著者
永田 光明子 西本 加奈 山田 麻和 早田 康一 原田 直樹 大木田 治夫
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.146, 2004 (Released:2004-11-18)

【はじめに】 脳卒中患者のうち全体の約3割が抑うつ状態を呈する.発症後4ヶ月で23%の患者が抑うつ状態を示すとの報告もある.脳卒中後のうつ状態は、患者の意欲を奪い、このことが病気からの回復を遅らせ、QOLを低下させる.今回、脳出血のため回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ病棟)に入院し、独居での自宅復帰を主目標にリハビリテーション計画を立案・実施したが、抑うつ状態の増悪により自宅退院が困難となった症例を担当したので、若干の考察を加えて報告する.【症例紹介】 56歳、女性.左被殻出血による右片麻痺、失語症.H15.9.29 発症、10.1より早期リハ開始、10.3定位血腫除去施行、11.6当院回復期リハ病棟入棟.病前性格:几帳面で完璧主義.家庭背景:子供は独立して夫と二人暮らし、夫は仕事の都合で週末しか自宅に戻ることが出来ない.【経過】 入院時、症例のADLは食事以外の全項目に介助が必要な状態であった.心理的には発病に対するショックが強く悲嘆的な発言が多かった.PTプログラムには従順で意欲的であったが、その反面疲労時に目眩・動悸の訴えがあり、夜間は不眠の訴えも聞かれた.そのため主治医から抗うつ剤が処方されていた. 発症後4ヶ月半(H16.2月中旬)、症例・家族ともに身体機能の更なる回復を期待しており、退院はまだまだ先の事と考えていた.しかし、リハチームとしては3月末を退院目標とし、夫との外泊に加え、夫不在時に自宅に戻り食事の支度・入浴を自力で行う独り外出・外泊の計画を立てた.それは、症例と家族が退院後の生活を具体的にイメージする事がソフトランディングな退院につながると考えたためであった.そこで、本人・家族に独り外泊についての説明を行い、発症後5ヶ月目(H16.2月末)に独り外泊を実施した.<発症後4ヶ月半でのPT評価> Br. Stage:上肢II、手指II、下肢III.筋緊張:全体的に低下しており、肩関節に亜脱臼1横指あり.感覚:右上下肢、表在・深部感覚共に中等度鈍麻(上肢>下肢).FIM運動項目は74/91点で緩下剤調整・座薬の挿入に介助が必要、浴槽移乗と階段昇降に監視が必要なことを除外して入院生活は全て自力で可能、FIM認知項目は28/35点で問題解決に制限が見られた.<症例の心理状態> 独り外泊直前:うつスケールGDS-15は11点で重いうつ症状を示した.外泊については、夜間の転倒に対する不安、再発に対する不安、トイレ・入浴が独りで出来るかという不安が聞かれた. 独り外泊直後:GDS-15は9点となり、生活に対する希望と幸福感に変化が見られた.しかし、片手・片足での生活はきつい、排便について自己処理が出来ない等、具体的な不安が挙げられた.<独り外泊後の経過> 外泊時、調理・入浴とも見守りで可能で、転倒もなく無事過ごすことが出来た.排便についての不安が外泊前よりも強くなっていたため、PTでは腹筋運動をプログラムに追加し、病棟では座薬の自己挿入練習を開始することとなった. しかし、症例は3月初旬に2度便失禁を体験し、直後より極度のうつ状態に陥った.症例からは「もう何も出来ない」「死にたい、殺して.」など様々な不安が聞かれた.日中はベッド臥床して過ごし、リハビリ拒否となった.また、排泄への不安から摂食拒否になり、抗うつ剤による治療が継続されたが、最終的には自殺企図が生じ、3月末精神科へ転院となった.【考察】 本症例は、病棟でのADLが自力で可能となり、試験外泊で退院後の生活を体験した.PTは主目標である自宅復帰が可能と考えたが、症例は外泊後抑うつ状態が増悪し目標は達成されなかった. 脳卒中後の抑うつ症状は、病巣部位と病前性格・身体機能障害の程度・社会経済的要素などのマイナス作用により発症する.そのため、目標とするADL・ASL能力の獲得に向けて集中的にアプローチが行われる回復期リハ病棟では、練習中の失敗体験や予後告知、介護者となる家族との関係変化等により患者の抑うつが発症する可能性が高いと考える. 排泄行為は生きていく上で欠かす事の出来ない生理的欲求である.日常生活では誰もが人の目に触れない所で行っており、その行為に失敗した時の羞恥心・心理的な苦痛は計り知れない.症例は外泊前から排便コントロールに介助が必要だったが、独り外泊後2回の便失禁を体験し、大うつ病に至った.退院計画を具体的に進める際、無理に排便コントロールの独立を目標にせず、介助出来る支援体制を整えれば、排便に対する不安は軽減した可能性もある.試験外泊時にその時点の身体機能で遂行可能な自宅生活を想定し、それをサポートする地域社会の支援体制が求められる.
著者
愛下 由香里 平賀 真雄
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.191, 2016 (Released:2016-11-22)

【目的】臨床において、LPH複合体の機能障害は多く経験する。骨盤底筋の収縮が、腹横筋・多裂筋の活動と関連していることが報告されている。しかし、運動に関する報告は多いが、実際に、骨盤周囲筋への徒手的介入が有効であるかどうか検討した報告は少ない。尾骨筋への介入前後における腹横筋に与える影響を検討したものがあるが、骨盤底の評価は行っていない。今回、骨盤底筋である肛門挙筋と、筋連結のある内閉鎖筋リリース介入前後での、股関節角度・骨盤底・腹横筋収縮の変化、多裂筋筋硬度を超音波画像診断装置にて計測し、若干の知見を得たので報告する。【対象と方法】対象は、健常成人男性6名を対象とした。測定については、超音波画像診断装置(TOSHIBA社製Aplio500)を用いた。方法は、予め股関節外旋制限のある下肢を介入下肢とした。内閉鎖筋への介入前の骨盤底・介入下肢側腹横筋・両多裂筋硬度を測定した後、股関節外旋角度を測定した。その後、内閉鎖筋に90秒リリースを行い、両多裂筋硬度測定後、外旋角度・骨盤底・腹横筋の測定を実施した。測定条件については、骨盤底筋は、測定1時間~40分前に500mL飲水し、膀胱に中等量の蓄尿をさせ、尿道孔と恥骨が描出できる断面とし、恥骨尿道孔間距離を安静時と骨盤底筋随意収縮時の変化量を骨盤底挙上量とした。腹横筋は、プローブを臍レベル水平線と腋窩線上の交点から2.5cm内方腹横筋が描出できる断面とし、呼気終末期の筋厚を測定した。多裂筋は、L5レベルで横断像を描出し、その中心部分の筋硬度を測定した。測定値は、介入前後、それぞれ3回ずつ測定しその平均を代表値とした。骨盤底筋と腹横筋は、多裂筋硬度の平均測定値をもとに増加群と低下群と分け、比較検討した。【結果】全例において股関節可動域は改善がみられた。多裂筋筋硬度については、介入側の方が、非介入側と比較し筋硬度が高い傾向にあった。(介入側15.26±8.44kPa非介入側13.46±4.75kPa)また、多裂筋筋硬度が、増加群では、非介入側についても同程度の硬度増加傾向がみられた。低下群においては、介入側と同様に非介入側も硬度が低下するものの低下の度合いに差がみられた。筋硬度については、介入により左右差がほぼない状態となった。(介入側13.01±1.92kPa 非介入側13.88±4.75kPa)骨盤底筋収縮においては、両群ともに挙上改善傾向にあるが、増加群においてわずかに挙上量が多い結果となった。(改善量 増加群5.20±2.15mm 低下群3.00±3.86mm)腹横筋収縮においては、増加群においてわずかに収縮低下傾向、低下群においては収縮改善傾向を認めた。【考察】内閉鎖筋への徒手的介入の即時効果として、股関節可動域改善、多裂筋硬度への変化、骨盤底筋・腹横筋の収縮機能への改善効果の可能性が示唆された。生方らは、慢性腰痛患者における多裂筋筋硬度は、健常者に比べ有意に低下し、腰痛群において疼痛側は非疼痛側に比べ高値を示すと述べている。今回は、健常者において徒手介入による変化がみられ、筋硬度が高い場合には、筋硬度が低下し、低い場合には、硬度があがり促通効果が得られる可能性が示唆された。また、最終的に筋硬度について、左右差がほぼない状態になったことを考慮すると、多裂筋筋硬度が、平均測定値程度であれば、骨盤底筋への収縮について改善が得られる可能性もあり、今後、さらに、LPH複合体の機能改善への徒手的介入の可能性を検討したい。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿ったものであり,対象者には事前に研究の目的と内容を説明し,承諾を得た。
著者
浅海 靖恵 藤原 裕弥
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.51, 2009 (Released:2009-12-01)

【はじめに】 辞典によれば、「積極性」とは、進んでものごとを行おうとする性質とあるが、現在、理学療法士教育における臨床実習の場で「積極性がない」ことが問題にされることが少なくない。「積極性」とは何なのか?今回、臨床実習評価表、学生とのディスカッション、実習後アンケートを活用し、学生と実習指導者双方の考える「積極性」に焦点をあて検討を行ったのでここに報告する。【対象】 Sリハビリテーション学院理学療法学科、夜間コース1期生25名・昼間コース2期生36名【方法】 1.短期実習(実習I)、長期実習(実習II-1、II-2)における臨床実習評価表より最終判定に至った理由(実習指導者自由記述部分)を抜粋し、テキストマイニングの手法を用いて、実習ごとに頻出語を抽出、「積極性」の用いられ方を確認する。2.実習評価表、学生とのディスカッション、実習II-2終了後実施したアンケートを利用し「積極性」の分析を行う。【結果】 1.成績報告書の判定理由の記述において「積極」という単語が用いられた回数は63回、「実習」「評価」「患者」「思う」「今後」「知識」に次ぐ7番目に高い頻度であった。中でも、実習I、実習II-1において共起性が高かった。2.実習指導者による積極性の評価は、実習II-1とII-2において弱い相関が認められ、実習II-2については学生の自己評価との相関が認められた。3.学生アンケートにおいて、積極性が出せた群(5段階評価1,2)は41%、積極性が出せなかった群(5段階評価4,5)は29.5%であり、年齢、性別による有意差はなかった。また、学生や実習指導者が積極性の出せない理由として挙げた「PTになりたいという意欲」「実習に対する自信(不安度)」「性格」「成績」と「積極性」との相関は認められず、「スタッフとの関係性」にのみ正の相関が認められた。さらに、「実習満足度」に関連する因子として、「臨床実習後の意欲変化」「実習指導者の評価に対する納得の度合い」に次いで、「実習中の積極性」に高い正の相関が認められた。【考察】 今回の結果より、多くの実習指導者が臨床実習場面において学生が積極的に行動することを期待していることが伺えたが、「積極性」を考える際、意欲、自信、性格、成績など個人の内部に完結して存在するだけの特性として捉えるのではなく、実際には周りの環境とのやりとり(関係)のありかたなど、行動化に影響を与える因子を探ることの重要性が示唆された。
著者
田原 典嗣
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.294, 2010 (Released:2011-01-15)

【はじめに】 近年、スポーツ選手の障害・パフォーマンスと股関節の関連性はよく討論の対象となっている。今回は、野球選手に障害がよく見られる肩関節と股関節との関連性を観察し、障害予防、パフォーマンス向上に繋げていくため若干の知見を得たのでここに報告する。 【対象及び方法】プロ独立リーグ・野球クラブチームに所属する選手10名、全右投げ、ポジション(投手4名、捕手2名、内野手3名、外野手3名、複数ポジション2名)24,6±3,6歳、身長176,6±10,5cm、体重74,8±14,2kg、野球歴14,5±3,5年 肩関節内・外旋可動域:肩関節90°外転および肘関節90°屈曲位(2nd plane)で測定 股関節内・外旋可動域:股・膝関節90°屈曲位にて測定 股割り:両下肢を対象者の身長半分に開き、骨盤後傾・腰椎の屈曲が入らない状態で、下降できるところまで降ろし、殿床間距離を測定 等速性筋力検査:BIO DEXにて肩関節内・外旋筋力180・240deg/secにて測定 上記の評価の値をそれぞれ比較、検討を行なった。【結果】・股割り数値が高い群は低い群に比べ、肩関節外旋可動域が高い値、内施が低い値、肩関節内・外旋筋力が高い値を示す傾向がみられた。・非投球側股関節内旋可動域が低い群は高い群に比べ、肩関節外旋筋力が低い値を示す傾向がみられた。【考察】今回股関節の評価の一つとして取り上げた股割りは、野球選手の股関節の総合的な柔軟性を評価するため、よく臨床の場で用いられ、理想の殿床間距離は約20cm未満といわれる。この股割りは、投球の非投球側下肢接地時(foot plant)に必要な可動域で、この数値が高いと下半身から上半身への運動連鎖がうまく行なわれず、上肢に負担がかかる結果となる。いわゆる「体の開き」「ためが無い」「肘下がり」などの悪循環にもつながる。今回の研究でも、股割りが高い群において、肩関節外旋可動域の拡大、内旋の低下、投球側肩関節の内・外旋筋力増大などの傾向が見られた。もう一つ注目した股関節評価として、股・膝関節90°屈曲位による非投球側股関節内旋可動域である。宮下らによると投球のフォロースルー期では、股関節内旋可動域角度が最大60°要求されるという報告もある事から、この角度が減少しているとフォロースルー期の急激な減速エネルギーを股関節内旋・体幹の回旋運動によって全身で吸収することが出来ない。ゆえに、肩関節外旋筋群や三角筋後部線維、後方関節包などに過度な負担がかかり、肩関節外旋筋群の筋力低下、肩関節内旋可動域低下につながると考えられる。今回、非投球側股関節内旋可動域が低下している選手は肩関節外旋筋群の筋力低下傾向は認められたが、肩関節内旋可動域低下は認められていない。今後は、等速性運動における肩関節内外旋筋力比と股関節の関連性、プロ野球選手と高校球児の身体的傾向の違いなどについても着目しながら、今回傾向が示唆された事を明確化させ、障害予防、パフォーマンス向上に繋げていきたい。
著者
古賀 崇之
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.33, 2010 (Released:2011-01-15)

【目的】 内側広筋は膝関節の保護や支持性,膝蓋骨の外側偏位を防止する役割があるとされている.しかし内側広筋は筋萎縮を生じやすく,回復しにくい筋といわれている.これに対し,大内転筋の筋活動を伴う股関節内転運動を行なうことで,内側広筋の筋活動を高めることができるとされている. そこで本研究では,スクワット動作においても大内転筋の筋活動を伴う股関節内転運動をすることで,内側広筋の筋活動を高めることができるかを検討することを目的とした.【方法】 対象者は健常男性7名とし,筋電図計はメデイエリアサポート社製のKm-818MTを使用した.測定肢は利き足とし,被験筋は内側広筋・外側広筋・大腿直筋・大内転筋の4つの筋とした.測定肢位は,スクワット肢位とし,この肢位を3秒間保つスクワット動作と,スクワット肢位にて両膝関節でボールを3秒間挟む動作(以下ボール動作)を行い,各動作の積分値を算出した.また徒手筋力検査の肢位にて各筋の最大随意収縮(以下MVC)の積分値を算出した.各筋のMVCの積分値を100%とし,各動作での各筋の積分値で除した%MVCを算出し,記録した.【結果】1.内側広筋と大内転筋の相関はr=0.45となり正の相関を示した.(p<0.05)2.内側広筋と大腿直筋の相関はr=0.05となりほとんど相関を示さなかった.(p<0.05)3.ボール動作における内側広筋の%MVCがスクワット動作より優位に高値を示した.(p<0.05)【考察】 内側広筋と大内転筋は正の相関を示し,大内転筋の筋活動が高まることで,内側広筋の筋活動が高まるということがわかった.河上らの報告によると内側広筋と大内転筋は筋連結をしている.そのため大内転筋が収縮することにより,内側広筋が伸張されることが考えられる.Edmanらの研究によると等尺性収縮中のカエルの筋線維に伸張を与え,その長さに保持すると,伸張前の張力より大きな張力が維持されることを示している.このことを「伸張による収縮増強効果」と呼んでいる. 以上のことより,大内転筋が収縮することで,筋連結により内側広筋は伸張され,内側広筋には「伸張による収縮増強効果」が生じた.この効果により内側広筋の筋活動が高まり,結果として内側広筋と大内転筋には正の相関を示したものと考えた. 河上らの報告による内側広筋と大腿直筋にも筋連結が見られる.しかし内側広筋と大腿直筋はほとんど相関を示さなかった.このことから,ただ筋連結をしているだけでは筋活動を高めることはできず,筋連結している筋同士の筋線維方向が一致していることが重要だと考えられる. 最後に,ボール動作における内側広筋の%MVCがスクワット動作より優位に高値を示したことから,立位動作においても大内転筋の筋活動を伴う股関節内転運動をすることで,内側広筋の筋活動を高めることが可能ということがわかった.
著者
大城 有騎 並里 留美子 仲西 孝之
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第29回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.70, 2007 (Released:2008-02-01)

【目的】 腰痛疾患に対する運動療法として腹筋運動が多く採り上げられているが、その方法は様々で、指導する際に目的とする効果が得られているのかと疑問に思うことが多い。腰痛などの体幹の痛みは、体幹の深層筋である多裂筋や腹横筋、横隔膜、骨盤底筋群の機能低下により引き起こされると言われている。その中でも腹横筋は、動作に先行して予測的に姿勢を制御するなど体幹の安定性に重要な筋肉である。また、腹部内臓を圧迫し、腹腔内圧を高め、横隔膜を押し上げることで強制呼気に作用している。本研究の目的は、腹筋運動時の呼吸方法の違いにより腹横筋の活動に変化があるのかを、非侵襲的に評価が可能な超音波診断装置を用いて検証することである。また、その結果から、腹横筋の活動に効果的な腹筋運動が示唆されたので報告する。【方法】 対象は、疾患を有しない健常者10名(男性5名、女性5名、平均年齢は25.3±3.3歳)とし、検査肢位は、ベッド上背臥位、胸上にて手を組んでもらい、両膝は屈曲位で本人が最も楽な角度とした。計測部位は、腋下線上の肋骨下端から2_cm_下方・臍方向へ2_cm_の部位にプローブ端を設置し、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋の3層構造を超音波診断装置(TOSHIBA製 LOGIQ TM400 739Lプローブ)にてイメージングした。計測方法としては、モニタリングされた腹横筋筋厚を3箇所計測し、その最大値を採用した。そして、安静吸気時の腹横筋筋厚を基準とし、呼吸方法の異なる1)胸式呼吸最大吸気にて息を止め腹筋運動、2)腹式呼吸最大吸気にて息を止め腹筋運動、3)腹式呼吸最大呼気を行いながらの腹筋運動の3種類の腹筋運動課題を行い、腹横筋筋厚の変化率を算出した。また、それぞれの課題間に有意差があるかをWilcoxon signed-ranks testを用いて検定を行い、有意水準1%未満とした。【結果】 安静吸気時の腹横筋筋厚に対する、各課題の腹横筋筋厚の変化率平均は、1)104.4±13.9%、2)102.5±8.6%、3)170±25.9%で、3種類の課題の変化率群を比較すると1)と2)には有意差が認められず、1)と3)・2)と3)の課題間に有意差が認められた(P<0.01)。【考察】 今回、超音波診断装置を用いて、腹筋運動時の呼吸方法の違いにより腹横筋の活動に変化があるのかを比較・検討した。その結果、安静吸気時の腹横筋筋厚に比べ、1)・2)の変化率は乏しく、3)の変化率が著明に増加し、1)と3)・2)と3)の課題間に有意差が認められた。そのため、最大吸気にて呼吸を停止しての腹筋運動に比べ、最大呼気を行いながら腹筋運動を実施したほうがより腹横筋の活動を促進できることが示唆された。
著者
松下 孝太 中村 裕樹 竹内 明禅 永留 篤男 八反丸 健二
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.93, 2016 (Released:2016-11-22)

【目的】 投球動作において、late cocking(LCK)~acceleration(ACL)に投球時痛が多く、さらにmaximum external rotation(MER)となる時期でストレスが増大すると報告されている。MERは、肩甲骨、胸椎、胸郭など肩複合体として機能する必要性があり、それらの動きを意識して普段のケアを行うことが重要と感じている。今後、「肩甲骨、胸椎、胸郭の投球動作への関連」という医学的観点から選手に指導を行い、ケア意識の向上とMERにおける機能改善を図りたいと考えている。そこで今回、現場での投球時痛の割合とケア意識の実態を把握するための基礎調査を研究目的とした。【方法】 対象は2016年2月時点で某大学野球部に所属していた49名(投手16名、内野手22名、外野手11名、平均年齢19.5±1.5歳)とし、アンケート調査を行った。今回は、49名中有効回答が得られた47名ついて検討した。内容は、調査時の肩・肘痛の有無、投球時痛の生じる時期、重要だと思う時期と気を付けている点(複数回答)、LCK~ACLにおいて重要だと思う部位、普段のケアの重要度とした。【結果】1)投球時痛の有無 18名(38%) 肩10名、肘5名、肩・肘3名2) 投球時痛の生じる時期 LCK~ACL:8名(44%)、LCK:5名(28%) ACL:3名(17%) follow through:2名(11%)3) 重要だと思う時期と気を付けている点 ① LCK~ACL:18名(38%) 肘下がり8名(44%)、体の開き8名(44%)、力み2名(11%) ② early cocking~LCK:13名(27%) 体の開き7名(54%)、壁を作る5名(38%)、テイクバック1名(8%) ③ wind up:11名(23%:全て投手) 軸7名(64%)、重心の位置3名(27%)、力み1名(9%) ④ その他・特になし: 5名(10%)4) LCK~ACLにおいて重要だと思う部位 特になし・分からない:34名(72%)、股:6名(13%)、肩:5人(11%)、肩甲骨:2名(4%)5) ケアの重要度 重要と感じ行っている:24名(51%)、重要だが時間がない:9名(19%)、重要だが面倒くさい:9名(19%)、重要でない:4名(9%)、重要だが、方法が分からない:1名(2%)【考察】 全体の約4割の選手が投球時痛を有していた。うち9割がLCK~ACLの痛みであり、疼痛を有する選手の約6割が「体の開き」や「肘下がり」等、動作面で気を付けていた。しかし、「体の開き」や「肘下がり」にならないようにするためには「どう動かすか」という意識する選手は少なく、LCK~ACLにおいて胸椎や胸郭を意識する選手はいなかった。また、ケアの重要性を感じていても時間がない、面倒くさい、方法が分からない選手が約4割いた。投球動作においては一連のスムーズな並進運動と回転運動が重要であるが、今後「LCK~ACLにおける肩甲骨、胸椎、胸郭の関連」に着眼点を置き、医学的観点から選手へ指導を行うことで、普段のケア意識の向上に繋げたいと考える。そして、現場へケアの方法を浸透させ、MERにおける機能改善を図り、肩複合体として投球動作を遂行することで、MERのメカニカルストレス軽減を目指したい。今後、縦断的な調査を行い、投球時痛に悩む選手の減少に繋げたい。【まとめ】・約4割の選手が投球時痛を有していた・動作面への意識はあるが、機能面への意識が低かった・ケアの重要性は感じているが、実施できていない、方法が分からない選手が約4割いた・今後、MERの機能改善により、投球時のメカニカルストレス軽減に繋げたい【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会より承認を受け実施した(承認番号:1602)。
著者
田崎 和幸 野中 信宏 山田 玄太 坂本 竜弥 油井 栄樹 山中 健生 貝田 英二 宮崎 洋一
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.125, 2008 (Released:2008-12-01)

【はじめに】 手における高圧注入損傷は、高圧で噴射される液体を誤って手内に注入して起こる外傷で、とりわけペンキのスプレーガンによることが多い。受傷創は小さなことが多く、外傷の程度は軽く見られがちであるが、手内に注入された液体により主要血管の損傷・圧迫、感染、炎症が発生するため早急な外科的処置が必要であり、それが遅れると壊死や高度の感染・炎症を起こし、手の重篤な機能障害を残してしまう。今回ホースの穴から高圧に噴射した油により受傷し、適確で早急な外科的手術の結果壊死は免れたが、術後に高度な炎症症状を呈した症例のセラピィを経験したので報告する。【症例】 49歳男性。仕事中誤って左示指MP関節掌側より油を注入して受傷し、同日異物除去・病巣廓清術が行われた。手術ではまず示指近位指節間皮線部から母指球皮線近位まで切開して展開した。母指内転筋筋膜、A1pulley等を切開したが、油は極僅かしか存在しなかった。次に示指MP関節背側から前腕遠位部まで切開して展開した。背側には多量の油が皮下、伸筋支帯間・下、骨間筋筋膜下、腱間等至る所に瀰漫性に存在しており、骨間筋筋膜、第3伸筋支帯等に切開を追加し、可及的に油の排出に努めたが、すべて除去することは不可能であった。掌側創は粗に縫合、背側は開放創としてbulky dressingを行い手術終了した。【術後セラピィ】 手術翌日は高度な炎症症状を呈しており、術後3日間は患手を徹底挙上させ、1時間に1セット、1セット10回の母指・手指自動内外転運動と露出しているIP関節の自動運動を行わせた。術後4日目にbulky dressingが除去されたため、安全肢位での静的スプリントを作製し、運動時以外装着させた。また、1日2回の間歇的空気圧迫装置、徒手的な手関節他動運動、手指MP関節屈曲・PIP関節伸展他動運動、母指外転他動運動、骨間筋の伸張運動を追加した。術後2週目に示指屈曲用の動的スプリントを作製し、1日5回、1回20分間装着させた。術後3週より徐々に炎症症状が低下してきたため、積極的な可動域訓練と筋力強化を行った。【結果】 術後2ヶ月の時点で僅かな手関節掌屈制限が残存したものの、その他の可動域は良好で握力右40kg左24kg、指腹摘み右8kg左6kg、側腹摘み右9kg左9kgであった。術後2.5ヶ月で現職復帰した。なお、掌側創は術後1ヶ月、背側創は術後2ヶ月で自然治癒した。【考察】 高圧注入損傷例の予後は、迅速な観血的治療により左右されるが、たとえそれが行われていても、術後に高度な炎症症状が必発する。そのため術後セラピィにおいては、炎症症状を助長させないよう十分に注意しながら、拘縮の予防・改善を行わなければならない。また、開放創となっているためかなりの運動時痛を伴う。本症例は手術所見より母指内転拘縮、母指・手指屈筋腱群の癒着、伸筋腱群の癒着、骨間筋の拘縮、さらに高度な腫脹による不良肢位での拘縮が予測されたため、腫脹・熱感・夜間痛をパラメーターとしてセラピィを進め、スプリント療法を併用した結果、良好な患手の機能が獲得できた。
著者
深山 慶介 植野 拓 藤田 隆 大平 美咲 中司 貴大
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.165, 2010 (Released:2011-01-15)

【はじめに】腰痛には様々な要因があり、治療に難渋することは臨床でよくみられる。腰痛に関連するものの一つとして、骨盤の前後傾運動の報告はみられるが、骨盤の開閉に関する報告は少ない。今回は、骨盤の開閉の評価を行い腰痛との関連ついて検討したのでここに報告する。【対象】本研究に関する説明を行い、同意が得られた成人男女23名(男性9名 女性14名 平均年齢27歳±8歳)。【方法】骨盤の開閉の評価として、両上前腸骨棘間距離(以下両ASIS間距離)を後上腸骨棘間距離(以下両PSIS間距離)で割った比率を、骨盤の開閉比率とした。またその開閉比率を、立位で足部の内側を揃えた中間位(以下中間位)、踵を揃えてつま先を最大に開いた外旋位(以下外旋位)、つま先を揃えて踵を最大に開いた内旋位(以下内旋位)で、それぞれ求め、中間位と外旋位、中間位と内旋位の比較をt-検定により分析した(p<0.01)。 次に腰痛との関連について、腰痛の有無にて2群(腰痛有り14名、腰痛なし9名)に分け、骨盤中間位の開閉比率の比較をwilcoxon順位和検定により分析した(p<0.05)。【結果】 中間位の開閉比率の平均が2.17、外旋位が2.65、内旋位が1.8で、それぞれ中間位と外旋位、中間位と内旋位における骨盤の開閉比率において、有意に骨盤の開閉に差が見られた。次に腰痛の有無による2群間の開閉比率において、腰痛がある群の開閉比率の平均が2.35、腰痛がない群の開閉比率の平均が2.01で、腰痛がある人の開閉比率が腰痛がない人の開閉比率に比べ優位に高かった。【考察・まとめ】骨盤の開閉の動きは、仙腸関節により誘導される。動かない関節と言われている文献も少なくないが、今回の結果より、仙腸関節による骨盤の開閉の動きが認められたと考える。また、荷重伝達機能を持つ仙腸関節で結合されている骨盤は、様々な姿勢により影響を受ける事が予測される。今回、腰痛がある群が腰痛がない群に比べ、骨盤の開閉比率が優位に高かった事より、骨盤の開きが大きい人は腰痛になりやすいという傾向が示唆された。
著者
前田 廣恵 福田 隆一 宮本 良美
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.50, 2005 (Released:2006-08-01)

【目的】四つ這い位での胸椎部可動性と腰痛との関連性について調査する。【対象と方法】神経症状のない慢性腰痛患者(以下腰痛群)10名、健常者(以下非腰痛群)10名を対象に四つ這いにて肩峰・坐骨結節・胸骨剣状突起の高さの棘突起(以下A点)にランドマークしキャットカールを行い、それぞれの肢位にて写真撮影を行う。肩峰・坐骨結節を結ぶ線を基準線にA点とのなす角を胸椎部可動性とし腰痛群・非腰痛群で比較、また、下肢のタイトネス・股関節の可動域との関連性について検討した。【結果】1、胸椎部伸展位への角度変化において腰痛群で有意に可動性低下を認めた。2、胸椎部屈曲位から伸展位への角度変化において腰痛群で有意に可動性低下を認めた。3、股関節可動域において腰痛群の屈曲・内旋に有意な制限を認めた。4、タイトネステストにおいて腰痛群の大腿四頭筋に有意なタイトネスを認めた。【考察】今回の結果より、腰痛群において胸椎部伸展方向への可動性低下があり、上半身重心が後方に位置している傾向にあると推測された。胸椎制御は体幹に柔軟性を要求し、支持性を筋活動から非収縮組織に移行でき筋疲労しにくいという利点があるが、腰痛群においては胸椎部可動性の低下により周囲筋への負担が大きいことが予測される。また、下部体幹制御は上半身重心の前後移動に関与するという報告より、腰痛群において、上半身重心が後方へ偏移した姿勢が固定化された代償として下半身にも影響を及ぼしていると考えられる。腰痛群の股関節屈曲に有意な制限を認めた要因として、股関節伸筋群のタイトネスによる骨盤後傾位が挙げられ、同様に大腿四頭筋のタイトネスも生じたものと考えられる。また、股関節内旋制限においては、骨盤の運動のみを考えると、胸椎部伸展位への運動制限により骨盤においては寛骨のうなずき運動が不十分(骨盤後傾位)となり、股関節は外旋位優位となるためであると考えられる。以上のことから、上半身重心の存在する胸椎レベルの可動性獲得は重要であり、胸椎部の可動性低下が腰痛を引き起こす一要因であると捉えるべきである。しかし、今回の研究では純粋な胸椎可動性の評価には到らなかったため、今後は下肢・骨盤の影響を除去した肢位での純粋な胸椎可動性の評価法を考案し、腰痛との関連性について更に調査していきたい。【まとめ】1、四つ這い位での胸椎部可動性と腰痛との関連について調査した。2、腰痛群において胸椎伸展方向への可動性低下を認めた。3、腰痛群の股関節屈曲・内旋制限、大腿四頭筋のタイトネスを認めた。4、胸椎可動性低下が腰痛の1要因として考えられた。5、下肢・骨盤の影響を除去した肢位での純粋な胸椎可動性の評価法が重要である。
著者
高下 大地
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.125, 2016

<p>【目的】</p><p>全国的にも、高次脳機能障害者の自動車運転再開に対しては注目されており、当院でも再開を希望する対象者が多く、方向性に難渋することがあった。そのため、高次脳機能障害者の自動車運転再開に対しての当院でのプロトコール作成に取り組んだので、その過程・成果を発表する。</p><p>【方法】</p><p>文献レビュー・学会への参加を実施した。その内容を踏まえ、自動車運転を取り巻く法律・自動車運転再開に必要な高次脳機能についての勉強会を実施し、知識の共有を行った。当院では、ドライブシュミレーター(以下DS)・実車評価もできる環境もなく、評価用紙・フローチャートの作成までを行い、その後の方向性の検討に役立てる事とした。評価では、基準値を決め、適性あり・境界域・適性なしに分ける事とした。スクリーニング(MMSE・TMTA B・Rey複雑図形・三宅式記銘力検査・FAB)評価から、DRと相談し、適正あり・境界域の方に対しては、精査(CAT・BADS・WMNR・WAISⅢ)を行い、その後の方向性を検討する事とした。実際に運用し、データ収集を開始した。</p><p>【結果】</p><p>運用開始後、適応のある方に関してはスムーズに評価に取り組めるようになり、主治医・リハビリ間(PT・OT・ST)・家族とのコミュニケーション量が増え、方向性についてより具体的な話ができるようになった。それにより、入院早期からGOALを明確にした、リハビリテーション(以下リハビリ)を提供する事が出来るようになった。</p><p>しかし、自動車運転再開の是非に捉われ、高次脳機能評価を実施しての全体像を把握するという視点が疎かになる事があり、話し合いを行い、高次脳機能障害を捉えての全体像を把握する事が第一の目的である事を確認した。急性期では、日に日に状態の変化が大きく変わる事もあり、その上で評価を行い、基準値を基に医師と話し合い行い、医師に判断してもらう事とした。</p><p>方向性に関しては、精査後の境界域の方に対して、一定期間後外来で再評価する事とし、そこで適性があった場合は、外部のDS・実車評価が行える病院へ繋げる事とした。</p><p>【考察】</p><p>評価用紙の作成では全国的にも境界点が曖昧な所があり、実際に運用する中で、基準点の設定に難渋した。そのため、高次脳機能障害者の自動車運転再開に関しての実際の是非の判断に関しては、DRに判断してもらうというスタンスを当院では行った。実際に運用していく中で、早期からの方向性・各職種のアプローチ内容が明確化され、スムーズに次の方向性が検討できるようになったと考える。</p><p>【まとめ】</p><p>高次脳機能障害者の自動車運転再開に関して、実際に、整備を行うことで、評価の必要な対象者に対して、スムーズに早い段階で評価ができるようになり、方向性に関しても主治医と話す事ができるようになった。シュミレーター・実車評価が行える環境にない当院でも、早い段階で評価を行うことで、その後の方向性の明確化ができるようになった。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究の計画立案に際し,事前に健和会 大手町病院の倫理審査員会の承認を得た。</p>
著者
前田 伸也 吉田 勇一 窪田 秀明 桶谷 寛
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第29回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.25, 2007 (Released:2008-02-01)

【はじめに】 脚延長術後の理学療法は、相対的に短縮する軟部組織の柔軟性維持を目的とした可動域訓練を行なうが、下腿延長例の足関節背屈よりも大腿延長例の膝関節屈曲の可動域改善が乏しい様に思われる。そこで下腿延長と大腿延長の下肢可動域と骨延長量を調査し、これらを比較したので報告する。【対象】 軟骨無形成症で低身長を呈し、脚延長術を実施した下腿延長例7名14肢、大腿延長例5名10肢のうち、調査可能であったそれぞれ6名12肢、4名8肢を対象とした。手術時平均年齢は下腿延長例で14歳3ヶ月、大腿延長例で17歳3ヶ月であった。なお、全例でorthofix創外固定器を使用した。【方法】 下腿延長例では膝伸展位での足関節背屈角度(DKE)、大腿延長例では膝関節屈曲角度(KF)をそれぞれ術前と延長後1ヶ月、その後1ヶ月毎に延長後7ヶ月まで調査し、各調査時の左右平均角度を求め、それぞれで術前との比較を実施した。骨延長量は、それぞれの平均延長量を求め比較した。【結果】 DKE、KFそれぞれにおいて分散分析を実施し、DKEは、術前と延長後1ヶ月、術前と延長後7ヶ月は有意差がなかったが、延長後2~6ヶ月までの5ヶ月間は術前と比較して可動域が減少した。(P<0.05)。KFでは延長後1~7ヶ月までの7ヶ月間は、術前と比較して可動域が減少した(P<0.05)。骨延長量は、下腿で平均74.7mm、大腿で平均66.9mmであり下腿が大きい結果となった。【考察】 結果より、DKEよりもKFの可動域改善が低いことが示唆された。理由として、下腿延長例は、斜面台での起立訓練や歩行時において、下腿三頭筋の持続したストレッチ効果が得られやすく、早期の可動域改善が可能ではないかと推察された。一方大腿延長例では、下腿よりも歩行時のストレッチ効果が得られず、また大腿部の筋自体も筋張力が大きいため、可動域改善が得られにくい。その他として、平岡らは、大腿延長はピン刺入により腸脛靭帯のスライドが不十分なために膝関節屈曲制限が起きると述べている。以上により大腿延長例では、軟部組織の柔軟性を獲得しにくいことが推察された。また骨延長量も大腿延長例が小さく、延長量を決定する因子として軟部組織の柔軟性が必要であるということが確認できた。これらを踏まえ、大腿延長例の理学療法は、術前に大腿四頭筋のストレッチを実施し、可動域制限を最小限に留めることが必要ではないかと考える。今後も症例数を増やしていき、更に検討したい。【結語】 下腿延長と大腿延長において、骨延長量と下肢可動域を比較した。結果、大腿延長例ではKFの改善が低く、骨延長量も小さい。大腿延長例に関して、術前に大腿四頭筋のストレッチを実施する必要があると考える。
著者
堀 大輔 染川 晋作 前田 朗(MD)
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.21, 2010

【はじめに】<BR>アメリカンフットボールは傷害発生率の高いスポーツであり、これまで多くの傷害報告がある。<BR>我々はメディカルサポートをしている大学アメリカンフットボール部に対して2007年から傷害調査を行い、過去の報告と比較するとハムストリングス肉離れの発生率が高いという特徴的な傾向があることを第31回本学会で報告した。<BR>肉離れのリスクファクタ―として筋力不足や不均衡、筋柔軟性の低下、不適切なウォーミングアップ、ランニングフォーム、神経・筋協調性の欠如、環境条件の不良など多数あげられ、発生原因を断定するのは難しくあらゆる方向から予防することが必要とされている。しかし医療機関に勤務しながら限られた時間の中でチームサポートしている我々にとっては、それを実行することは困難である。<BR>そこで今回、比較的簡便に測定可能かつ客観的に数値化できる筋力測定を行い、測定結果を選手にフィードバックすることで発生予防のための一手段となり得るか検討したので、ここに報告する。<BR>【対象】<BR>2009年、某大学アメリカンフットボール部に所属する2,3,4年生の選手33名、平均身長173.5±5.9cm、平均体重83.2±12.2kg。<BR>【方法】<BR>・2009年2月(シーズン前)、CYBEXを用い60deg/sec・180deg/secにおける膝の伸展・屈曲トルク値を測定しQH比を算出した。<BR>・理想のQH比を60deg/secでは0.58以上、180deg/secでは0.66以上とし、測定結果を選手個々にフィードバックした。<BR>・2009年も継続して傷害調査を行い、2008年におけるハムストリングス肉離れの発生率との比較を行った。<BR>なお、これらはヘルシンキ宣言に則り、チームにおける選手・スタッフに十分に説明し同意を得て行った。<BR>【結果】<BR>・指標とするQH比より低い傾向にあった選手は26人/33人(78.78%)であった。<BR>・ハムストリングス肉離れの発生は 2008年:13件/37人(0.35件/人)→2009年:8件/33人(0.24件/人)、と減少した。<BR>・特に春シーズン(3月、4月、5月、6月)の発生は2008年:8件/37人(0.22件/人)→2009年:2件/33人(0.06件/人)、と減少した。<BR>【考察】<BR>肉離れの発生状況とQH比の関係や、QH比を用いた肉離れの予防の効果についての報告は多く、QH比が低いとハムストリングス肉離れの発生率が高値を示すことがこれまでの統一した見解である。<BR>今回の測定にて、当部においては指標とするQH比より低い傾向にあった選手が多く、測定結果を選手にフィードバックするとともにハムストリングスの選択的強化の必要性を同時にアドバイスできたこと、またそれらを発生率の高い春シーズン前に行うことができたことが、ハムストリングス肉離れの発生率を低下させた要因となったのではないかと示唆される。<BR>今回は、チーム事情で1回のみの測定に終わり、実際にその後QH比に変動があったかは定かではない。また2月に測定したQH比が数ヶ月以降の秋シーズンの肉離れの発症にどれほど関係しているかは不明瞭であるため、今後は測定回数を増やしQH比の推移と発生状況を更に分析する必要性がある。
著者
山下 優希
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.220, 2016 (Released:2016-11-22)

【目的】音楽にはリラクセーション効果があり,最近では様々な分野に治療の一貫として注目を集めている.スタティックストレッチング(以下ストレッチ)は運動後に行うことにより傷害予防や疲労回復の促進,疼痛の軽減の効果があるとされている.そこで運動後,ストレッチを実施している最中に音楽のリラクセーション効果を同時に取り入れることによりさらなる効果が得られるのではないかと考えた.【対象と研究方法】被験者は運動疾患のない健常な29名(男性13名 女性16名 年齢32±22歳 身長164±15cm 体重60±40kg),測定場所は静寂空間で実施した.曲はモーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ二長調(ケッヘル四四八番) 第一楽章」を選定.ストレッチはハムストリングスに対して実施し,痛みを感じない最大伸展位を至適強度とした.運動機器はコンパス コンパクト レッグプレス(以下レッグプレス)を使用した.立位体前屈指床間距離(以下FFD)の測定は距離が遠い方とした.測定の順序は, 膝伸展位股関節屈曲角度(以下SLR),FFDを測定後,レッグプレス 負荷30㎏ 10分を実施.運動後SLR・FFDを測定.運動後に①音楽聴取(2分間)群(以下A) ②ストレッチ(30秒間)群(以下B) ③音楽聴取とストレッチの同時群(以下C)の実施後にSLR・FFDを再測定.効果の影響を考慮して各群の間隔は1週間とした.検定方法は一元配置分散分析と多重比較を使用し,有位水準は5%未満とした.【結果】SLR右下肢はAとC間のSLRが優位に上昇した.(P=0.037263)SLR左下肢はAとC間,BとC間のSLRが優位に上昇した.(P=0.000102)FFDは,各群の平均値は上昇したが,優位な差はみられなかった.【考察】今回の研究においてSLRがAとC間において左右の下肢ともに優位な上昇がみられた.左下肢ではBとC間においてSLRの優位な上昇がみられたが,右下肢ではBとC間においてSLRの優位な上昇はみられなかったものの数値的にはSLRが向上している.このことから音楽聴取とストレッチを同時に実施することで,それらを単独で行った場合に比べてハムストリングスの柔軟性が向上することが示唆された.これは音楽聴取により交感神経の活動が抑制され,副交感神経の活動が活発になりα波が優位になったことで筋緊張の緩和がみられたことが要因と考える.またトマティス理論により周波数が延髄に作用し,副交感神経優位となったことも柔軟性の向上に繋がった要因の一つと考える.FFDにおいて今回優位な差はみられなかった.これは松永らによるストレッチングの長期介入による腰椎骨盤リズムへの作用が今回の即時的な効果では結果に反映されなかった事が原因の一つと考える.しかし,平均値でみるとCが他のA,Bよりも改善はみられており,音楽の効果も影響していると考える.【まとめ】今回の研究では音楽を聴きながらストレッチを実施することで,音楽聴取とストレッチを単独で行った場合に比べて柔軟性が向上することが示唆された.今後もリハビリテーションの中に運動後の疲労回復,障害予防としてストレッチを取り入れていくことは重要であり,そこに音楽を同時に取り入れることでさらなる効果の増大に繋がることが示唆される.本研究の制約としては聴取音楽の統一や,健常者への実施が挙げられる.今後,音楽の種類や疾患等を考慮した更なる研究が必要である.【倫理的配慮,説明と同意】実施に関しては当該施設の倫理委員会に承認を得るとともに,対象者へ目的の説明を行い協力の同意を得た.
著者
徳留 美香 久津輪 真一 福留 里奈 橋口 一英
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.140, 2016 (Released:2016-11-22)

【はじめに】視野障害を呈した患者の自動車運転再開に対する、一定の評価方法は確立されておらず、積極的な報告も少ない。今回、両眼複視を呈した症例を担当し、神経心理学的検査、視野検査、自動車学校での実車評価を実施し、最終的に自動車運転再開となり職場復帰も果たすことができた。問題点の具体化や的確な助言を行う上で貴重な体験となり、その関わりを考察を踏まえて報告する。なお、本報告について本人に説明し同意を得ている。【症例紹介】20歳代女性。小脳橋角部腫瘍により、腫瘍全摘出手術を行い、右外転神経麻痺(両眼複視)を呈する。職場復帰を目的に当院入院となるが、職場復帰には自動車運転が不可欠である。運転歴10年で無違反、物損事故歴あり。通勤は15分程度だが、通学路を通ることや早朝や深夜に運転を行うこともある。【神経心理学的検査と視野検査】かなひろいテスト91.8%、TrailMakingTest-A42秒、TrailMakingTest-B64秒、コース立方体組み合わせテストIQ119、Rey複雑図形検査模写36点、Rey複雑図形検査再生36点であり、当院で定める自動車運転再開の基準値を満たしていた。道路交通法規則第23条では「一眼の視力が0.3に満たない、若しくは一眼が見えない場合は、他眼の視野が左右150度以上で、視力が0.7以上」となっている。眼科医からは単眼での視野は正常で、右眼に眼帯を使用し左眼のみの単眼であれば運転も可能ではないかとのコメントを得た。しかし、蒲山ら(2009)によると単眼視では両眼視と比較して、先行車との車間距離を速度に応じて適切に保持することができない可能性があるとの報告があり、症例も単眼の視野は保たれているものの、日常生活やリハビリテーション場面で単眼では距離感が掴めず、症例・家族ともに不安を感じていた。単眼での運転が安全なのか、あるいはどのようなリスクがあるのかなど不透明な部分が多く難渋している状況であった。そこで、自動車運転に関する研究会での意見交換、運転と認知機能研究会の藤田佳男氏からの助言を元に実車評価による評価が必要であると判断し、自動車学校での実車評価に至った。【実車評価】実車評価ではブランクがあったものの予測していた危険な運転は見られず、走行速度を落とした安全な運転であった。しかし、右折時に頸部の代償動作で死角を補うこととなり安全確認に遅れが生じたり、疲労も感じている様子であった。症例からは、基本的な運転方法の指導を受けただけでなく、注意点と自己の運転特性を知る経験が出来て良かったとの発言も聞かれた。【考察】法律での基準を満たし、眼科医から運転可能とのコメントを得ていても単眼での運転は視野の制限を生じてしまい、安全確認が遅れることや代償動作を補う運転は疲労を助長しやすく、運転への影響があることがわかった。このような経験は症例に意識的な危険予測、危険回避が可能な速度制限や安全確認がいかに重要かを強く認識させることとなり、本症例に対しての実車評価は意義があるものだったと感じた。今回のように他の医療機関との連携・意見交換や自動車教習指導員の専門的な意見も必要であり、今後は行政などさらに広い範囲で連携したシステム作りが必要であると考える。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の計画立案に際し、事前に所属施設(もしくは研究協力施設)の倫理審査員会の承認を得た(承認日平成28年4月7日)。 また研究を実施に際し、対象者に研究について十分な説明を行い、同意を得た。 製薬企業や医療機器メーカーから研究者へ提供される謝金や研究費、株式、サービス等は一切受けておらず、利益相反に関する開示事項はない。
著者
平塚 剛 三好 翔太郎 永田 誠一
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.146, 2009 (Released:2009-12-01)

【はじめに】 我々は,任天堂社製Wii Fitに同梱されているBalance Wii Board(以下Wii Board)をパーソナルコンピューター(以下PC)に無線接続し重心移動を数値化することに成功した.そこで,もしこのWii Boardが重心動揺計と近い精度を持っていれば,評価機器として利用できる可能性がある.今回,健常者がリーチ動作を行った際の重心移動をWii Boardと重心動揺計で比較することによりその精度について検討した.【方法】 PCとWii Boardとの接続はBluetoothを用いた.底面4隅の圧力センサから得られる荷重値の読み込みはネットワーク上に公開されているソフトWiiBoard to PC ver.2.0を用いた.足圧中心の座標値は読み込んだ荷重値から算出した.比較する重心動揺計はアニマ株式会社製TWIN GRAVICORDER G-6100(以下重心動揺計)を用いた.被検者は健常成人1名(男性,39歳,右利き,174cm,62kg)で,立位での右上肢リーチ動作の際に起こる重心移動の左右方向最大振幅(XD)と前後方向最大振幅(YD)をWii Boardと重心動揺計で計測した.なおこの被験者には説明と同意を得た上で実施した.リーチする点は,高さを肩峰の位置,方向を水平内転0度,45度,60度,90度の4方向とし,肘伸展位,前腕回内位,手関節中間位,手指屈曲位で第三中指骨遠位端をそれぞれの方向へ向けた開始肢位から15cm遠方とした.それぞれの上で一点20回のリーチを行い4方向合計で80ずつのデータを採取した.採取したデータはXDとYDについて相関を調べ,回帰直線に表した.【結果】 4方向を併せた15cmリーチにおけるWii Boardの最大振幅の平均はXD8.28±4.43cm,YD4.97±1.95cm,重心動揺計の最大振幅の平均はXD8.31±4.44cm,YD4.81±1.90cmであった.両者の差の平均はXD0.56±0.43cm,YD0.63±0.47cmでこれは統計的にみて有意な差であった(P<0.01).最大振幅の相関係数はXDが0.98 ,YDが0.91でこれはどちらも強い相関を認めた(P<0.01).また回帰直線の式はWii Boardに対して重心動揺計のXDがy=0.985x+0.087,YDがy=0.941x+0.444であり傾きはほぼ1であった.【考察】 Wii Boardは重心動揺計とリーチ動作で比較した結果,高い精度を持っていると思われた.これは軽量で持ち運びが容易であることから,病棟などの環境で日常生活動作における重心移動を評価することが可能であると思われる.また,手に入りやすいこともあり自宅での自主訓練またはその効果判定などの利用も期待できる.
著者
小松 鮎子 鶴崎 俊哉 上原 ひろの 西村 陽央 多門 大介
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.300, 2010 (Released:2011-01-15)

【目的】近年,四つ這いをしない子どもが増加しているとの指摘が多く聞かれる.そこで,「ハイハイをしない」というキーワードでインターネット検索をしてみると,Yahooで約257,000件,Googleでは約10,400,000件が該当した.これらの多くは母親による相談の書き込みと,それに対する医師をはじめとした医療従事者・保育関係者によるアドバイスであった.この背景には「ハイハイをしない」ということが異常・障害ではないかと懸念する気持ちや発達に対する不安感があると考えられる.しかし,実際にはそれらの子どもの多くは正常に発達していく.つまり,正常発達の流れの中でも「ハイハイをしない」ということは十分にあり得ると考えられる.そこで本研究では乳児の自然な四つ這い動作を観察し,四つ這い動作を通して獲得されると思われる体幹の使い方について,月齢,四つ這い実施期間との関連性を検討した. 【方法】対象は,長崎市内の子育て支援センターを利用している神経学的・整形外科的な問題がない乳児の中から,本研究に関する説明を行い保護者より同意の得られた12組(男児7名,女児5名)の母子を対象とした.そのうちデジタルビデオカメラの撮影中に四つ這い動作がみられた8ヶ月から1歳1ヶ月までの10名(男児7名,女児3名)の画像について,体幹の動きに注目して動作分析を行った.また,動作分析の結果を比較する指標として,事前に母親に対して月齢と四つ這い開始月齢に関するインタビューを行った. 【結果】四つ這い動作時の体幹では,胸腰椎移行部が前彎している乳児と腰部がフラットである乳児の2パターンに分けられたが月齢および四つ這い実施期間との明確な関連性はなかった.また,四つ這いで前進する際に,股関節を固定し骨盤を側方傾斜させることで下肢を振り出す,股関節の屈伸と連動して骨盤の側方傾斜が生じる,一足下肢を足底接地するために骨盤に回旋が生じるなどのパターンが見られたが,月齢・四つ這いの実施期間ととの明確な関連性は見られなかった. 【考察】今回の研究では,脊柱の弯曲や骨盤の運動についてパターン化することは出来たが,これらの出現順序について月齢,四つ這い実施期間ともに関連性を見いだすことが出来なかった.この原因として,四つ這い開始時期に関する定義が曖昧なため母親から正確な情報が得られなかった可能性や四つ這いの開始時期に幅があり四つ這い以外の動作の中で体幹の運動を獲得していた可能性が考えられた.今後,横断的な研究としては対象者数を増やす必要があるが,平行して縦断的な研究を実施することで四つ這い動作の経時的な変化および体幹機能の獲得過程を明確にする必要性がある.また,四つ這い動作を促進する生活環境や四つ這い実施が立位アライメント・歩行等に与える影響についても検討していきたい.
著者
宇都 良大 小野田 哲也 愛下 由香里 田中 梨美子 大重 匡
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.59, 2016 (Released:2016-11-22)

【はじめに】糖尿病において,末梢神経障害は最も早期に発症する合併症であるが,特に痛みを伴う有痛性糖尿病神経障害は大きな問題となる.その中でも,軽い触覚刺激などで疼痛を生じるアロディニアは,不眠症や抑うつ症状を伴いQOLを低下させ,治療行動へのアドヒアランスも低下する.今回,アロディニアを発症した症例に対して,痛みに考慮しながら療養指導や運動療法を行うことで,QOLの改善と運動療法のアドヒアランスが改善した1例を経験したので報告する.【症例】糖尿病教育入院を経験している2型糖尿病の49歳男性.夜間帯の仕事によって食事と睡眠が極めて不規則となり,体重増加と血糖コントロールが不良となった.また,アロディニアによって,四肢末梢・右顔面や全身にnumerical rating scale(以下NRS):4~8の持続疼痛が生じ,抑うつ状態の進行と睡眠障害が悪化し,就業不能となり再教育入院となった.インスリン強化療法と内服による疼痛コントロールが開始された.発汗で掻痒感が出現すること,低血糖への恐怖から運動に対しての意欲は低く,行動変化ステージは熟考期であった.生活習慣改善と体重コントロール目的でリハビリテーション(以下リハ)依頼となり,抑うつ状態や希死念慮に対しては,臨床心理士のカウンセリングが開始された.【検査所見】身長181.7cm,体重101.5kg,BMI30.7kg/m2,体成分分析(BIOSPACE社,In Body720)において骨格筋量37.7kg,体脂肪量33.7kg.血糖状態は,空腹時血糖200~210mg/dl台,HbA1c(NGSP)8.2%,尿ケトン体陰性.アキレス腱反射-/-,足部振動覚 減弱/減弱,末梢神経障害+,網膜症-,腎症+,自律神経障害+.【経過】介入時,覚醒状態不安定で,動作による眩暈・ふらつきを伴うため臥床時間が延長し,食事摂取量は不安定であった.生活習慣の構築を目的に,食前の覚醒促しと食後1~2時間の運動療法介入を設定した.自己管理ノートに日々の体重と,運動療法前後の血糖値を記録し,低血糖対策の個別指導をした.非運動性熱産生(以下NEAT)の指導を行い,日中の活動量向上を促した.運動療法プログラムは,NRSから有痛症状を訴にくい部位を判断し,股関節周囲のストレッチと体幹のバランス訓練を開始した.介入4日目から下肢筋力訓練を追加実施可能となり,介入12日目に掻痒軽減が図れたタイミングで有酸素運動を開始した.【結果と考察】内服による疼痛コントロールと,インスリン強化療法による糖毒性解除により,空腹時血糖値が90~100mg/dl台と改善したことに伴い,NRS:1~2と疼痛が軽減した.また,眩暈やふらつきが軽減したことで日常生活に支障がなくなり,カウンセリングにより情緒面の安定が図れたことで3週間後退院となった.仕事の関係上,夜型のライフスタイル変更は図れなかったが,食事時間を規則的にすることや昼間の活動量を高めることを約束された.体重97.4kg,骨格筋量37.0kg,体脂肪量30.7kgとなった.筋力訓練やウォーキングを自主訓練として立案・実行するようになり,行動変化ステージは準備期となった.【まとめ】アロディニアは,通常痛みを起こさない非侵害刺激を痛みとして誤認する病態であり,QOLの低下,糖尿病療養に必要なセルフケア行動やアドヒアランスが低下し,運動療法の阻害因子となる.しかし,疼痛コントロールやインスリン治療について十分に把握する事に加えて,病態を理解して疼痛部位の詳細な評価を行い,適切な運動療法の介入を行うことで,アドヒアランスの改善が生じたと考えられる.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を得た.対象者には研究内容についての説明と同意を得た上で実施した.