.24cmで有意差はみられなかった (P>0.05)</p><p>ハムストリングスでは圧痛有り群57.9°、無し群62.9°で有意差がみられた(P<0.05)</p><p>大腿四頭筋では圧痛有り群7.43cm、無し群4.12cm、で有意差がみられた (P<0.05)</p><p>下腿三頭筋では圧痛有り群8.76°、無し群12.1°で有意差がみられた (P<0.05)</p><p>【考察】</p><p>梅原の報告では、中学生年代は成長期にあり、骨の成長により筋が相対的に短縮した状態となり、筋の柔軟性は低下するとされている。そのうえ、スポーツ活動の負荷が加わることで、腱やその付着部の疼痛、筋の損傷といったスポーツ障害が生じやすいとされている。武井らは大腿四頭筋と下腿三頭筋の柔軟性低下がキック動作におけるBall impact時の軸足の下腿前傾の減少、上半身重心の後方変位に影響を及ぼす傾向があり膝伸展機構障害のリスクになりうると報告されている。また、倉坪らは、キック動作時に身体重心が後方化することでハムストリングスの柔軟性が低下し骨盤後傾位でのキック動作となるため膝関節伸展モーメントが増加し、大腿四頭筋が過活動となることを報告されている。大腿四頭筋が過活動することで脛骨粗面への牽引ストレスが増加し、脆弱な成長軟骨に侵害ストレスを与え、牽引性の慢性スポーツ障害の発症の要因となりうると考える。高橋らは運動後にストレッチを行うことで痛みを有する可能性が低くなることを報告している。故にストレッチを行い、下肢筋の柔軟性を向上させることがスポーツ障害を予防する一助となると考える。</p><p>【まとめ】</p><p>中学生年代のサッカー選手は下肢筋の柔軟性が低下しやすく、脛骨粗面の圧痛の要因となり得ることがわかった。その為、ストレッチの重要性を監督、選手に理解してもらい練習の中に取り入れ、柔軟性の向上、スポーツ障害の予防につなげていきたいと考える。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>ヘルシンキ宣言に基づき、監督、選手に十分な説明と同意を得て、個人情報の保護など倫理的配慮を行った</p>
著者
野方 紀史 篠原 敦 新藤 和廣 松本 淳志 三好 安 三好 正堂
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.3, 2016 (Released:2016-11-22)

【はじめに】脳卒中片麻痺患者の歩行回復にどのような因子が関与するかの研究は多いが,Brunnstrom Stage(以下,Br.st)Ⅱ以下の重度片麻痺患者は,最初から歩行不能として除外されていることが多い.しかし当院では,起立-着席運動(以下,起立運動)を反復して行い,非麻痺側・麻痺側の下肢筋力を徹底的に強化し,重度麻痺でも歩行が回復する例は少なくない.今回,Br.stⅡ以下の重度片麻痺患者に限定し,歩行回復に関与する因子を分析した.【対象・方法】2010年から2015年までの6年間で当院に入院した初発脳卒中片麻痺患者549例のうち,発症前の歩行が自立し(FIMで6点以上),当院でのリハビリテーション(以下,リハ)後,退院時下肢Br.stⅡ以下の重度麻痺患者53例を検討した.年齢は70.8±10.4歳,右麻痺31例,左麻痺22例,深部感覚障害「あり」26「なし」27,下肢筋力の指標として非麻痺・麻痺側膝伸筋力をIsoforceGT-330(OG技研)を用いて測定し,その値を健常者平均値で除した値(健常者平均値比)を用いた.発病から入院まで48.1±62.1日,当院の在院日数は67.5±31.9日であった.治療方法は,理学療法は起立運動を重視し,主にこれを行った.介入時は全例で介助・促しを要したが,可能な限り自発的に行えるように指導し,1日500~600回以上行った.作業療法も体幹・下肢筋力を重視し,起坐,ベッド上移動,車椅子やトイレへの移乗,車椅子駆動,時には理学療法と同じ起立運動を行った.1日の治療時間は自主訓練も含めて約4時間であった. 歩行は,介入時,全例不能であったが,平均67.5±31.9日間のリハ後に自立4例,監視12例,介助30例,不能7例となった.これを自立・監視群16例と介助・不能群37例の2群に分け,後方視的に対応のないT検定,Mann-Whitney検定を用いて比較検討した.またPearsonの相関係数分析でFIMと下肢筋力の相関を調査した.なお,統計解析は,SPSS 11.5J for Windowsを用い,有意水準は5%未満とした.【結果】自立・監視群/介助・不能群の順で記載する.年齢は65.9±9.7歳/72.8±10.1歳で自立・監視群が有意に若かった(p<0.05).性別は男7,女9/男19,女18で差はなかった.麻痺側は右13,左3/右18,左19で,自立・監視群で右麻痺が有意に多かった(p<0.05).深部感覚障害は「なし」12,「あり」4/「なし」15,「あり」22例で自立・監視群に有意に少なかった(p<0.05).非麻痺側下肢筋力は43.5±26.3%/32.5±19.6%で自立・監視群は有意に強かった(p<0.01).麻痺側下肢筋力は2.8±3.7%/1.1±2.5%で差はなかった.FIMは87.3±17.6/57.2±22.3で差は有意であった(p<0.01). またFIMと非麻痺側下肢筋力との間に相関(r=0.598,p<0.01)を認めた.【考察】従来,片麻痺患者の歩行回復を阻害する因子として,高年齢,重度麻痺,感覚障害などが挙げられている.今回われわれは,重度麻痺者について検討した.結果は高年齢,左片麻痺,感覚障害,非麻痺側下肢筋力低下は有意に歩行回復を阻害していた. Hirschbergや三好は片麻痺患者において健側下肢筋力を強化することにより,たとえ麻痺が重度であっても歩行は可能になると述べ,非麻痺側下肢筋力の重要性を報告している.また川渕も片麻痺患者での移動能力には非麻痺側下肢の代償が不可欠であると述べている.これらの事実から非麻痺側下肢筋力の強化を行うことが歩行回復をもたらすことが示唆され(p<0.01),起立運動は効果的であり,歩行の回復・廃用性筋力低下の予防が行えることを強調したい.【倫理的配慮,説明と同意】本研究の計画立案に際し,所属施設の倫理審査員会の承認を得た.また対象者に研究について十分な説明を行い,同意を得た. 製薬企業や医療機器メーカーから研究者へ提供される謝金や研究費,株式,サービス等は一切受けておらず,利益相反に関する開示事項はない.
著者
山本 隆人 毛井 敦 松崎 哲治
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.98, 2011 (Released:2012-03-28)

【はじめに】 排泄行為は在宅生活を支援する上で最も回数が多く、重要な行為である。しかし、動作面ばかりに着目されがちであり、症状への対処が優先されることが多い。対処方法では、根本的な問題解決にはならないばかりか、返って問題が複雑化することがある。排泄へのアプローチは、行為のどの部分に問題が生じているか、そしてそれが生活全体にどのような影響を与えているかをアセスメントし、問題点を明確にしてアプローチすることが重要である。そこで、『排泄サポートチーム』を発足させ、独自のアセスメントシートを作成し、チームでの取り組みを通して現状の課題と今後の展望について検討したため報告する。【当センターでの排泄行為支援における課題】 当センターでの排泄行為支援における課題として、アセスメント方法が各職種により統一されておらず、着目点にずれが生じている。また、職種間で話し合いをもつ機会が少なく、排泄行為の課題点や目標が共有しにくくなっている。【取り組み内容】 患者の課題を多角的にアプローチしていくために、Dr、Ns、CW、PT、OT、放射線技師の構成とした。また、多職種が同じ視点でアセスメントを行うためのツールとして、独自のアセスメントシートを作成した。シートの特徴は、運動機能・認知機能・膀胱機能の3つの評価項目があり、『行為』として捉える視点を重要視した。カンファレンスでは、排泄行為の問題点と原因を明確にすることに努めて、知識不足を補うため勉強会も平行して実施した。【考察】 現在、チーム発足から数ヶ月経過したが、シートを活用した適切なアセスメントが行え始めている。アセスメントでは、運動機能、認知機能、膀胱機能のどの部分に課題があり、排泄行為が阻害されているのかを明確にし、多職種でどのようにアプローチしていくのかを共有することが必要である。そして、在宅生活を見据えた上で、患者や家族の身体的・精神的な支援につなげ、QOL向上を図ることが重要である。また、サポートチームではPT・OTが多く参加している。従来セラピストは、専門性から動作面ばかりに目がいきがちであるが、退院後の生活を考慮すると膀胱機能に目を向け、排泄動作ではなく排泄行為としてとらえていくことが必要で、これからのセラピストには、こういう視点が今後求められる。【おわりに】 今後は、アセスメントシートの検討を重ね、排泄行為として捉えていく視点を定着させ、より多くの患者の自宅復帰を支援していきたいと考える。
著者
東 幸児 石橋 達郎 坂本 大和 後藤 良幸 鵜殿 翔太 中村 明生
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.73, 2011 (Released:2012-03-28)

【はじめに】 高度外反膝に対するTKAで問題となるのは,変形を如何に矯正し,良いアライメントを得て,機能的な膝を獲得するかである.そのためには機種の選択・軟部組織の処置などが重要となってくる.また膝蓋骨においては術前に外方偏位しており術後トラッキングの不良例が多いとの報告もある.膝蓋骨トラッキング異常は膝関節屈曲制限・大腿四頭筋筋力低下・滑膜炎などの二次的問題を惹起する.今回,高度外反変形膝を呈した症例に二期的に手術を行い膝蓋骨に対する内外側張力バランスに着目し理学療法を行なう機会を得たのでここに報告する.【症例紹介】 氏名I 60歳代 13歳の時に交通事故に会い左大腿骨顆上骨折受傷.保存的に加療を行うが外反位にて変形治癒.徐々に下肢外反強くなりニ次性変形性膝関節症となる.一年ほど前から歩行困難となり当院受診.FTA135度と高度外反位を呈していた.【経過】 術前はX線にて著名な膝蓋骨脱臼を呈していた.first stageとして左膝関節形成を目的にTKA・腸脛靭帯切離・膝窩筋腱切離・外側膝蓋支帯切離を施行.FTA145度に改善するも膝蓋骨脱臼を認めた.second stageとしてアライメント矯正を目的に大腿骨内反骨切り術・脛骨粗面内側移動術・内側支帯縫縮・内側広筋腱縫縮術を施行.FTA165度・膝蓋骨傾斜角11度に改善した.術後18ヶ月膝蓋骨傾斜角12度.【考察】 本症例では高度外反変形矯正による軟部組織の機能改善が大きな問題となった.一般的に外反膝の矯正では膝関節内側組織の弛緩状態・外側組織の短縮が問題となる.本症例においてもFTA135度の高度外反変形膝を矯正したことにより内側広筋の弛緩,腸脛靭帯・外側広筋の短縮を呈した.軟部組織処理として内側広筋腱の縫縮術が行なわれたが内側広筋は収縮を認めるものの筋張力は不十分なものであった.内側広筋は膝関節最終伸展域においてFTA・外側広筋による膝蓋骨外方作用に相反し膝蓋骨固定を得て大腿直筋の伸展作用を効率的に脛骨へ伝える作用がある.内側広筋の機能低下は膝蓋骨外側偏位傾向を強め,膝伸展機構・膝蓋骨トラッキング異常を惹起する.本症例において内側広筋の機能改善は多くは望めないと考え,腸脛靭帯・外側広筋の短縮・大腿筋膜の緊張不均衡による過剰な外側引き付け作用を減じていくことに着目し理学療法を展開した.術後18ヶ月経過後も膝蓋骨の外側偏位の悪化は認めず良好な状態を維持できていた.【まとめ】 TKAにおいては下肢機能改善を図り「長く使える関節」とするかは術後リハビリテーションによるものが大きい.本症例において内側広筋機能不全の影響を最小限にするため,外側広筋・腸脛靭帯・大腿筋膜の緊張不均衡に着目することにより良好な経過をたどることが出来たと考える.今回の発表にあたり本人へ十分な説明を行い同意を得た.
著者
濱尾 玲早 四本 伸成 薬師寺 京子 玉島 亜希子 永山 弓子 芝 圭一郎 東 祐二 藤元 登四郎
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.113, 2007

【目的】<BR> 本研究の目的は、当院デイケア・外来作業療法利用者に対しアンケートを作成し、同意の得られた利用者に回答を頂く。アンケート結果より、利用者側のニーズを明らかにすることにある。<BR>【対象】<BR> 当院デイケア・外来作業療法利用者を対象として実施した。内訳はデイケア利用者男性18名、女性8名計26名(平均年齢44.5±10.1歳)と外来作業療法利用者男性3名、女性1名計4名(平均年齢46.5±9.5歳)である。<BR>【方法】<BR> アンケートは「(デイケア・外来作業療法)にどのような目的を持って参加していますか」という質問に対し、同意の得られた対象者のみ無記名にて回答してもらった。利用者の言葉で答えられるよう、自由記載の形とした。実施期間は、平成19年2月6日~4月10日で、利用者の参加日に記載してもらった。結果からいくつかのカテゴリーを抽出した。<BR>【結果】<BR> アンケートの回答より、得られた結果を意見の多かったものより記載する。<BR> デイケア利用者の意見として、最も多かったものは、人と仲良くなるため(26.9%)、次いで、規則正しい生活を送るため・生活リズムを作るため(11.5%)、友達を作るため・手工芸(活動)のため(7.7%)、という回答が得られ、対人関係また、生活リズムに対するニーズを持った利用者が多い結果となった。同時にこの他にも、自分に自信をつける・悩み事により気分や調子を大きく崩さないようにするため・目標を立てるためなど個人個人違った様々な回答を得ることが出来た。<BR> 外来作業療法利用者の意見としては、最も多かったものが、作品が出来る楽しみのため(33.3%)、次いで、活動がしたいから・気分転換のため・暇だから・人に会うため(16.7%)という回答となり、主に作業活動に対するニーズを持っているとの結果であった。<BR>【考察】<BR> 今回、デイケア利用者の回答より抽出されたカテゴリーとして対人関係に対するニーズが最も多いことが明らかとなり、デイケアが利用者にとって他者との交流の場であると認識されていることが示された。デイケアは、設定された6時間という時間を他者と共有することとなり、集団での活動もあるため、集団を意識する機会が多かったことがこのような結果につながったと考えられる。加えて、交流の中で、他者からの承認と自己確認・模倣修正による自己確立などの作用が働いていることも大きいと考える。変わって、外来作業療法利用者は、作業活動に対するニーズが多いことが分かった。この結果より、利用者にとって活動の場として認識されていることが示された。外来作業療法はパラレルな場であり、場における普遍的体験をともなう安心・安全感の保障、自我を脅かされず自己愛を満たす機会となるなどの効用も結果につながったと考える。加えて、その中で、作業活動に伴う発散や達成感、有能感の充足などの作用が結果に関係していると考えられる。
著者
田中 智寛 山田 隆治 青山 和美 吉村 尊子 関本 朱美 山下 永里
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.92, 2005

【はじめに】<BR>日本福祉用具・生活支援用具協会による2002年度の福祉用具産業市場動向調査において、福祉車両の供給率は1993年度と比較して9.53倍と急増しており、福祉車両に対するニーズの高さを示している。しかし、ニーズは高いが、実際に触れる機会の少ない福祉車両について、宇城地域リハビリテーション広域支援センター(以下、支援センター)において、福祉車両展示会を企画・実施したので以下に報告する。<BR>【目的・開催に向けて】<BR>この会は支援センターとして初の試みであり、(1)福祉車両に実際に触れ、知識と情報を得る場とする(2)各参加者間の情報交換・交流の場とする等、今後も継続的に行う事を視野に入れた目的設定をした。<BR>目的を踏まえ、出展車両は市販車とし、第6回西日本国際福祉機器展にて4社に依頼し、3社が展示可能となった。出展車両は、基本的に各社の出展可能な物を依頼し、後方スロープ1台、リフトアップシート3台、リフト仕様2台、両上肢操作仕様2台の計8台の展示となった。<BR>【開催当日】<BR>会は3時間行い、各企業より1台5分程度の車両の説明を行った後、自由に見学・質問の時間とした。<BR>参加者は計98名(内訳は入院・外来患者、当法人在宅系サービス利用者やその家族、他事業所、当法人職員)であった。当法人職員以外の参加者には、外出の回数・車両を取り扱う上での問題点・展示会についての感想等のアンケートを依頼した。<BR>【アンケート結果】<BR>アンケート回収は26名(男性6名・女性20名)。結果として、自動車の使用頻度は、「毎日」11名・「1・2回」8名と比較的外出を頻回に行われる方が多かった。車両の取り扱いで困る点は、「乗車や下車時」9名・「車椅子の乗せ降ろし」5名と運転自体より、乗降の際の問題が多く見られた。展示会の感想は「大変良かった」6名・「良かった」13名・「普通」5名だった。<BR>【考察及びまとめ】<BR>会全体を通して、参加者の福祉車両への興味が非常に高い事が伺われた。高齢・障害者や介助者にとって外出は、日常生活の中で直面している問題の一つである。しかし、当地域は郡部であり公共の交通も不便なため、外出における選択肢も少ない。そのため、外出する際の問題は直接的に介助者へ掛かり、生活範囲の狭小化につながる。地域住民の生活の幅を広げるために、会を定期的に開催し、情報の提供・共有や問題の共有をしていく必要性があると思われる。<BR>車両そのものについては、企業により車種に偏りがあり、参加者の関心にばらつきが見られた。また、車両の特性が介助者へ着目したタイプが多く、自操車タイプを目的に来場した方より物足りないという意見も聞かれ、今後の課題としたい。<BR>今回の展示会を開催して、福祉車両へのニーズの高さ・外出に対する意識の高さを再認識した。今後も支援センターとして、地域住民のニーズを反映させながら、発展的な生活支援の場にしていければと考える。
著者
竹内 明禅 佐田 直哉 五十峯 淳一
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.348, 2010

【はじめに】<BR> 腰痛症患者は臨床で最も多く治療する機会があり、その中で頸部及び胸腰部の回旋方向への可動域制限を認める場合があり、頸椎の環軸関節(以下、C1/2)を治療し可動性を改善することで症候の緩和を認める経験をする。今回、腰痛症患者において頚部可動性と胸腰部可動性との関連性を調査し、C1/2治療後の症候の変化及び胸腰部の可動性の影響について研究を行ったので報告する。<BR>【対象と方法】<BR> 腰痛群(以下、P群)は外来患者20名(男性6名・女性14名)、平均年齢25.7歳±11.1とし、対照群(以下、C群)は健常成人20名(男性9名・女性11名)、平均年齢30.1歳±7.72の2群とした。<BR>1.測定器具は東大式角度計を用いて頚部のa.屈曲b.伸展c.回旋d.側屈、胸腰部のe.回旋のROMを測定し、c~eに関しては左右差を算出して2群間を対応のないt検定にて比較検討した。<BR>2.頸部への治療技術はC1/2回旋に対する接近滑り法を実施し、P群の治療前後のa~eを測定し対応のあるt検定にて比較検討し効果判定を行った。<BR>3.P群において治療前後でのeに対するa~dの相関係数と治療前後のVisual Analogue Scale(以下、VAS)に対するa~eとの関連性をピアソンの積率相関分析を用いて分析した。<BR>【結果】<BR>1.C群と比較してP群のbが有意に減少(p<0.01)、c・d・eが有意に増加し (p<0.01・p<0.01・p<0.01)、頚部及び胸腰部の可動域制限を認めた。<BR>2.P群において治療前と比較して治療後にc・d・eが有意に減少し(p<0.01・p<0.01・p<0.01)、可動性が改善した。<BR>3.P群において治療前と後のcはeに対して高い相関を認め (r=0.66・r=0.62)、頚部の回旋制限が大きいと胸腰部の回旋制限も大きく、頚部の回旋制限が改善すれば胸腰部の回旋も改善した。また、治療前のcはVASに対して高い相関を認め(r=0.52)、頚部回旋制限が大きければVASも大きく、治療後のc・eはVASに対して高い相関を認め(r=0.65・r=0.76)、頚部・胸腰部の回旋可動性が向上すればVASは軽減した。<BR>【考察】<BR> 結果1よりWhite, Panjabiが提示する脊柱の可動範囲から頸椎~胸腰椎の骨運動と関節内運動は四肢関節における運動とは異なる点が多く、動く骨体が軟骨で結合されている為、動きが僅かしか起こらない。しかも、運動分節は上位から下位に向かってドミノ倒しのように順番に動きが起こる特徴を考慮すると上位または下位からの連動性に問題が生じた為だと推測される。<BR> 次にC1/2回旋に対する接近滑り法は頸椎のROMを総合的に改善することができ、特に回旋方向への可動性を向上することで頚部可動性の左右差を軽減し、胸腰部の可動性を増加させ、さらには疼痛の軽減も図ることが可能となった。これは治療対象器官を関節に設定したことで、Mennellが定義する関節機能障害の存在が推測でき、一連の脊柱のROM制限と疼痛の一要因が関節機能障害の関与ではないかと考えられる。<BR> 今回の研究では、脊柱のROM制限と疼痛の関係が密接に関わっていることが分かり、特に頸部回旋運動、胸腰部回旋運動、疼痛との関連性が高いことが示唆された。
著者
荒木 克也 黒土 達也
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.256, 2010

【はじめに】<BR>患者様の在宅復帰を円滑にすすめていく上で、患者様を中心とした家族、医師、看護師、コメディカルスタッフの協力・連携が重要である。しかし、患者様の疾患が重症であればあるほど在宅復帰は難しい状況が現状であり、またその家族の受け入れ次第では復帰できる可能性のある患者様も在宅復帰を困難にしていることも現状である。そのため今回、当病院においてより良く家族に患者様を受け入れていただくことを目的として家族会を開催し、実施後の家族へのアンケート調査をもとに取り組みを行った経過および結果をここに報告する。<BR>【対象】<BR>当院回復期病棟に入院中である熊本県地域連携パスBコース(当院在宅復帰率85.7%)及びCコース(当院在宅復帰率36.2%)の患者様家族を中心に声かけを行い希望者を募った。<BR>【方法】<BR>看護部からは症例を用いて説明し、医療連携室からは介護保険制度の説明、リハビリテーション室からはベットからの起き上がり方法・車椅子及びトイレへの移乗方法を中心とした実技指導方法も交えて3部門よりそれぞれの特色を生かした説明を行なった。その後、第1回の参加者12名、第2回参加者9名、第3回参加者9名の計30名の家族会に参加した方々に終了後アンケート調査を実施した。<BR>【結果】<BR>1.開催日について:良い88%その他12%2.開始時間:良い96%その他4%3.講義時間:良い88%長い8%未回答4%4.講義内容:理解しやすい66%普通34%5.実技:わかりやすかった88%普通12%<BR>【考察】<BR>今回3年分の家族会の経過を基にアンケート調査を実施し検証を行った。アンケート調査の内容に今後取り上げてもらいたい内容、その他ご意見・ご感想の欄を設けた。その意見として、退院後のリハビリテーションの実施方法、栄養面での栄養士による栄養指導、住宅改修を実際に行った前後の写真や経費、入院期間の期限、入浴介助方法などの意見を頂いた。このような意見を基に今後の展望として家族会に上記の意見を十分に取り入れていきたいと考える。また、県外の兄弟にも参加させたい、もっと頻度を増やしてほしい、退院後も定期的に行ってほしい。と積極的な意見もみられ、これは地域連携パスにおける重傷者の患者家族の意見としてはより在宅復帰が近いものになってくるのではないかと考える。今後も検証を続け、患者様家族の意見を取り入れもっと家族会がよりよいものとなり、1人でも多くの患者様が在宅復帰できるよう支援していきたいと考える。
著者
仲地 正人
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.9, 2004

【はじめに】<BR> 当センターでは脳性麻痺児に対する下肢痙性減弱の目的で機能的脊髄後根切断術(以下、FPR)に注目し2001年より導入した。2003年8月までに県立那覇病院で21例の児にFPRが実施された。今回、FPRを受けた児の保護者に対しFPRの満足度、術前・後の変化点の認識および感想についてアンケート調査し若干の知見が得られたので発表する。<BR>【対象】<BR> 当センターで理学療法を受けている入所、通所、外来児でFPRを受けた児21例(男児11例、女児10例)。タイプ別では痙直型16例、混合型5例であった。手術時の年令は3歳3ヶ月から8歳(平均61.9±19.3ヶ月)であった。術後期間は3ヶ月から35ヶ月(平均13±9.7ヶ月)であった。GMFCSによる分類ではレベル1が3例、レベル3が3例、レベル4が11例、レベル5が4例であった。<BR>【方法】<BR> アンケートは術前・後の変化点、FPRに対する感想について空欄への記入式とし満足度については選択式にしてその理由を記入してもらった。またGMFCSに基づいてレベル分類を行い各レベルにおける運動機能の改善点を列挙した。<BR>【結果】<BR>1,手術を受けて良かった点としてGMFCS別でレベル1群では立位、歩行、階段昇降でのバランス向上、レベル3群では坐位・立位姿勢の安定、歩行補助具を用いた歩行の安定性向上、レベル4群では寝返り・起き上がり動作の円滑性、座位の安定性向上、レベル5群では背・腹臥位、座位がリラックスして行える事に満足している傾向にあった<BR>2,その他の良かった点として股関節の痛み、衣服の着脱、上肢の操作性、口腔機能、発声・発語、睡眠中の姿勢、排尿・排便、感覚などにも改善が得られ満足している傾向にあった<br>3,手術を受けて悪かった点 痙直型1例にバニーホッピング時に股関節が過外転位となり移動速度が低下した。痙直型1例に術後1年で尖足が再発している。混合型1例にATNR出現時に体幹の反り返りが目立つようになった。<BR>混合型1例に下肢に軽度の不随意運動が増加した。尿・便失禁が生じたが術後6ヶ月時より改善した。<br>4,術後に生じたその他の変化点 痙直型1例に足の血色が良くなり発汗が多く見られるようになった。痙直型1例に触感覚が敏感になりカーテンなどが足に触れると大笑いするようになった。5,手術を受けての満足度では21例中、6例(29%)が大変満足、13例(61%)が満足、2例(10%)がどちらとも言えない、不満は0%であった。<BR>6,FPRを受けての感想では術前出来なかった動作が術後可能になり本人に自信が付いた、何でも自分でやろうとするようになった、姿勢や表情が良くなっているということが挙げられた。<BR>【考察】<BR> 今回、FPRに対し「大変満足している」あるいは「満足している」と答えた保護者は19例で全体の90%%にあたり満足している点は術前すでに獲得していた動作の円滑性や姿勢の安定性向上、術前には出来なかった事や見られなかった事が術後可能となった事であった。「どちらともいえない」と答えた保護者は2例10%でその理由は痙直型では術後一年で尖足が再発している。混合型ではATNR時に体幹の反り返りが目立つようになったであったが痙直型では寝返り・肘這い動作がスムーズになった、箸、スプーン、書字動作が向上した。混合型では股関節を痛がるしぐさが無くなった、物を触ろうとする動きが増えた、喃語が多くなった、リラックスして眠れるようになったなどの改善点もあり手術を受けて良かった点と悪かった点を相殺することでこの様な回答となっていると考えられる。手術を受けて悪かった点としては痙直型2例でバニーホッピングでの移動速度の低下、術後1年で尖足が再発した、混合型2例でATNR出現時に体幹の反り返りが目立つ様になった、下肢に軽度の不随意運動の増加が見られた事が挙げられた。<BR>【まとめ】<BR>1,FPRに対する親の満足度を調査した。<BR>2,FPRを受けた21例中19例(90%)で満足している傾向にあった。<BR>3,手術を受けて良かった点として動作の円滑性や姿勢の安定性向上、二次的効果として股関節の痛み、衣服の着脱、上肢の操作性、発声・発語、口腔機能、排尿・排便、感覚等にも改善が得られ満足している事がわかった。<BR>4,手術を受けて悪かった点として痙直型2例にバニーホッピングで移動速度が遅くなった、術後1年で尖足が再発した。混合型2例にATNR出現時に体幹の反り返りが目立つようになった、下肢に軽度の不随意運動が増加した。
著者
比屋根 直美 赤嶺 大志 宮城 淳 溝田 弘美 又吉 清子 運天 智子 仲地 正人 渡慶次 賀寿 新里 真由実 大城 由美子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.76, 2003

2000年11月から2002年11月までに10名の脳性麻痺児に対して機能的脊髄後根切断術を実施した。タイプは痙直型両麻痺9名、混合型四肢麻痺1名。股関節亜脱臼は3名4股、術前運動機能は臥位1名、這い這い3名、バニーホッピング2名、四つ這い3名、独歩1名、術後期間は平均14.6ヶ月であった。術前後で痙性の程度(Ashworth scale)・関節可動域・粗大運動能力尺度・Migration Percentage(MP)を評価し、独歩例は観察による歩行分析を行った。<BR>下肢の痙性は、Ashworth scaleの平均でみると全症例で軽減しており、術後1年以上経過している5名も維持されている。関節可動域は、股関節外転8名、伸展5名、膝窩角5名に改善がみられ、足関節背屈はfast stretchでは全例改善しているが、最大可動域では3名で改善し、過背屈はなかった。粗大運動能力尺度は術後1_から_3ヶ月は低下することもあるが、多くは3_から_6ヶ月で術前の状況に回復、もしくは若干の伸びがみられた。MP50%以上の股関節亜脱臼は術後2名2股になった。独歩可能な1名の術前後の歩行を比較すると、尖足歩行は残っているものの膝・足関節の動的関節可動域は改善し、歩幅が大きくなった。
著者
藤井 小羊 吉田 真司 呉屋 和美 石川 あずさ
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.27, 2008

【はじめに】<BR> 近年、脳性麻痺児治療でKetelerは、ICFでの活動や参加の観点で両親、子どもと協同して目標設定する過程を述べている。<BR> 今回、機能的脊髄後根切断術(FPR)後の痙直型両麻痺児に対する目標設定と治療継続により日常生活動作改善が得られたので報告する。<BR>【症例紹介】<BR> 6歳1ヵ月。在胎28週、体重1,140gで出生。粗大運動能力分類システム(GMFCS)レベル4。MRIで両側側脳室後角にPVL所見あり。<BR> 平成19年4月12日、満5歳1ヵ月時、FPR施行。<BR>【目標設定】<BR> 家族の要望を聴取し、家族と協同して、1.円滑な床上移動、2.歩行器歩行の獲得、3.椅座位での円滑な両手活動、4.靴下及び靴の着脱を目標に設定した。<BR>【評価】<BR> 1.姿勢筋緊張:左上下肢により高緊張が見られた。上部体幹の屈曲に伴い、両上肢は肩関節屈曲・内旋、肘関節屈曲、両下肢は伸展・内転・内旋方向への高緊張が見られ、手関節、手指の選択的な運動が困難であった。<BR> 2.運動機能:バニーホッピングでは、上部体幹の屈曲に伴う両上肢の引き込みにより頭部から左前方へ崩れる傾向が多かった。また椅座位での机上活動では体幹が安定せず、空間操作は難しかった。<BR>【経時的評価】<BR> 術前、術後1ヵ月から1ヵ月毎にGMFM-88を実施、測定毎に各領域の%点数とGMFM-66を算出した。同時に術前、術後3ヵ月毎にPEDIを実施、測定毎に機能的スキルの各領域の尺度化スコアを算出した。<BR>【治療】 <BR> 下部体幹を基点に、自己身体軸を中心とした座位及び立位活動で、手関節、手指の選択性と視覚との協応を促した。課題は粘土を包丁で切る等、両手動作課題の中で利き手と非利き手の関係を意識した。<BR>【治療目標の達成度】<BR> 運動機能:床上での姿勢変換が安定し、歩行器歩行では円滑な下肢の分離性、交互性が得られ、室内では実用的になった。術前、術後12ヵ月のGMFM-88の各領域での%点数を比較すると四つ這いと膝立ち領域で45.24%から73.81%、立位領域で7.69%から25.64%、GMFM-66では43.79±1.05から48.97±1.17へと向上し、統計上有意差が認められた。<BR> 日常生活動作:入浴では椅座位にて、身体を完全に洗えるようになり、更衣では靴下及び靴の着脱が可能となった。術前、術後12ヵ月のPEDIの機能的スキルでの各領域の尺度化スコアでは統計上有意差は認められなかったが、セルフケア領域は61.8±1.6から63.2±1.7、移動領域は40.3±2.3から42.4±2.3、社会的機能領域は65.1±1.6から66.2±1.7へと向上した。<BR>【おわりに】<BR> 今回、痙直型両麻痺児に対し、一定の機能的改善が得られ、一部の日常生活動作改善が得られた。それらを日常生活に定着させるにはその機能が実際に遂行される環境が必要であり、将来を見据えた治療を展開していくことが今後の大きな課題である。
著者
廣岡 佳苗 徳留 武史 津曲 優子 緒方 匡 藤元 登四郎
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.205, 2016

<p>【はじめに】</p><p>今回、心原性脳塞栓症を発症し、軽度右片麻痺と失語の影響でPC操作や電話応対が困難となった症例を担当した。職場との連携により、スムーズな復職が可能となったため報告する。</p><p>【事例紹介】</p><p>40歳代男性。妻、子供3人との5人暮らし。看護師副主任としてPCでの薬の管理、電話応対などを行っていた。心原性脳塞栓症を発症し、急性期病院にて保存的に加療され、リハ目的にて当院に転院となった。初期評価時は発症後18日、右片麻痺、失語を呈していた。WAIS-Rは動作性IQ 82、言語性IQ は評価困難、SLTAは聴理解で仮名4割、複雑文0割、視理解は仮名10割、複雑文8割、音読は仮名、単語0割で喚語困難を認めた。デマンドは「家族のために早く復職したい」であった。右のBrunnstrom stage(以下Br. stage)は上肢Ⅵ、手指Ⅴ、下肢Ⅵ、STEFは右87/100点、左91点、FIMは123/126点であった。</p><p>【作業療法計画】</p><p>復職には、日常の会話、PC操作、電話応対が必要であるが、失語や右手指の巧緻性の低下により困難な状況であった。回復期であるため、機能訓練として促通反復療法、動作訓練としてPC操作、電話応対訓練を実施した。</p><p>【結果及び考察】</p><p>訓練開始から1カ月は上肢機能訓練を中心に実施した。その結果、Br. stageは右手指Ⅵ、STEFは両側100点と巧緻性はPC操作に問題ないレベルとなった。日常会話は単語や短文であれば発話にて可能となった。この頃、本人からは「今でも仕事はできる、早く復職したい」との発言があり、休職の長期化が復職を困難にするという不安が生じていることが考えられた。2カ月後、職場の上司と情報交換し、以前の仕事が部分的に行えれば復職可能との情報を得た。視理解と上肢機能が良好であること、メモの使用が可能であることや簡単な日常会話は口頭で可能になったことから、PC操作と電話応対訓練を開始した。PC操作は、処方箋にある薬の選択を音読して確認する方法で模擬的に行った。訓練初期には、3/5の選択課題で時間を要していた。この頃、SLTAでの音読は0割で、喚語困難が影響していたことが考えられる。2カ月後、10/25の選択を5分以内で実施することが可能となった。SLTAの音読は10割と改善を認め、喚語困難の改善と反復による動作学習により時間短縮が可能となったことが考えられる。電話応対では、「ついたち」など日にちの読み方の理解が困難であったため、電話応対課題は日付を中心に実施した。その際、本人にとって理解可能な単語に変換して確認することとし、その都度フィードバックを行った。6カ月後、WAIS-Rは年齢平均値まで改善、SLTAは聴理解で仮名9割、複雑文6割、視理解は複雑文9割、音読は仮名、単語10割に改善した。電話応対は模擬的な面会日程のやりとりが可能となり、この頃、「自分でも仕事で問題となるところが分かってきた」との発言があった。このことから、フィードバックにより、気づきを促したことと、理解困難な単語については、本人が理解可能なものに変換して復唱することを提案したことで電話応対が可能になったと考える。訓練開始から6カ月後、外来リハへ移行した。本人や関連職種と話し合い、まずは半日出勤で電話応対、簡単な書類記載をする形で復職することとなった。以上のことから、復職をよりスムーズにするためには、早期から職場と情報交換し、対象者の状況について職場の理解を深めること、職場の意向を確認すること、復職に必要な条件に対して集中的にアプローチすることが重要であることが示唆された。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本報告について本人に説明し同意を得た。</p>
著者
足立 仁志 井形 勉 西村 敏弘 山本 祐紀恵 瀬津田 愛 中野 博
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.95, 2006

【始めに】<BR> 重症心身障害児者(以下重症児者)においては、咳嗽反射の低下による喀痰困難や脊椎側彎症の増悪などによる換気能力低下から慢性気管支炎等の呼吸器疾患へと移行し、ひいては外出日数の減少や在宅における健康管理上の問題となる.これらの問題に対し、体位ドレナージや呼気胸郭圧迫法(いわゆるSqueezing)等を用いての排痰援助が用いられるが、手技の習熟度、実施頻度、手技自体の限界などから十分な排痰を行うことが困難な症例がある.近年このような重心児・者に対して、肺内パーカッションベンチレーター (Intrapulmonary Percussive Ventilator: 以下IPV)やCough Machine (以下CM) 等の機器を用いての気道クリアランスの有効性が報告されており、当院においても使用する機会を得た.今回は、気管切開を行っていない2症例に対し呼吸音解析による検討とともに、その受け入れ状態の変化の観察を行い、その有用性及び課題について若干の考察を行った.<BR>【実施方法】<BR>排痰は一日一回実施した.呼吸音の記録には、コンデンサーマイクロホン及びパソコンを用いて記録し、その後時間軸波形及びサウンドスペクトログラムでの解析を行った.<BR>【結果】<BR>〔症例1〕23歳、男性 レノックス・ガストー症候群 気管支喘息 慢性気管支炎<BR>脊椎の高度な右凸側彎変形が認められ、呼吸音は、左肺呼吸音は弱く時折crackleが聴取された.排痰援助として開始当初CMの使用を試みたが、不快感が強いためIPV後に吸引を行う方法をとった.この症例においては従来の方法との排痰効果の比較を行う目的で、Squeezing時 とIPV( Percussionaire社製 IPV-1 使用しフェイスマスクにて実施)実施時各4回づつ前後での呼吸音の記録・解析を行った. その結果、IPV後は、4回全てにおいてcoarse crackleが著明となったがSqueezingでは、2回で同様の変化が認められたが、その程度はIPVより小さいものであった.<BR>〔症例2〕3歳、男性 滑脳症 水頭症 食道逆流現象症 慢性気管支炎<BR>常時crackle聴取されるとともに喉頭部での痰貯留音も認められ、1,2時間ごとの吸引処置が必要であった.主治医よりCMによる排痰が有効かとの依頼があり検討を行った.CMはレスピロニクス社製 Cough assist CA-3000 使用し、フェイスマスクを用いて実施した.CM前後での呼吸音の比較を4回行った結果、CM後でのcrackle及び喉頭部の痰貯留音の減少が全ての回において認められた.<BR>〔受け入れの状況〕症例1においては、当初CMを数回試みたが、不快感のため全身の筋緊張の亢進や息こらえ等のため実施困難と判断し、IPVに変更したところ、その状況に改善が見られ継続実施可能となった.この点についてはIPVの場合、自発呼吸をあまり妨げられないことなどが関係していると考えられた.症例2では、CM実施当初は不快な様子で開口し、頚部を反らせる等の行動が見られ、呼吸パターンも不規則になるため、手動にて呼吸に合わせ実施したが、4回目以降にはその様子も落ち着き、オートモードでの使用が可能となった.<BR>【考察】<BR>重症児者では、側彎変形や四肢の関節拘縮により、体位ドレナージやSqueezing等の効果が得られにくく、また最終的な喀出段階で難渋する場合が多いが、今回経験した二例も同様の症例であった.今回の結果からこのような排痰困難例に対し、これらの機器は有用であると考えられた.その一方、今回のようなマスクを使用する場合、顔面・口腔周囲の過敏性をいかにクリアーするかといった点や自発呼吸とのマッチングをうまく図ることなどが、スムーズな導入への重要な課題と考えられた.